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歓迎されますか? 2

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 王城につけば、順調に一泊予定の部屋に案内されました。持参したドレスやら小物などが入った箱は、メイドさんたちに先渡ししてました。着替えの場所は違うということで先に広げて用意してもらうそうです。皺を付けないつもりでも運ぶ途中でついちゃうことはあります。

 泊まる部屋は二階にありました。コの字の上の部分の真ん中という微妙な位置です。
 庭園がよく見える、けれど広すぎない部屋だそうです。お隣の部屋との連結扉があるのがポイントです。

 入ってすぐの応接室っぽいところと奥に寝室がある構造です。隣の部屋も同じだそうですよ。一泊ということで、一般的客室を用意したようです。
 特別に豪華な部屋というわけではないので、ちょっと安心しました。それでも高級ホテル感はあります。泊まったことないですけど。
 それでもキングサイズの天蓋付きのベッドでした。寝相が悪くても安心です。

「さて、私たちは隣の部屋になっているわ。カリナと私が同室ね。ローゼさんは悪いのだけど、アーテルをお願い。全員同室ってわけにもいかないから」

「わかったわ。外はどこが担当に?」

「近衛だから、ちょっと厄介なのよね。殿下が悪さする気になるかは読めないし」

「どうしてもと言うときは、ユウリの名を出しても良いと言われているけど」

「時間稼ぎしている間に、隣りに逃げてもらうからそこまではいいわ。というわけで避難訓練するわよ」

 ……。
 あたし、なにしにここに来たんでしょうね?
 やだなぁ。襲われるイベントとか。

 どーせなら。いえ、さすがにそれはまずいですよね。うん、事件です。

「隣の部屋からのバルコニーが繋がっているからそのまま移動すればいいんだけど。真っ暗なところでやってもらうから、手探りで歩数を数えたほうがいいわ」

 あたしがリリーさんの指導のもと避難訓練している間に、室内も色々探されていたようです。
 ベッドの下から謎の機械が出てきて、カリナさんとあたしはどん引きしてましたね。
 リリーさんは悟ったような無表情で、処分すると宣言していました。ローゼもなにかわかったようで苦笑しています。

「通常は不眠の人が使う安眠用の魔導具なんだけど、普通の人が使うと深い眠りに入り過ぎるの。悪用出来るから、買うのもちゃんと記録をつけられるし、番号も振られているから所有者はすぐに割れるわ。
 正規品ならね」

 かなり高価なモノらしいのですが、リリーさんにより魔導具は無効化の印を刻んで即刻お亡くなりになっていました。
 他には怪しいものはなかったようですが、安心出来る気がしません。
 盗聴。盗撮系とかに転用出来る魔導具も存在するようで、なにかぞっとします。これも誰でも買えるものではないのだそうですが、裏で出回ることもあるそうです。
 ばれると魔導協会が制裁するってことなので、なかなかに危険行為と思いますね。

 リリーさんの感知系の魔法にも引っかからなかったそうなので、これ以上怪しい魔導具はないようです。今は、ですが。

「はぁ。とりあえず、お茶でも飲みましょ。侍女たちもまだ呼びに来ない時間だし」

 今回は一泊と言うことで茶葉は持参しています。水や茶器はきっちり検査してからと念入りです。
 なお、全てカリナさんがやってます。あたしは、お茶を煎れることも出来ない設定です。

 それにしても、ここまで警戒しなければならないとは……。

「友好的な感じはあまりしないんですけど」

「今はなにもないと思うわよ。今後のための練習って感じ。多少は手順になれてもらわないとね。いざという時にショックで動けない、というのも困るでしょう?
 それに警戒しているのはほれ薬、眠ったり、気絶したりとか意識不明系が恐いのよ。実際、死ぬほどの毒は盛られないと思うわ」

「……場合により、死ぬより辛いんですが……」

「だから、警戒しているじゃない。不用意に飲食はしない。これは本当に気をつけて」

「わかりました。なにかあって過剰防衛とか言われても聞きませんからね」

「これだけ脅しといてなんだけど、ほとんどそんなことしようとはしないわよ。冷静に考えられれば、来訪者の怒りを買うことはわかるはずだもの。
 それを理解してもやるようなヤツは逆に地位やら権力あったりするから、警戒はしやすいのよね。
 殿下たちの出方がわからないのが、ちょっと困るかしら。私も強くは言えない相手なの」

 困ったように頬に手をあててますけど、そのほかについては強気に出ていくってことでしょうか。
 王家と近い血統の公爵家のご令嬢で、魔導協会の幹部候補、かつ、本人も魔導師として優れている。
 ……チートなのでは?

「興味ないといいんですけどね」

「あ、そうだった。笑わないように」

「はい?」

「そうそう。アーテルは笑っちゃダメ。見かけても絶対、無表情」

「ええっ!?」

 あたしの笑顔にいったいなにがあるのでしょう?
 冗談かと思えば、カリナさんもリリーさんも真顔でした。え?

「ダメよ、あんな嬉しそうな顔したら視界の途中にいる人が勘違いするわ」

 カリナさんも重々しく肯いてます。……ああ、エリックがいるかもって話のあれですか。そんなにですかね?
 ローゼも不思議そうな顔ですよ。普通はそうですよね。

「……努力します」

 無意識に笑ったら事故です。処置無しと首を横に振られたり、肩をすくめられたのは納得がいきません。

「まあ、これ飲んだら仕上げといきましょう。着替えの部屋は別に用意してもらったわ。
 今更裸に剥かれるの恥ずかしいとか言い出さないでね。ほんと若いっていいわ。お腹のお肉分けてあげたい」

 なにか、上から下まで見られましたよ。
 ……。その悩みは年代関係ないのではないでしょうか。
 皆が皆、視線を逸らしていったので、それなりにコンプレックスはありますよね……。一ヶ月のゆるダイエットの効果は微妙なので、脱ぐのはちょっとという気分です。ええ、既に剥かれてあちこち手入れ済みですけどね。

 たぶん、一番均整の取れたというのはローゼでしょうね。全く関係ない顔してますけど、おそらく、着替えはさせられますよ。護衛と言えど今のままの格好では浮きますからね。

「ローゼさんもユウリ殿からドレスがあるって聞いたから着替えてね」

 ……抜かりなかった。ニヤニヤ笑っているユウリの顔が思い浮かびますね。俺のローゼかわいいし。と言い出しそうで。
 え? みたいな顔してるローゼもかわいいですけど。落ち着かなさそうに髪の毛いじり出したりして、もぞもぞしているのもかわいい。

 推しではありませんが、ローゼが当て馬ヒロインとかじゃなくてほんとに良かったと思います。ユウリを見ているとハーレムというのも実は違った実体があったのかもしれませんし。
 ……ただ、まあ、無意識に男女見境なく落としていったのは間違いなさそうなんですけどね。

 なにげなく、ゲイルさんも絆されてましたし。可愛げってもんがあるのでしょう。じゃなきゃ、魅了チート。

「さて、そろそろいきますか。魔法で部屋は閉鎖するから、必要なものはちゃんととっておくこと。一日に一度しか使えないから解除してもう一度閉鎖はできないから、確認は念入りにね」

 リリーさんの号令のもと移動の準備をし、新たなる移動をしたんですけどね。
 思ったより見られました。まず、最初はいなかった護衛の人が部屋の外で控えていたのですよね。
 濃紺の軍服っぽい詰め襟の服は近衛の制服だそうです。夏と春はもうちょっと明るい青色なのだそうです。威圧感はありますね。
 ちなみに今はローゼがいるのでついてこないようですが、いない場合には常に誰かがついてくるそうですよ。

 前回はすれ違わなかったのですが、今日はとても人とすれ違います。
 日常的に使われているルートなので多少はあるとリリーさんも踏んでいたそうですが、想定以上、だそうです。
 ただ、身分がものを言うので誰かに挨拶することも避けることもしなくて良いそうですけど。

「殿下のうちの誰かが出てきたらさすがに話くらいは必要になるけど、抜け駆けするようなことは他家への心証がわるくなるからしないわよ。まあ、あの馬鹿はわからないけど」

 最後にぼそりと追加されたあのバカって気になるんですけど。早く幽閉されないかしらと物騒なコトが聞こえちゃったんですけど……。
 おそらく、隣りを歩いていたあたししか聞こえてなかったんですけど、問題ありすぎではないでしょうか。

 ……聞かなかったことにしましょう。

 地味に精神的に削られる移動でした。癒しが欲しい。ローゼに笑顔でももらえばいいでしょうか?
 がんばって! って言ってもらったらがんばれる気がします。好きなキャラとしてみているようで本来はダメなんでしょうけど。生で見てもかわいいですし、美人ですし。
 ユウリとの日常とやらを遠くから眺めたいですね。
 ツンデレを、あーツンデレー、と楽しみたいです。

 現実逃避しているうちに着替える部屋にたどり着きました。そんな遠くなかったはずなんですが、疲れました。

「で、ここからが本番。注意事項わすれないでね?」

 リリーさんが無表情で宣告し扉を開けました。
 メイドさんたちがずらっと並んでいたことに悲鳴をあげそうになりました。大変申し訳ないですが、リリーさんを盾にするように後ろに隠れましたよ。

 びしっときれいにお辞儀されたんですけど、威圧感半端ないですっ!
 人多すぎですよ! たった四人を着替えるだけで何で二十人くらいいるんですかっ! ここなんて大広間ですかっ!
 よく見れば衝立で室内を区切られていますけど、それにしたって広すぎでしょう。用意されているドレスも壮観です。他にも色々小物も広げられておりまして、お店ですかって感じです。

 事前に選んできた意味って?

「お嬢様、お久しぶりです。ご健勝そうでなによりですね」

 メイドさんのうち老齢の女性が進み出てきました。白髪でもびしっとまとめられた髪と背筋がピンと伸びた感じがして弱々しい感じは全くありません。

「頼むわ。みんな慣れてない子たちだから、優しくね?」

「心得ております」

 リリーさんがどうだかと笑顔のまま、呟いていたのが恐かったんですけどっ!

「こちらが、来訪者のアーテル。粗相のないように」

 おもわずぺこりと頭を下げそうになりました。しかし、すんでの所で踏みとどまり、軽く肯く程度でおさめました。

「エルと申します。よしなに。常時は妃殿下付きですが、滞在中は来訪者様に従うよう命じられております」

「聞いていないわ。今日の手配は任せるようにお祖母さまから聞いたけど」

「伝達忘れでしょう。ステラ様も困ったものですね」

「わかったわ。確認しておきます。しばらく、拠点にいると聞いたからすぐに調べられるでしょうね」

 そんなやりとりをしている横であたしは、メイドさんたちに囲まれ、拉致されていました。あー、たすけてーっ! みたいな気分ですけど、着替えだけですものね。
 大人しくついていきましたとも。
 二十代から三十代くらいの六人ほどでした。皆、ベテラン感があります。出来る女、って感じでしょうか。

「よろしくお願いしますね」

 にこりと感じよく笑ったつもりなんですけど、雰囲気が恐かったんですけど!?
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