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おうちにかえりたい編
王妃付き侍女(ジンジャー)はばらまき作戦を敢行する 後編
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店を出て辺りを見回せば少年たちと目があった。ジニーが世話しているのか世話になっているかわからない兵舎の少年たち。
話の途中で、店の前をうろついているからどうする? と聞かれ 放置で、と話はついていた。
そうでなければどこかに放り出されていただろう。
諦めて帰らなかったことは偉いけど、少しは隠れなさいな。極秘護衛任務の練習とか言って送られたんでしょ?
ジンジャーでは会っていないから挨拶するわけにもいかない。
うっかり、やあ、とか言いそうになった。
「どうしたの?」
まじまじと見られれば、優しいお姉さんとしては、尋ねても不審ではないはずだ。
ライル少年はどぎまぎしているのか視線が泳いでいる。
「ええと、ジンジャーお姉さん?」
「そうよ。ああ、わかった」
ぱちりと手を打つ。
「ジニーから聞いているのっ! きみがライル君?」
私は、可愛い、私は可愛い。
念じながら笑う。
「俺は、俺は!」
「んーと、ソラン君かな?」
そうそうとご機嫌で肯いている。
「ん」
服の裾をちょんと引っ張られた。
ちょっとこの国では浮くくらいに赤い髪だね、君。町にでたら赤毛率低すぎてびっくりしたよ。
「イリュー君ね。お揃い」
自分の髪の毛をちょっとつまんで言えば、彼は嬉しそうにぱぁっと笑った。背後に花が咲く幻影が見えた。
……いかん。別な意味で絆されそうだ。
弟たち元気かな。
あまり気にしたことはなかったが彼らは一番目の弟(リオ)と同じくらいだろう。子供扱いもされないけれど、大人でもない。
「今日はお休み?」
「んーん、お姉さんの……」
ソランは迂闊である。というか、正直というか。慌てて口を押さえたライルの苦労を感じる。
少し離れたところでぎゃーぎゃーやり始めたので、困ってしまう。店の前だぞ。君たち。
「荷物、持つ」
「ありがと。お姉さんちょっと疲れたから、休んでおやつの一つもお土産に買いたいの」
「ん。いいとこ、ある」
「じゃ、ちょっとこれ見てて」
こくんと肯くのを見てから、ソラン、ライルのところに行ってげんこつを落としてきた。
涙目の二人に道で騒がないのと言いながら、おやつの提案をする。
ソラン喜ぶ。犬か。
ライルはちょっと落ち込んだような顔だったから髪をわしゃわしゃにしてやった。
「次はがんばりなさい」
羨ましいという顔で見ていたソラン。やっぱり君は犬か。
イリューは言われた通りちゃんと待っていた。
「それはいらない」
おや、良い子だと撫でてやろうと思ったのに。
わきわきとしたこの両手をどうしてくれよう。
ちらっとソランをみれば期待した顔をしていた。
……。
うん。
やめよう。
「えー、なんでだよー」
「お姉さんはよい子は贔屓する主義なんですよ」
任務だったら失敗だったんだから諦めなさい。
公園の近くの屋台で飲み物と串に刺さった丸いモノを購入してもらう。もちろん、資金は提供した。
「ちょ、ちょっとっ!」
芝生に躊躇なく座りそうになった私を慌てて止められる。
首をかしげている間に三人で目配せをしあっている。
ソランが上着を脱いで芝生の上に敷いてくれた。
……ほんっと紳士として教育されてるね。お姉さん、ちょっとキュンとした。あんまりこんな扱いされたことない。
どちらかといえばする方……。
「ありがとう」
笑顔も倍増しになるわけだ。
ソランはドヤ顔である。俺だってやってやるぜと言いたげである。その後ろでライルとイリューがあきれ顔。
並んでもきゅもきゅと推定串団子を食べる。故郷でよく食べたドーナツみたいだけどもっともちもちしている。
飲み物はちょっとシュワシュワするものだった。近くにそんな水が出るらしい。
「ねーねー、ジニーは何であんなに強いんだ?」
三本目に手を出しながら彼は言い出した。
ソラン、君ね、ちょっと遠慮ってものを覚えなさいな。
あと、口にタレがついてる。
無言で口元をぬぐってやるのは癖である。下に八人も弟妹がいるのだ。世話くらい覚える。
「うぐぅ」
「強くなかったら、ダメだった、それだけですよ。それ以上、聞きたければ本人に聞きなさいな」
二番目の兄様(アイザックにいさま)が鬼で悪魔で、魔王だったから、ではあるけど。
それを志したのは。
「ソラン、やめなよ」
「お姉さんも強い、の?」
「うーん、ジニーよりは弱いかな」
本人を基準に言えば同じだけど、まあ、侍女が強いのも問題ある。
イリューが疑惑に満ちた目で見てくるけど、それはどっちかなー?
「え、護衛いらないじゃん」
「いらないね」
そこは否定しない。
「ソラン! ご婦人を一人で歩かせるものではないよ」
ライル君は紳士だ。それで常識人か。君の苦労を感じるよ。
自由人で野生の戦士のソラン。
何考えてるんだかわからない系イリュー。
二人に振り回されているね。
ジニーの時も優しくしてあげよう。そうしよう。
「ありがとう」
65点だった優しい笑顔で労ったら、真っ赤になってしまった。
姉ちゃん、それ禁止とはるか昔に弟にいわれたような?
「あーあ」
ソランが呆れたような顔をしていたのはなぜだろう。イリューの困った顔も不思議だ。
私は荷物持ちとして彼らを従えて城にかえることにした。
遅くなるつもりはなかったからね。
偽姫様は無事だろうか。
尚、三人組はウィルに捕まってこってり説教されたと翌日、ジニーに報告があった。
話の途中で、店の前をうろついているからどうする? と聞かれ 放置で、と話はついていた。
そうでなければどこかに放り出されていただろう。
諦めて帰らなかったことは偉いけど、少しは隠れなさいな。極秘護衛任務の練習とか言って送られたんでしょ?
ジンジャーでは会っていないから挨拶するわけにもいかない。
うっかり、やあ、とか言いそうになった。
「どうしたの?」
まじまじと見られれば、優しいお姉さんとしては、尋ねても不審ではないはずだ。
ライル少年はどぎまぎしているのか視線が泳いでいる。
「ええと、ジンジャーお姉さん?」
「そうよ。ああ、わかった」
ぱちりと手を打つ。
「ジニーから聞いているのっ! きみがライル君?」
私は、可愛い、私は可愛い。
念じながら笑う。
「俺は、俺は!」
「んーと、ソラン君かな?」
そうそうとご機嫌で肯いている。
「ん」
服の裾をちょんと引っ張られた。
ちょっとこの国では浮くくらいに赤い髪だね、君。町にでたら赤毛率低すぎてびっくりしたよ。
「イリュー君ね。お揃い」
自分の髪の毛をちょっとつまんで言えば、彼は嬉しそうにぱぁっと笑った。背後に花が咲く幻影が見えた。
……いかん。別な意味で絆されそうだ。
弟たち元気かな。
あまり気にしたことはなかったが彼らは一番目の弟(リオ)と同じくらいだろう。子供扱いもされないけれど、大人でもない。
「今日はお休み?」
「んーん、お姉さんの……」
ソランは迂闊である。というか、正直というか。慌てて口を押さえたライルの苦労を感じる。
少し離れたところでぎゃーぎゃーやり始めたので、困ってしまう。店の前だぞ。君たち。
「荷物、持つ」
「ありがと。お姉さんちょっと疲れたから、休んでおやつの一つもお土産に買いたいの」
「ん。いいとこ、ある」
「じゃ、ちょっとこれ見てて」
こくんと肯くのを見てから、ソラン、ライルのところに行ってげんこつを落としてきた。
涙目の二人に道で騒がないのと言いながら、おやつの提案をする。
ソラン喜ぶ。犬か。
ライルはちょっと落ち込んだような顔だったから髪をわしゃわしゃにしてやった。
「次はがんばりなさい」
羨ましいという顔で見ていたソラン。やっぱり君は犬か。
イリューは言われた通りちゃんと待っていた。
「それはいらない」
おや、良い子だと撫でてやろうと思ったのに。
わきわきとしたこの両手をどうしてくれよう。
ちらっとソランをみれば期待した顔をしていた。
……。
うん。
やめよう。
「えー、なんでだよー」
「お姉さんはよい子は贔屓する主義なんですよ」
任務だったら失敗だったんだから諦めなさい。
公園の近くの屋台で飲み物と串に刺さった丸いモノを購入してもらう。もちろん、資金は提供した。
「ちょ、ちょっとっ!」
芝生に躊躇なく座りそうになった私を慌てて止められる。
首をかしげている間に三人で目配せをしあっている。
ソランが上着を脱いで芝生の上に敷いてくれた。
……ほんっと紳士として教育されてるね。お姉さん、ちょっとキュンとした。あんまりこんな扱いされたことない。
どちらかといえばする方……。
「ありがとう」
笑顔も倍増しになるわけだ。
ソランはドヤ顔である。俺だってやってやるぜと言いたげである。その後ろでライルとイリューがあきれ顔。
並んでもきゅもきゅと推定串団子を食べる。故郷でよく食べたドーナツみたいだけどもっともちもちしている。
飲み物はちょっとシュワシュワするものだった。近くにそんな水が出るらしい。
「ねーねー、ジニーは何であんなに強いんだ?」
三本目に手を出しながら彼は言い出した。
ソラン、君ね、ちょっと遠慮ってものを覚えなさいな。
あと、口にタレがついてる。
無言で口元をぬぐってやるのは癖である。下に八人も弟妹がいるのだ。世話くらい覚える。
「うぐぅ」
「強くなかったら、ダメだった、それだけですよ。それ以上、聞きたければ本人に聞きなさいな」
二番目の兄様(アイザックにいさま)が鬼で悪魔で、魔王だったから、ではあるけど。
それを志したのは。
「ソラン、やめなよ」
「お姉さんも強い、の?」
「うーん、ジニーよりは弱いかな」
本人を基準に言えば同じだけど、まあ、侍女が強いのも問題ある。
イリューが疑惑に満ちた目で見てくるけど、それはどっちかなー?
「え、護衛いらないじゃん」
「いらないね」
そこは否定しない。
「ソラン! ご婦人を一人で歩かせるものではないよ」
ライル君は紳士だ。それで常識人か。君の苦労を感じるよ。
自由人で野生の戦士のソラン。
何考えてるんだかわからない系イリュー。
二人に振り回されているね。
ジニーの時も優しくしてあげよう。そうしよう。
「ありがとう」
65点だった優しい笑顔で労ったら、真っ赤になってしまった。
姉ちゃん、それ禁止とはるか昔に弟にいわれたような?
「あーあ」
ソランが呆れたような顔をしていたのはなぜだろう。イリューの困った顔も不思議だ。
私は荷物持ちとして彼らを従えて城にかえることにした。
遅くなるつもりはなかったからね。
偽姫様は無事だろうか。
尚、三人組はウィルに捕まってこってり説教されたと翌日、ジニーに報告があった。
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