上 下
149 / 263
眠り姫

幽霊になりました

しおりを挟む
 気がついたらそこにいました。という85日目。

 どこにといえば。

「……透けてるな」

「そのぅ。冷静ですね」

「本当は、肩をつかんで揺さぶってやりたいくらいなんだが、つかめないだろ」

「はい。大変申しわけございません」

 森の中のホラーな家の中でした。


 事の起こりは小さなことだったような気がします。

 74日目の厨房でのやらかし(意図的)のあと、部屋に軟禁されました。本来は行くはずだった魔動車の研究所は後日の訪問となりました。
 居直ってケーキ食べながらのんびりと過ごしましたよ。

 ヒューイさんはケーキを食べた後もしばらくいましたが、お弟子さんに持ってかれました。弟子に比喩的でなく米俵のように担がれていきましたので帰宅というより強制連行の趣がありました。
 最終的に室内にはあたしとリリーさん、ローゼの三人が残りました。もちろん部屋の外は見てませんけど、シュリーとティルスがいるでしょうね。
 それにしてもカリナさんは未だ帰ってきません。
 どこかにドナドナされちゃった? 人の心配している場合でもないのですけど気になります。

 そんな現在、暇です。読みたい本もありますけど、読書も飽きました。
 ローゼを師匠に基礎的な鍛錬を教えてもらっていたりしましたが、腹筋がつらかったです。ええ、ちょっとおなかとか気になるじゃないですか……。誰も見ないならごまかせるでしょうけど、よりにもよって……。

 思い出しかけたいろいろを封印しました。あの件は未だにリリーさんには知られていないようです。知られたら結構本気の説教されそうな気がします。逆の立場だったらそうしますもの。理性的にはまずいことくらい理解してるんですけど、色々制御不能です。
 まあ、ちょっとは満たされた気もしますのでこれで帰るまでを乗り切る所存です。

 さて、そうして夕方くらいに手紙が届きました。それも二通。一方はリリーさん宛て。もう一つはゼータさんからのようです。
 大変分厚い手紙にリリーさんは首をかしげていましたが、まあ、マニアだしと処理したようです。

「変なこと言ってきたら断っていいわよ」

 リリーさんはそう言ってきますけど、中身を確認する気はないようです。それも変な気がしたんですけど、魔道具に関しては読んでもわからないわと苦笑していました。まあ、ゼータさんがよけいなことをしないという信頼があるのでしょうけど。

 中身は前にあったときに話したことの中での疑問点をまとめたものでした。それも四人分。その時点で微妙な顔にはなったのですが、一枚ぺらっと入っていた紙が問題でした。
 過労で寝込む前日のことはリリーさんには黙っているそうですよ。寝込まれるようなことを止めなかったからと出入り禁止になるどころじゃないと意見の一致を見たそうです。
 読んですぐに隠滅するようにと書かれていたのでポケットに突っ込んでおきました。あとで隠滅します。
 あたしの挙動不審はローゼが見ていたようですが、特に何も言われませんでした。素知らぬ顔をしていたので護衛としては正しいでしょう。巻き込まれたくありませんという意思表示のような気がしているのですけど。

 リリーさんは別の手紙のほうが気にかかっているようであたしのほうへ意識が向いてません。読み終えても、ものすごく浮かない顔ですがなにかまずいことでもあったんでしょうか?

「ディレイは明後日王都を出るらしいんだけど、聞いてる?」

「いいえ。なにも」

 数日中にはと本人からは聞いてましたけどね。少々のごまかしは許してもらいたいところです。いろいろぼろが出ます。

 リリーさんは眉をきゅっと寄せて考え込んでいるようですね。エリックがリリーさんに連絡しないというのは考えられません。
 伝達のどこかで途切れたということでしょう。どういった思惑の結果かが問題になりそうです。

「一回くらいはちゃんと話したいわよね?」

 しかし、リリーさんが気にしていたのはそこではなかったようです。
 そりゃあ、できるならいろいろ補給したい気持ちはありますが、もうちょっとで帰れますよね?

「ここから引き伸ばしされる可能性もあるし、最悪を言えば冬中ここにいることになるかも」

「……え?」

 そ、想定外ですっ!
 だ、だって、冬中引きこもって楽しく遊んで暮らそうと思ってたんですよっ! せっかくなので存分に甘えて少々の甘酸っぱい何かを、いえ、もっとあれななにかを期待してたんですっ!!
 そんな楽しい冬休みを台無しにされるなんて。今、穏当にすまそうとしている努力を無視するなんて。

 許せるわけないですよね?
 ものすごく我慢して、ストレスたまっても困り顔でスルーしてたんですよ。
 ご褒美目当てでっ!

「……漏れてる。漏れてるわよ」

「はっ、い、いやですね……。ふふふ」

「すました顔して案外えげつないこと考えていそうね……」

「うふふふ」

 なにせ私、新婚なので。ふわふわ甘々な生活くらいしたいです。しかも相手が推しとか。卒倒しそうですけど。別な意味での生存が危ぶまれます。うちの旦那様、ほら素敵すぎるから。

 リリーさんはなにかを察知したのかドン引きですね……。

「本当にディレイに関することだけおかしくなるわね」

「それはあきらめてください」

 白い目で見られました。しかも二人分。こう言ってはなんですが、配偶者相手におかしくなるのは同じであると思うのですけど?
 解せぬと思いながらも一応黙っておきます。不毛な争いを生みそうです。

「公式に会わせるのは難しいからどうしようかしら」

「リリーさんに別れの挨拶とかはダメなんですか?」

「私だけで別室でやってこいってところね。まあ、ひとまず、明日には屋敷に戻りましょう。
 で、屋敷内には決まった使用人以外は進入禁止、特に男性は無理となると……」

「女性になっていただくわけにもいきませんからね」

 まったく面倒ですよね。
 それを聞いてリリーさんはにっこりと笑ったのが大変不吉です。ちょっと出てくるわとお一人で出かけました。ローゼと二人きりになったので、ちょうどよいとユウリのどこが良いのか問い詰める楽しい時間を満喫しました。

 後日聞いた話によれば、エリックに女装は可能かという話を魔導士で集まって議論したとか。暇なんですか。背丈の問題で不可となったらしいですけどね。
 ……ちょっとだけあたしも入りたかったなぁなんて思ったんですけど。けだるい色気のある美人さんになるような気がしますよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

豊穣の女神は長生きしたい

碓井桂
恋愛
暴走車に煽られて崖から滑落→異世界転移した紗理奈は、女しか転移してこないが結構な頻度で転移者のいる異世界に出現した。転移してきた女の持つチートは皆同じで、生命力を活性させる力。ただし豊穣の女神と呼ばれる転移者の女は、その力で男を暴走させてしまうため、この世界では長生きできないという。紗理奈を拾った美しい魔法使いの男ヒースには力は効かないと言うけれど……ヒースには隠し事があるらしい。 こちらの小説はムーンライトノベルズに以前公開していたものを改稿したもので、小説家になろうにも載せています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...