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黒こげのパンケーキ
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どうしてもパンケーキの片面だけが焦げるのが解せない。
ユウリは眉間にしわ寄せてお玉で一つ分を慎重に乗せる。
じゅうと焼ける音が平和だ。
甘いような香ばしいような匂いが少しずつ漂ってくる。ぷつぷつと周りがなったらひっくり返す。火は弱火推奨。
こんどこそとひっくり返せばフライパンの縁にくっついた。
「ぬっ」
斜めに引っかかると均一の厚さは諦めるしかない。焦げなかったとのがマシだろうか。
最初からすれば進歩したと自分で慰める。
最悪なものは胃袋に証拠隠滅した。苦かった。
ディレイは呆れながらも食べてくれそうな気はする。まずいとか言いながら。
アーテルは、次はこうするんですよと困った弟でも見るように教えてくれるだろう。
ゲイルがいれば笑ったと思う。
ここは、実家に似ている。こういうものを守りたかったと思い出させてくれた。
何でもない日常。とても大事だ。どこでもあって、あっさりなくなるもの。
重圧が、とか思っている場合ではない。
ユウリはため息をついて斜めに偏ったパンケーキを皿にのせる。少し上手になれば、ローゼも食べてくれるだろうか。
きっと置いていったことを怒ってるんじゃないかと思う。
心配の裏返しの激怒が待っているに違いない。うちの恋人は本当に可愛い。
ユウリはもう一枚焼くためにお玉で生地を掬う。滑らかな生地は混ぜ過ぎとアーテルは呆れていた。
とろりと生地を落とせばじゅうとフライパンが音を立てる。
「どうしたら機嫌直してくれるかな」
それを考えるのは楽しい。
この数日の寂しさは異常だ。目の前でいちゃつくなと言いたい。
だいたい無意識で、はっと気がついて少し距離をとるのを見ていると何をしているのだと言いたくなる。
さっさとつきあえ。などと思いだすのはおかしくないとユウリは思う。あれで恋人でもないとか言い出すのが、おかしい。
新婚とか同棲始めましたくらいの家にお邪魔したような疎外感がある。
昨日見た指輪がどういうものなのかユウリも聞いたが頭が痛くなった。ついでに教会が寄越したというお守りも見たが、正気かと言いたい。
完全に教会と魔導協会が結託している。来訪者について国に関与する隙を与えないつもりなのは知っていた。
それでもここまでされると、おまえらにほんのわずかなチャンスすら与えてやるものか、という怒りじみたものさえ感じる。
戦時中の魔導師や神官たちへの対応について腹に据えかねていたのだろう。
ユウリも気には留めていたが、全てに対応できるわけではない。
教会は神官を派遣しているという形だったが、魔導師は違う。魔導協会の意図があったにせよ、野良魔導師の自由行動を黙認という建前だ。
後ろ盾を持たない魔導師に嫌がらせをするということはあったようだ。
命知らずなとユウリは恐れおののいた。
気弱そうな魔導師ですら、人を傷つけることはできる。限界値を超えれば、命を奪うことすら容易くしてのける。
その上で、正当防衛でしたのでと平然と言って罪悪感すら持たない。
そんな事件も後々発覚している。
途中から妙な嫌がらせ返しに変化していったが、初期の軋轢は無視出来るものではない。
逆に神官は、人が良いのをいいことに過労で倒れるまでこき使われたとか。こちらは正式に抗議がきて発覚したが、改善したところで次は手を貸しませんねと言い出される始末だ。
後始末が大変になるのはこれだけではない。
あちこちを無理に動かした結果なのだから、仕方がないが。
「俺だけが悪いんじゃないと思うんだけどな」
そして、この黒こげのパンケーキはたぶん自分が悪い。
ぼんやりしていたら真っ黒だ。表面が乾ききったそれをひっくり返す。
果たして、ローゼはこんなもの一緒に食べてくれるだろうか?
笑い出すのを我慢して、神妙な顔をしそうな気がする。私がいないとユウリはダメねとにやにやするかもしれない。
対抗して料理しようとしなければいいんだけど。ユウリはそれだけは勘弁して欲しいと思う。なぜに謎の食べ物だったものがでてくるのかわからない。途中までは確かに食材だった。
ローゼが料理をするとどこかに空間のねじれができて合成錬金術が発動するに違いない。
「しかし、お腹すいたな」
この家の主はなにをどこまでしているのやら。
何とも言えない気持ちで扉の向こう側を見る。
けっこう、時間がたった気がする。
アーテルが見捨てられたと驚愕の表情をしていたのが面白、いや、不憫だった。
訳がわからないという表情のまま連れて行かれた。
ディレイの機嫌の悪さは理解しているのに理由については思い至らないらしい。ユウリは完全に対象外で、そこで嫉妬されるかもしれないなどと考えなかったようだ。
ユウリは可能性は考えたが気にしなかった。いっそ、何か進展すればいいかなぁと魔が差したところもなくはない。
ローゼと順調に事を進めるには彼女は邪魔なのである。悪いとは思うが、是非とも他の男と仲良くしていただきたい。
「お昼忘れてるんじゃないかな」
これは罰が当たっただろうか?
ユウリは思い悩みながらパンケーキを焼いた。
ユウリは眉間にしわ寄せてお玉で一つ分を慎重に乗せる。
じゅうと焼ける音が平和だ。
甘いような香ばしいような匂いが少しずつ漂ってくる。ぷつぷつと周りがなったらひっくり返す。火は弱火推奨。
こんどこそとひっくり返せばフライパンの縁にくっついた。
「ぬっ」
斜めに引っかかると均一の厚さは諦めるしかない。焦げなかったとのがマシだろうか。
最初からすれば進歩したと自分で慰める。
最悪なものは胃袋に証拠隠滅した。苦かった。
ディレイは呆れながらも食べてくれそうな気はする。まずいとか言いながら。
アーテルは、次はこうするんですよと困った弟でも見るように教えてくれるだろう。
ゲイルがいれば笑ったと思う。
ここは、実家に似ている。こういうものを守りたかったと思い出させてくれた。
何でもない日常。とても大事だ。どこでもあって、あっさりなくなるもの。
重圧が、とか思っている場合ではない。
ユウリはため息をついて斜めに偏ったパンケーキを皿にのせる。少し上手になれば、ローゼも食べてくれるだろうか。
きっと置いていったことを怒ってるんじゃないかと思う。
心配の裏返しの激怒が待っているに違いない。うちの恋人は本当に可愛い。
ユウリはもう一枚焼くためにお玉で生地を掬う。滑らかな生地は混ぜ過ぎとアーテルは呆れていた。
とろりと生地を落とせばじゅうとフライパンが音を立てる。
「どうしたら機嫌直してくれるかな」
それを考えるのは楽しい。
この数日の寂しさは異常だ。目の前でいちゃつくなと言いたい。
だいたい無意識で、はっと気がついて少し距離をとるのを見ていると何をしているのだと言いたくなる。
さっさとつきあえ。などと思いだすのはおかしくないとユウリは思う。あれで恋人でもないとか言い出すのが、おかしい。
新婚とか同棲始めましたくらいの家にお邪魔したような疎外感がある。
昨日見た指輪がどういうものなのかユウリも聞いたが頭が痛くなった。ついでに教会が寄越したというお守りも見たが、正気かと言いたい。
完全に教会と魔導協会が結託している。来訪者について国に関与する隙を与えないつもりなのは知っていた。
それでもここまでされると、おまえらにほんのわずかなチャンスすら与えてやるものか、という怒りじみたものさえ感じる。
戦時中の魔導師や神官たちへの対応について腹に据えかねていたのだろう。
ユウリも気には留めていたが、全てに対応できるわけではない。
教会は神官を派遣しているという形だったが、魔導師は違う。魔導協会の意図があったにせよ、野良魔導師の自由行動を黙認という建前だ。
後ろ盾を持たない魔導師に嫌がらせをするということはあったようだ。
命知らずなとユウリは恐れおののいた。
気弱そうな魔導師ですら、人を傷つけることはできる。限界値を超えれば、命を奪うことすら容易くしてのける。
その上で、正当防衛でしたのでと平然と言って罪悪感すら持たない。
そんな事件も後々発覚している。
途中から妙な嫌がらせ返しに変化していったが、初期の軋轢は無視出来るものではない。
逆に神官は、人が良いのをいいことに過労で倒れるまでこき使われたとか。こちらは正式に抗議がきて発覚したが、改善したところで次は手を貸しませんねと言い出される始末だ。
後始末が大変になるのはこれだけではない。
あちこちを無理に動かした結果なのだから、仕方がないが。
「俺だけが悪いんじゃないと思うんだけどな」
そして、この黒こげのパンケーキはたぶん自分が悪い。
ぼんやりしていたら真っ黒だ。表面が乾ききったそれをひっくり返す。
果たして、ローゼはこんなもの一緒に食べてくれるだろうか?
笑い出すのを我慢して、神妙な顔をしそうな気がする。私がいないとユウリはダメねとにやにやするかもしれない。
対抗して料理しようとしなければいいんだけど。ユウリはそれだけは勘弁して欲しいと思う。なぜに謎の食べ物だったものがでてくるのかわからない。途中までは確かに食材だった。
ローゼが料理をするとどこかに空間のねじれができて合成錬金術が発動するに違いない。
「しかし、お腹すいたな」
この家の主はなにをどこまでしているのやら。
何とも言えない気持ちで扉の向こう側を見る。
けっこう、時間がたった気がする。
アーテルが見捨てられたと驚愕の表情をしていたのが面白、いや、不憫だった。
訳がわからないという表情のまま連れて行かれた。
ディレイの機嫌の悪さは理解しているのに理由については思い至らないらしい。ユウリは完全に対象外で、そこで嫉妬されるかもしれないなどと考えなかったようだ。
ユウリは可能性は考えたが気にしなかった。いっそ、何か進展すればいいかなぁと魔が差したところもなくはない。
ローゼと順調に事を進めるには彼女は邪魔なのである。悪いとは思うが、是非とも他の男と仲良くしていただきたい。
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