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眠り姫
雨が降る
しおりを挟むさて、引き続きの86日目です。王都では雨が降りそうなくらい外が暗くなってきました。
王都で大人しく待ってろと怒られて、しょげての帰還です。寝顔を堪能したのでいいことにしましょう。
寝起きのぼんやりとか、半覚醒の甘いささやきが致死量超えてましたけど。可愛いには慣れた気がしていたのですが、気のせいでした。
あ、うん、今日こそあたし死ぬんじゃ? と思いましたよ。あの危険物質なんなんでしょうね?
「……なんかにやにやしてる」
戻って早々にカリナさんに指摘されました。しょげているはずですよ。反省しているのです。薄気味悪そうに見られるたので、きっと妙な顔したんでしょうね……。
そ、それはさておき、現在はお昼過ぎのようです。微妙に時間感覚がおかしいのですよね。体感的移動は一瞬でも、それなりに時間経過してるっぽいです。この話も始めるとどこかの女医さんが喜んでしまいます。
部屋を見回せばカリナさんとローゼだけのようです。ヒューイさんは不在のようですね。
ローゼは最初は見えなかったようですが、カリナさんにこのあたりにいると教えられてすぐに見えるようになりました。
むしろ、なぜ今まで見えなかったのかと思うほどはっきり見えたそうです。
「ユウリがごめんなさい」
ローゼが心底すまなそうに謝ってくれます。本人は来ると問題があるので代理だと言っていました。
「まあ、こうなっちゃったら仕方ないですよね。
ところで、一つ気になるんですけど。あのメモ、どこから?」
「そっちの家に落ちてたんですって」
……うむ。
どこかのツイ様の陰謀ではと急に思い始めてきましたよ。テコ入れ的な。そっちだめーっ! みたいな。
そして、たぶん、次あったらユウリは俺、いい仕事した!といい笑顔でサムズアップしそうです。殴っておいていいですか?
いやいや、違う。きっと違うはず。何か理由があったんですよね。本人をじんも……質問しないといけないですね!
「お、お手柔らかにね」
ローゼに引かれてしまいました。おや、なにか漏れたでしょうか?
本日の予定は来客対応だそうです。王城にいるなら謝罪したいと王様が言っているそうな。
リリーさんを呼びにローゼが部屋を出ていきました。
「独り言なんだけど」
ぼそっとカリナさんが呟いてますね。
「教会はアーテルの婚姻を受け付けるなと言われているの。受け付けた場合、今後の寄付も考えると穏やかだけど脅されているようなものね。今なら、絶対、受け付けないと思う。
そうなるのは英雄殿の件で抗議が殺到したのも絡むのよね。現在、定期的な寄付も一時保留されたりしてる。本人からの寄付は大金だけど総量を比較すれば少ないのよ。
まあ、彼本人が国を出る危険性と天秤にかけた結果なのだから仕方ないのだけど」
「……わぉ」
「だから、あの件を知られると相当やばいわ。それなりに貯蓄はあるようなんだけど、今、もらっている寄付も中止されればかなり痛手になる。
何もなければぎり、いけそうと言ってはいたけど今年の冬はひどい寒波になりそうなんですって。食料や暖をとるものが倍の価格になったらある程度、選別しないと無理。
というわけで寄付は受付中。あとバレないように死守して」
「わ、わかりました」
命が金で買えるなら、できる限り積むのもやぶさかではありません。先達の残した来訪者基金の残金に期待しましょ。
フェザーの町の孤児院の子は知らない子ではありません。常ならば防げたことで欠けたりしたら、あたしは気に病みます。確実に、へこみます。
ついでに魔導協会からの支払いの一部を寄付にあててもらうことも検討しましょう。
「だいたい、国家の足りない部分を負わせておきながら寄付しないと脅すとか」
「へ?」
「一度絞めたほうが世のため人のためと」
「……あの、もしもし?」
「大丈夫、陛下ともちゃんとお話します」
にっこり笑ったはずなのに、なぜかカリナさんが青白い顔してるんですけど。な、なぜですか。
それを問う前に都合よくなのかリリーさんが部屋にやってきました。
その後ろから男性が二人ついてきていますが、見覚えがあるような感じですね。ローゼは部屋の外とのこと。
「アーテル嬢はどちらに?」
「え? あ、そっち?」
リリーさんの安定の見えなさにカリナさんがこっちですとあたしのいるところを指さしてます。
カリナさんはこの人誰かなと思っているようですけど、その人、王様。文官の格好がまったく似合いません。にじみ出る品の良さってやつでしょうか。
「お、見えた」
……見えすぎでは?
リリーさんがショックを受けたようによろめいてます。王様の隣の男性には見えてないようですけど。
「我々の不手際でこのようなことになって申し訳ない」
そう頭を下げられたのです。
困り顔になりますよね。助けを求めるようにリリーさんを見たら拝まれました。あ、うん。ごめーん、と口パクで見えましたよ。
「陛下、それはやはり困らせるだけでしょう」
「今後の対応について話をする前には謝罪がいると妻が」
……強いな。どの人でしょうか。
「その気持ちは受け取りました」
許すとは言いませんけどね、それぞれ立場があるでしょうし。
王様は声は聞こえないようでリリーさんに通訳を求めていましたが、そのリリーさんも聞こえず視線がうろついてました。
結果、カリナさんが表情を引きつらせながら通訳に抜擢されました。さすがに陛下と呼ばれれば誰かはわかりますよね……。
王家としては相手を決める気はなく、今後もそのつもりはないと明言されました。国内にいてもらうことが望ましいが、国外に出ることも仕方ないと思っているとも。
そう、王家として、なんて言われているところが曲者です。
その他貴族の顔色を伺わねばならない状況にあるそうなんですよ。それというのも先日までの戦争の影響で。本来、議会を通さねばならないところを王家が主導して兵と金を集めたのがまずかったようです。戦後につけがやってきているのだそう。
その時は時間がなかったため、仕方がなかったようですけど。終わった後に独断が過ぎると言われていたそうな。
戦後復興も先立つものが必要なので、ここでへそを曲げられると困るとのこと。
だから、黙認していたところもあるということですね。正式に問われれば先送りがせいぜいと。
今までの弱腰がよくわかりました。ついでに言えば、魔導協会と教会とも関係悪化しているので、八方ふさがり感があります。
これ、立て直すの大変すぎませんかね? 最初に内乱とか困るとエリックが言っていたのがよくわかります。
とはいっても、彼らの望みを叶える気はさっぱりありません。逆ハーとかお断りです。
「正直に言わせてもらえば、眠り姫の試練は都合がよいのだ」
「試練?」
「結果的に多くのものが試すことができる。そして判定は異論をはさめないほど正確だ」
「リリーさん?」
そういう話でしたっけ? 多くのとは聞いてませんよ?
白い目で見れば、再びリリーさんに拝まれました。ごめーんって軽くないですか!?
「大丈夫、全員、却下されて凹むだけだから」
そうなんですけどね?
「最高に、完膚なきまでに、プライドへし折ってあげるから大丈夫!」
……そ、それはそれでどうなんですか……。きらっきらの良い笑顔に彼女の心労を感じます。まあ、王様、ドン引きですけどね。同行者の男性も我が娘ながら悪質などとぼやいて……。
あ、正式にはご紹介いただいてないリリーさんのお父さんでしたか。あんまり似てないですね。リリーさんは祖母であるステラ師のほうに似てます。
「ほどほどにな」
「承知しております」
……嘘だ。うきうきしてますよ。
「あの、結構本気で貴族への対応可能な女性を紹介していただきたいんですけど」
「うむ。候補を出しておこう」
お互いの胃の安全のためにもそうしたほうがよさそうです。家柄、実力など申し分ないんですけど性格的にあわないんだと思いますよ。
その後、少々の情報交換とこれ以上のトラブルがない場合に限り、友好的な取り決めはそのままにすることを話し合いました。
通訳のカリナさんが青ざめてましたけど、そんなおかしなこと言ったでしょうか。
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