179 / 263
冬の間
今も昔もちょろかった。
しおりを挟む
気がついたら薄暗い森の中にいました。
なぜにここに?とおもいましたけどそれより、馴染みあるふよふよ感に戦慄を覚えました。え、魂どこか抜けてる? え、ここどこ?
見回せば、子供と大人が一人ずつ、手をつないで歩いています。なぜか二人ともうなだれてます。
以前も見た記憶がありますね。この状況。
ぼそぼそ話をしているようなのでつつっと近寄っていきます。
「すみません。本当に申し訳ございません。うっかり人間かなぁって疑問に思ってしまって、しかもそれが効くとか魔導師って人外なの?」
「知るか……。いいか、絶対に名を呼ぶなよ」
「はい。ええとお兄ちゃんでいいかな」
「……そうだな。それでいい」
「では、あたしはあーちゃんということで。よくわかんないけど、ここにいて子供だからいろいろわかんないんです」
「無理があるぞ。その黒い髪で、黒い目で。この世界には滅多にいない」
「うへぇ。なんか変えられません? その魔法的何かで」
……。
以前はぼんやりとしていた顔がよく見えました。片方が間違いなくあたしです。やだなぁ。
「期待するな」
とか言いながら髪をふわりと撫でて色替えをしていきます。金髪です。思い出したように眉もそっとなぞっていくあたり、よく気がつきますね。
そして、多分、この大人の人。
どう考えてもあたしの知っている人です。
以前の夢を見たときもなんかそんな気がしていたのですけど。なぜ思い出せなかったのか。
おそらくは頭突きがダメだったんでしょうね。そして、これ、誰からの視点を見させられているのでしょうか。
あたしの記憶ならあたしから見たものしか知らないと思うのに。
「似合います?」
「かわいい」
今ならわかりますよ。なんか面倒そうな言い方だなと。可愛くないとか似合わないとかいうと怒りだしそうだからめんどくさいって思ってるのが。本当にそう思ってるなら自発的に言うんですから……。
しかしながら、子供のあたし。それがわかってません。
わかりやすくパッと表情が明るくなり、ご機嫌になっています。ちょろい。ちょろいですよ……。
地面に崩れ落ちそうです。
「ところで、どこに向かってるの?」
「近くの町だ。詳細を言っても意味はないだろ」
「わかった。ところでお兄ちゃん」
「なんだ」
「歩くの早くてきついからゆっくりして」
彼は虚を突かれたように黙って、さらに立ち止まりました。
「それは悪かった」
「うむ。許してつかわす」
「どこの言葉だよ」
「時代劇っぽい何か」
祖母の趣味です。そういえば時代考証がなんとかと言っていたので、もしやそのくらいから生きていたのではないかと疑い出したところです。
時代劇とはなにかという話をしながら、二人は森の外へと出ていきました。
残念ながらあたしは森の外には出られないようなんですよね。ふっと意識が遠くなって。
「……さみしい」
お一人様のベッドで起床です。本日、95日目。王都にやってきています。以前通り、公爵家のお屋敷に住んでます。まあ、昨日からなんですけど。
少々予定を超過したのは怒られましたけど。いや、その、体調がね。ということになってます。ああそう、とリューさんから冷たい視線を向けられたので色々バレてると思います。
リューさんに身代わりをしないと言われると困るので、ご機嫌を窺っていく所存です。
さて、問題ありの夢を見ました。おかしな夢だったなぁと処理したいですね。本当に。
何か言われるまでは黙ってることにしますけど。それにしてもちょろいなあたし。知ってたけど。
うーんと伸びをして、ベッドを出ていきます。今日は予定があります。ユウリに文句をつけに行くというやつが。
諸悪の根源はツイ様のようですが、その口車に乗ったユウリの理由を聞いておきたいところです。なお、これにはエリックも付き添ってくれるそうです。未だに信用されていない感が半端ないですよ……。
なお、ローゼも同席するようなので似たようなものですかね。
部屋着として用意されているワンピースに着替えて、身支度を整えます。そのあとは朝食まで自由時間になっています。今は以前と違って食事などは部屋で食べることになっています。
体調がよくないという建前で用意してもらっていますが、入れ替わりを気づかれないために会う人数を制限してい結果です。リューさん本人が言いだしたことだというのにお出かけしてきたらしいですけど。
カリナさんが教会から全然帰ってこないので、心配して様子見に行ったらしいんですよね。ローゼがにやにやしながら報告してきましたし。
他人のコイバナはとても楽しい。当人は鈍いので、難攻不落でしょうけど頑張っていただきたいですねっ!
さて、何事もなく朝食も済ませやってまいりました王城です。
同行者はローゼのみです。リリーさんは本家へ泊まり込み中で不在です。というかですね。ゲイルさんがいるので、こっちの屋敷には泊まらないようです。ここ、男子禁制は未だ続いているので。
……つまりは、エリックも出入り禁止なわけです。婚約者でも節度ある付き合いをとか言われると真顔になりましたけどね。
カリナさんは王子を避けているようで、お留守番です。逃げると追いかけられそうですけど、そこわかってなさそうなのですよね。いやぁ、楽しみです。
一応、困っているから嫌がっているに変わってきたら、介入する気満々ですが、今のところ静観しています。
今日はユウリへの面会と先に通達しているので、他の用事が横入りすることはありません。面会後にあるかもしれませんが、そこは応相談です。
「ローゼはおうちに帰れてます?」
「お仕置き期間中だから、帰ってないの」
「今度は何をやらかしたんです?」
「……はぁ」
なぜかローゼにじーっと見られてため息をつかれました。
知らない間にあたしもなにかされてましたか?
「説明してないのね。こんなこと言える立場ではないけれどお手柔らかに」
「え? ええっ!」
あたしがそんな怒るようなことしでかしてるんですか? 行くの嫌になってきたんですけど。だって、今日はエリックもいるわけで。現地集合は悪手でしたかね。
「たぶん、あたしより怒る人がいるのでそっちを止めるのに必死になりそうです……」
「あ、そうね。うん。がんばりましょう」
なぜ、我々が振り回されてるんでしょうね。
何とも言えない表情で見つめあっちゃいましたよ。
気を取り直してユウリの執務室に向かいます。実際に入るのは初めてなんですよね。画像的には知ってますが、その通りなのでしょうか。作画の都合で省略されたり変更されたりしてる可能性もありますし。わくわくしてきますね。
以前お茶会の帰りには直進した道を曲がり、立ち止まってしまいました。
「……あれ?」
小さくローゼが呟いた声が妙に遠い気がしました。
エリックがいて。それだけではなくて、フュリーもいました。立ち話を和やかにする関係ではありません。
一方的に言い募るのはフュリーのほうで、エリックは少し困ったような顔をしています。そのあたりは本編と同じで落ち着いたような気がしますが。
うん。
ここは牽制一択です。
「お待たせしました」
なにも気がついていない風にエリックに駆け寄ります。そのまま抱きついてやりますよ。ふふふっ。
勢いつけすぎたのかちょっと倒れそうになったのは、見なかったことにします。
「そこまで助走つけられると無理だ」
ぎゅっと抱き返されて、耳元でささやかれたのは色気のかけらもない苦情でした。
「気がついてましたか」
「そろそろ来ると注意を向けていればわかるだろ。
嫉妬でもした?」
からかうような声が、耳元をくすぐります。そのまま小さく可愛いなぁとか言わないでください。いや、もう、死ぬ。真っ赤になりますねっ!
というか牽制すべしという意思がばれてますよっ!
「あー、悪いけどそれ部屋でやって。自分たちの部屋で」
……ギャラリーがいました。そうでした。今、すっぽーんとどっか消えてました。箍が外れているというか、今までの反動というべきか。
見ればエリックもちょっと気まずそうです。
仕方ありません。少し離れましょう。
「残念ながら、二人きりはいけませんと言われてるんですよ。なので、外で思いっきり見せつけるつもりです」
「……ユウリと同じ主張してる。同じ人種? まさかの?」
ローゼが愕然としていますね。まあ、二人きりはいけませんと言われても守り気はさらさらなくて勝手に帰宅しているわけですが。本当に身代わりやってくれるリューさんには頭が上がりません。今回の件が終わった後でお礼の品を用意しなければいけないと思います。
途中で何かご希望のものをあげると身代わりどころじゃなくなりそうなので。魔導師ってそういうところある。
「だ、だれ?」
フュリーは目を見開いていましたね。
ちょっとエリックを見上げて、動向を確認します。ええ、嫌がっている素振りでもあれば強制連行します。
少しばかり困っているという眉を下げてる感じがちょっと可愛い……じゃなくって。
「知らないの? 城内で話題の来訪者様」
ローゼが代わりに答えてくれました。意外そうですけど、たぶん、以前ユウリにお願いしたことの結果だと思います。
フュリーには会いたくなかったんですよ。
まあ、眠り姫中に遭遇したのは不幸な事故ということで。相手からは認識されてませんし。
「え。どうして、ディレイとそんな仲良さげ?」
「えっと。本当に知らないの? 情報閉鎖でもされてたの?」
ローゼが困惑してます。まあ、噂に疎くてもそこかしこで話されていたでしょうから、知らないというのはおかしいと思うんでしょうね。
「ユウリのお使いであちこち回ってて、来訪者がいるというのは知ってたけど。
あ、あと、魔導師と恋仲……」
フュリーの少年めいた顔立ちのせいか眉をキュッと寄せられると睨まれている感があります。本編でのアレコレから推測するに考え込んでいる時の癖のようなのできにしませんけど。
ただ、にこっと笑っておきます。
おや、なぜローゼが両腕をさすったんでしょうね? 喧嘩売られたとか思ってませんよ。やだなー。
「こんなところでなんだけど、こちら、フュリー。ユウリの直属になるのかしら。
で、こっちの来訪者がアーテル。魔導師だから、くれぐれも、くれぐれも怒らせないように」
……。
二度言われた。そこまで好戦的なつもりはないのですけど。
「じゃ、私たちはこれで」
ローゼがあたしの背を押していきます。え、この場を離れなさい(物理)ですか。それほどまずい顔してます?
ぐいぐい押されて先に扉の前まで来てしまったんですけど。
なお、エリックはフュリーに引き止められています。ええ、服をつかまれる系の物理で。さすがに煩わしそうにしてますね。
フュリーとなにか言い合って、振り払ってしまいましたけど。
二人とも同じような表情だったんですよね。
痛みを隠し損ねたような、もの。引き結ばれた唇が、いつもと違うのですよ。機嫌が悪いときのむっとしたものでも、言いたくないことを主張するときのものでもなく。
話はもうないと言いたげにエリックはフュリーを置いてこちらに来たのですけど。
それが心配になってエリックを見上げてもぽすっと頭を撫でるだけで終わってしまいました。
「存分に甘えてもよいですよ」
「大丈夫」
そういわれましたが、次に戻ったときには存分に甘やかすことにします。まあ、なにをしたら甘やかすことになるのかわかりませんけど。
ローゼは扉を叩いて、すぐに扉を開けていました。無作法なそれにあたしが驚いているとローゼが駆け込んでユウリの首根っこ掴んでました。
「ユウリっ! 逃げ出そうとしないっ!」
……。
ぶれませんね……。
なぜにここに?とおもいましたけどそれより、馴染みあるふよふよ感に戦慄を覚えました。え、魂どこか抜けてる? え、ここどこ?
見回せば、子供と大人が一人ずつ、手をつないで歩いています。なぜか二人ともうなだれてます。
以前も見た記憶がありますね。この状況。
ぼそぼそ話をしているようなのでつつっと近寄っていきます。
「すみません。本当に申し訳ございません。うっかり人間かなぁって疑問に思ってしまって、しかもそれが効くとか魔導師って人外なの?」
「知るか……。いいか、絶対に名を呼ぶなよ」
「はい。ええとお兄ちゃんでいいかな」
「……そうだな。それでいい」
「では、あたしはあーちゃんということで。よくわかんないけど、ここにいて子供だからいろいろわかんないんです」
「無理があるぞ。その黒い髪で、黒い目で。この世界には滅多にいない」
「うへぇ。なんか変えられません? その魔法的何かで」
……。
以前はぼんやりとしていた顔がよく見えました。片方が間違いなくあたしです。やだなぁ。
「期待するな」
とか言いながら髪をふわりと撫でて色替えをしていきます。金髪です。思い出したように眉もそっとなぞっていくあたり、よく気がつきますね。
そして、多分、この大人の人。
どう考えてもあたしの知っている人です。
以前の夢を見たときもなんかそんな気がしていたのですけど。なぜ思い出せなかったのか。
おそらくは頭突きがダメだったんでしょうね。そして、これ、誰からの視点を見させられているのでしょうか。
あたしの記憶ならあたしから見たものしか知らないと思うのに。
「似合います?」
「かわいい」
今ならわかりますよ。なんか面倒そうな言い方だなと。可愛くないとか似合わないとかいうと怒りだしそうだからめんどくさいって思ってるのが。本当にそう思ってるなら自発的に言うんですから……。
しかしながら、子供のあたし。それがわかってません。
わかりやすくパッと表情が明るくなり、ご機嫌になっています。ちょろい。ちょろいですよ……。
地面に崩れ落ちそうです。
「ところで、どこに向かってるの?」
「近くの町だ。詳細を言っても意味はないだろ」
「わかった。ところでお兄ちゃん」
「なんだ」
「歩くの早くてきついからゆっくりして」
彼は虚を突かれたように黙って、さらに立ち止まりました。
「それは悪かった」
「うむ。許してつかわす」
「どこの言葉だよ」
「時代劇っぽい何か」
祖母の趣味です。そういえば時代考証がなんとかと言っていたので、もしやそのくらいから生きていたのではないかと疑い出したところです。
時代劇とはなにかという話をしながら、二人は森の外へと出ていきました。
残念ながらあたしは森の外には出られないようなんですよね。ふっと意識が遠くなって。
「……さみしい」
お一人様のベッドで起床です。本日、95日目。王都にやってきています。以前通り、公爵家のお屋敷に住んでます。まあ、昨日からなんですけど。
少々予定を超過したのは怒られましたけど。いや、その、体調がね。ということになってます。ああそう、とリューさんから冷たい視線を向けられたので色々バレてると思います。
リューさんに身代わりをしないと言われると困るので、ご機嫌を窺っていく所存です。
さて、問題ありの夢を見ました。おかしな夢だったなぁと処理したいですね。本当に。
何か言われるまでは黙ってることにしますけど。それにしてもちょろいなあたし。知ってたけど。
うーんと伸びをして、ベッドを出ていきます。今日は予定があります。ユウリに文句をつけに行くというやつが。
諸悪の根源はツイ様のようですが、その口車に乗ったユウリの理由を聞いておきたいところです。なお、これにはエリックも付き添ってくれるそうです。未だに信用されていない感が半端ないですよ……。
なお、ローゼも同席するようなので似たようなものですかね。
部屋着として用意されているワンピースに着替えて、身支度を整えます。そのあとは朝食まで自由時間になっています。今は以前と違って食事などは部屋で食べることになっています。
体調がよくないという建前で用意してもらっていますが、入れ替わりを気づかれないために会う人数を制限してい結果です。リューさん本人が言いだしたことだというのにお出かけしてきたらしいですけど。
カリナさんが教会から全然帰ってこないので、心配して様子見に行ったらしいんですよね。ローゼがにやにやしながら報告してきましたし。
他人のコイバナはとても楽しい。当人は鈍いので、難攻不落でしょうけど頑張っていただきたいですねっ!
さて、何事もなく朝食も済ませやってまいりました王城です。
同行者はローゼのみです。リリーさんは本家へ泊まり込み中で不在です。というかですね。ゲイルさんがいるので、こっちの屋敷には泊まらないようです。ここ、男子禁制は未だ続いているので。
……つまりは、エリックも出入り禁止なわけです。婚約者でも節度ある付き合いをとか言われると真顔になりましたけどね。
カリナさんは王子を避けているようで、お留守番です。逃げると追いかけられそうですけど、そこわかってなさそうなのですよね。いやぁ、楽しみです。
一応、困っているから嫌がっているに変わってきたら、介入する気満々ですが、今のところ静観しています。
今日はユウリへの面会と先に通達しているので、他の用事が横入りすることはありません。面会後にあるかもしれませんが、そこは応相談です。
「ローゼはおうちに帰れてます?」
「お仕置き期間中だから、帰ってないの」
「今度は何をやらかしたんです?」
「……はぁ」
なぜかローゼにじーっと見られてため息をつかれました。
知らない間にあたしもなにかされてましたか?
「説明してないのね。こんなこと言える立場ではないけれどお手柔らかに」
「え? ええっ!」
あたしがそんな怒るようなことしでかしてるんですか? 行くの嫌になってきたんですけど。だって、今日はエリックもいるわけで。現地集合は悪手でしたかね。
「たぶん、あたしより怒る人がいるのでそっちを止めるのに必死になりそうです……」
「あ、そうね。うん。がんばりましょう」
なぜ、我々が振り回されてるんでしょうね。
何とも言えない表情で見つめあっちゃいましたよ。
気を取り直してユウリの執務室に向かいます。実際に入るのは初めてなんですよね。画像的には知ってますが、その通りなのでしょうか。作画の都合で省略されたり変更されたりしてる可能性もありますし。わくわくしてきますね。
以前お茶会の帰りには直進した道を曲がり、立ち止まってしまいました。
「……あれ?」
小さくローゼが呟いた声が妙に遠い気がしました。
エリックがいて。それだけではなくて、フュリーもいました。立ち話を和やかにする関係ではありません。
一方的に言い募るのはフュリーのほうで、エリックは少し困ったような顔をしています。そのあたりは本編と同じで落ち着いたような気がしますが。
うん。
ここは牽制一択です。
「お待たせしました」
なにも気がついていない風にエリックに駆け寄ります。そのまま抱きついてやりますよ。ふふふっ。
勢いつけすぎたのかちょっと倒れそうになったのは、見なかったことにします。
「そこまで助走つけられると無理だ」
ぎゅっと抱き返されて、耳元でささやかれたのは色気のかけらもない苦情でした。
「気がついてましたか」
「そろそろ来ると注意を向けていればわかるだろ。
嫉妬でもした?」
からかうような声が、耳元をくすぐります。そのまま小さく可愛いなぁとか言わないでください。いや、もう、死ぬ。真っ赤になりますねっ!
というか牽制すべしという意思がばれてますよっ!
「あー、悪いけどそれ部屋でやって。自分たちの部屋で」
……ギャラリーがいました。そうでした。今、すっぽーんとどっか消えてました。箍が外れているというか、今までの反動というべきか。
見ればエリックもちょっと気まずそうです。
仕方ありません。少し離れましょう。
「残念ながら、二人きりはいけませんと言われてるんですよ。なので、外で思いっきり見せつけるつもりです」
「……ユウリと同じ主張してる。同じ人種? まさかの?」
ローゼが愕然としていますね。まあ、二人きりはいけませんと言われても守り気はさらさらなくて勝手に帰宅しているわけですが。本当に身代わりやってくれるリューさんには頭が上がりません。今回の件が終わった後でお礼の品を用意しなければいけないと思います。
途中で何かご希望のものをあげると身代わりどころじゃなくなりそうなので。魔導師ってそういうところある。
「だ、だれ?」
フュリーは目を見開いていましたね。
ちょっとエリックを見上げて、動向を確認します。ええ、嫌がっている素振りでもあれば強制連行します。
少しばかり困っているという眉を下げてる感じがちょっと可愛い……じゃなくって。
「知らないの? 城内で話題の来訪者様」
ローゼが代わりに答えてくれました。意外そうですけど、たぶん、以前ユウリにお願いしたことの結果だと思います。
フュリーには会いたくなかったんですよ。
まあ、眠り姫中に遭遇したのは不幸な事故ということで。相手からは認識されてませんし。
「え。どうして、ディレイとそんな仲良さげ?」
「えっと。本当に知らないの? 情報閉鎖でもされてたの?」
ローゼが困惑してます。まあ、噂に疎くてもそこかしこで話されていたでしょうから、知らないというのはおかしいと思うんでしょうね。
「ユウリのお使いであちこち回ってて、来訪者がいるというのは知ってたけど。
あ、あと、魔導師と恋仲……」
フュリーの少年めいた顔立ちのせいか眉をキュッと寄せられると睨まれている感があります。本編でのアレコレから推測するに考え込んでいる時の癖のようなのできにしませんけど。
ただ、にこっと笑っておきます。
おや、なぜローゼが両腕をさすったんでしょうね? 喧嘩売られたとか思ってませんよ。やだなー。
「こんなところでなんだけど、こちら、フュリー。ユウリの直属になるのかしら。
で、こっちの来訪者がアーテル。魔導師だから、くれぐれも、くれぐれも怒らせないように」
……。
二度言われた。そこまで好戦的なつもりはないのですけど。
「じゃ、私たちはこれで」
ローゼがあたしの背を押していきます。え、この場を離れなさい(物理)ですか。それほどまずい顔してます?
ぐいぐい押されて先に扉の前まで来てしまったんですけど。
なお、エリックはフュリーに引き止められています。ええ、服をつかまれる系の物理で。さすがに煩わしそうにしてますね。
フュリーとなにか言い合って、振り払ってしまいましたけど。
二人とも同じような表情だったんですよね。
痛みを隠し損ねたような、もの。引き結ばれた唇が、いつもと違うのですよ。機嫌が悪いときのむっとしたものでも、言いたくないことを主張するときのものでもなく。
話はもうないと言いたげにエリックはフュリーを置いてこちらに来たのですけど。
それが心配になってエリックを見上げてもぽすっと頭を撫でるだけで終わってしまいました。
「存分に甘えてもよいですよ」
「大丈夫」
そういわれましたが、次に戻ったときには存分に甘やかすことにします。まあ、なにをしたら甘やかすことになるのかわかりませんけど。
ローゼは扉を叩いて、すぐに扉を開けていました。無作法なそれにあたしが驚いているとローゼが駆け込んでユウリの首根っこ掴んでました。
「ユウリっ! 逃げ出そうとしないっ!」
……。
ぶれませんね……。
6
お気に入りに追加
981
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる