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おうちにかえりたい編
どこまでが本気かそれが問題。前編
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ローガンから隠れ家の準備が出来たと連絡がきたのはそれからさらに6日もたっていた。
要望が多すぎると文句を言われたが知らない。
ちゃんとした場所じゃないと困るんだから。
それまでの間で、ジニーがやってきたのは二回ほど。部屋の用意はそろそろ出来そうと言われているけど、なにが問題なのか。
常駐させたくない、という意志がどこかにかかっているような気はする。妙に敵意を持たれているというか。
そんな感じで中途半端だけど、放っておくわけにもいかない。
「じゃあ、始めよう」
ジニーの姿で私は笑う。鏡の向こうの私は、ちょっと自画自賛したくなるくらいだった。
この俺のこと好きだろ、みたいな笑み。練習中に偶然見たユリアが、きゃーっと言って逃げていったくらいだ。
……あのきゃーって、怖いって言う意味じゃないよね? 急に不安になってきた。
「今ならハーレム築いて君臨出来ますね」
ユリアが諦めたようにため息をつく。
問題なかったらしい。いや、ある意味、問題だらけだけど。ハーレムって。じゃあ、逆ハーレムならいいのかって言えば、それも遠慮したい。
これでも一途系だ。
オスカーは顔を引きつらせた。
「どこでそんな俺様な笑み覚えてきたんですか」
「んー? ジャック」
ああいうのも良いって言うから。こっそり練習してた。呆れたようなため息二つ分。役に立つから良いじゃない。
やっぱりあいつ害悪。とユリアに断じられている。
……ちょっとだけ悪い気がした。
「敬称ちゃんとつけないといけませんよ。忘れがちでいいのは、故郷でだけ」
「わかってるよ。じゃ、行ってくるね」
ひらひらと手をふるのは、オスカーの真似だけどわかってるかな。
しかし、どこから色気を拾ってきたらいいだろう。
うーん、色気のある男ね。
可愛げならあのタマゴの人が結構良い感じなんだけど。愛嬌あるっていうか毒舌をぺろっと言っても許されそう感っていうの?
ジンジャーに必要な能力って感じだけど。
さて、どこに行こうかな。
私の部屋は、外れだ。中枢のほうに足を伸ばしてみようかな。
結果的に言えば、そこまで遠くに行けなかった。人通りの多い通路と思っていたら、思った以上に囲まれた。
まだ、王城に上がりたてのような子は遠巻きに、それなりになれた子たちは結構ぐいぐいと。いつもは注意しそうな上の方もあらあらと微笑ましそうに見ているって何事だろうか。
「あ、あのっ! これもらってくだしゃい」
「ずるーいっ! 部屋まで取りに行くまで待ってくださいませ」
「握手してくださいっ!」
ちょっとこれは前よりすごいな。周囲の男の嫉妬の視線が痛い。いや、うん。ごめん。邪魔だよね、いらっとするよね。
でも、想定を越えていたんだ。
「こらこら、仕事中だろ? みんなちゃんと仕事して欲しいな。きちんとやることをしている子が好きだよ」
さぁっと皆が去って行った。手を振ってきたからそれには振り返して、きゃあきゃあと言って楽しそうだ。
残ったのは白い目で見てくる男たちとか、いかにもな感じの侍女たち。
いやぁ、心が冷えるね。
もらったお守りとか、リボンとか、匂い袋とか、誰かが気を利かせてくれた袋に入れる。基本的に食べ物は断っているのはきちんと伝わっていたようで、今回はない。
さて、このまま訓練場まで行こうかな。
きっちり無視して、足を進めた。
「お待ちくださいませ。我が主が、お会いしたいと」
「誰かな」
「エリン様が」
聖女様じゃないんだ。ふぅん? 抜け駆けなのか、先に確認したいのか。
どちらでもいいか。釣れたんだし。
「じゃあ、今度お茶でもしようか? 予定を教えてね」
にこりと笑って、今まで誰ともしたことのないことを提案する。
侍女たちは、はい、とか辛うじて返事をして、よろよろと帰って行く。
逆にすごいみたいな目線で見られたのはなぜだろうね?
さて、次はどこに行こうか?
あまり門の近くだと色々まずいから、厨房とかを回って迷った振りして奥まで行ってこようかな。
と思ってたら。
視線が探し当ててしまった。
遠くに麦わら色の髪が揺れている。ちょっと長いんだとか、今日は結んでいるのかとか。今まで気にしていなかったことに気がついた。
きっちり軍服を着込んでいる。そういえば、いつもボタン外してた。片手には黄色の小さな花束。
歩くから小走りに変わったのは近くに人がいなくなってきたからだろう。妙に焦ったような雰囲気がする。
「やあ」
先に手をあげてアピールする。偽姫様をセットしてきたけど、今行かれるとちょっと困る。
レオンは少し困ったような顔になった。
「姫様はお休み中だよ」
「それは残念。どこに行かれるんです?」
口調にちょっと迷いがあるな。ジニーとは親しい方面で行きたいのか、距離を置きたいのか。
まあ、ジニーは、気にしないことにしよう。
「強いて言えば散歩?」
「言い間違えました。誰を引っかけに行くんです?」
「誰が引っかかるかな」
がしっと肩をつかまれた。
くるぅりっと反対方向を向かされる。つまり、今来た方。
「ご用事が大したことなさそうでほっとしました。まあ、ちょっと、話をしましょうか」
「えー?」
背を押されて諦めて歩き出す。
力勝負にはさすがに負ける。
「早く戻らないとまずいんですよ」
少し焦ったような口調に疑問を感じながらも今言わないのは理由があるんだろう。無意味に情報を隠すとは思えない。
これもある意味信頼とでも言えるんだろうか。
ちらっと見上げる。そう、見上げるんだ。
「なにか?」
「良いなと思って」
無表情に見下ろされるのも中々なかったな。
「……今、ものすごい、素の顔してたので気を付けてくださいね」
意味がわからない。
なぜか庭から部屋へ帰ることになった。なんだか説明して欲しいけど、焦っているのは本当みたいだから。
「……おかえりなさい?」
庭から帰ってきた私にユリアもオスカーも驚いたようだった。
……というか、二人で寛いでるってどういうことよ? 視線に気がついたのか、お茶の練習ですっ! ってユリアが慌てたように取り繕っていたけど。
ふぅん? ちょっと減りが早いっておもってたのよ。
ユリアと目線を合わせて、笑う。
あとで、説明しなさいね?
「うん、意図せず帰ってきたよ。なんなの?」
改めて問えば、レオンは扉の向こう側を気にしていた。
「陛下が来ます。先触れが出ていましたので、急いで来たんです。ジニーを見たって若い子が騒いでましたからね」
どっちの噂の件でくるんだろうか。それはそれで興味深い。
オスカーがユリアを手伝って、ティーセットの片付けをしている。ユリアがオスカーに向かってきっちり着なさいとかなんとか言っているのが聞こえる。
全く、焦っている感はない。
ともすれば面倒だわー感が漂う。
それにはレオンもちょっと面食らったようだ。
「見せつけちゃう?」
なにいってんのこいつという顔をされた。その上、がしがしと頭をかき混ぜられた。
「……馬鹿なこといってないで、着替えてください。あと。これ、置いといてくださいね」
レオンはそれだけ言ってさっさと出ていった。本当にこれだけのために来たようだ。
その背を見送って、ちょっと衝撃を受けた。
髪を結んでいるなとは思っていたけど、リボンの色までは見えなかった。暗い色だけど他の色に見間違えるほどではない。
私の髪色に似せた色を探してきたものだ。
結構、熱烈に主張してくるのね。ちょっと面食らうわ。
「わかりやすいというか。自分の色、置いてきましたね」
ユリアはテーブルに残された花束を手に取った。
ミモザに碧のリボン。包む紙は淡い黄色。
意味深な花言葉なのは、気がついているのか。
「……何でオスカーが笑ってるの」
「いやぁ、姫様がやられているから」
爆笑とまではいかないけど、いやーなにこれうけるーって言ってた妹たちと同等の愉悦を感じる。
あれは2番目の兄が妹たちにプレゼントの相談してきたときだったかな。情けなさそうに下がった眉がより笑えた。
「……そんな顔してた?」
「よく知らない者なら、わからないかも知れませんね」
「……あーもー」
制御が甘くなっているってことだ。その理由なんて考えたくもない。
「お着替えしましょうね」
ユリアが、私の背を押した。その心配って顔が、本当に心底、頭が痛いわ。
要望が多すぎると文句を言われたが知らない。
ちゃんとした場所じゃないと困るんだから。
それまでの間で、ジニーがやってきたのは二回ほど。部屋の用意はそろそろ出来そうと言われているけど、なにが問題なのか。
常駐させたくない、という意志がどこかにかかっているような気はする。妙に敵意を持たれているというか。
そんな感じで中途半端だけど、放っておくわけにもいかない。
「じゃあ、始めよう」
ジニーの姿で私は笑う。鏡の向こうの私は、ちょっと自画自賛したくなるくらいだった。
この俺のこと好きだろ、みたいな笑み。練習中に偶然見たユリアが、きゃーっと言って逃げていったくらいだ。
……あのきゃーって、怖いって言う意味じゃないよね? 急に不安になってきた。
「今ならハーレム築いて君臨出来ますね」
ユリアが諦めたようにため息をつく。
問題なかったらしい。いや、ある意味、問題だらけだけど。ハーレムって。じゃあ、逆ハーレムならいいのかって言えば、それも遠慮したい。
これでも一途系だ。
オスカーは顔を引きつらせた。
「どこでそんな俺様な笑み覚えてきたんですか」
「んー? ジャック」
ああいうのも良いって言うから。こっそり練習してた。呆れたようなため息二つ分。役に立つから良いじゃない。
やっぱりあいつ害悪。とユリアに断じられている。
……ちょっとだけ悪い気がした。
「敬称ちゃんとつけないといけませんよ。忘れがちでいいのは、故郷でだけ」
「わかってるよ。じゃ、行ってくるね」
ひらひらと手をふるのは、オスカーの真似だけどわかってるかな。
しかし、どこから色気を拾ってきたらいいだろう。
うーん、色気のある男ね。
可愛げならあのタマゴの人が結構良い感じなんだけど。愛嬌あるっていうか毒舌をぺろっと言っても許されそう感っていうの?
ジンジャーに必要な能力って感じだけど。
さて、どこに行こうかな。
私の部屋は、外れだ。中枢のほうに足を伸ばしてみようかな。
結果的に言えば、そこまで遠くに行けなかった。人通りの多い通路と思っていたら、思った以上に囲まれた。
まだ、王城に上がりたてのような子は遠巻きに、それなりになれた子たちは結構ぐいぐいと。いつもは注意しそうな上の方もあらあらと微笑ましそうに見ているって何事だろうか。
「あ、あのっ! これもらってくだしゃい」
「ずるーいっ! 部屋まで取りに行くまで待ってくださいませ」
「握手してくださいっ!」
ちょっとこれは前よりすごいな。周囲の男の嫉妬の視線が痛い。いや、うん。ごめん。邪魔だよね、いらっとするよね。
でも、想定を越えていたんだ。
「こらこら、仕事中だろ? みんなちゃんと仕事して欲しいな。きちんとやることをしている子が好きだよ」
さぁっと皆が去って行った。手を振ってきたからそれには振り返して、きゃあきゃあと言って楽しそうだ。
残ったのは白い目で見てくる男たちとか、いかにもな感じの侍女たち。
いやぁ、心が冷えるね。
もらったお守りとか、リボンとか、匂い袋とか、誰かが気を利かせてくれた袋に入れる。基本的に食べ物は断っているのはきちんと伝わっていたようで、今回はない。
さて、このまま訓練場まで行こうかな。
きっちり無視して、足を進めた。
「お待ちくださいませ。我が主が、お会いしたいと」
「誰かな」
「エリン様が」
聖女様じゃないんだ。ふぅん? 抜け駆けなのか、先に確認したいのか。
どちらでもいいか。釣れたんだし。
「じゃあ、今度お茶でもしようか? 予定を教えてね」
にこりと笑って、今まで誰ともしたことのないことを提案する。
侍女たちは、はい、とか辛うじて返事をして、よろよろと帰って行く。
逆にすごいみたいな目線で見られたのはなぜだろうね?
さて、次はどこに行こうか?
あまり門の近くだと色々まずいから、厨房とかを回って迷った振りして奥まで行ってこようかな。
と思ってたら。
視線が探し当ててしまった。
遠くに麦わら色の髪が揺れている。ちょっと長いんだとか、今日は結んでいるのかとか。今まで気にしていなかったことに気がついた。
きっちり軍服を着込んでいる。そういえば、いつもボタン外してた。片手には黄色の小さな花束。
歩くから小走りに変わったのは近くに人がいなくなってきたからだろう。妙に焦ったような雰囲気がする。
「やあ」
先に手をあげてアピールする。偽姫様をセットしてきたけど、今行かれるとちょっと困る。
レオンは少し困ったような顔になった。
「姫様はお休み中だよ」
「それは残念。どこに行かれるんです?」
口調にちょっと迷いがあるな。ジニーとは親しい方面で行きたいのか、距離を置きたいのか。
まあ、ジニーは、気にしないことにしよう。
「強いて言えば散歩?」
「言い間違えました。誰を引っかけに行くんです?」
「誰が引っかかるかな」
がしっと肩をつかまれた。
くるぅりっと反対方向を向かされる。つまり、今来た方。
「ご用事が大したことなさそうでほっとしました。まあ、ちょっと、話をしましょうか」
「えー?」
背を押されて諦めて歩き出す。
力勝負にはさすがに負ける。
「早く戻らないとまずいんですよ」
少し焦ったような口調に疑問を感じながらも今言わないのは理由があるんだろう。無意味に情報を隠すとは思えない。
これもある意味信頼とでも言えるんだろうか。
ちらっと見上げる。そう、見上げるんだ。
「なにか?」
「良いなと思って」
無表情に見下ろされるのも中々なかったな。
「……今、ものすごい、素の顔してたので気を付けてくださいね」
意味がわからない。
なぜか庭から部屋へ帰ることになった。なんだか説明して欲しいけど、焦っているのは本当みたいだから。
「……おかえりなさい?」
庭から帰ってきた私にユリアもオスカーも驚いたようだった。
……というか、二人で寛いでるってどういうことよ? 視線に気がついたのか、お茶の練習ですっ! ってユリアが慌てたように取り繕っていたけど。
ふぅん? ちょっと減りが早いっておもってたのよ。
ユリアと目線を合わせて、笑う。
あとで、説明しなさいね?
「うん、意図せず帰ってきたよ。なんなの?」
改めて問えば、レオンは扉の向こう側を気にしていた。
「陛下が来ます。先触れが出ていましたので、急いで来たんです。ジニーを見たって若い子が騒いでましたからね」
どっちの噂の件でくるんだろうか。それはそれで興味深い。
オスカーがユリアを手伝って、ティーセットの片付けをしている。ユリアがオスカーに向かってきっちり着なさいとかなんとか言っているのが聞こえる。
全く、焦っている感はない。
ともすれば面倒だわー感が漂う。
それにはレオンもちょっと面食らったようだ。
「見せつけちゃう?」
なにいってんのこいつという顔をされた。その上、がしがしと頭をかき混ぜられた。
「……馬鹿なこといってないで、着替えてください。あと。これ、置いといてくださいね」
レオンはそれだけ言ってさっさと出ていった。本当にこれだけのために来たようだ。
その背を見送って、ちょっと衝撃を受けた。
髪を結んでいるなとは思っていたけど、リボンの色までは見えなかった。暗い色だけど他の色に見間違えるほどではない。
私の髪色に似せた色を探してきたものだ。
結構、熱烈に主張してくるのね。ちょっと面食らうわ。
「わかりやすいというか。自分の色、置いてきましたね」
ユリアはテーブルに残された花束を手に取った。
ミモザに碧のリボン。包む紙は淡い黄色。
意味深な花言葉なのは、気がついているのか。
「……何でオスカーが笑ってるの」
「いやぁ、姫様がやられているから」
爆笑とまではいかないけど、いやーなにこれうけるーって言ってた妹たちと同等の愉悦を感じる。
あれは2番目の兄が妹たちにプレゼントの相談してきたときだったかな。情けなさそうに下がった眉がより笑えた。
「……そんな顔してた?」
「よく知らない者なら、わからないかも知れませんね」
「……あーもー」
制御が甘くなっているってことだ。その理由なんて考えたくもない。
「お着替えしましょうね」
ユリアが、私の背を押した。その心配って顔が、本当に心底、頭が痛いわ。
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