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謎のモテ期ですか?
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買い物行くから着替えをしました。行く先で怪しまれるからやめてと言われれば否はございません。
クルス様はちょっと嫌そうでしたけどね。いや、でも困っているようにも見えましたし。
今は行儀見習いに行って一緒に住んでいないという娘さんの部屋を借りました。
ほどほどに可愛い感じで服を選ばれました。流行のない定番と言われた大きな花柄のスカートが可愛いのです。ただ、くるぶし近くまであるロングなのが久しぶりなので足にまとわりつかれている気がします。
生成り色のブラウスは袖がふんわりして手首付近できゅっと締まっている感じでした。
チャックももちろんマジックテープも存在しないので全てボタンと紐で何とかしていくのですよね。
ショールを羽織ってブローチでとめます。リリーさんにこれは迷子防止の魔動具と言われました。よく子供に使われるようです。
対で作られ一定以上離れると通知音が鳴り、いる方向がわかるのだとか。
着替えて降りていけば、妙な雰囲気でした。ちょっとした緊張感の名残といいますか。何か言いかけていたクルス様が、そのまま口を閉じましたね。険しい表情に見えたので、喧嘩とかじゃないといいのですけど。
「お待たせしました」
「可愛い可愛い。うん、このくらいで良いと思うわ。髪も纏めるから座って」
誰かに髪を結ってもらうのは久しぶりすぎて緊張します。最終的にシニヨンみたいな形になったようです。
……ところで、なぜ、クルス様、興味深そうに見てるんですかね。リリーさんが邪魔そうにしてますよ。
出来上がったところでクルス様に、可愛い、をいただきました。
……うん、ちょっと慣れた気がします。ええ、人前ですし、笑ってお礼を言えたと信じてます。
「はいはい、行ってくるわね。出かけるなら鍵をかけていくように」
お店ではない方へリリーさんは足を進めました。彼女はお店からの出入りはあまりしてないそうです。
「いってきます」
見送るのはありましたけど、見送られるのは初めてですね。
クルス様はちょっとびっくりしたようでした。
「いってらっしゃい」
……一瞬、意識がどこかに旅立った気がしますね。
慣れてきたと思ったんですが、少し照れたようなそれが胸に刺さったような気がします。言い慣れてない感があるのにあたしに言ってくれたということがですね。
ちょっと嬉しかっただけです。
「なにかしら、自宅なのに疎外感があるわ」
リリーさんがまだいました……。い、いえ、居たからどうだと言うつもりはなくただの挨拶ですし、別におかしな事を言ったわけでは……。
恥ずかしすぎて、先に出てきてしまいました。
少し間がありましたが、リリーさんもすぐに外へ出てきました。
「……好きなのねぇ」
開口一番、そんなことを言われまして。
生ぬるい視線でした。いやー、微笑ましいとかなんとか言うんじゃなくて、なにしてんの、という方向の視線ですね。被害妄想が過ぎるでしょうか。
というか即バレなんですか。
「あははは」
笑ってごまかしたかったです。呆れたような視線が痛いですよっ!
「引きずられている感が否めないわね」
「すみません……」
「責めてるわけじゃないわ。道ばたでする話でもないし、あとでね」
……あとでね、も怖いのですけど。
なにかこう、リリーさんって立ち位置がお姉さんって感じなので、あの審査とかある系ですか? まさかの。
先に歩き出した彼女のあとをついていきます。ところで、魔導師の人ってわりと歩くの早いんでしょうか。
久しぶりのロングスカートでちょいと歩きにくいのですが。
「そう怯えられると困るのだけど。どちらかというとディレイの方が問題があるのよね。注意事項みたいなことがいくつかあるの……」
リリーさんの方が憂鬱そうな感じです。
少し遅れているあたしに気がついたのか、歩調を緩めてくれました。ありがたいことです。
「ま、楽しいかどうかはさておいて、買い物しましょうか。協会で仕事したって言うし、冬服揃えたりする予算くらいあるでしょ」
……人の財布で買い物ってのもなにかこう、借金がかさむようでしんどいのですけどね。
あたしの憂鬱そうな表情からなにか察してくれたのかリリーさんが背中をぽんぽんと叩いてくれました。なにか、子供を宥めるみたいに。
「そのうち支度金が用意されるから気にしないでいいわよ。今までの恩恵で設立した基金からの支給だから、血税とか気にしないでいいし。そのあたり、説明してあげたいけど、根回し済んでからの方が良いと思うわ」
「なにされるんですか?」
「うーん。嘘発見器みたいなのにかけられるから、質問によってはアウトかな、このあたりの話も」
「……わかりました」
「関係者もかけられるって噂だから、ちょっとね。
昔、騙されたとか搾取されたとか、殺されそうになったとか、色々あったからできたのだけど」
「それはハードモードですね……」
「仕返しが苛烈過ぎて、組織が潰れたり国が潰れたり、色々あったのよ」
……過去の来訪者、過激なのでしょうか。それとも報復やむなしと思うようなことをしたんでしょうか。
「だから当人にはほとんど何かを強要されることはないはずよ。
気にした方が良いことはあるのだけど、あとで話すわ。きっとディレイは言わないだろうし」
「言わないんですか?」
「たぶんね」
自信たっぷりなたぶんですね。
そして、あとでの話題が段々重くなってきましたよ。
「ま、買い物買い物」
……二人ともそのつもりだったんですけどね。
町の大通りを二人で歩いているんですが、リリーさんはいろんな人に声をかけられていました。町の奥さんから巡回の兵士の人まで。色々知り合いがいるようです。
皆に興味津々と視線を向けられるのは困りましたけど。
新弟子を預かっているとかお話しはしてくれたので、納得はしてくれたようです。しかし、体が疲れたというより精神疲労を感じます。
「微妙に田舎だから、見かけない人に対する警戒心があるのよね……。すっかり忘れてたわ。あと2,3回来れば言われなくなると思うのだけど」
リリーさんに申し訳なさそうな顔をされてしましました。
親戚の所に行って、どこのお嬢さん? と聞かれるのと似てますね……。前回見られたのも同じ理由ですか。
……しかし、それでも数が多くないですかね?
リリーさんも疑惑を持ったようで広場に面したカフェ風のお店に逃げ込みました。
飲み物とクッキーのようなものがセットになっています。
奥まった席でようやくほっと息をつきました。
「確かにこれは嫌だわ。ディレイにしては良い判断してたわね……」
リリーさんもぼやいているので、通常はこうではないのでしょう。
半分くらいが男性で紹介して欲しいオーラが漂っていたので、なにかモテ期がきましたかと思いました。
年齢層が少年からおじさんまで幅広かったですね……。
今のところクルス様以外興味ないので、嬉しくはないですけど。
「魔導師って基本的にモテないのよ。なにか謎の生き物みたいに思われているし。だから、魔導師の弟子なんて紹介したら興味なくすと思ったんだけど……」
「それなら妙ですね」
魔導師? ふーん、それで? みたいな感じでしたよ。用事があるのでと去ってはすぐに誰かに捕まるという謎の状態です。
クルス様と出かけたときも確かに見られはしたんですけど、話しかけられはしませんでした。魔動具店に行く途中でも一度も。
「そうなのよ。まだ回路が出来てないからダメなのかしら」
「回路?」
「初めて魔法を使ったときに出来る世界とのつながり、かしら。ディレイのやり方があるでしょうし、詳しい説明は控えるわ。回路ができないと魔法が使えないし、魔導師でもないと思ってればいいわ」
そのあたりの話も今、宙に浮いてるんですよね。実践前に測定したいって言う話で。
微妙な顔のあたしに気がついたのかリリーさんは苦笑していました。
「まあ、今の興味を持たれている感じはわからないからやり過ごすしかないわね。次は、何か習ったあとにした方が良いと思うわ」
「そうします」
森に帰るときは不審者と思われてもあのフード被ってた方がよさそうです。
なんでしょうね。ちょっと気味が悪い感じです。知らない間に転移特典でも発動したんでしょうか。フェロモン的な。
全く嬉しくありません。
「ここでの暮らしは少しは慣れたかしら?」
「良くしてもらってますよ」
「冷たい、素っ気ない、構ってくれない、なんてよく聞いたからちょっと心配だったのよね」
どうしましょう。
冷たいはともかく、素っ気ないと構ってくれないについては否定出来ません。恋人でもないので、そんなに構ってくれなくて良いのですが、まあ、確かに素っ気ないときはあります。
興味ない、ってときなのですが、一応、相づちは打ってくれます。けど、別のこと考えてるなぁと思う瞬間はあるのです。
「それは感覚の違いじゃないですかね……」
すっと目を逸らして嘘にはならない程度の申告をしておきます。
リリーさんも苦笑いしてますけどね。
「なるほど。構われなくても困らないのね」
「ええ、本読んだり、家事したりと好き勝手してます。不満はないんですよね」
……ええ、本当に、クルス様と同居ってとこ以外は。それも不満ではないですかね。いろんな気持ちの整理がつかないと言いますか。
この先も整理がつく気がしません。
なんとなく、慣れて来たような気もしますけど不意打ちでなにかあるとダメですからね……。
「それなら良かった。困ったら相談してちょうだい。力になるとは言えないけど」
それもまた微妙な言い回しですね。リリーさんから言って聞くようなら困らないってところですかね。
「さて、買い物なのだけど。あちこち歩いて楽しもうかと思ったけど、無理そうだから必要なものをリスト化して重点的に見ていきましょう」
その後は普通に何を買うべきかという話をして、買い物に行ったのです。リスト化したのに長かったことだけはお伝えしたいです。
これです、これ。
少々うんざりするくらいの、これ。
とても久しぶりの感じです。
あーちゃんは早く決めすぎなどと友人にも言われました。仕事が急がしすぎて疎遠になっていましたが、こんなことになるならもっと会っていれば良かったでしょうか。
少々、感傷が過ぎる気がします。
慣れて来た証拠とも言えそうです。見ない振りをしてきたものが、心の隙間に忍び寄ります。
変に八つ当たりしないようにほどほどに解消していきたいところです。
「大丈夫? 疲れちゃったかしら」
「大丈夫です」
急に黙ったあたしに気がついたのでしょうか。リリーさんに心配されてしまいました。
「あれ? リリーさん、まだいたんですか」
その隙にも話しかけられるという。リリーさんもさすがにうんざり顔ですね。曖昧にまたねとか言っているんですが。
いそいそと急いでる風を装ってようやく帰ってきました。
クルス様はまだ帰ってきてないようでした。この間、ダメにした服の代わりを買うつもりとは聞いていたので色々回るところもあるのでしょう。靴も可愛い水玉になってましたし。
これはこれで可愛いと言ったら、ものすっごい微妙な顔してましたけど。
「ゲイルの様子見てくるから、悪いのだけど座って待っててくれる?」
奥まで案内されたあと、リリーさんはそう言って二階に上がっていきました。
ぎっくり腰って癖になるといいますし、大丈夫ですかね。
「お金が欲しい」
と今日も散財して思うのです。人の財布で買うというのも少々しんどいです。あとで返ってくるとは言われても。
親兄弟くらいならまあ、あとで返すしと居直れそうな気がします。
慣れる方が先で、それからではないと先に進めないのはわかってます。
何もないのも問題なのも。
でも、なにか焦ってくるのですよね。
これでいいのだろうかと。
現代知識で無双して荒稼ぎしたいですね。そんなことしたら来訪者であることはバレバレで、色々問題が山ほどやってくるんでしょうけど。
クルス様はちょっと嫌そうでしたけどね。いや、でも困っているようにも見えましたし。
今は行儀見習いに行って一緒に住んでいないという娘さんの部屋を借りました。
ほどほどに可愛い感じで服を選ばれました。流行のない定番と言われた大きな花柄のスカートが可愛いのです。ただ、くるぶし近くまであるロングなのが久しぶりなので足にまとわりつかれている気がします。
生成り色のブラウスは袖がふんわりして手首付近できゅっと締まっている感じでした。
チャックももちろんマジックテープも存在しないので全てボタンと紐で何とかしていくのですよね。
ショールを羽織ってブローチでとめます。リリーさんにこれは迷子防止の魔動具と言われました。よく子供に使われるようです。
対で作られ一定以上離れると通知音が鳴り、いる方向がわかるのだとか。
着替えて降りていけば、妙な雰囲気でした。ちょっとした緊張感の名残といいますか。何か言いかけていたクルス様が、そのまま口を閉じましたね。険しい表情に見えたので、喧嘩とかじゃないといいのですけど。
「お待たせしました」
「可愛い可愛い。うん、このくらいで良いと思うわ。髪も纏めるから座って」
誰かに髪を結ってもらうのは久しぶりすぎて緊張します。最終的にシニヨンみたいな形になったようです。
……ところで、なぜ、クルス様、興味深そうに見てるんですかね。リリーさんが邪魔そうにしてますよ。
出来上がったところでクルス様に、可愛い、をいただきました。
……うん、ちょっと慣れた気がします。ええ、人前ですし、笑ってお礼を言えたと信じてます。
「はいはい、行ってくるわね。出かけるなら鍵をかけていくように」
お店ではない方へリリーさんは足を進めました。彼女はお店からの出入りはあまりしてないそうです。
「いってきます」
見送るのはありましたけど、見送られるのは初めてですね。
クルス様はちょっとびっくりしたようでした。
「いってらっしゃい」
……一瞬、意識がどこかに旅立った気がしますね。
慣れてきたと思ったんですが、少し照れたようなそれが胸に刺さったような気がします。言い慣れてない感があるのにあたしに言ってくれたということがですね。
ちょっと嬉しかっただけです。
「なにかしら、自宅なのに疎外感があるわ」
リリーさんがまだいました……。い、いえ、居たからどうだと言うつもりはなくただの挨拶ですし、別におかしな事を言ったわけでは……。
恥ずかしすぎて、先に出てきてしまいました。
少し間がありましたが、リリーさんもすぐに外へ出てきました。
「……好きなのねぇ」
開口一番、そんなことを言われまして。
生ぬるい視線でした。いやー、微笑ましいとかなんとか言うんじゃなくて、なにしてんの、という方向の視線ですね。被害妄想が過ぎるでしょうか。
というか即バレなんですか。
「あははは」
笑ってごまかしたかったです。呆れたような視線が痛いですよっ!
「引きずられている感が否めないわね」
「すみません……」
「責めてるわけじゃないわ。道ばたでする話でもないし、あとでね」
……あとでね、も怖いのですけど。
なにかこう、リリーさんって立ち位置がお姉さんって感じなので、あの審査とかある系ですか? まさかの。
先に歩き出した彼女のあとをついていきます。ところで、魔導師の人ってわりと歩くの早いんでしょうか。
久しぶりのロングスカートでちょいと歩きにくいのですが。
「そう怯えられると困るのだけど。どちらかというとディレイの方が問題があるのよね。注意事項みたいなことがいくつかあるの……」
リリーさんの方が憂鬱そうな感じです。
少し遅れているあたしに気がついたのか、歩調を緩めてくれました。ありがたいことです。
「ま、楽しいかどうかはさておいて、買い物しましょうか。協会で仕事したって言うし、冬服揃えたりする予算くらいあるでしょ」
……人の財布で買い物ってのもなにかこう、借金がかさむようでしんどいのですけどね。
あたしの憂鬱そうな表情からなにか察してくれたのかリリーさんが背中をぽんぽんと叩いてくれました。なにか、子供を宥めるみたいに。
「そのうち支度金が用意されるから気にしないでいいわよ。今までの恩恵で設立した基金からの支給だから、血税とか気にしないでいいし。そのあたり、説明してあげたいけど、根回し済んでからの方が良いと思うわ」
「なにされるんですか?」
「うーん。嘘発見器みたいなのにかけられるから、質問によってはアウトかな、このあたりの話も」
「……わかりました」
「関係者もかけられるって噂だから、ちょっとね。
昔、騙されたとか搾取されたとか、殺されそうになったとか、色々あったからできたのだけど」
「それはハードモードですね……」
「仕返しが苛烈過ぎて、組織が潰れたり国が潰れたり、色々あったのよ」
……過去の来訪者、過激なのでしょうか。それとも報復やむなしと思うようなことをしたんでしょうか。
「だから当人にはほとんど何かを強要されることはないはずよ。
気にした方が良いことはあるのだけど、あとで話すわ。きっとディレイは言わないだろうし」
「言わないんですか?」
「たぶんね」
自信たっぷりなたぶんですね。
そして、あとでの話題が段々重くなってきましたよ。
「ま、買い物買い物」
……二人ともそのつもりだったんですけどね。
町の大通りを二人で歩いているんですが、リリーさんはいろんな人に声をかけられていました。町の奥さんから巡回の兵士の人まで。色々知り合いがいるようです。
皆に興味津々と視線を向けられるのは困りましたけど。
新弟子を預かっているとかお話しはしてくれたので、納得はしてくれたようです。しかし、体が疲れたというより精神疲労を感じます。
「微妙に田舎だから、見かけない人に対する警戒心があるのよね……。すっかり忘れてたわ。あと2,3回来れば言われなくなると思うのだけど」
リリーさんに申し訳なさそうな顔をされてしましました。
親戚の所に行って、どこのお嬢さん? と聞かれるのと似てますね……。前回見られたのも同じ理由ですか。
……しかし、それでも数が多くないですかね?
リリーさんも疑惑を持ったようで広場に面したカフェ風のお店に逃げ込みました。
飲み物とクッキーのようなものがセットになっています。
奥まった席でようやくほっと息をつきました。
「確かにこれは嫌だわ。ディレイにしては良い判断してたわね……」
リリーさんもぼやいているので、通常はこうではないのでしょう。
半分くらいが男性で紹介して欲しいオーラが漂っていたので、なにかモテ期がきましたかと思いました。
年齢層が少年からおじさんまで幅広かったですね……。
今のところクルス様以外興味ないので、嬉しくはないですけど。
「魔導師って基本的にモテないのよ。なにか謎の生き物みたいに思われているし。だから、魔導師の弟子なんて紹介したら興味なくすと思ったんだけど……」
「それなら妙ですね」
魔導師? ふーん、それで? みたいな感じでしたよ。用事があるのでと去ってはすぐに誰かに捕まるという謎の状態です。
クルス様と出かけたときも確かに見られはしたんですけど、話しかけられはしませんでした。魔動具店に行く途中でも一度も。
「そうなのよ。まだ回路が出来てないからダメなのかしら」
「回路?」
「初めて魔法を使ったときに出来る世界とのつながり、かしら。ディレイのやり方があるでしょうし、詳しい説明は控えるわ。回路ができないと魔法が使えないし、魔導師でもないと思ってればいいわ」
そのあたりの話も今、宙に浮いてるんですよね。実践前に測定したいって言う話で。
微妙な顔のあたしに気がついたのかリリーさんは苦笑していました。
「まあ、今の興味を持たれている感じはわからないからやり過ごすしかないわね。次は、何か習ったあとにした方が良いと思うわ」
「そうします」
森に帰るときは不審者と思われてもあのフード被ってた方がよさそうです。
なんでしょうね。ちょっと気味が悪い感じです。知らない間に転移特典でも発動したんでしょうか。フェロモン的な。
全く嬉しくありません。
「ここでの暮らしは少しは慣れたかしら?」
「良くしてもらってますよ」
「冷たい、素っ気ない、構ってくれない、なんてよく聞いたからちょっと心配だったのよね」
どうしましょう。
冷たいはともかく、素っ気ないと構ってくれないについては否定出来ません。恋人でもないので、そんなに構ってくれなくて良いのですが、まあ、確かに素っ気ないときはあります。
興味ない、ってときなのですが、一応、相づちは打ってくれます。けど、別のこと考えてるなぁと思う瞬間はあるのです。
「それは感覚の違いじゃないですかね……」
すっと目を逸らして嘘にはならない程度の申告をしておきます。
リリーさんも苦笑いしてますけどね。
「なるほど。構われなくても困らないのね」
「ええ、本読んだり、家事したりと好き勝手してます。不満はないんですよね」
……ええ、本当に、クルス様と同居ってとこ以外は。それも不満ではないですかね。いろんな気持ちの整理がつかないと言いますか。
この先も整理がつく気がしません。
なんとなく、慣れて来たような気もしますけど不意打ちでなにかあるとダメですからね……。
「それなら良かった。困ったら相談してちょうだい。力になるとは言えないけど」
それもまた微妙な言い回しですね。リリーさんから言って聞くようなら困らないってところですかね。
「さて、買い物なのだけど。あちこち歩いて楽しもうかと思ったけど、無理そうだから必要なものをリスト化して重点的に見ていきましょう」
その後は普通に何を買うべきかという話をして、買い物に行ったのです。リスト化したのに長かったことだけはお伝えしたいです。
これです、これ。
少々うんざりするくらいの、これ。
とても久しぶりの感じです。
あーちゃんは早く決めすぎなどと友人にも言われました。仕事が急がしすぎて疎遠になっていましたが、こんなことになるならもっと会っていれば良かったでしょうか。
少々、感傷が過ぎる気がします。
慣れて来た証拠とも言えそうです。見ない振りをしてきたものが、心の隙間に忍び寄ります。
変に八つ当たりしないようにほどほどに解消していきたいところです。
「大丈夫? 疲れちゃったかしら」
「大丈夫です」
急に黙ったあたしに気がついたのでしょうか。リリーさんに心配されてしまいました。
「あれ? リリーさん、まだいたんですか」
その隙にも話しかけられるという。リリーさんもさすがにうんざり顔ですね。曖昧にまたねとか言っているんですが。
いそいそと急いでる風を装ってようやく帰ってきました。
クルス様はまだ帰ってきてないようでした。この間、ダメにした服の代わりを買うつもりとは聞いていたので色々回るところもあるのでしょう。靴も可愛い水玉になってましたし。
これはこれで可愛いと言ったら、ものすっごい微妙な顔してましたけど。
「ゲイルの様子見てくるから、悪いのだけど座って待っててくれる?」
奥まで案内されたあと、リリーさんはそう言って二階に上がっていきました。
ぎっくり腰って癖になるといいますし、大丈夫ですかね。
「お金が欲しい」
と今日も散財して思うのです。人の財布で買うというのも少々しんどいです。あとで返ってくるとは言われても。
親兄弟くらいならまあ、あとで返すしと居直れそうな気がします。
慣れる方が先で、それからではないと先に進めないのはわかってます。
何もないのも問題なのも。
でも、なにか焦ってくるのですよね。
これでいいのだろうかと。
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