異世界転生した僕、実は悪役お兄様に溺愛されてたようです

野良猫のらん

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第三十六話 攻略対象その三、登場です

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 十一ヶ月目。遂に教会が完成した。
 それと同時に教会の神父が派遣されて村にやってきた。

「初めまして。ボクはイザイアと申します」

 イザイアという黒髪で目の細い男だった。
 そう、攻略対象その三である。

 イザイアは教会を建てることが条件で出てくる攻略対象である。腹黒神父だ。
 まあ普通に接している限りは腹黒な部分が表に出てくることはないので、今回は善良で柔和な神父としての一面だけを目にすることになるだろう。
 彼が腹黒になるのは主人公と恋愛関係に陥った時だけだから、大丈夫。

 この国では国王と教会に分かれて戦争をしている最中だが、この小さな村ではそんなこと関係ないので教会は普通に仕事をしてくれる。
 まあ表向きは戦争をしてるのは教会じゃなくて神聖皇帝だしね。だから王都ですら教会は聖務を停止していないのだ。
 王都だって教会が結婚式や葬式をやってくれなきゃ困るので、教会を王都から追い出したりしない。

「ああ。私とアンの挙式の時にはよろしく頼むぞ」

 ロベールがイザイアの挨拶に答える。

 ロベールと僕の結婚式はこの教会で行われることになる。だから結構奮発して立派な教会を城の近くに建てたのだ。
 その時に祝福を送ってくれる神父はもちろんこのイザイアだ。

「ええ、領主様の結婚式に祝福を送ることができるなんて最大の栄誉ですからね!」

 イザイアは大げさに答えた。
 まあ彼になら任せても大丈夫だろう。

 今日から教会の聖務が始まる。
 教会の聖務の内容は冠婚葬祭を取り仕切ること以外に、怪我人の治療、解毒や解呪、そしてダンジョンに潜る冒険者の幸運を祈って祝福を与えること等々である。
 その聖務を執り行うことで寄付金もらって教会を運営していくのである。

 せっかくだから初日の彼の様子を窺いに行くことにした。

 教会に行くと、早速チラホラと人が訪れていた。
 ダンジョンに潜る冒険者は遭難した時のために派手な原色の装備を身に着けていることが多いが、元々神父の僧服は漆黒だ。
 教会に正式に派遣されてきたイザイアは冒険者と違って黒の僧服を身に纏っている。

 どうやら最初に訪れた冒険者は装備の解呪をしてもらいに来たらしい。ダンジョンの宝箱から出る装備品は時折呪われていることがあるのだ。
 装備品の解呪は結構高いレベルが必要になるので、冒険者のヒーラーでは使えないことが多いのだ。

「それでは寄付金として銀貨を五枚いただきます」
「お願いします」

 イザイアは銀貨をもらうと、普通に装備を解呪してあげていた。冒険者は礼を言って去っていく。

 それから怪我の治癒を求めに来た人や、単に神に祈りにきた村人などが訪れた。イザイアはそのすべてに真摯に対応した。
 分かってはいたけれど、彼は表向きは本当にただの真面目な神父だ。

「あ、あの……」

 怪我の治癒に来た冒険者が教会から出たところでイザイアのことを振り返る。

「神の子を名乗る人がいるって聞きました。それって本当なんですか?」
「ええ。我らが法王様がお認めになった正真正銘の神の子です」

 イザイアは表情の読めない糸目の笑顔で答える。

「神の子がいるってことは、神様も本当にいるってことですよね」
「ええ」
「なら、何故……! 神様は俺の故郷が滅ぶのを黙って見ていたんですか! 神様が見ているなら助けてくれるんじゃないですか!?」

 冒険者の少年は叫んだ。
 どうやら少年の故郷は滅んだようだ。戦争でなくなったのかもしれないし、あるいは魔物に滅ぼされたダンジョン村だったのかもしれない。

「……」

 イザイアは黙って聞いている。

「どうして、どうしてなんですか……」

 少年は力なくその場に頽れた。
 イザイアは膝を折るとその少年の肩に手を置く。

「……神は確かにボクたちを常に見下ろしている。ただし、神が自ら何か奇跡を起こして直接助けて下さるというようなことは、ない」
「なら、何のために……!」
「奇跡を起こさぬ代わりに神はボクのような神の教えを信じる者に御力を与えて下さる。ボクのような信徒が御力をもって人々を助けることで、間接的に神の救済を実現する。だから、貴方の村が救われなかったのは……ボクの力不足だったということだ」

 イザイアの声が微かに震えを帯びていた。
 彼のあずかり知らぬところで起きたであろう少年の村の滅びを、彼は本気で申し訳なく思っているのだ。

 彼になら教会を任せられそうだと判断した僕は、黙ってその場を離れたのだった。
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