37 / 84
第三十六話 攻略対象その三、登場です
しおりを挟む
十一ヶ月目。遂に教会が完成した。
それと同時に教会の神父が派遣されて村にやってきた。
「初めまして。ボクはイザイアと申します」
イザイアという黒髪で目の細い男だった。
そう、攻略対象その三である。
イザイアは教会を建てることが条件で出てくる攻略対象である。腹黒神父だ。
まあ普通に接している限りは腹黒な部分が表に出てくることはないので、今回は善良で柔和な神父としての一面だけを目にすることになるだろう。
彼が腹黒になるのは主人公と恋愛関係に陥った時だけだから、大丈夫。
この国では国王と教会に分かれて戦争をしている最中だが、この小さな村ではそんなこと関係ないので教会は普通に仕事をしてくれる。
まあ表向きは戦争をしてるのは教会じゃなくて神聖皇帝だしね。だから王都ですら教会は聖務を停止していないのだ。
王都だって教会が結婚式や葬式をやってくれなきゃ困るので、教会を王都から追い出したりしない。
「ああ。私とアンの挙式の時にはよろしく頼むぞ」
ロベールがイザイアの挨拶に答える。
ロベールと僕の結婚式はこの教会で行われることになる。だから結構奮発して立派な教会を城の近くに建てたのだ。
その時に祝福を送ってくれる神父はもちろんこのイザイアだ。
「ええ、領主様の結婚式に祝福を送ることができるなんて最大の栄誉ですからね!」
イザイアは大げさに答えた。
まあ彼になら任せても大丈夫だろう。
今日から教会の聖務が始まる。
教会の聖務の内容は冠婚葬祭を取り仕切ること以外に、怪我人の治療、解毒や解呪、そしてダンジョンに潜る冒険者の幸運を祈って祝福を与えること等々である。
その聖務を執り行うことで寄付金もらって教会を運営していくのである。
せっかくだから初日の彼の様子を窺いに行くことにした。
教会に行くと、早速チラホラと人が訪れていた。
ダンジョンに潜る冒険者は遭難した時のために派手な原色の装備を身に着けていることが多いが、元々神父の僧服は漆黒だ。
教会に正式に派遣されてきたイザイアは冒険者と違って黒の僧服を身に纏っている。
どうやら最初に訪れた冒険者は装備の解呪をしてもらいに来たらしい。ダンジョンの宝箱から出る装備品は時折呪われていることがあるのだ。
装備品の解呪は結構高いレベルが必要になるので、冒険者のヒーラーでは使えないことが多いのだ。
「それでは寄付金として銀貨を五枚いただきます」
「お願いします」
イザイアは銀貨をもらうと、普通に装備を解呪してあげていた。冒険者は礼を言って去っていく。
それから怪我の治癒を求めに来た人や、単に神に祈りにきた村人などが訪れた。イザイアはそのすべてに真摯に対応した。
分かってはいたけれど、彼は表向きは本当にただの真面目な神父だ。
「あ、あの……」
怪我の治癒に来た冒険者が教会から出たところでイザイアのことを振り返る。
「神の子を名乗る人がいるって聞きました。それって本当なんですか?」
「ええ。我らが法王様がお認めになった正真正銘の神の子です」
イザイアは表情の読めない糸目の笑顔で答える。
「神の子がいるってことは、神様も本当にいるってことですよね」
「ええ」
「なら、何故……! 神様は俺の故郷が滅ぶのを黙って見ていたんですか! 神様が見ているなら助けてくれるんじゃないですか!?」
冒険者の少年は叫んだ。
どうやら少年の故郷は滅んだようだ。戦争でなくなったのかもしれないし、あるいは魔物に滅ぼされたダンジョン村だったのかもしれない。
「……」
イザイアは黙って聞いている。
「どうして、どうしてなんですか……」
少年は力なくその場に頽れた。
イザイアは膝を折るとその少年の肩に手を置く。
「……神は確かにボクたちを常に見下ろしている。ただし、神が自ら何か奇跡を起こして直接助けて下さるというようなことは、ない」
「なら、何のために……!」
「奇跡を起こさぬ代わりに神はボクのような神の教えを信じる者に御力を与えて下さる。ボクのような信徒が御力をもって人々を助けることで、間接的に神の救済を実現する。だから、貴方の村が救われなかったのは……ボクの力不足だったということだ」
イザイアの声が微かに震えを帯びていた。
彼のあずかり知らぬところで起きたであろう少年の村の滅びを、彼は本気で申し訳なく思っているのだ。
彼になら教会を任せられそうだと判断した僕は、黙ってその場を離れたのだった。
それと同時に教会の神父が派遣されて村にやってきた。
「初めまして。ボクはイザイアと申します」
イザイアという黒髪で目の細い男だった。
そう、攻略対象その三である。
イザイアは教会を建てることが条件で出てくる攻略対象である。腹黒神父だ。
まあ普通に接している限りは腹黒な部分が表に出てくることはないので、今回は善良で柔和な神父としての一面だけを目にすることになるだろう。
彼が腹黒になるのは主人公と恋愛関係に陥った時だけだから、大丈夫。
この国では国王と教会に分かれて戦争をしている最中だが、この小さな村ではそんなこと関係ないので教会は普通に仕事をしてくれる。
まあ表向きは戦争をしてるのは教会じゃなくて神聖皇帝だしね。だから王都ですら教会は聖務を停止していないのだ。
王都だって教会が結婚式や葬式をやってくれなきゃ困るので、教会を王都から追い出したりしない。
「ああ。私とアンの挙式の時にはよろしく頼むぞ」
ロベールがイザイアの挨拶に答える。
ロベールと僕の結婚式はこの教会で行われることになる。だから結構奮発して立派な教会を城の近くに建てたのだ。
その時に祝福を送ってくれる神父はもちろんこのイザイアだ。
「ええ、領主様の結婚式に祝福を送ることができるなんて最大の栄誉ですからね!」
イザイアは大げさに答えた。
まあ彼になら任せても大丈夫だろう。
今日から教会の聖務が始まる。
教会の聖務の内容は冠婚葬祭を取り仕切ること以外に、怪我人の治療、解毒や解呪、そしてダンジョンに潜る冒険者の幸運を祈って祝福を与えること等々である。
その聖務を執り行うことで寄付金もらって教会を運営していくのである。
せっかくだから初日の彼の様子を窺いに行くことにした。
教会に行くと、早速チラホラと人が訪れていた。
ダンジョンに潜る冒険者は遭難した時のために派手な原色の装備を身に着けていることが多いが、元々神父の僧服は漆黒だ。
教会に正式に派遣されてきたイザイアは冒険者と違って黒の僧服を身に纏っている。
どうやら最初に訪れた冒険者は装備の解呪をしてもらいに来たらしい。ダンジョンの宝箱から出る装備品は時折呪われていることがあるのだ。
装備品の解呪は結構高いレベルが必要になるので、冒険者のヒーラーでは使えないことが多いのだ。
「それでは寄付金として銀貨を五枚いただきます」
「お願いします」
イザイアは銀貨をもらうと、普通に装備を解呪してあげていた。冒険者は礼を言って去っていく。
それから怪我の治癒を求めに来た人や、単に神に祈りにきた村人などが訪れた。イザイアはそのすべてに真摯に対応した。
分かってはいたけれど、彼は表向きは本当にただの真面目な神父だ。
「あ、あの……」
怪我の治癒に来た冒険者が教会から出たところでイザイアのことを振り返る。
「神の子を名乗る人がいるって聞きました。それって本当なんですか?」
「ええ。我らが法王様がお認めになった正真正銘の神の子です」
イザイアは表情の読めない糸目の笑顔で答える。
「神の子がいるってことは、神様も本当にいるってことですよね」
「ええ」
「なら、何故……! 神様は俺の故郷が滅ぶのを黙って見ていたんですか! 神様が見ているなら助けてくれるんじゃないですか!?」
冒険者の少年は叫んだ。
どうやら少年の故郷は滅んだようだ。戦争でなくなったのかもしれないし、あるいは魔物に滅ぼされたダンジョン村だったのかもしれない。
「……」
イザイアは黙って聞いている。
「どうして、どうしてなんですか……」
少年は力なくその場に頽れた。
イザイアは膝を折るとその少年の肩に手を置く。
「……神は確かにボクたちを常に見下ろしている。ただし、神が自ら何か奇跡を起こして直接助けて下さるというようなことは、ない」
「なら、何のために……!」
「奇跡を起こさぬ代わりに神はボクのような神の教えを信じる者に御力を与えて下さる。ボクのような信徒が御力をもって人々を助けることで、間接的に神の救済を実現する。だから、貴方の村が救われなかったのは……ボクの力不足だったということだ」
イザイアの声が微かに震えを帯びていた。
彼のあずかり知らぬところで起きたであろう少年の村の滅びを、彼は本気で申し訳なく思っているのだ。
彼になら教会を任せられそうだと判断した僕は、黙ってその場を離れたのだった。
64
お気に入りに追加
2,663
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる