上 下
88 / 263

嵐の前の静けさ(かもしれない)

しおりを挟む
王都、某所にて 1

「噂聞いた?」

「あ? なんか、新しい来訪者が来るとかいうヤツか? 興味ねぇな」

「ふぅん? 憶えてるだけで十分興味あるように思うけどね。ま、うちがもらうから静観してくれるなら重畳」

「なんだその自信」

「平凡な娘なんてちょろいちょろい」

「自信過剰。そーゆー男は嫌いかもな。なにせ、顔の良い男は性格が悪い」

「おー、言うねぇ。ま、筋肉好きとも限らないよね。縁談を組むなら、うちか、きみのところか王子の誰かが本命ってところかな。共有なんて、趣味じゃないから最初から断っておくよ」

「王子様に憧れるような娘だったらどうすんだ?」

「え。そこらの王子より王子らしい僕が負けるわけないじゃん」

「……魔導師らしいが、いいのか?」

「前代未聞とかなんとか言ってたけど、いいんじゃない? 特別な選ばれた血が残る」

「ほんとに、自信過剰だな」

「そんな事言って、うっかり恋に落ちたりするんだよ。君はね」

「そーかもな。まあ、がんばれ」

「……張り合いのない。僕の一人勝ちかな」


王都某所にて 2

「あらあらあら」

「……ローゼ、怒ってる。超怒ってる」

「フラウ、怒ってないと思っている方が間違いだ」

「え?」

「ずっと怒ってたぞ。あれは。限界を超えて表に出てきただけだ」

「うるさいわね。眼鏡」

「眼鏡……。ぷっ」

「誰を迎えにやればいいの? わたしが行くわね。そうよね。その権利あるわよね。殴ってきていいわよね。なんなの、頑張って隠蔽したのに問い合わせされるって」

「いや、困るから。ディレイがいるって言うんだから引きずってでも連れてくるだろ。めんどくさいとか巻き込むなとかそんな事思いながらさ」

「うん? 私がいくっ!」

「あ」

「この眼鏡、余計な事を!」

「フラウもお留守番」

「じゃあ、フィラセントが行ってきなさいな」

「え」


ある町の(いるだけ)領主

「え、英雄に会うんですか? 僕が? 本気? ヤツは僕を殺しに来るんですか?」

「旦那様、さすがに布団を頭から被るのはやめた方が良いかと」

「嫌だ。代わりにあって。僕は出ません。絶対嫌です。しかも、なんて言いましたか魔導師もいるんでしょう? あいつ、僕を切り刻みましたよ。いったい何の恨みがと思いましたけど」

「以前もそう言って青ざめて逃げたではないですか。今のところ問題あるような行動は一度もとってませんよ?」

「目の色が違ったので、違う気もしますが、それでも震えます」

「……仕方ありませんね」

「いーやーっ! それは諦めるところーっ!」

「不甲斐ない主がいるとたいへんですね」

「ひきずらないでーっ!」

「出ますか? ヒヨコちゃん連れてもいですよ」

「うっ。わかりました。わかりましたよっ! ほんと、どっちが主人なんだか」

「なにか仰いましたか?」

「いいえ、なにもっ!」


教会にて

「なんてもん、寄越しやがる」

「いや、あそこまでのは想定してなかったんだわ。用紙だけ渡そうかなと思ってたが上層部も相当きてるね」

「そんなひどかったわけ?」

「らしいね。うちも何人も戻って来なかったし。少ない人数で回してるってのに助手も辞めそうで辛い」

「ああ、どこかの貴族の末っ子だっけ?」

「兄が亡くなったそうだ。そんで政略結婚が出来なくなりそうなので代わりに娘でどうよという話、らしい」

「女が余るとかいう話は聞くんだがな」

「身寄りがない子供の方が先に溢れそうな気がする。うちは増えてないけど、王都の孤児院は無理とか言ってた。あちこちに回そうにも野盗とか出そうとか言われると連れてくのもな」

「どこも落ち着かないな。じゃ、あれは魔導協会と結託してるわけ?」

「いや、うちの教会長が良い笑顔で独断でやったことだ」

「……俺は、何も知らなかった。どうせ本名で書くなら誰もわからん」

「ま、俺も知らんぷりして保管庫につっこむだけの簡単な仕事だ。結局使うかどうかは本人次第だ」

「焦ってしくじるよりは時間をかける方だから、しばらくはそのままじゃないか?」

「そうしている間に持ってかれないといいけどな」

「……そういう間の悪さはある。どちらにせよ結果は知りたくないので、教えてくるなよ」

「やだな、親友。秘密は共有しようぜ」

「断るっ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

騎士団の世話役

haru.
恋愛
家族と領地のピンチでお兄様に助けを求めに行ったら、酔っぱらいにゃんこに絡まれたーーーー! 気づいたら何だかんだで、騎士団に就職する事になるし、酔っぱらいにゃんこは騎士団長!? ※公爵家の名前をアスベル家に変更しました。 よろしくお願いしますヾ(ΦωΦ)/ 本編は完結済みです。 番外編の更新を始めました! のんびり更新の予定ですが、よろしくお願いします♪

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...