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第六十五話 救出、そして……

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「そこまでだッ!」

 男たちの魔の手が僕の身体に触れようとした瞬間、複数人の足音がバタバタと響いた。

「領主様を離せっ!」

 飛び込んできたのはクライヴたちを始めとした冒険者たちだった。イザイアもいる!

「な、何故ここが……! ここはダンジョン内の廃屋、簡単にみつかるはずは……!」

 どうやらここはダンジョンの中だったようだ。
 ダンジョンの中には時折人工的建造物が出現する。ここはその一つだったのだろう。

「残念だったな、この村の冒険者には最強の連絡網があるんだよ……!」

 クライヴはニヤリと笑って自分のイヤリングを指し示す。
 いや、クライヴだけではない。よく見たら冒険者全員が同じイヤリングを着けていた。
 なんだそれ、僕知らない……!

「通信、イヤリング……!」

 商人風のリーダー格の男が苦しそうに呻く。

「ああ。この村の冒険者すべてと繋がる通信イヤリングだ。これを使って連絡を取り合いながら手分けして探せば見つかるのはすぐだった。ダンジョンの入口にはご丁寧に領主様のイヤリングが落ちていたしな」

 なんだよ、それ! 雑だな!
 余裕綽々に見えたが、彼らも結構慌てながら誘拐したのかもしれない。
 ロベールからもらったイヤリングは彼らに見つけてもらえたようで僕は胸を撫で下ろした。

「ええ、新型の通信魔導具デバイスを開発するのは大変でしたよ」
「エーミールっ!」

 エーミールがメガネをくいっとさせながら現れた。
 戦闘力なんかないのにダンジョンの中まで探しに来てくれたのか!

「複数人での通信を可能にし、かつ無関係のイヤリングとの通信をしないように、それから異なるフロア間での通信も……と無茶ぶりの連続でした。ですが、その甲斐はありましたね」

 エーミールはクールにメガネのレンズを光らせた。
 いつの間にかそんなイヤリングを開発していたなんて……!
 知らなかったぞ、報告しろ! 別に開発したものを領主に逐一報告する義務なんてないけど、とにかく報告しろ!

「ば、馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿な……!」

 リーダー格の男は現実が受け入れられないようで、同じ言葉を何度も呻いている。

「とにかく、この者らは捕縛いたしましょう」

 イザイアがいつもの糸目から暗黒オーラを迸らせながら凄絶な笑みを浮かべる。
 冒険者たちが男に飛びかかっていった。あっという間に男たちが捕らえられていく。その中で僕が縛られていた縄も解かれ、僕は保護された。

「アン、無事だったか……!」

 その声が耳に届いた途端、じわりと涙が滲んだ。
 緊張の糸がプツリと切れる。

「ロベール……ッ!」

 僕はぼろぼろと涙を零しながら彼を振り返った。
 そんな僕の肩に彼がふぁさりと脱いだ上着をかけてくれる。
 そして強く抱き締められる。

「ぼ、僕、僕ね……」

 彼の姿を目にした安堵でぼろぼろと涙が零れてきてしまう。
 しっかり後ろに撫でつけて固めたのであろう彼の髪がボロボロに乱れてしまっている。せっかくの白いタキシード薄汚れてしまっていた。
 きっと彼は全力で僕のことを探してくれたのだろう。

「どうしたアン、まさか何かされたのか……!」
「ち、違うの、何もされてない。でも、怖かった……っ!」

 今までずっと強がっていたが、でも本当は怖かったのだ。心細かった。不安だった。

「大丈夫だアン。私がいる」

 ロベールは僕を安心させるように背中に手を回した。

 男たちはあっという間に全員捕らえられて縛られた。
 光魔術らしき光の縄に縛られて囚われている。イザイアの仕業だろうか。

「貴様らは一体何者だ?」

 ロベールが射るような目つきで睨み付けるが、彼らはだんまりだ。

「あ、あのね……」

 僕が先ほど見抜いたことを彼にも説明した。

「ほう……ガルテレミの手の者、とな」

 それを聞いたロベールはそれはそれは悪い笑みを浮かべたのだった。

「貴様らガルテレミに対するちょうどいい報復の方法が思い付いた」

 男どもは、特にリーダー格の男は顔を真っ青にして生唾を飲み込んだ。

「我がナルセンティア家は貴様らガルテレミの存在を苦々しく思っていたが、始末できないでいた。同じ国王派である故に戦争をする理由がなかったからだ。だが……!」

 ロベールは凄味のある笑みで男らを睥睨する。

「貴様らのおかげで口実ができた。私の愛しい花婿を誘拐したのだ。ただで済むとは思わないことだな……! 我がナルセンティア家が総力を上げて貴様らを潰す!」

 後にロベールが教えてくれたところによると、「伯父上は今回の事件を嬉々として口実に使うだろう」とのことだった。
 こうしてガルテレミはナルセンティアとの全面戦争で潰されることとなったのだった。
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