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楽しい(離婚)商談 2
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黒豹の側近を追い返したその翌日、弁護士が鈴音宅を訪ねた。
硬そうな黒銀の髪を撫でつけた目つきの鋭い男だった。裏家業? と鈴音は疑うが問うわけにもいかない。奥方経験を生かしてやや気弱そうな微笑みを浮かべた。いかにも頼りなさげでなければ同情は買えないだろう。
「契約通り、ご実家に慰謝料に詫びの金額を加えて支払いを行います。
また、奥様への慰謝料としてこの家を提供いたしますのでいかようにもご処分ください。
よろしければご署名ください」
鈴音がいれた珈琲に手も付けず、その男はそういって書類を出してきた。
早くしろよという圧を感じる。
「足りませんわ」
「ご実家に戻られ、再婚されるのでしょうから困りはしないでしょう。
契約婚されて離婚された方は遠方に再度嫁ぐものですから」
それは普通に政略結婚した場合だろう。
契約婚の場合にはちょっと違う。
「私、家には戻りませんの。
ある日いきなり結婚しろと家を追い出されたのに、離婚したから帰りますとは思えないでしょう?」
「それはそちらのご家族の話で我々は関係ありません。
契約以上のことは致しかねます」
「離婚後の生活への援助。これが足りませんわ。
10年ほど生活費が欲しいですわね。ああ、今までの生活費と同じ程度でよろしくてよ。私個人が使った金額などたかが知れてますわ」
「良家の奥方の生活費、ですか」
「質素に暮らしておりましたの。
日常の服は家柄に合わせた程度、宝飾品もドレスも買いません。もちろん着物も。靴はちょっと贅沢して、ブランドものをいただきましたけどそれも年に数点。あとは趣味にかけたお金くらいですわ。食費は普通の一般女性が食べる程度で換算していただいて結構です。あれも私が望んでいたというより旦那様の好みでしたから」
怪訝そうに見られて鈴音は微笑んだ。
「大した事ございませんでしょう?」
「自力で稼げそうですが」
「あ?」
鈴音はうっかり出てはいけない声が出た。
「相手の都合で、生活全部捨てるのに、この程度も支払う気のない甲斐性なしですのね。まあ、仕方ありません。
私、配信者のお友達がいますの。とてもかわいい方で。今度、ゲストで出てくれないかとお話をいただいております。稼げるらしいですわ。
そう言う稼ぎ方をしてもよろしいか旦那様に確認してくださる?
今後、契約婚をお考えの方によく考えていただきたいんです」
ケチるなら、世の中に動画配信してやるぞと鈴音は告げる。幸い、本当に懇意にしている配信者はいる。投げ銭しまくりの相手が。ちょっとくらいは助けてくれるだろう。外身作るのとか色々。
「名誉棄損で訴えることもできます」
「あら、名誉が傷つけられるとお考えですの? おかしいですわね。
自分の都合で離婚するのに生活費払わない、慰謝料個人的に払うこともない、家一つだけで放り出すっていうのは、名家のありようでしょう?」
「今までの贈り物も手元に残されるでしょう?」
「……殿方って、どうして、そんなにあれこれあると信じてるんでしょう。
旦那様、宝飾品にもブランドものにも興味ないので、私に送るという発想がございませんの。誕生日プレゼントは花。それから高級ディナーで終わり。という男ですのよ。側近も気が利かないものだから奥様に贈り物を何て言いもしないんですの。それどころか感謝しろ、仮の妻なんだからとこう来るわけですわ。
馬鹿にしたものね」
欲しくはないが、あからさまに無視されるのも腹が立つ。そういうものである。
「何か買っているはずだろうと」
「購入履歴を確認されては? 私がつけていたのは先祖から伝わるものや安物ですよ」
「安物といっても僕はよくわからないんですがどの程度ですか」
鈴音の告げた値段に、安物であることは納得したらしい。
一度持ち帰りますと弁護士は帰っていった。去りがけに一枚の名刺を置いて。
「そう言えばお渡し忘れていましたが、名刺です」
その名刺には、響・ブロッサム・琥珀とあった。
「次に会ったときにはブロッサムさんとお呼びしようかしら」
ものすっごい嫌そうな顔をしそうである。鈴音はにんまりと笑った。
硬そうな黒銀の髪を撫でつけた目つきの鋭い男だった。裏家業? と鈴音は疑うが問うわけにもいかない。奥方経験を生かしてやや気弱そうな微笑みを浮かべた。いかにも頼りなさげでなければ同情は買えないだろう。
「契約通り、ご実家に慰謝料に詫びの金額を加えて支払いを行います。
また、奥様への慰謝料としてこの家を提供いたしますのでいかようにもご処分ください。
よろしければご署名ください」
鈴音がいれた珈琲に手も付けず、その男はそういって書類を出してきた。
早くしろよという圧を感じる。
「足りませんわ」
「ご実家に戻られ、再婚されるのでしょうから困りはしないでしょう。
契約婚されて離婚された方は遠方に再度嫁ぐものですから」
それは普通に政略結婚した場合だろう。
契約婚の場合にはちょっと違う。
「私、家には戻りませんの。
ある日いきなり結婚しろと家を追い出されたのに、離婚したから帰りますとは思えないでしょう?」
「それはそちらのご家族の話で我々は関係ありません。
契約以上のことは致しかねます」
「離婚後の生活への援助。これが足りませんわ。
10年ほど生活費が欲しいですわね。ああ、今までの生活費と同じ程度でよろしくてよ。私個人が使った金額などたかが知れてますわ」
「良家の奥方の生活費、ですか」
「質素に暮らしておりましたの。
日常の服は家柄に合わせた程度、宝飾品もドレスも買いません。もちろん着物も。靴はちょっと贅沢して、ブランドものをいただきましたけどそれも年に数点。あとは趣味にかけたお金くらいですわ。食費は普通の一般女性が食べる程度で換算していただいて結構です。あれも私が望んでいたというより旦那様の好みでしたから」
怪訝そうに見られて鈴音は微笑んだ。
「大した事ございませんでしょう?」
「自力で稼げそうですが」
「あ?」
鈴音はうっかり出てはいけない声が出た。
「相手の都合で、生活全部捨てるのに、この程度も支払う気のない甲斐性なしですのね。まあ、仕方ありません。
私、配信者のお友達がいますの。とてもかわいい方で。今度、ゲストで出てくれないかとお話をいただいております。稼げるらしいですわ。
そう言う稼ぎ方をしてもよろしいか旦那様に確認してくださる?
今後、契約婚をお考えの方によく考えていただきたいんです」
ケチるなら、世の中に動画配信してやるぞと鈴音は告げる。幸い、本当に懇意にしている配信者はいる。投げ銭しまくりの相手が。ちょっとくらいは助けてくれるだろう。外身作るのとか色々。
「名誉棄損で訴えることもできます」
「あら、名誉が傷つけられるとお考えですの? おかしいですわね。
自分の都合で離婚するのに生活費払わない、慰謝料個人的に払うこともない、家一つだけで放り出すっていうのは、名家のありようでしょう?」
「今までの贈り物も手元に残されるでしょう?」
「……殿方って、どうして、そんなにあれこれあると信じてるんでしょう。
旦那様、宝飾品にもブランドものにも興味ないので、私に送るという発想がございませんの。誕生日プレゼントは花。それから高級ディナーで終わり。という男ですのよ。側近も気が利かないものだから奥様に贈り物を何て言いもしないんですの。それどころか感謝しろ、仮の妻なんだからとこう来るわけですわ。
馬鹿にしたものね」
欲しくはないが、あからさまに無視されるのも腹が立つ。そういうものである。
「何か買っているはずだろうと」
「購入履歴を確認されては? 私がつけていたのは先祖から伝わるものや安物ですよ」
「安物といっても僕はよくわからないんですがどの程度ですか」
鈴音の告げた値段に、安物であることは納得したらしい。
一度持ち帰りますと弁護士は帰っていった。去りがけに一枚の名刺を置いて。
「そう言えばお渡し忘れていましたが、名刺です」
その名刺には、響・ブロッサム・琥珀とあった。
「次に会ったときにはブロッサムさんとお呼びしようかしら」
ものすっごい嫌そうな顔をしそうである。鈴音はにんまりと笑った。
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