4 / 263
魔導師は彼女が気になる
しおりを挟む
家に連れ帰り、リビングと設定している部屋の彼女をソファに横たえた。客間はあるが、今は荷物置きになっている。すぐ使える部屋というものはない。
この部屋も、一応、使える程度だ。
部屋を見回して見られてはまずいモノはないかと確認し出すに至って、自分の動揺を感じる。
仕方ないから背負ってきたのがやっぱり間違いだった。
ちらっとソファの上を確認する。彼女はなにかにうなされているように眉間にしわが寄っていた。
町娘というには肌が白く、荒れているように見えない。指先まで丹念に手入れされている良いところのお嬢様のようだ。服ばかりが状況に合わせて用意されたようで少し気味が悪い。
そもそもあんなところに突然現れるのは、異常である。
あとで国にでも報告を入れる必要があるだろう。来訪者は確認した段階で、報告義務がある。問題はどの程度、ごまかすか、だが。
契約した分の支払いが終わってからでいいか。そのままうやむやにされる方がまずい。そんな言い訳じみた理由を思いついて顔をしかめた。
師匠は騙されはしないだろうから早めに報告は必要だろう。
明日にでも町に行く事に決める。都合良く以前から付き合いのある兄弟子が魔動具の店を構えていた。つかまると話が長いが、相談に乗ってくれるくらいには善良だ。
まあ、それも起きてからの彼女の態度しだいだろう。
今すぐ出て行くと言われるのは困る。色々謎のままでは野放しにして、あとで問題が起こった場合、責任を取らされる。
嬉々として魔導師という存在そのものを糾弾してくるだろう。個人を、ではなく、魔導師全体に喧嘩を売りに来る。
戦時下でやりすぎたと他の兄弟弟子も言っていたので、そのときに目立った分だけ叩かれる。
「嫌わないでいてくれるといいけど」
そっと髪に触れてみる。艶やかで上等な糸のようだ。
今は閉じている目は、黒に見えた。そうであったのならば、見逃されることはないだろう。
今の英雄も黒だ。その色は、この国にとっては滅多にない特別な色とされている。
「……んっ……」
小さい声にびくりとした。慌てて手を引く。
髪に触れるなど親しくもない女性にすることではないという自覚はあるのだ。これでも。
やっぱり欲求不満だろうか。
彼女はうっすらと目を開けてとても良いモノを見たとでも言いたげに嬉しそうに笑った。
「夢か」
続けて小さく呟かれた声。
……聞こえなかったことにした。
幻聴である。
それは心臓に悪いというものではない。そもそも言うべき相手は別にいるに違いない。
「いい夢」
寝ぼけたような声がとても幸せそうに聞こえた。彼女は安心したようにもう一度目を閉じた。
その相手を少しばかり、羨ましく思った。
好意とは無縁とまでは言わないが、魔導師というのは、忌避されやすい。よくわからない存在として遠巻きにされていた過去はともかく、今は半端に理解されている。
間違っているとは言わないが正しくもなく伝わり、怖がられることはよくある。
呪いをかけることはできるが、誰にでもすぐにかけるわけでもないし、気に入らないからと言っていきなり呪式を使うこともない。
しかし、そうは理解されていない。
そんな色々から、性格がねじ曲がって偏屈になるのだ。少なくとも人とは距離を置きたくなる。
ため息をつく。
煙草が吸いたい。
そう思って懐を探しても煙草の箱は見つからない。どこかで落としたのだろうか。自室に戻ればあるかと部屋を出る。ついでに着替えもしたい。重たいし、色々思い出しては引きずられる。
自室に戻り、マントを脱いでコート掛けにひっける。
ここには仕事道具などを持ち込まないことにしているのでものはそんなに無い。ただ、たばこ臭いとは言われるだろう。
ここか、外でしか吸わないようにはしている。ヘビースモーカーと言われたが、必要がなくなれば常時手放せないことはない。
ただ、落ち着かないときに吸う習慣は抜けなかった。近頃は日に数本で済んでいたのだが、煙草の箱から半分くらい減らしても全く落ち着かない。
ふと、いい匂いしたなと思い返して後悔した。
しばらくして諦めて彼女を残した部屋に戻ることにした。
幸い、まだ目覚めていないようだった。
起こす気もしなかった。出来れば問題は先送りしたい。
見られたくないものを部屋から排除することにした。読めるとは思えないが、改良呪式の試作などは極秘だ。
片付けをしようとしていたのだから、ある意味で今日やるべき事はできたのだろう。
実のところ気になって、それどころではないという落ちもつくわけだが。
少し悩んで彼女の上になにかかけることにした。見えなければ意識しない。
そこからは真面目に片付けることにした。
この部屋も、一応、使える程度だ。
部屋を見回して見られてはまずいモノはないかと確認し出すに至って、自分の動揺を感じる。
仕方ないから背負ってきたのがやっぱり間違いだった。
ちらっとソファの上を確認する。彼女はなにかにうなされているように眉間にしわが寄っていた。
町娘というには肌が白く、荒れているように見えない。指先まで丹念に手入れされている良いところのお嬢様のようだ。服ばかりが状況に合わせて用意されたようで少し気味が悪い。
そもそもあんなところに突然現れるのは、異常である。
あとで国にでも報告を入れる必要があるだろう。来訪者は確認した段階で、報告義務がある。問題はどの程度、ごまかすか、だが。
契約した分の支払いが終わってからでいいか。そのままうやむやにされる方がまずい。そんな言い訳じみた理由を思いついて顔をしかめた。
師匠は騙されはしないだろうから早めに報告は必要だろう。
明日にでも町に行く事に決める。都合良く以前から付き合いのある兄弟子が魔動具の店を構えていた。つかまると話が長いが、相談に乗ってくれるくらいには善良だ。
まあ、それも起きてからの彼女の態度しだいだろう。
今すぐ出て行くと言われるのは困る。色々謎のままでは野放しにして、あとで問題が起こった場合、責任を取らされる。
嬉々として魔導師という存在そのものを糾弾してくるだろう。個人を、ではなく、魔導師全体に喧嘩を売りに来る。
戦時下でやりすぎたと他の兄弟弟子も言っていたので、そのときに目立った分だけ叩かれる。
「嫌わないでいてくれるといいけど」
そっと髪に触れてみる。艶やかで上等な糸のようだ。
今は閉じている目は、黒に見えた。そうであったのならば、見逃されることはないだろう。
今の英雄も黒だ。その色は、この国にとっては滅多にない特別な色とされている。
「……んっ……」
小さい声にびくりとした。慌てて手を引く。
髪に触れるなど親しくもない女性にすることではないという自覚はあるのだ。これでも。
やっぱり欲求不満だろうか。
彼女はうっすらと目を開けてとても良いモノを見たとでも言いたげに嬉しそうに笑った。
「夢か」
続けて小さく呟かれた声。
……聞こえなかったことにした。
幻聴である。
それは心臓に悪いというものではない。そもそも言うべき相手は別にいるに違いない。
「いい夢」
寝ぼけたような声がとても幸せそうに聞こえた。彼女は安心したようにもう一度目を閉じた。
その相手を少しばかり、羨ましく思った。
好意とは無縁とまでは言わないが、魔導師というのは、忌避されやすい。よくわからない存在として遠巻きにされていた過去はともかく、今は半端に理解されている。
間違っているとは言わないが正しくもなく伝わり、怖がられることはよくある。
呪いをかけることはできるが、誰にでもすぐにかけるわけでもないし、気に入らないからと言っていきなり呪式を使うこともない。
しかし、そうは理解されていない。
そんな色々から、性格がねじ曲がって偏屈になるのだ。少なくとも人とは距離を置きたくなる。
ため息をつく。
煙草が吸いたい。
そう思って懐を探しても煙草の箱は見つからない。どこかで落としたのだろうか。自室に戻ればあるかと部屋を出る。ついでに着替えもしたい。重たいし、色々思い出しては引きずられる。
自室に戻り、マントを脱いでコート掛けにひっける。
ここには仕事道具などを持ち込まないことにしているのでものはそんなに無い。ただ、たばこ臭いとは言われるだろう。
ここか、外でしか吸わないようにはしている。ヘビースモーカーと言われたが、必要がなくなれば常時手放せないことはない。
ただ、落ち着かないときに吸う習慣は抜けなかった。近頃は日に数本で済んでいたのだが、煙草の箱から半分くらい減らしても全く落ち着かない。
ふと、いい匂いしたなと思い返して後悔した。
しばらくして諦めて彼女を残した部屋に戻ることにした。
幸い、まだ目覚めていないようだった。
起こす気もしなかった。出来れば問題は先送りしたい。
見られたくないものを部屋から排除することにした。読めるとは思えないが、改良呪式の試作などは極秘だ。
片付けをしようとしていたのだから、ある意味で今日やるべき事はできたのだろう。
実のところ気になって、それどころではないという落ちもつくわけだが。
少し悩んで彼女の上になにかかけることにした。見えなければ意識しない。
そこからは真面目に片付けることにした。
16
お気に入りに追加
981
あなたにおすすめの小説
豊穣の女神は長生きしたい
碓井桂
恋愛
暴走車に煽られて崖から滑落→異世界転移した紗理奈は、女しか転移してこないが結構な頻度で転移者のいる異世界に出現した。転移してきた女の持つチートは皆同じで、生命力を活性させる力。ただし豊穣の女神と呼ばれる転移者の女は、その力で男を暴走させてしまうため、この世界では長生きできないという。紗理奈を拾った美しい魔法使いの男ヒースには力は効かないと言うけれど……ヒースには隠し事があるらしい。
こちらの小説はムーンライトノベルズに以前公開していたものを改稿したもので、小説家になろうにも載せています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる