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向こう側には混ざれません

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 お茶会は穏やかに済んで、今度、天気の良い日にピクニックしましょうね、なんて約束をしてしまいました。
 あれ?

 リリーさんがあちゃーという顔をしていたので、はめられたようですよ!?
 ち、ちびっ子たちがすごく期待した顔してたんですよっ!

「妃殿下とお話してから戻るから、先に送ってもらえる?」

 ということで、リリーさんを残し、お部屋へ戻ることになりました。部屋にはリナさんとヴィオナさんがお留守番しているので、お部屋も安全なはずです。
 廊下に出れば、少し薄暗く思えます。思ったより時間が過ぎていたのでしょう。
 窓に雨粒がついているので、降り出したんでしょうね。

 雨の日。

 あの日以来となると結構長い期間降らなかったんですかね。

「どうなさいました?」

 ……ティルスに丁寧に言われるとなにかもぞもぞします。普通はもうちょっと俺様な感じなのを知ってるので。
 シュリーだったら、おお、そのままと妙に感動したかもしれません。

「荒れると聞いたので、少し、怖くて」

 カリナさんが、マジ? と言いたげに見てきたのを黙殺します。そんな可愛げございません。
 でも、ちょっと暗い表情をしてしまったのですよ。気落ちしたというより心配なんですけどね。それをつっこまれるのも困ります。

「そうですね。ご希望があれば、一晩でもお付き合いします」

 あうとーっ! と言いたいです。周りの男性がぎょっとした顔してますよ。
 ……ええ、周りの男性。お茶会で話せなかった分、帰るまでの間にコンタクトとろうとか思っているのかついてきました。
 ティルスが追っ払うかと思いきやにやにやしてたので、なにをするつもりなのかと思えば。
 ライバルの心を折りにきてますね。

 あと、あたしの心も折れそうです。出てくる時にお嬢様方にすさまじい顔で見られたんですけど。引きつった笑顔ですが、失礼にならない程度の態度でいたと思うんですけどね……。あまり自信はありません。
 出来ることなら一人平気なのでっ! と逃亡したいです。道がわからないので、できませんけど。その点、カリナさんもあてになりませんし……。

「カリナさんがいますので、大丈夫ですよ。友人と一緒って心強いですし」

 え、マジで、という顔を再びしないでください。こっちは傷つきます。
 お友だちだよね?

「リリーさんが一緒なので、さらに心強いね」

 巻き添えが増えました。まあ、今日も三人で寝そうですけど。ローゼ、帰ってこないかな。根掘り葉掘り聞いて、身悶えているのを観賞したい。
 まあ、悪趣味ですけどね。

「女性ばかりで不便はありませんか?」

「いいえ。皆さんに良くしていただいて、楽しいですよ。妃殿下たちも優しくて、本当に安心しました」

 まあ、どこまで本音かはわからないと心に留めておきますけどね。王妃という地位ならば、あたし個人よりも国家の運営を優先するでしょうから。
 信用しすぎて、足下を掬われないようにしたいものです。

「お優しい、ね」

 微妙な反応でしたね。
 まあ、今回は彼らにとってはともて意地悪でしたね。あたしを独占していましたから。

 部屋に戻るまではの道筋はそれなりに緊張感がありました。あたしが、というより周りの男性が。
 大変申し訳ないですが、あたしはティルスとシュリーしか憶えておりません……。顔もちゃんと憶えていられるか自信がありませんので、つっこんだ話はしたくないのです。
 次、この間の話がとか言われると困るので。

 出来れば、次なんてないといいのですが。

『こっち』

 ふと、声をかけられた気がしました。
 甘い、聞き覚えのある声。

 立ち止まり、その声が聞こえた方に視線を向けました。
 まるで、何かに誘導されたみたいに。

 廊下はちょうど丁字路でした。丁字路なんてなさそうな建物に見えたのですが、表から見えたのはコの字型でしたが、実はH型でした。裏庭側もそれなり趣があるようですよ。果樹園とかあるとか。

 滞在している部屋は左に進むので、右側の廊下へは視線を向ける必要はなかったんですよね。
 右のずっと奥の扉から足早に、と言うより逃げるような足取りで出てくるユウリが見えました。追いかけるようにローゼが待ちなさいとかなんとか言ってるのが聞こえて。

「元気そうで良かった」

 本音がぽろりと漏れて来ました。ローゼ、活動不能になっているかと思いましたよ。元気なら連絡くれても、と思いますけど。もしかしたら、慌ただしくてすれ違ったのかもしれません。
 そのあとを追いかけていた眼鏡の人が、戻ってきなさいと言ってましたね。

 あらら。大変そうですね。

「なにか、あったんですか?」

「いつも、あんな感じですね」

 シュリーが渋い顔で言ってまして。ティルスはあまり興味がなさそうでしたね。他の方も同じような反応なので、いつもというのは確かなんでしょうね。
 だいたい、ローゼに同情的です。

 ユウリは逃亡を諦めたのかなにか言い募っているのが見えます。なにを言ってるのかは確かには聞こえません。
 ただ、それほど本気の逃亡でもなかったようですね。発作的に逃げたいとか、それもしんどい気がしますけど。

 はいはい、戻ればいいんでしょ? みたいな事を言ってそうです。
 くるりと戻ろうとして誰かにぶつかりそうになりましたが、いつの間に現れたんでしょうか?
 今までいませんでしたよね?

「あ」

 もしかして、あれ、フラウですか?
 ローゼとフラウのじゃれ合いを見れるとか!?

 ……ってことはなくて、ユウリになんか文句言ってますね。なにか、画面の向こう側感があります。
 ちょっと、わくわくしてきますね。

 遅れて、ユウリが最初に出てきた扉から誰かが出てきましたけど。
 なにかこう、無表情を作るのに大変苦労しました。エリックは今日も魔導師の姿ですか。武装用のマント常備ってなにか警戒してるんでしょうか?

 今日も、良いですね。
 ……なぜ、そこで、朝のことを思い出すんでしょうね。思わず顔が赤くなってしまったような気がしますよ。腹筋がいかんのです。

「あいつまだいるのか」

 少々忌々しそうな口調でと聞こえたのですけど。ティルスを思わず見上げました。
 思い出しても彼の半裸には全く思う所はないんですけどね。おー、いい筋肉、程度です。シュリーにはなんだかちょっと照れがあるので、視線は絶対向けません。知り合いの着替え覗いちゃった気まずさがあるといいますか……。

「魔導師だから、と言うわけではないんですけどね。あいつは、良くない。近づくのはやめてくださいね」

 ティルスに優しく甘やかに、そんなことを言い出されました。肯く以外許さないような圧があります。目が笑ってない。

 えっと。そこにいるのうちの旦那様でしてね? ついでに言うとあたしも魔導師なわけで。

「同門の魔導師を悪く言われるのは、気分良くありませんね。あたしも魔導師ですし、魔導師同士の結束ぐらいご存じでしょう?」

 言い返すのもよくないとわかってますけど。
 むかっときたもので。

「ひどいっ!」

 ティルスの反応を見る前に、響いてきた声に視線を向けてしまいました。
 床に崩れ落ちるフラウ、それを呆れた顔で見下ろすエリックという構図はなんでしょうか?
 近づいてもいい?

「揉め事反対」

 こそっとカリナさんに釘を刺されました。
 なにがあったかはあとで聞いてみましょう。

「戻りましょう」

 そういって部屋へと戻りましたけど。
 なぁんか、ティルスの見る目がちょっと変わったみたいで、胃が痛い気がします。おもしれー女、絶対反対。

「では、また」

 通常はお茶でもとお誘いするようなタイミングでしたが、お茶会後です。即お帰りいただきました。
 幸い、お出かけ予定というのは組まれませんでしたし、なんとか乗り切ったと思いたいです。

 部屋ではリリーさんの兄嫁であるリナさんと、妹のヴィオナさんがお留守番してくれていました。
 お茶を飲みながらゆったり過ごされていたようです。

「久しぶりに休む事が出来て良かったです」

「ええ、本当に。しばらく、忙しすぎて」

 ……確かにお疲れの顔で、隠しきれない疲労が。

「お疲れ様です。お世話になってます」

 あたしが発端であろう事は想像がつきます。
 二人とも慌てたようにしてましたけど。

「いいのよ。うちにも利がある話、ではあるんだけど。ちょっとお願いもあるの」

 リナさんにチラ見されました。美人の流し目いただきました。皆さんそれぞれお綺麗ですよね。あたし、本当にモブ……。

「うちの料理人が、異界の料理知りたいっていってたの。良ければ教えてくれるかしら?」

「あ、おいしいお菓子もあると聞きましたっ!」

 ……。
 期待が重い気がしますね。

「ご期待に添えるかはわからないのですが、こちらの料理をまず教えていただけますか?」

 まあ、いいですけどね。気は紛れます。先ほどなにがあったか、とても気になります。ただし、今、聞くわけにもいけませんので少々もやもやとしてますよ。
 カリナさんはあー疲れたーという顔でソファで、ぐだっとしているのを横目に見てると和みますけど。

 お話より先に服装は着替えることにしました。気楽な部屋着になってからお茶をもらいました。部屋着といっても楽なワンピース程度で、過去の自宅での部屋着とは比べものにならないほどちゃんとしてます。

 リナさんとヴィオナさんから色々お話を聞きました。

 各地郷土料理が発達している、というより、郷土料理しか食べてないということを知りました。その土地で取れたモノを何とかしているうちに作られたのが郷土料理と思えば納得出来ますけど。
 ここで、郷土料理を愛しすぎて他を拒否派と飽きた派、どっちでもいいじゃんにわかれるそうです。

 王都はその逆で色々なモノが流入して色んな地方の料理のごった煮状態だそうですよ。
 郷土料理専門店なんてのも成立しているのがちょっと不思議な気はします。そのせいか、王都にやってくるときは料理人も連れてくる貴族も多いとか。
 食べ慣れた味がよいですよね。それはわかります。

 そして、この国においては麺類はほとんど存在しないようです。ごく希にパスタっぽいものが出回るようですね。うどん食べたい。焼きそば素敵。たらこパスタがあたしを呼んでいる……。
 ごはんはあまり恋しくないですけど、麺類を常に食べていた身の上なので……。あ、塩バターラーメンもいいですね。
 あと、マカロニもないっぽいです。悲しい。マカロニグラターン! 海も遠いので魚介類もお会いしてませんね。そういえば。

 さて、以上を踏まえてキッシュやミルクレープなどをご提案しておきました。タルトやパイ類はそれなりに充実しているようなのですが、卵の液体を入れて焼くみたいな発想はまだ出ていないようです。
 それにケーキなどに挟むカスタードクリームもまだないっぽいようなのですよね。コーンスターチ類はあるのかわからないので、最悪小麦粉でいける、はずです。たぶん。
 一番気をつけるのは食中毒。そのあたりは料理人なら気をつけてくれると思いますけどね。

 この選択になったのは卵料理の層が薄いようなので物珍しいかと思って。
 ……まあ、あの鶏(偽)の卵と思うとなんとなく、卵? という気持ちは今でも湧いてきますけど。
 あの卵も安定流通し始めたのもこの十数年と言われれば、卵料理が少ないのもわかる気がします。

 卵だけのオムレツにちょっと驚かれるわけです。具材でかさまししてましたか。

 余談ですが、領地でも鶏を飼っていて、小さいのはとてもかわいいと言われておりました。……どう考えても黄色いヒヨコではなさそうな描写にちょっと理解を拒否しました。
 うん。今後も見ないことにする。

 このあと、各地の野菜や特産品をいれたキッシュなどが流行ることになることをあたしは全く知りませんでした。
 そして、教えていないのにミルクレープにフルーツ挟んだり、色んなクリームが挟まれる魔改造が始まったりしたのも想定外でした。
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