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第十七話 戦争をしま……せん

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「え、いるよ敵。十年後にナルセンティアと戦争するから」
「は……?」

 ロベールは笑顔のまま固まった。

「十年間の保護期間が終わっても僕がこの土地の領主をやめる気がないと知ったらナルセンティアは必ず僕を排除してこの土地を奪おうとしてくるよ。だから戦に備えなきゃ」

 僕が定めたこの攻略の最終目標がナルセンティアとの戦に勝つことだ。
 それはゲームと同じ最終目標だからだということもあるが、僕がナルセンティアに迎合しない限り結局戦になるだろうと思っているからでもあった。

「いや、待て……いやいやいや」
「ロベールはナルセンティアより僕を選んでくれたんでしょ? だからここにいるんだよね?」

 当然僕はそういう事だと思っていたのだが、ロベールは何故だか慌てた顔をしている。

「いや、それはそうだが戦をするという意味だとは聞いてないぞ!」

 ありゃ、どうやら認識の齟齬があったようだ。

「アン、戦をしないで済ませる訳にはいかないのか?」

「戦をしなかった場合、ナルセンティアは僕にここの領主をやめさせてこの土地を明け渡すように要求するだろう。それを呑んだらナルセンティアの領主がこの土地の領主になり、僕はナルセンティアで暮らすことになるだろう。それは嫌だと言ったはずだ」

「それは……そうかもしれないが。ナルセンティアの領主は私の伯父上。用無しになったアンは私の伴侶としてナルセンティアに戻ることになるだろう、確かに」

 ロベールもそのことを認める。

「なら……」
「いや待て、そうは言っても戦を回避する方法はあるはずだ! 第一戦をするということはここに住む領民を危険に晒すということだぞ、分かっているのか!」

 ロベールの言葉に首を傾げる。
 RTA攻略している間はこの村の住人はデータでしかなかったが、言われてみれば今は彼らは生きた人間なのだった。
 彼らは一度死んだら生き返らない……。そんな当たり前のことに今この瞬間気が付いた。

「何か方法があるはずだ、アンがこのままこの土地を治め続けながら戦争をせずに済む方法が……!」

 ロベールが必死に訴える。
 彼のその顔を見て、僕は少しその方法について考えてみてもいいかなと思ったのだった。

「どんな方法があるの?」
「それは……すぐには浮かんで来ないが。だが一緒に考えよう!」
「ロベール……」

 ロベールの言葉に何故だか胸が熱くなる。
 僕は彼の言葉を嬉しく感じているのだろうか。
 彼が真剣に僕と一緒に考えると言ってくれたのが嬉しかったのかもしれない。

「もし僕が戦をしないことを選んだら、ナルセンティアの領主が来てここを治めることになるんだよな?」
「うん? 恐らくだがここに来るのは伯父上本人ではないと思うぞ?」
「え?」

 どういうことかと目を見開く。

「ナルセンティアほどの大領地ともなると領主だけで全ての土地を治める訳ではない。大抵は親族や親族と婚姻関係にある貴族に土地を分け与え、その者に土地を治めさせる。この村ほど直轄地より離れた地にあれば、やはり領主が直接治める訳にはいかないはずだ」

 ふーん、そうだったんだと僕は彼の説明に頷く。
 クラウセンは小さな領地だからそんなこと全然知らなかった。

「だから……うん? 待てよ?」

 ロベールがじわじわと目を見開く。何か思いついた、という顔をしている。

「そうだ、その手があった! 一度この土地がナルセンティアのものになった後、私がこの土地を賜ればいい! 私がここを治め、そしてその伴侶としてアンもここを治めることが出来る!」

 ロベールが顔を輝かせて僕の両手を握る。
 急に握られた手にどきりとする。

「けど、そんなことが可能なの?」
「保護期間が終わるまでの十年間でそうなるように交渉する。大丈夫だ、アンと一緒にこの村を治めてきたという実績があればわざわざ治める者を変えようということにはならないはずだ」

 ロベールの言葉に希望が芽生える。
 彼はしっかりと僕の目を見て言ってくれた。

「もちろん、交渉が決裂した場合に備えて君は軍備を整えていても構わない。いや、軍備を整えておけば『戦争することになれば面倒になりそうだ』と思わせて交渉を有利に進ませることができるかもしれない」
「それにロベールは実によくダンジョン村を治めて大いに発展させましたって実績になるからね」

 戦争は避ける。
 でもやるべきことは変わらない。
 とにかく村を発展させ、外敵とも戦える戦力を蓄える。
 それが僕のやるべきことだ。
 ロベールの案に大きな勇気を得た。

「分かった、ロベールを信じる」
「ありがとう。いつまでもこの地で二人一緒にいられるように、私は全力を尽そう」

 ロベールは意外にも、いや思っていたよりもずっと頼りになる男かもしれない。
 RTAに役立つからとかだけではなく、それ以外の面も彼は僕の伴侶にぴったりの人物なのではないかという気がしてきていた。
 何故だろう、顔が熱くなる。
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