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おまけ ハイスぺ社長(既婚)にお前が番だと求婚されたがそんなのお断りだ! 後編
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「いやぁ、肝が冷えたっす」
ばたばたとついてきたミイナはそういった割に愉快そうだった。
相手がフリーズしている間に昼食時間の終了を告げる鐘が鳴ったので、花梨たちは社食から撤退してきたところだった。
「ミイナさんや」
「なんすか。花梨さん」
「番から逃げた人間の話知らない?」
「うちの従姉のねーちゃんが、うぎゃーむりー、と異界の魔物召喚して、魔界に逃げたっす」
思った以上にパンチが効いた答えが返ってきた。
花梨は、そー、以外の言葉が返せない。
「ルリちゃん、っていうんですけど、単独生物系獣人で番なんて現れんと周囲も思ってたら、現れたというより勝手に相手に番判定は入っちゃって、でも、ルリちゃん的には番認定入らなくって、無理と」
「全部番がいるわけじゃないんだ」
「そうっすね。
雌雄同体系とか、単純に自己の分裂で増える系は番がないといわれてるっす。それから特別固体。一代に一人しかいないとかいうものっす。
例外はあれどだいたいは一人で楽しくやっていく感じみたいっすよ。まあ、逆に他人がいるのが嫌だってことの表れでもあるんすけど」
「それでも魔界に逃げるほど嫌って」
「そーっすね。番の相手の性質にもよるんですけどね。
拉致監禁、誰にも会わせず誰にも親しくさせず、子も産ませるが育ても近寄らせもせず。という極端な例もあるんっすよね。今どき人道的に許されないんっすけどね? ほら、なまじ権力もっているとほら」
「サスペンスもミステリもホラーも嫌なんだけど」
「私も番見つけたらああなるのかと恐怖ではあるんすよね……」
どよんとしたミイナに花梨はかける言葉がない。それなりに自我があって拒否感があっても抗えない何かというものであるようだ。
そう言う意味では不憫である。
しかし、現実的に、今、不憫な目に合うのは花梨である。
「実質、現世捨てろと」
「受け入れてラブラブしちゃえばいいじゃん、というのが獣人族の主な主張っす。
受け入れないとか可愛いそうと獣人びいきな判定しか出てきません。純人のくせにとか、善意で言っている歪んだこととかいろいろあるっすねぇ。
死んだ目のかかりちょー見たくないっすけど、現状、受け入れるか死にそうな目にあうかみたいな二択」
「ひどい」
「つっても。出来るのは時間稼ぎくらいっすよ?
まあ、今日の今日に手を打たれることはないでしょうから、明日までが勝負っす。私も微力ながら指令を下されるまではお手伝いします」
ファイト! と言われても……。
花梨は途方に暮れる。
「なにからすればいいと思う?」
「オートロックの部屋じゃなければ、引っ越し。セキュリティ高め、管理人あり、不審者即通報してくれそうな住人が在住物件がおすすめです。警備員は善し悪しなんですよね」
「ホテルは?」
「ホテルごと買収されて監禁場所になりかねません。まず、他人の買収されない純人の多い地域で考えたほうが良さそうですよ。それから」
「それから?」
「犬を飼いましょう」
「いぬ?」
「黒玉の君、犬苦手っす。
かかりちょー散歩、苦にならない人種っすよね。さらに雨でもジム行く系」
「うん。走る時の友達、とでも思えばいいか」
「あとは思いついた端から伝えるっす」
気楽にそういうミイナ。
花梨はありがたいと同時に同族を裏切るような真似をさせているような気がしてきた。重大な過失として問われそうだ。
「……あのミイナさん」
「なんすか?」
「その、ありがとう」
「いいっすよ。今は、信用していいっすけどね。明日からは油断しないでください。
私も一族内の立場ってもんがあります。まあ、おじいちゃんが怒鳴りつけてると思うんで数日は自由になれると思うっすよ」
「おじいちゃん?」
「あー、うちのおじいちゃん、先代の黒玉の君なんすよ。それもまあ、20年くらいまえに引退したんすけどねぇ。秘密っす」
きまり悪そうにぽりぽりとミイナは頭をかいている。
……お嬢様だった。このっすとかいう人がお嬢様だった!?
花梨の驚愕をほっといてミイナは先に立った。
「さて、午後のお仕事しましょう。
かかりちょーは引継ぎ出来るように専念してください」
「え?」
「執念深い番が、仕事なんて考慮してくれると思わないほうがいいです。なんせ、仕事辞めても養えるし、豪華な生活させてやるんだから働く必要なんてないとか考える感じなので。
会社も事情を考慮してくれると思うっすけど、面倒が増えたら最悪、クビっす」
「……」
新入社員で入って、苦節8年。ようやく、役職にもついて、もっと出世するぞーっなったところで、クビ。
しかも、自分、なにもしてないところでクビ。
花梨はぴたりと立ち止まった。
うん?とミイナは振り返る。
「私は、仕事が、したいんですね?」
「存じ上げておりますです」
「地域安全を守る、呪式結界の開発、設置、保全にも全力を向けてきました」
「はい。おっしゃる通りです」
「それを、クビ」
「あたしがするんじゃないっす。しかもかかりちょーの簡単設置、移設らくちんと評判じゃないですか。資材会社とも良好っす」
「そぉよねぇ。
この程度のことで、首になってたまるもんですか」
「……あぁ、まずいこと言っちゃったなぁ」
ぼそぼそとミイナが呟いているのが聞こえたが遅い。
「私、シュナウザーとか好きだけどどうかしら」
「トイプーでだめっすか? 私も犬苦手で」
「サモエドとか、ハスキーとか、柴犬も捨てがたい」
「聞いてるっすか。可愛い子犬がいいっすよぉ……」
ミイナの願いも虚しく、花梨は中型~大型犬を飼うつもりである。幸いというべきか、仕事ばかりだったので貯金はある。
「いぬとのセカンドライフって素敵じゃない!?」
「……ご近所で誰か子犬いないか聞いてみるっすねー」
きらきらしている花梨をほっといてミイナは仕事に戻ることにしたようだった。
こうして、激闘、番拒否の戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。
ばたばたとついてきたミイナはそういった割に愉快そうだった。
相手がフリーズしている間に昼食時間の終了を告げる鐘が鳴ったので、花梨たちは社食から撤退してきたところだった。
「ミイナさんや」
「なんすか。花梨さん」
「番から逃げた人間の話知らない?」
「うちの従姉のねーちゃんが、うぎゃーむりー、と異界の魔物召喚して、魔界に逃げたっす」
思った以上にパンチが効いた答えが返ってきた。
花梨は、そー、以外の言葉が返せない。
「ルリちゃん、っていうんですけど、単独生物系獣人で番なんて現れんと周囲も思ってたら、現れたというより勝手に相手に番判定は入っちゃって、でも、ルリちゃん的には番認定入らなくって、無理と」
「全部番がいるわけじゃないんだ」
「そうっすね。
雌雄同体系とか、単純に自己の分裂で増える系は番がないといわれてるっす。それから特別固体。一代に一人しかいないとかいうものっす。
例外はあれどだいたいは一人で楽しくやっていく感じみたいっすよ。まあ、逆に他人がいるのが嫌だってことの表れでもあるんすけど」
「それでも魔界に逃げるほど嫌って」
「そーっすね。番の相手の性質にもよるんですけどね。
拉致監禁、誰にも会わせず誰にも親しくさせず、子も産ませるが育ても近寄らせもせず。という極端な例もあるんっすよね。今どき人道的に許されないんっすけどね? ほら、なまじ権力もっているとほら」
「サスペンスもミステリもホラーも嫌なんだけど」
「私も番見つけたらああなるのかと恐怖ではあるんすよね……」
どよんとしたミイナに花梨はかける言葉がない。それなりに自我があって拒否感があっても抗えない何かというものであるようだ。
そう言う意味では不憫である。
しかし、現実的に、今、不憫な目に合うのは花梨である。
「実質、現世捨てろと」
「受け入れてラブラブしちゃえばいいじゃん、というのが獣人族の主な主張っす。
受け入れないとか可愛いそうと獣人びいきな判定しか出てきません。純人のくせにとか、善意で言っている歪んだこととかいろいろあるっすねぇ。
死んだ目のかかりちょー見たくないっすけど、現状、受け入れるか死にそうな目にあうかみたいな二択」
「ひどい」
「つっても。出来るのは時間稼ぎくらいっすよ?
まあ、今日の今日に手を打たれることはないでしょうから、明日までが勝負っす。私も微力ながら指令を下されるまではお手伝いします」
ファイト! と言われても……。
花梨は途方に暮れる。
「なにからすればいいと思う?」
「オートロックの部屋じゃなければ、引っ越し。セキュリティ高め、管理人あり、不審者即通報してくれそうな住人が在住物件がおすすめです。警備員は善し悪しなんですよね」
「ホテルは?」
「ホテルごと買収されて監禁場所になりかねません。まず、他人の買収されない純人の多い地域で考えたほうが良さそうですよ。それから」
「それから?」
「犬を飼いましょう」
「いぬ?」
「黒玉の君、犬苦手っす。
かかりちょー散歩、苦にならない人種っすよね。さらに雨でもジム行く系」
「うん。走る時の友達、とでも思えばいいか」
「あとは思いついた端から伝えるっす」
気楽にそういうミイナ。
花梨はありがたいと同時に同族を裏切るような真似をさせているような気がしてきた。重大な過失として問われそうだ。
「……あのミイナさん」
「なんすか?」
「その、ありがとう」
「いいっすよ。今は、信用していいっすけどね。明日からは油断しないでください。
私も一族内の立場ってもんがあります。まあ、おじいちゃんが怒鳴りつけてると思うんで数日は自由になれると思うっすよ」
「おじいちゃん?」
「あー、うちのおじいちゃん、先代の黒玉の君なんすよ。それもまあ、20年くらいまえに引退したんすけどねぇ。秘密っす」
きまり悪そうにぽりぽりとミイナは頭をかいている。
……お嬢様だった。このっすとかいう人がお嬢様だった!?
花梨の驚愕をほっといてミイナは先に立った。
「さて、午後のお仕事しましょう。
かかりちょーは引継ぎ出来るように専念してください」
「え?」
「執念深い番が、仕事なんて考慮してくれると思わないほうがいいです。なんせ、仕事辞めても養えるし、豪華な生活させてやるんだから働く必要なんてないとか考える感じなので。
会社も事情を考慮してくれると思うっすけど、面倒が増えたら最悪、クビっす」
「……」
新入社員で入って、苦節8年。ようやく、役職にもついて、もっと出世するぞーっなったところで、クビ。
しかも、自分、なにもしてないところでクビ。
花梨はぴたりと立ち止まった。
うん?とミイナは振り返る。
「私は、仕事が、したいんですね?」
「存じ上げておりますです」
「地域安全を守る、呪式結界の開発、設置、保全にも全力を向けてきました」
「はい。おっしゃる通りです」
「それを、クビ」
「あたしがするんじゃないっす。しかもかかりちょーの簡単設置、移設らくちんと評判じゃないですか。資材会社とも良好っす」
「そぉよねぇ。
この程度のことで、首になってたまるもんですか」
「……あぁ、まずいこと言っちゃったなぁ」
ぼそぼそとミイナが呟いているのが聞こえたが遅い。
「私、シュナウザーとか好きだけどどうかしら」
「トイプーでだめっすか? 私も犬苦手で」
「サモエドとか、ハスキーとか、柴犬も捨てがたい」
「聞いてるっすか。可愛い子犬がいいっすよぉ……」
ミイナの願いも虚しく、花梨は中型~大型犬を飼うつもりである。幸いというべきか、仕事ばかりだったので貯金はある。
「いぬとのセカンドライフって素敵じゃない!?」
「……ご近所で誰か子犬いないか聞いてみるっすねー」
きらきらしている花梨をほっといてミイナは仕事に戻ることにしたようだった。
こうして、激闘、番拒否の戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。
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