19 / 135
おうちにかえりたい編
閑話 ある代役たちの悩み
しおりを挟む
「いってらっしゃい」
オスカーは仮の主君を見送る。軽薄そうな笑みを貼り付けて。そんな顔しているなと姫様は文句をつけていたが、無視している。
白い目でユリアは見ていたが、改める気配はない。
その姿が扉の向こうに行き、見えなくなって彼はどかっとソファに座る。
「姫様が俺を殺しに来ている」
頭を抱えている。
まあ、ユリアもあれは姫様が悪いと思っている。
ジンジャーとして可愛いを作って、オスカーに最終確認をしたのだ。
「悪意はありませんよ」
オスカーは顔を上げてじろりと睨む。
ユリアは肩をすくめた。
向かいのソファに座り、少しは彼の主張もきてやろうと思う。オスカーが血迷ったら、ユリアが出来ることはほとんどない。
「だからタチが悪い」
オスカーは心底嫌そうに言う。
彼女の微笑みを求める者たちに言ったら刺されること請け合いである。
姫様が執拗に確かめるには理由がある。
自分に魅力はないのだと思っている節がある。だから、素の自分を武装で偽っている部分はあった。
彼女は可愛いに弱い。
言って欲しいときに失われた言葉だから余計に求めていると言っても過言ではない。故郷にいた頃は抑圧されていたのだろうなぁと最近の行動を見ていると思う。
ただし、性格が無慈悲なところは変わりない。
「ねぇ、かわいい? て、上目遣いとか、死ぬ。惚れたら殺されるのにうっかり堕とされそう」
そうなれば彼女に使い潰されるか、それとも別のことで命かけるか、である。
オスカーはわりとまともなのだなとユリアはちょっと驚いた。ちゃんと生きていたいらしい。
心酔としか言いようのない状態の人たちを何度か見てきた。
その人たちと比べればオスカーのちょっとした態度の悪さも気にならなくなる。姫様は元々礼儀にもうるさくないので気にしてもいないようだ。
「何その顔。俺は平和に生きていきたい。使い潰されるなんてごめんだ」
ローガン商会に雇われているのも給金が良いわりに危険が少ないからと言っていた。堅実、慎重と態度と見た目が一致していない。
性格はともかく使えると商会長には評価されている。
それもあってユリアは一緒に仕事はしたくないが、能力は評価していた。
「まあ、姫様はそのあたり躊躇しないから」
より目的を達成しやすい方法を選びがちだ。最良のために誰かがいなくなっても仕方ないと考える。
そこに情はあるが、考慮しない。
彼女の兄が欠けなく達成することを良しとするのとは対照的だ。今は歯止めがないのだから、好き放題するのだろう。
ユリアはちょっとだけ、この国に同情する。
「俺は俺の命の方が大事」
オスカーはきっぱりと言い切った。
ユリアもその点は同意する。たぶん、そんな気持ちでなければ、自分を使い潰してしまう。
「あなたに初めて好意を持てたわ」
「そりゃ、どーも」
ユリアはにこりと微笑んだ。
オスカーは耳まで赤くして、口元を押さえた。
「……反則だよな。ほんっと、勘弁してくれよ」
ぼやいた声をユリアは無視することにした。
姫様そっくりに化けていたことをすっかり忘れていた。
「仕事、仕事だ仕事」
ぶつぶつと念じているのが、おかしい。
「お茶でも飲みましょう? 用意して」
仕事と言うなら仕事を頼もう。
ユリアは姫様の仕草をまねる。
「……はい」
オスカーは何か言いかけたが、頭を振って穏やかな表情を浮かべた。
……なんだ。やればできるじゃない。
ちょっとだけきゅんとした。
ユリアはちょっぴりジニーに入れあげている自覚はある。姫様の代役状態で、ジニーになった姫様に傅かれでもしたら、かなりまずい。
オスカーを笑っていられる状態ではないのだ。
この一件以降なんとなく、仲良くなっていくのだが、それはもう少し先の話。
オスカーは仮の主君を見送る。軽薄そうな笑みを貼り付けて。そんな顔しているなと姫様は文句をつけていたが、無視している。
白い目でユリアは見ていたが、改める気配はない。
その姿が扉の向こうに行き、見えなくなって彼はどかっとソファに座る。
「姫様が俺を殺しに来ている」
頭を抱えている。
まあ、ユリアもあれは姫様が悪いと思っている。
ジンジャーとして可愛いを作って、オスカーに最終確認をしたのだ。
「悪意はありませんよ」
オスカーは顔を上げてじろりと睨む。
ユリアは肩をすくめた。
向かいのソファに座り、少しは彼の主張もきてやろうと思う。オスカーが血迷ったら、ユリアが出来ることはほとんどない。
「だからタチが悪い」
オスカーは心底嫌そうに言う。
彼女の微笑みを求める者たちに言ったら刺されること請け合いである。
姫様が執拗に確かめるには理由がある。
自分に魅力はないのだと思っている節がある。だから、素の自分を武装で偽っている部分はあった。
彼女は可愛いに弱い。
言って欲しいときに失われた言葉だから余計に求めていると言っても過言ではない。故郷にいた頃は抑圧されていたのだろうなぁと最近の行動を見ていると思う。
ただし、性格が無慈悲なところは変わりない。
「ねぇ、かわいい? て、上目遣いとか、死ぬ。惚れたら殺されるのにうっかり堕とされそう」
そうなれば彼女に使い潰されるか、それとも別のことで命かけるか、である。
オスカーはわりとまともなのだなとユリアはちょっと驚いた。ちゃんと生きていたいらしい。
心酔としか言いようのない状態の人たちを何度か見てきた。
その人たちと比べればオスカーのちょっとした態度の悪さも気にならなくなる。姫様は元々礼儀にもうるさくないので気にしてもいないようだ。
「何その顔。俺は平和に生きていきたい。使い潰されるなんてごめんだ」
ローガン商会に雇われているのも給金が良いわりに危険が少ないからと言っていた。堅実、慎重と態度と見た目が一致していない。
性格はともかく使えると商会長には評価されている。
それもあってユリアは一緒に仕事はしたくないが、能力は評価していた。
「まあ、姫様はそのあたり躊躇しないから」
より目的を達成しやすい方法を選びがちだ。最良のために誰かがいなくなっても仕方ないと考える。
そこに情はあるが、考慮しない。
彼女の兄が欠けなく達成することを良しとするのとは対照的だ。今は歯止めがないのだから、好き放題するのだろう。
ユリアはちょっとだけ、この国に同情する。
「俺は俺の命の方が大事」
オスカーはきっぱりと言い切った。
ユリアもその点は同意する。たぶん、そんな気持ちでなければ、自分を使い潰してしまう。
「あなたに初めて好意を持てたわ」
「そりゃ、どーも」
ユリアはにこりと微笑んだ。
オスカーは耳まで赤くして、口元を押さえた。
「……反則だよな。ほんっと、勘弁してくれよ」
ぼやいた声をユリアは無視することにした。
姫様そっくりに化けていたことをすっかり忘れていた。
「仕事、仕事だ仕事」
ぶつぶつと念じているのが、おかしい。
「お茶でも飲みましょう? 用意して」
仕事と言うなら仕事を頼もう。
ユリアは姫様の仕草をまねる。
「……はい」
オスカーは何か言いかけたが、頭を振って穏やかな表情を浮かべた。
……なんだ。やればできるじゃない。
ちょっとだけきゅんとした。
ユリアはちょっぴりジニーに入れあげている自覚はある。姫様の代役状態で、ジニーになった姫様に傅かれでもしたら、かなりまずい。
オスカーを笑っていられる状態ではないのだ。
この一件以降なんとなく、仲良くなっていくのだが、それはもう少し先の話。
2
お気に入りに追加
712
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる