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第二十五話 ここで新婚旅行に行きます
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魔物素材のオークションに参加するのは主に貴族や魔導の研究に邁進する高名な魔術師、それからグロスマン商会のような魔導具などを取り扱う大企業である。
爺やは何でもできるが流石に魔術の知識はないので、魔術師には変装しない方がいいだろう。だから爺やの変装は貴族か商人かの二択だ。
爺やは代々領主に使える従者を輩出するための貴族家出身である。
素材オークションに参加するような階級の貴族ではないのだが、変装するなら商人になるよりは上級貴族に化ける方が楽だということで、爺やには老貴族に化けてもらうことにした。
めかしこむと爺やはすっかり大貴族の老翁と化した。どこからどうみても隠居した後に娯楽でオークションに参加する優雅な老貴族そのものである。
「それにしても本当に爺やを潜入させて大丈夫なのか? そりゃ爺やが有能であることは私も知っているが」
ロベールが心配そうにしている。
ロベールもクラウセンで暮らしていた幼い頃は爺やにお世話をされているから、爺やには親しみを感じているのだ。
「ご心配には及びません。主の望みを果たすのが従者の役目でございます」
爺やはキリッと答える。
「そうか。ならいいが」
心配はいらない。
爺やはそれこそ何だってできるのだから。
出品者はオークション会場に行かなくてもいいが、見に行くこともできる。
どうせなら爺やの奮戦ぶりを見学する為に僕とロベールもオークションを見に行くことにした。
オークション会場まで行くには馬車でこの村から出てナルセンティアまで行き、ナルセンティアの都まで行ったら転移神殿に行ってそこから王都までワープする必要がある。
王都までワープするとこまでは爺やと一緒で、そこから先は別行動である。別々に会場に入らなきゃいけないからね。
ちなみに転移神殿とは領地の首都クラスに繁栄している街にだけ置かれている施設である。
安くない利用料を払うことで馬車ごと他の都に転移することができるのだ。前世で言えば飛行機代を払うくらいの出費で利用できる。
「まあ、思えばアンが領主に就任してから半年以上が過ぎた。一度くらい王都に旅行に行ってもバチは当たらんだろう。まさかオークションだけ見たらとんぼ返りするとは言うまい。観光してから帰るだろう?」
RTA走者としてはもちろんここは横に首を振らねばなるまい。
だが僕は考える前に頷いてしまっていた。
「うん、もちろん。ロベールとのデートだからね」
「デ……いやまあ、そうなるか。うむ、デートだな」
「……っ」
てっきり顔を赤くして照れるだろうと思っていたのに、意外にもロベールは肯定した。
その彼の反応が予想外で、逆に僕の方が顔が熱くなる。僕の肌の色だと顔が赤くなったらすごく目立つだろう。
明後日の方向を向いて顔色を隠しながら、僕は前世から変化しつつある自分を自覚した。
前世の記憶を取り戻した直後は、現実と化したゲームの中の世界をどう上手く攻略していくかということしか考えていなかった。
だが今は……この世界で生きていくことが大切になってきている。
僕の自我は変化しつつある。
いや、元に戻りつつあるのだ。
爺やは何でもできるが流石に魔術の知識はないので、魔術師には変装しない方がいいだろう。だから爺やの変装は貴族か商人かの二択だ。
爺やは代々領主に使える従者を輩出するための貴族家出身である。
素材オークションに参加するような階級の貴族ではないのだが、変装するなら商人になるよりは上級貴族に化ける方が楽だということで、爺やには老貴族に化けてもらうことにした。
めかしこむと爺やはすっかり大貴族の老翁と化した。どこからどうみても隠居した後に娯楽でオークションに参加する優雅な老貴族そのものである。
「それにしても本当に爺やを潜入させて大丈夫なのか? そりゃ爺やが有能であることは私も知っているが」
ロベールが心配そうにしている。
ロベールもクラウセンで暮らしていた幼い頃は爺やにお世話をされているから、爺やには親しみを感じているのだ。
「ご心配には及びません。主の望みを果たすのが従者の役目でございます」
爺やはキリッと答える。
「そうか。ならいいが」
心配はいらない。
爺やはそれこそ何だってできるのだから。
出品者はオークション会場に行かなくてもいいが、見に行くこともできる。
どうせなら爺やの奮戦ぶりを見学する為に僕とロベールもオークションを見に行くことにした。
オークション会場まで行くには馬車でこの村から出てナルセンティアまで行き、ナルセンティアの都まで行ったら転移神殿に行ってそこから王都までワープする必要がある。
王都までワープするとこまでは爺やと一緒で、そこから先は別行動である。別々に会場に入らなきゃいけないからね。
ちなみに転移神殿とは領地の首都クラスに繁栄している街にだけ置かれている施設である。
安くない利用料を払うことで馬車ごと他の都に転移することができるのだ。前世で言えば飛行機代を払うくらいの出費で利用できる。
「まあ、思えばアンが領主に就任してから半年以上が過ぎた。一度くらい王都に旅行に行ってもバチは当たらんだろう。まさかオークションだけ見たらとんぼ返りするとは言うまい。観光してから帰るだろう?」
RTA走者としてはもちろんここは横に首を振らねばなるまい。
だが僕は考える前に頷いてしまっていた。
「うん、もちろん。ロベールとのデートだからね」
「デ……いやまあ、そうなるか。うむ、デートだな」
「……っ」
てっきり顔を赤くして照れるだろうと思っていたのに、意外にもロベールは肯定した。
その彼の反応が予想外で、逆に僕の方が顔が熱くなる。僕の肌の色だと顔が赤くなったらすごく目立つだろう。
明後日の方向を向いて顔色を隠しながら、僕は前世から変化しつつある自分を自覚した。
前世の記憶を取り戻した直後は、現実と化したゲームの中の世界をどう上手く攻略していくかということしか考えていなかった。
だが今は……この世界で生きていくことが大切になってきている。
僕の自我は変化しつつある。
いや、元に戻りつつあるのだ。
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