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夢であいましょう2

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 久しぶりに目を開けたら茶の間でした。
 いえ、先ほど睡眠に入ったはずなんですが。

 そんな55日目です。

「やあ」

「こんばんは」

 今日も前回と同じような姿でした。そういえば、神もどきと言い続けるのもなんか問題ありますよね。

「ところでお名前をお伺いしてもよいでしょうか?」

「へ? ああ、忘れちゃったのか。そうだよな。うん。つーちゃん、でいい」

「いえ、名前を」

「えー、あーちゃんとつーちゃんと呼び合った仲じゃないか」

 ……どこかの記憶の端っこになにかあるような気がしますよ。幼なじみが、いた、ような? という。祖母のところであったような? みたいなぼやけたものが。

「ツイ様」

 そんな感じだった気がします。
 彼は嬉しげに笑いました。うんうんと肯いて、ご機嫌ですね。正解でしたか。

「そー、封印が緩んできたかな。いいことだ。異界ならそのうち純粋な転移能力として現れるはずだ。一回行った場所ならどこでも行ける系。おお、なんかチートっぽい」

「なんかもう、人間やめてる度合いがひどいんですけど……。
 血族のみ使える系魔法とかひどいのですよ」

「ああ、相手にするのが魑魅魍魎だから仕方ないよ。妖怪と戦いたい?」

「お断りです。そんな家業とは思いませんでした」

「今は、説得(物理)だから穏便だよ」

 ……どこが、穏便だというのでしょう。我が家とか親族とか全部そんな感じだったのでしょうか。気がつかないあたしが鈍感ってことで最終回答(ファイナルアンサー)?

「アリカがヒトエの能力を継いでいた、というのは周知の事実だったから極力遠ざけたよ。
 眷属の能力が人の身に扱えるのかというと難しいからね。
 ところが、あの馬鹿に目をつけられて弟子とか嫁にされそうになるという。実のところアリカの両親も困ってたんだよね。あれに嫁に出すとかあり得ないとかさ」

「前の彼氏がいたときにやたら結婚を勧められると思ったら……」

 そのプレッシャーも重かったですね。そして、店長はやっぱり嫁にする気だったんですか。冗談として全力スルーしてましたけど。あの驚異の忙しさは陰謀だったわけですね。それに気がつかず仕事なんて選んだあたしが残念だということでしょうか。

 ……うん。反省します。でも、結婚はないなと思ってたんですよね。仕事自体は好きでしたし。

「で、今日のスマホ」

「ありがとうございます」

 ついでとばかりに煎茶とどら焼きも出てきました。
 いったいどこから現れるというのでしょうか。

「こしあんと粒あんがあるよ。おすすめは粒あん」

 ありがたく粒あんをもらいました。なぜか、こしあんのほうにこしって焼き印があったんですよね。
 しみじみおいしいです。ハチミツ入りっぽい皮はしっとりしてますし、あんのほうは甘さ控えめで上品に仕上げてあります。

 さて。
 メールの方ですが、店長からはさくっと消しておきます。店長もこの世界に来る要因だったわけで、少々の恨みくらいは持っても良いですよね。あと一回振られた分。あれはそれなりにへこみましたからね。

 友人らからは返信の間隔が空いているのを不審に思われていました。
 あちゃあ。
 通常電波の悪い場所で過ごしているので、都会に出たときにまとめて返信していることにしましょう。
 うっかりしてました。リアルタイムな返信は無理、いえ、そんな魔法ありましたね。
 起きたらちょっと頑張ってみましょう。

 変わりないことや恋人が出張中で不在で寂しいとか書けば良いでしょうか。……なんか恋人とか書くの照れます。身悶えます。
 い、いえ、事実としては夫であるわけで。

「……現実味ない」

 まったくもって恋人なぞを通り越しての結婚とかどうなんでしょう。段階踏んでも良かった気もするんですよ。
 ……いえ、なにもなかったら、もっと落ちつかなかったと思います。妙に焦りそうな気さえするんですよね。モテないと言うわけではない気がするんですよ。仕事中とか格好いいですものね。
 通常との落差はありますけど。

「なにが?」

「その、結婚したと言うことに」

「書類上だからじゃない? 式でも挙げれば。……あげるのか?」

「全くわかりません。目先のことばかりで。冬の間になにか考えます」

「その方がいい。たぶん、興味ないと思う」

 ……でしょうね。書類上、問題なければ良しとしそうです。しなくても良いかなと思いますけど、きちんと話はしたほうがいいでしょう。
 変な所で禍根を残したくはありません。

 しかし、旦那様。

 ……いけませんね。思考が止まります。どーするのとかぐるぐるします。
 好きですよ。大好きでなんだったら愛しちゃってると思うんですけど。

 エリックはどう思ってるんでしょうね?

 いえ、好かれているとか、独占欲とか、俺のとか思ってそうとは感じるんですけど。感じるだと思い込みもありそうな気がして困ります。
 まあ、眠り姫を解呪できるほどには好かれてますよね。どの程度とみればいいのかわかりませんけど。

 そのあたりは気長に待つしかなさそうです。自分の気持ちを扱いかねて、矛盾が色々ありそうなので。
 好きだと言わないくせに物理的に触れたがるとか。あれ、どうなんでしょうね。

 拒めないあたしもどうかと思いますけど。
 好きな人に触れたいのは仕方ない気もしますし。

「あ」

 ぐだぐだと考えながらもメールの返信を終えて。
 電話がかかってきました。

「え、ええ!?」

「あ、ちょうど良かった。実家に繋がるはずだよ」

「ええっ!?」

 慌ててスマホを落下させました。
 慌てて拾って、正座して通話を押します。

「も、もしもし?」

「あ、ねーちゃん?」

 弟でした。

「そ、そうだけど。かなちゃん元気?」

「母さん、ねーちゃんに繋がったよ。ツイ様すごい」

 視線を向ければ、当人は胸を張ってふんぞり返ってましたね。得意げです。

「ねーちゃんに聞いておきたいことがあるんだけど」

「なに?」

「その人ってクルス様?」

 ……剛速球が投げ込まれましたよ!?
 い、いつ、話をしましたっけ? 焦りに焦ったあたしを知らない向こう側からは、電波悪いのかとぼやく声が聞こえました。

「な、なんでそうおもったのかなぁ?」

「え、家に残ってた全巻読んだからだけど。似てるなぁって」

 ぎゃーっ!
 ば、ばれてる。姉の秘密のはずなのに。はず、なのに? あれ、なんかどこかで言ったような気もするんですよね。
 うーん。いつだったでしょう?

「あたりかぁ。ねーちゃんの好みど真ん中だもんな」

「何でそれを知っているのよ」

「煙草吸ってる、背の高い、手の大きな、タレ目の男性ってのが好きだろ。ついでに実は優しい系」

 ……ぐうの音も出ません。確かにそうです。指摘されるまで、自覚すらしてませんでした。

「好きだけど。悪かったわね」

 電話の向こう側で笑っている声が聞こえました。
 気が済んだのか、はい、母さんと変わってる声が聞こえてきます。

「で、捕まえたの?」

「捕まえました」

「まあ、紹介しろとは言わないけど、手紙くらいは寄越すように」

「はい」

 さて、このことをどのように伝えれば良いのでしょうかね? このツイ様関連、全く話してないんですよ。
 機会がないというか、あえて避けてきたというか。

 家族の話とかしにくいんですよね。どこかで感情的になってしまいそうで。
 今もほっとして、ちょっとばかり目が潤んできてますので。

「そうそう。おめでとう、でいいのかしら? お祝いはツイ様経由で送れるみたいだけど、なにが良いかしら」

「なにか考える。母さんは」

「なぁに?」

「元気?」

「そうね、娘がいないのは少し寂しいけど、前も仕事ばかりであまり帰ってこなかったものね。あまり変わらない気もするわ。
 彼方も家を出たから新婚を満喫するの」

 ……うん。楽しそうですね。母さん。
 父さんの慌てたような声が入ってきてますよ。相変わらず、仲がよろしいようで。
 はい、父さんと代わったようです。

「アリカ、嫌になったらすぐに帰ってきて良いぞ」

「嫌になりませんから、帰りません」

 即答してしまいました。嫌だなぁ、父さんったら。不吉な事言わないでください。
 言葉に詰まった父を笑う母の声も聞こえてきます。もしや、向こう側ではスピーカーになってるんでしょうか?

「あーちゃん、ヒロの声でも聞くといい。かわいい」

 兄がつぎに変わって甥っ子になにかしゃべらせようとしていますが、はうはうと息だけが聞こえますね。
 うーん。まだ謎生物の域を出ませんか。

「ヒロ君、良い男に育ってくれたまえ」

 成長を見れないのは残念ですけどね。無理にでも時間を作っておけばよかったのです。あとでなんて、なかったんですから。
 今更ですけど。

「あーちゃんも楽しくやるんだぞ」

「わかってますよ。愚兄」

「うむ。涙声とかかわいいところがあるじゃないか」

「……死ぬが良い」

 相変わらず繊細さの欠片もない男ですね。義姉もどこがよかったんでしょうね?

「じゃあ、また」

 本格的に泣きそうな気もしたので早々に切りました。
 また、なんてあるのかわかりませんけど。ああ、でも、そんな魔法があったような……。それも魔導具にしておけばいいんですよね。
 ゲイルさんに相談しておきましょう。エリックは、ちょっと、その不安になるので後々で。

「ん。私はちょっといなくなるね」

 ツイ様は気まずそうに言って消えてしまいました。
 なんだかんだ言いながらも、やっぱり、寂しかったですね。あまり、大丈夫ではなかったんです。
 変わらなくて、繋がっているのがこれほど安心出来るとは思いもしていませんでした。

 そのうちテレビ電話みたいなのを開発しましょう。外には決して出しませんけど。

 ひとしきり泣いたら、スッキリしたような気もします。まあ、なにはともあれあたしはこの世界で生きていくしかないのです。
 帰れない故郷を思っても仕方ありません。それに連絡手段は用意されているんですから。

「……だいじょうぶ?」

 おそるおそる障子を開ける音がしました。
 この部屋、障子あったんですね。なにかぽつんと部屋だけが存在していたようなきがしたんですけど。
 なんといいますか、ジオラマ風でL字みたいな感じっていうんですかね。

「さすがに誰にも見られたくないと思って閉鎖したよ。だれもいれないけどさ。念のため」

「……思考を読まれた」

「いや、顔に出てたって。人の頭覗いても良い事ないから覗かない」

「そうですか。あ、すみません」

 冷たいタオルももらいました。あー、ひんやりして気持ちいいですね。

「今日もそろそろ時間だよ。次は間隔が空くかな。もしかしたらないかも」

「はい?」

「あ、これ私の連絡先。なんかあったら連絡して、あとはそのスマホの連絡帳許可あれば紙にしてそっちの世界に送るけど。いるでしょ?」

「その。ありがとうございます」

「いいよ。なんか、孫みたいだし。ヒトエの代わりに見守るくらいはするよ」

 なにか妙にこそばゆいのですが。
 相手も照れたのかそっぽ向いてしまいましたけど。

「じゃあ、また」

「はい。また」

 それにしても神様と連絡先交換とかすごいですね。

 そして、きょうもまた目を開けたら朝でした。
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