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事の起こりというのは。
しおりを挟むこの世の中には獣人というものがいる。まあ、そいつ獣カテゴリでいいの? みたいな生物もいるけど細かいことを気にしない一族だ。
この獣人には習性に番というものがあり、長く続く家は番至上主義で運営されている。番様は一番優先すべきで、家の主の次に大事にすべきものとされている。それだけ聞くと優しく聞こえるが、主が一番の優先であり、主の意思と番の意思が違った場合概ね無視されるのは番の意思である。
相手はどの種族でも構わないらしい。そこは運命という話ではあるが、一方的で暴力的な話だろう。
その番ではあるが、簡単に見つかることもあれば死ぬ間際に見つかることもある。
そうなると番のみと結婚して子を生すのが理想ではあるが、現実的ではないと彼らも理解はしていた。その主張のせいで一度、絶滅しかけたのだから。
いっそ、絶滅しておけばよかったに、と鈴音は思う。そうでなければ、ある程度自由な生き方ができた気はした。生活レベルは下がるだろうが、仕事も恋も自由はあっただろう。まあ、恋したいと思ったことはないが。
恋したいとは思わないなどというと枯れている若いのにといわれるが、鈴音は既婚者である。高校を卒業してすぐに、獣人の一族の古い家に嫁いだ。番が見つかるまでの契約婚だった。
事前に離婚条件は決められており、番が現れたらもらえるものもらって四の五の言わず離婚することになっている。子がいた場合は子連れで家を出ることになる。獣人たちには番の子を後継者にしたがる悪癖があり、残しておけば先に生まれた子を殺してしまうこともあったためだ。
獣人の子は数も少なくなっており保護すべきと番を得たもの以外はそう考えている。そのため、生まれた子はきちんと保護され養育される。
番が現れなければ何もなく優雅に暮らせるが、心身ともに穏やかに過ごすのは難しいだろう。長く住めば情もうつり、失うことを心配するようになる。婚姻相手がいつか、いなくなると。これを良い結婚とはとても言えない。
鈴音は家の都合で結婚した。というより、気がついたら荷物一式送られて、本人もどうぞと結婚相手の家の前に置いて行かれたのだ。
ぽかんとした顔の鈴音を見て夫は困ったような顔をしたものだ。
そこから五年。
この日が来てしまった。
「出て行け。
お前の顔など見たくない」
朝、普通に行ってらっしゃいと送り出した夫が、帰ってくるなり冷たく言い放った。
「承りました」
鈴音はそう応じた。
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