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眠り姫
帰宅します。3
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なにか冷たいものが触れて。耳をくすぐるように起きてと聞こえた気がした。片方だけ開けた目に金茶色のものが見えた。
なんだったかなぁ。でも、眠いなぁ。
開けた目をもう一度閉じようとすると慌てたように、頬に触れる指先は冷たくて。離れそうな手を捕まえてどうしようかと迷う。
寝るなと困ったような声は聞き覚えがある。
目を開ければほっとしたように笑われて。
「もっとして?」
頬に手をあてて少しくらいおねだりしてもいいですよね?
……あれ?
はっきりと、目が覚めてきましたよ?
がばりと身を起こして、エリックに頭突きしそうになりましたよっ!
え? なにこれ?
見回せば人がいたわけで。悲鳴を上げられずにシーツを剝いでかぶることにしました。嫌だ。なにしてんのあたしっ!
というかどういう状態ですかっ!
……本日は、通算、88日目、だった気がします。
あたしは大層ご機嫌斜めです。ええ、はっきり態度で示しますよっ! リリーさんが謝り倒してきますけどご機嫌斜めですっ! 芋虫のようにシーツにくるまっている状態じゃあかっこはつきませんけどねっ!
昨日は体力回復を主眼として、睡眠薬を処方されたんです。寝ている時のほうが魔素の回復が早いって話だったので、それは構わなかったのですが。
寝ている間に、色々セッティングされてるとかひどいですよね!?
というわけで、起きたら二回目が済んでました。
取り乱したあたしは二回ほど同じ説明をされて理解したのですけど。死にたい。
「ごめんって、ほんと、これには事情があって」
「しりませんっ!」
寝て起きたら、知らない間に昨日のやり直しされてたって、怒るでしょ!
やむにやまれぬ事情がっ! とか言ってますけど、聞きませんっ! 寝起きのふわふわした気分で、エリックにものすごく迫った気がするんです。他に誰もいないと思ってたから。
実際は、昨日と同じくらいの人がいてですね……。
死ぬ。本気で恥ずかしくて死ぬ。
「みんな出て行ってください!」
毛布をかぶって涙目でわめくあたしを扱いかねているという雰囲気はしますよ。
でも、気持ちを立て直すには一人にしていただきたいのです。
「少しだけね」
なにを言っても無駄と思われたのかリリーさんががっくりとしてます。
今回ばかりはあたしは悪くないと主張させてもらいたいですっ!
ばたばたと人の去っていく音がして。
最後にぽすんと頭を撫でられたので、その手を捕獲しました。
「ディレイはダメ」
「一人になりたいんだろ」
「ここにいて」
事情聴取したいので。
エリックはあたしの手を優しく外してから神妙な顔でベッドの端に座られました。
「……ところで、今日はティルスもシュリーもいないんですね」
「ああ。今のところ、これ以上アリカの機嫌を損ねたくはないらしい」
つまらなそうに言いながらも頭をものすごく撫でられてます。お好きですよね。今日は髪も結ってませんし。
「原因、わかりました?」
「そっちは魔導協会が調べるそうだ。ティルスは好みじゃないんだろ」
「ああいう、女嫌いはちょっとめんどくさいです」
少しばかり怪訝そうな顔をされました。女遊びしているほうに見えますけど、相手を大事にしているわけでもないんですよ。
少なくとも女好きではないんだと思いますね。
「シュリーは?」
……あれ? 尋問されてるんでしょうか?
それとももしや?
「やきもちですか?」
うきうきして聞いちゃいましたが、それは良くなかったのです……。
無言でシーツはがされました。
「ひ、ひどい。なけなしの防御力が」
「もう、落ち着いただろ」
冷ややかに言われて調子に乗ったと反省します。ベッドの上で正座して、ごめんなさいしますよ。
「……シュリーのほうはなにも出てきそうにない」
「そうですか。うーん。ティルスと比較すると好感は持ってましたけど、あくまで比較するとって言う話ですね。
エリックが100だとすると5くらい?」
「不憫だな。わかっていたが」
なお、ティルスは1くらい。マイナスじゃない分良いよね! という感じです。
わかっていたなら聞かなくてもと思いますけど、心配させた側なので大人しく黙っています。
でも、どこで勘違いさせたのかはわからないんですよね……。とんだ悪女だったんでしょうか。
「二番目にねじ込まれないように気をつけるように」
「は?」
「一番目の婚約者としては認める、なんて言われたからな」
「……二番目とかいらないんですけど」
「それから、あとでリリーから話があるだろうが、爵位を与えるという話があるそうだ」
「その方面から攻めてきましたか……」
ある意味、最初からその選択のほうがマシだったでしょうね。
友好的に国に所属してほしいというのならば。
「空いてる侯爵家があるそうだ」
「国内の貴族には何も言わせないぞという気概を感じます」
エリックは肩をすくめているんですけどね。
それもらっちゃうと夫の立場というのはどうなるんでしょうね。
「嫌なら、どこへでも連れていくが」
「安定的生活ができればここでいいですよ」
逃亡者フラグは断固拒否です。二人ならどこでもいいなんて言いません。
あなたの手にしているものを何一つ損ないたくない、なんて言えませんけどね。既になにか犠牲にしている気がするので。それを全く、本人が気にしないんですから。
困っちゃいますよね。
あなたの幸せを願っているのに。
「早く帰りたいですね」
「全くだ」
見つめあって小さく笑うくらいで、あたしは満足なんですけどね。
……いえ、冬の間の引きこもりは大変期待しております。ええ、新婚なんですもの。いいじゃないですか。
なんだったかなぁ。でも、眠いなぁ。
開けた目をもう一度閉じようとすると慌てたように、頬に触れる指先は冷たくて。離れそうな手を捕まえてどうしようかと迷う。
寝るなと困ったような声は聞き覚えがある。
目を開ければほっとしたように笑われて。
「もっとして?」
頬に手をあてて少しくらいおねだりしてもいいですよね?
……あれ?
はっきりと、目が覚めてきましたよ?
がばりと身を起こして、エリックに頭突きしそうになりましたよっ!
え? なにこれ?
見回せば人がいたわけで。悲鳴を上げられずにシーツを剝いでかぶることにしました。嫌だ。なにしてんのあたしっ!
というかどういう状態ですかっ!
……本日は、通算、88日目、だった気がします。
あたしは大層ご機嫌斜めです。ええ、はっきり態度で示しますよっ! リリーさんが謝り倒してきますけどご機嫌斜めですっ! 芋虫のようにシーツにくるまっている状態じゃあかっこはつきませんけどねっ!
昨日は体力回復を主眼として、睡眠薬を処方されたんです。寝ている時のほうが魔素の回復が早いって話だったので、それは構わなかったのですが。
寝ている間に、色々セッティングされてるとかひどいですよね!?
というわけで、起きたら二回目が済んでました。
取り乱したあたしは二回ほど同じ説明をされて理解したのですけど。死にたい。
「ごめんって、ほんと、これには事情があって」
「しりませんっ!」
寝て起きたら、知らない間に昨日のやり直しされてたって、怒るでしょ!
やむにやまれぬ事情がっ! とか言ってますけど、聞きませんっ! 寝起きのふわふわした気分で、エリックにものすごく迫った気がするんです。他に誰もいないと思ってたから。
実際は、昨日と同じくらいの人がいてですね……。
死ぬ。本気で恥ずかしくて死ぬ。
「みんな出て行ってください!」
毛布をかぶって涙目でわめくあたしを扱いかねているという雰囲気はしますよ。
でも、気持ちを立て直すには一人にしていただきたいのです。
「少しだけね」
なにを言っても無駄と思われたのかリリーさんががっくりとしてます。
今回ばかりはあたしは悪くないと主張させてもらいたいですっ!
ばたばたと人の去っていく音がして。
最後にぽすんと頭を撫でられたので、その手を捕獲しました。
「ディレイはダメ」
「一人になりたいんだろ」
「ここにいて」
事情聴取したいので。
エリックはあたしの手を優しく外してから神妙な顔でベッドの端に座られました。
「……ところで、今日はティルスもシュリーもいないんですね」
「ああ。今のところ、これ以上アリカの機嫌を損ねたくはないらしい」
つまらなそうに言いながらも頭をものすごく撫でられてます。お好きですよね。今日は髪も結ってませんし。
「原因、わかりました?」
「そっちは魔導協会が調べるそうだ。ティルスは好みじゃないんだろ」
「ああいう、女嫌いはちょっとめんどくさいです」
少しばかり怪訝そうな顔をされました。女遊びしているほうに見えますけど、相手を大事にしているわけでもないんですよ。
少なくとも女好きではないんだと思いますね。
「シュリーは?」
……あれ? 尋問されてるんでしょうか?
それとももしや?
「やきもちですか?」
うきうきして聞いちゃいましたが、それは良くなかったのです……。
無言でシーツはがされました。
「ひ、ひどい。なけなしの防御力が」
「もう、落ち着いただろ」
冷ややかに言われて調子に乗ったと反省します。ベッドの上で正座して、ごめんなさいしますよ。
「……シュリーのほうはなにも出てきそうにない」
「そうですか。うーん。ティルスと比較すると好感は持ってましたけど、あくまで比較するとって言う話ですね。
エリックが100だとすると5くらい?」
「不憫だな。わかっていたが」
なお、ティルスは1くらい。マイナスじゃない分良いよね! という感じです。
わかっていたなら聞かなくてもと思いますけど、心配させた側なので大人しく黙っています。
でも、どこで勘違いさせたのかはわからないんですよね……。とんだ悪女だったんでしょうか。
「二番目にねじ込まれないように気をつけるように」
「は?」
「一番目の婚約者としては認める、なんて言われたからな」
「……二番目とかいらないんですけど」
「それから、あとでリリーから話があるだろうが、爵位を与えるという話があるそうだ」
「その方面から攻めてきましたか……」
ある意味、最初からその選択のほうがマシだったでしょうね。
友好的に国に所属してほしいというのならば。
「空いてる侯爵家があるそうだ」
「国内の貴族には何も言わせないぞという気概を感じます」
エリックは肩をすくめているんですけどね。
それもらっちゃうと夫の立場というのはどうなるんでしょうね。
「嫌なら、どこへでも連れていくが」
「安定的生活ができればここでいいですよ」
逃亡者フラグは断固拒否です。二人ならどこでもいいなんて言いません。
あなたの手にしているものを何一つ損ないたくない、なんて言えませんけどね。既になにか犠牲にしている気がするので。それを全く、本人が気にしないんですから。
困っちゃいますよね。
あなたの幸せを願っているのに。
「早く帰りたいですね」
「全くだ」
見つめあって小さく笑うくらいで、あたしは満足なんですけどね。
……いえ、冬の間の引きこもりは大変期待しております。ええ、新婚なんですもの。いいじゃないですか。
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