上 下
73 / 263

帰る段取り

しおりを挟む
「さて、帰る段取りをつけたいんだけど、どこに相談した方が良いかな?」

 ユウリは気持ちを切り替え切れないのか、どことなく暗い声のままです。

「ギャラス鳥から生まれたような男がいるので、依頼しておきます」

 ギャラス鳥ってなに? そう思えばぱらりとページがめくられる音がしました。この効果音切れないんでしょうか。思ったより気が削がれるというか……。

 ギャラス鳥。
 空想上の生物、あることないことしゃべりまくるが、中にはとんでもない真実がある。転じて、情報屋を指すことがある。通常はうるさい人への悪口。

 ユウリはそれ、信用していいの? みたいな微妙な顔です。クルス様は会いたくないとぼやいてます。お知り合いでしょうか。

「神官というのは苦手なんだが、その中でも一番、会いたくないやつ」

 視線を向けたらぼそぼそとクルス様が教えてくれました。説明したくない気持ちだけは伝わりますね。
 ちなみに魔法を使う神官も魔導師の範囲にいれられてます。回復魔法も魔法ですからね。全部ひっくるめて魔導師。ただ、あまり意識されていないのと教会ごとの秘伝みたいな呪式があるので、教会は教会の魔法があるって思われているようです。
 と脳内を過ぎっていきました。へー、そうなんですねとしか言いようがありません。効果音は切れたようですが、突然に情報が流れていきました。

 このチート、疑問点一つ一つに答えてくれる便利仕様ですけど、少し困るような気もします。

「教会にも用があるから、都合がいい。俺が明日行く」

「そ。寄付だけして顔出さないから、うるさく言われると思うから頑張れ。留守番はしといてやる」

 クルス様、会いたくないけど行くんですね……。そして、ゲイルさんはとっても気軽に言ってます。行かなくてラッキーくらいのなにかが透けてますよ。

「あたしも」

「無理」

「ダメ」

「やめて」

 ……うん、それぞれがそれぞれの主張で、やめて欲しいのがわかりました。理由が全員違いそうです。
 そして、怪訝そうな表情なクルス様の視線が痛いです。たぶん、今までなら行きたい的主張自体しなかったと思うんですよ。大人しく待っていた方が良いと判断したでしょう。
 でも寂しくなる予感がするので、少し一緒にいたかったと言いますか……。

 ユウリをちらりと見ました。なんか脳天気そうですよね。ゲイルさんの残っているオムライスなんかをじっと見ていたりします。
 まだ、入るんですか。

「わかりました。ユウリ、残りありますけど、食べます?」

「うん!」

 ……ほんと、妙に可愛げがあるというか変に子供っぽいと言うか。
 これで英雄とか言われてもピンと来ない気はします。まあ、一皮剥くと怖い人でしたが。一人で全然大丈夫そうなんです。そして、きっと困りはしないんだと思うのですよ。だからふらふら歩き回ってるんでしょうけど。

 対外的に英雄を一人でふらふらさせてよいものではないでしょうね。
 まあ仮にも英雄ですし。お偉いさんですし。
 気を抜いてるところはそんな気がしませんけど。

 となると、ここを出るときも一人で出すわけにはいきません。

 たぶん、この町で、ユウリにつきあえるのってクルス様しかいないんじゃないかなって思うのです。おそらく、王都に帰るまではつきあうと思うんですよね。今までの経緯を見てれば容易に想像が出来て、少々、しんどいです。

 王都から誰か来るかもしれませんけど、そこまで待たない気がします。最低でも半月は帰ってこないでしょう。場合によってはそれ以上。
 その上、ユウリが防衛のあれこれを見に行くのに連れて行かれたら帰ってくる気がしません。魔導師が相手なら高確率で、人員に入れられそうなんですよね。

 そこはあたしが口を挟める所でもありません。実際、話が出たら表情に出そうな気がするんですよね。寂しいとか嫌だなぁとか、そういうところ。
 あまり見られたくはないですね。

 都合よくオムライスのお代わりを作りに行くという理由もできたので、キッチンの方に一時避難します。その間にささっと話をまとめてくれるとよいのですけど。

 そういえばユウリに古典的オムライスの方が良いと強固に主張されたので思い出でもあるんでしょうか。

「それで、どこにどう話を持っていくわけ?」

「まず、領主様から魔導協会に依頼があって、黒髪の青年を捜すように言われた。そこの英雄とは言われなかったけど、黒髪なんて他にいないから言ったも同然だ。いないことを証明したい、って言われたんだけど、門から普通に出てきたんだよな?」

「あ、うん。そ、そう」

 向こう側からの会話が聞こえてきます。なぜでしょう。ユウリが今から問い詰められる気がします。
 完全に怪しい解答したからでしょうけど。

「歩いてきた、というのが既におかしいからな。普通、止められる。馬くらい連れてきてるだろ?」

「この距離あるいたわけ? 健脚だな。さすが若いし軍人」

「……すみません。門を通らずにでてきました」

 ユウリが白状してますね。ため息をつかれてます。ゲイルさんから気がついてるならちゃんと確認するとかなんとかクルス様が小言を言われてますね。反論も聞こえてこないので、黙って聞いているのでしょう。

「いやぁ、ちょっとウィッグ焼かれたのは初めてで、動揺してたかなぁ……。でも、服着替えて髪も隠してきたんだけど」

「門から出てなくて、町にもいないと言うことは、一般的に行方不明って言う」

 ゲイルさんの平坦な口調が逆に怖いです。

「これ、続くと領主様の責任になる。最悪、責任取って処刑までいくかも」

「は? え、悪いの俺だよね?」

「それで、機嫌を損ねて国を出て行かれると困るから責任取るのは初動をミスったということで領主様って落としどころ。たぶん、知らせも行かない」

 ……微妙な人権が。問題が起こったことの責任を誰が取るのかという話しなのでしょうけど。本人に責任を取らせるわけにもいかない、という立場なわけですか。

 気軽に出てくるとかダメでしょ。

「マジか。今まで戦時下の特別措置か」

「もしくは知らない間に誰かが処理されたか」

 ゲイルさんがよけいなことを言い出しましたよ。がたりと椅子が倒れた音がしました。

「俺が知る限りないから少し落ち着け。戻って調べろ」

「……ん。こういう扱いほんとやめて欲しい」

「そうだな」

「人ごとじゃないからな? 彼女の場合にはゆっくりと囲まれていくんだろうけどさ。気がついたらでれない。そうなったらどうするんだ?」」

「嫌だというなら、隠しておく」

 あまりにもあっさりと言われた事に、びくりとしました。

「……それ、本気で言ってる? 歴史に名前残るからやめろよ? 完全に悪名だからな?」

「馬鹿なことを聞くからだ」

 それ、どういう意味でとれば良いんでしょうか。嫌だとあたしが言わないと思っているのか、それとも?

「あちっ」

 ぼんやりしながらの作業とはよくありません。フライパン、直で触ってしまいました。鍋つかみで取っ手を握ってお皿にのせます。
 ……ケチャップで文字でも書けばよいのでしょうか。

 少々の葛藤の末に×マークをつけておきました。一々、人の所に首をつっこまないでください。

「……うん、ごめん」

 ユウリにはとりあえず意図は伝わったような気がします。
 クルス様の方を見れる気もしません。

「今後は気をつけるよ。にしても、昨日の今日で動き早くない? 王都にはお伺い立ててない感じ?」

「役所から連絡して返事は来ているのかわからない。色んなところが勝手に動いているような印象はある。あの領主様、ちょっと変だからそっちはなにか別の意図があるかも」

「変?」

「貴族とか領主の知り合いはそれなりにあるんだが、妙に腰が低い、全方位に気を使ってる」

 ゲイルさんも顔が広いみたいです。大型の魔動具ってそれなりのお屋敷にしかなさそうですからその関係でしょうか?
 ユウリは腰が低い? と首をかしげています。

「……俺は、怖がられたんだが。執事? いや、メイド? に追い払われた」

 クルス様が解せないとでも言いたげに異を唱えていました。

「その話、初耳だな。なにをしたんだ?」

「なにもしてない。ここに来たことの挨拶は必要とあったから行っただけだ。
 あとで詫びの品が来た。夢見が悪くて、よく似た何かに追い立てられたとか書かれている謝罪の手紙もついていたな」

 まあ、あたしも魔導師に追い立てられるって嫌だと思いますよ。例え夢でも。
 おそらく、ゲイルさんでも悪夢になりますね。魔動具をえげつなく、利用してトラップを仕掛けそうです。あるいは趣味の魔銃の試し打ちとか。
 本編のモブとでも言いそうな魔導師ですら、癖がありましたからね。

「まあ、その領主がくせ者か。了解、領主にあって、魔導協会の顔を立てて、役所から帰る連絡をさせればいいかな」

「その方向で話をしてみるが、意図しない何かが発生しても知らない」

「別に、ディレイにそこまで求めてない。機微とか無視して軋轢増やしそうだから、ただのメッセンジャーでいてくれ。それ以外は無理にとは言わない」

 ユウリに少し疲れたように言われたのはなにかあったんでしょうか。
 クルス様は肩をすくめただけでしたけど。

「忘れているかもしれないが、そこのお嬢さんのことは内密だからな。黒いなんて知られたら最悪、そのまま教会で誓わされるぞ」

 ゲイルさんに釘は刺されたんですが、それはたぶん無理でしょうね……。

「それも問題があってな」

「え? もう、これ以上、勘弁してくんない?」

 ゲイルさん、嫌そうですけど、悪いんですがお付き合いいただきますよ。
 たぶん、この中で一番普通に処理してくれそうですから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...