上 下
6 / 84

第六話 それから……え、プレゼント?

しおりを挟む
 少しでも時間が惜しいのかフランツは店を畳むと、早速村を出ていった。これから最寄りの町を目指すのだろう。

 わざわざフランツを狙い撃ちしたのには理由がある。
 彼がグリーンヴィレッジにとって唯一無二の人材だからである。

 千載一遇の機会を目の前にして上がってしまった彼は有能なようには見えなかったろうが、普段であれば如才なく人々の間に入り込み絆を築いてしまうような愛想の良さがある。
 別にダンジョン村の商人に必要とされている能力は貴族を相手にしても緊張しないでいられる胆力とかではないからね。

 それに何より彼だけにある資質が人望である。
 彼はこの辺りの農村で顔が売れていて、人々から慕われている。グリーンヴィレッジに直接立ち寄ったことこそないものの、グリーンヴィレッジの村の者が何か入用の物を買いたい時には今日の僕たちのように彼が来る日に合わせて隣村を訪れて物品を購入しただろう。
 つまりグリーンヴィレッジの人間にも何人か顔見知りがおり、村民も「まあフランツさんが移住してくるならまあ許そうか」という気になってくれるだろうということだ。

 そしてこの付近で行商をやっている人間で店を持つほどの財力を持つのはフランツただ一人である。
 故に彼は唯一無二の人材なのだ。

 フランツには村民とその他の移住者との仲立ちをしてもらいたい。
 村民のよそ者への排他的感情を雑に放置すると決めた以上は、せめて水槽の水を綺麗に保ってくれる人材くらいは確保しておかなければ。
 僕は村人同士の諍いとかそういった問題に時間を費やすつもりは一切ないので、そういった問題はすべてフランツに丸投げするつもりである。
 がんばれ、フランツ。

「よし、これでこの村でやること終わり」
「なんだ。行商人に木札を託す為だけに来たのか。それだったら召使いに頼んでおけばよかったろうに」

 フランツが目的だったことを知らないロベールは拍子抜けしたように息を吐いた。

「ロベールが連れてきた従者だけじゃ人手が足りないからね」

 今も彼の従者たちは少ない人数で城の掃除を行い、毎食の料理を作ってくれててんてこ舞いである。
 別にフランツの勧誘が目的でなかったとしても、僕たちが直接動くべきだったように思う。

「そうだな、元々すぐ帰る予定だったからな。増員するようにナルセンティアに文を送っておこう」
「頼む」

 ロベールさえいてくれれば人手も金も思うがままだ、素晴らしい。彼は本当に頼りになる。

「しかし折角隣村まで来たのにこのままとんぼ返りというのも味気ない。少し待っていろ」

 なんて思っていたらロベールが馬を下りてどこかへ向かう。
 近くを通りがかった子供に話しかけにいったようだ。その子供は真っ赤に熟れたコケモモのような果物を両手いっぱいに抱えている。

「おい、金をやるからそれを一つ売れ」

 なんとロベールは金の力で子供から果物を一つ取り上げてしまった。ロベールから数枚の大銅貨を受け取った子供は目を輝かせている。
 一体何をやっているのだろうと戻ってきた彼を眺めていると、彼は馬上の僕にそのコケモモを投げ渡した。僕は手綱から手を離して受け取る。

「まったく田舎というのは不便なものだな。ここがナルセンティアであれば装飾品の一つでも買ったのだが」

 ロベールは僕の方を見ずに自分の馬に乗り込みながらぼやく。

「え……つまり、僕への贈り物ってこと?」
「ふんっ」

 彼は答えなかったが、よくよく見れば耳が薄く色づいていた。
 胸の鼓動が熱くなるのを感じながら、僕は赤い果実の表面を袖で拭いて齧り付いた。
 ……甘酸っぱい味が口の中に広がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に嫌われてるらしいので次のお相手探します

和羽椿
BL
僕には婚約者がいる。 その婚約者フィリエルは僕のことが嫌いらしい。 彼はいつも無表情で何を考えているか分からない。思えばあの無愛想な接し方も、遠回しに退屈だとか嫌いだとかって訴えていたのかな…? 本物の兄のように慕っていたこともあり、僕の気分はだだ下がりだ。なんたって婚約者の方は、僕のことを微塵も大切には思っていなかったのだから。 …彼の隣に立っている綺麗な女性がその証拠。 そっちがその気なら僕だってやってやる!アイツよりカッコよくて優しい相手を探すんだ! ――― …的な感じで暴走した受けを、逆に嫌われてると勘違いした攻めが慌てて捕まえる話です。 典型的なすれ違いモノです。受けは大分アホの子ですがそこは愛嬌ということで…。 ※メイン更新作品の息抜きで執筆しています。 ※不定期更新です、ご了承ください。

王太子殿下の小夜曲

緑谷めい
恋愛
 私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

モンスター娘を絶滅から救うため、俺は種付け係に任命されてしまいました

ファンタジー
 世界が滅んだ時、運良く神様に命を救われた俺は神様の命令により生き残ったモンスター娘たちのつがいとなり、新世界を繁栄させる役目を任されることになってしまった。  ハーピィ、ラミア、スライム、アルラウネ、ローレライ、ユニコーンなど続々と現れるモンスター娘たちを神様からもらった『孕ませスキル』で種付けして、異種族交尾サバイバルハーレムスローライフが幕を開ける!

【コミカライズ化決定!!】気づいたら、異世界トリップして周りから訳アリ幼女と勘違いされて愛されています

坂神ユキ
ファンタジー
 サーヤこと佐々木紗彩は、勤務先に向かっている電車に乗っていたはずがなぜか気づいたら森の中にいた。  田舎出身だったため食料を集めれるかと思った彼女だが、なぜか図鑑では見たことのない植物ばかりで途方に暮れてしまう。  そんな彼女を保護したのは、森の中に入ってしまった魔物を追ってきた二人の獣人だった。  だが平均身長がニメートルを普通に超える世界において、成人女性の平均もいっていないサーヤは訳ありの幼女と勘違いされてしまう。  なんとか自分が人間の成人女性であることを伝えようとするサーヤだが、言葉が通じず、さらにはこの世界には人間という存在がいない世界であることを知ってしまう。  獣人・魔族・精霊・竜人(ドラゴン)しかいない世界でたった一人の人間となったサーヤは、少子化がかなり進み子供がかなり珍しい存在となってしまった世界で周りからとても可愛がられ愛されるのであった。  いろいろな獣人たちをモフモフしたり、他の種族に関わったりなどしながら、元の世界に戻ろうとするサーヤはどうなるのだろうか?  そして、なぜ彼女は異世界に行ってしまったのだろうか? *小説家になろうでも掲載しています *カクヨムでも掲載しています *悪口・中傷の言葉を書くのはやめてください *誤字や文章の訂正などの際は、出来ればどの話なのかを書いてくださると助かります 2024年8月29日より、ピッコマで独占先行配信開始!! 【気づいたら、異世界トリップして周りから訳アリ幼女と勘違いされて愛されています】 皆さんよろしくお願いいたします!

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

処理中です...