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眠り姫

起こしにきてください6

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 さて、翌日の86日目。
 ……なぜか、人の寝込みを襲ってしまいました。

 昨日はリリーさんは根回しや連絡などに出かけていきまして、カリナさんは疲れたとソファで爆睡。ヒューイさんがわくわくした顔で迫ってきたので、城内の散歩に出かけました。
 結構真面目に怖いですよ。

 次に戻ってきたときには反省しているのか同意はとるといってきましたけどね。はいかイエスしかない選択肢は選択肢とはいわないんですよ。なんて押し問答をしてました。さすがに起きていたカリナさんになにしてんの?という視線を向けられてましたけどね。
 そこのマッドサイエンティストに言ってください。

 その二人も夜中には施錠してご帰宅されて、寂しいと思っていたんですよ。眠れもしなかったので、再び王城内をふらつくという幽霊じみたこともしましたけど。
 それでも夜は長くて。

 うっかり、会いたいななんて思ったら。再び、エリックのお部屋にお邪魔しております……。
 即でした。びっくりしましたよっ! 自制心どこいったの? 旅行なの? 早く帰ってきて! え? だから、欲望さんはさっさとお帰りなさい。夜は主戦場って……。
 ま、まあ、あたしの懊悩はいいことにしましょう。そうしましょう。

 現在、深夜から早朝にかけての時間帯なのでお眠りなわけですよ。昨夜のようにお目覚めにはならないようです。
 推しの寝顔って……。あ、なんか、漏れちゃいけないものが駄々洩れしそうです。
 無防備すぎてちょっと意外といいますか。自分の部屋では油断してるんですかね。そんなこと思いながらのぞき込んだのが間違いでした。

「きゃうっ」

 つかまれました。
 え、どうして? と思う間もありませんでしたね。がしっと手首をつかまれ、そのまま引き寄せられちゃうのですけど。
 あれ? あたし幽霊状態?
 そういえば、触れるんでしたっけ。半分物質的なんでしょうか。いえ、現実逃避なんですけどね。

 冷静さはございませんが、現状を確認します。
 ころんとエリックの横に転がってますのですよ。このベッド、昨日はすり抜けたはずなのになぜと思いますけど。

「あれ?」

 完全に寝てる声ですね。半分開いている目が半覚醒という感じでしょうか。
 近いのでキスしていいですかね? え? ダメ? そんなことを考えてたので油断してたんでしょうね。

「あったかい」

 ……。
 ぎ、ぎゅうって!
 致死量を超えました。し、死んでしまう。逃亡不可とか。魂が抜けるというかすでに抜けた魂状態なのですけどっ!? これ以上ってどうなるの?

「……あれ?」

 先ほどよりずっとはっきりとした声が聞こえたのは、恐ろしく長い時間経過後でした。もしかしたら一瞬だったかもしれませんけど、本気で長く感じたんです。走馬灯が駆け抜けるかと思いましたよ。

「な、なんでいるんだっ!」

 真っ赤になって離されたまでは想定内でした。しかし、起き上がってかなり遠くまで距離を置かれました。ベッドの隅とか窮屈そうです。
 ……。
 どうなんですか。それ。

「様子を見に来たら、連れ込まれました」

 一部都合よく曲げてお伝えしました。慌ててるところは可愛らしくも見えますけどね。

「え? なぜ、触れるんだ?」

「さあ? 異世界産の魂だからじゃないですか?」

 適当なことを言ってみました。ふよふよと近寄ってそっと指先に触れてみます。いつも通り冷たい指先でした。あたしのほうが温度がなさそうな気がするんですけどね。
 びくっとされたのは心外です。時々、そうなりますけど嫌なんでしょうか。

「光の塊、みたいな不思議な感触がする」

 指先を絡めてにぎにぎされると妙な気分になってきますね。顔に赤みは残っているものの表情は真剣で、この不可思議現象について何か考えているようです。
 不穏なのはあたしだけですね……。

「気配も匂いもしないから妙な感じだな」

「それで、よく目が覚めましたね」

「呼ばれた気がした」

「呼んでませんよ?」

 目覚める前に逃亡を謀りたかったですね。いやぁ、寝顔は貴重とのぞき込むんじゃありませんでした。
 エリックは首をかしげていますが、違うものは違います。あとですね、意識の外に追いやっていたんですけどナイトキャップが揺れてます。な、なんだ、そのかわいいのっ! と脳内の一部が大騒ぎですよ。嫌ですねぇもう。ちなみに昨日は途中で気が付かれ外されました。睨まれたので意図的に黙っていたことを知ったようです。

 身もだえそうな何かを押し込めているあたしをよそに、エリックは何かを思いついたのかもう片方の手を頭に乗っけられました。撫でられたんじゃないんです。乗っけられた。重量を感じます。それも異常な気がしますけどね。

「手触りはしないが乱れはするんだな。すぐに戻る」

 不可思議現象が頭上で起きてるんですけどっ!

「記憶の中の自分を再現して固定化しているような気がする。魂そのものというよりは、魔法の効果の一部……」

 やけに近いことにお気づきになったようです。ついでにいえば、なぜか今、服がチェンジしました。

「観測者の主観に左右されるのでは?」

 だって、これ、パジャマだもの。しかもいつも使っていたやつじゃないほう。

 ……。
 沈黙が重かったですね。再度変わった服は花柄のワンピースでした。

「見える、見えないが見るものの感度と好意の有無によって判定されている、ということだろう」

 あー、ものすっごい早口ですけど。動揺が駄々洩れしてます。こちらを伺うような視線が微妙な気持ちになりますね。
 いっそ、総スルーしたほうがいいんでしょうか。気が付かなかった鈍い振りとか。

 うん。そうしましょう。
 なんですか? と言いたげにきょとんとした顔を作れば気まずそうに別の方向を向きましたね。

「で、どうしてここにいるんだ?」

 先ほどのことは何もなかったかのように言ってきますね。まあ、いいですけど。

「様子を見に来ましたよ」

「こんな夜中に?」

 ……ちっ。笑顔で押し通そうかとも思いましたけど、やっぱり不審ですよね。

「誰もいなくて、死体のようなボディと一緒とか無理ですって」

 寂しいとかそういう理由は黙っておきます。きっとあたしが恥ずかしいだけのことになりますよ。そういうところはとっても余裕たっぷりなんですから。
 たまには寂しいって言っていいのよ? とか思いますけど、実行された場合、あたしの方が大変になりますよ。

「死体のようなって」

「白い服って死に装束なんですよ。そのうえ、花を飾るって葬式ですかって感じです」

「それは眠り姫の伝統的衣装」

 ……すでになにかの演出が始まってました。
 なぜかエリックもげんなりした表情なんですよね。今後の色々をなにか聞かされたんでしょうか。

「あれ? じゃあ、相手役にも伝統的衣装があったりするんですか?」

「あるが、心底似合わない。むしろ、魔法使いのほうがまし」

「そ、それはとても問題があるのでは」

「なんとかするそうだ」

 言い方が、他人事ですね。ま、まあ、見た目の問題というのは我々がどうとかいうものではないでしょうし。それを気にしているのは外野です。
 でも、ちょっと見たい。

「人のことをおもちゃかなんかだと思ってんだよ」

 ふてくされたような感じが年相応というか、もっと幼く見えて。
 大変可愛らしいですね!
 かっこよくて、かわいいとかうちの旦那様は最強では?

 何かを察したのかエリックから胡乱な視線を向けられたのですけど。

「なんか変なこと考えてないか?」

「え? なんでもないですよ」

 推しの尊さについて考え始めそうでしたけど。
 なぜかぐりぐりと頭撫でられました。

「本当に、俺のどこがいいんだろう」

「え? 聞きます?」

「断る」

 なんと。自分で言っておきながらそれってどうなんですかね?

「寝るから帰れ」

「おやすみなさい。帰りませんけど」

「は?」

「死体と一緒怖い」

「まだ死んでないし、自分の体だろ」

「余計怖い」

 少々の押し問答の末に、すきにしたら? をいただきました。
 ベッドのそばにいると落ち着かないということで部屋の外に出ようとしたのですが、出られませんでした。
 王城では壁も窓もすり抜け放題だったんですけど。

 そういえばここは眠り姫を作った魔法使いのお住まいだったとか。なにか対策でもされてるんでしょうか。仕方ないので部屋の隅でふよふよしていることにしました。
 エリックはがっつり毛布をかぶってましたね。気になるけど、眠いって感じでしょうか。

 ……で、寝入ったと思って様子を見たら再び捕獲され、朝までそのままでした。完全にフリーズしてどうにもならなかったことだけ現場からお伝えしようと思います。
 翌朝、説教されたのですが、解せません。
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