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第十一話 死んでも生き残れ(中編)
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「これから殺されるのは貴様の方だ」
魔王がシリルの胸倉を掴んで締め上げている。
「ぐ……ッ!」
シリルが魔王の手を引き剥がそうと藻掻いている。
まさかシリルのステータスでも魔王には敵わないというの?
そんな、まさか……!
シリルが負けたら私、人間フェチのスケベ爺に肉体乗っ取られちゃうんだけど!?
ちょっと聞いてないわよ、責任を取ってきっちり魔王を殺しなさいよ!
「ハッ!」
胸倉を掴んで持ち上げたシリルを魔王はそのまま壁に向かって投げる。
猛烈な勢いでシリルの身体が飛び、壁にぶつかる。
壁に亀裂が走り、この空間全体を揺らすほどの衝撃が走った。
土煙の向こうで、シリルの手足があり得ない方向に曲がっているのが見えた。
シリルに攻撃が通用してしまっただけでも驚きなのに、かなりの大ダメージを受けているように見えた。まさかシリルのあの膨大なHPを一瞬で削ったというの?
というかシリル、死んでない……よね?
「容易いな」
グチャグチャになったシリルを見て魔王がほくそ笑む。
「さて」
魔王が私に視線を向けた、その時だった。
「余所見を、するな……ッ!」
シリルが立ち上がり魔王を睨み付けていた。
彼は曲がった自分の手足を、強引に自分で元に戻していく。
彼の骨の鳴る音が此処まで聞こえてくるようだった。
「ほう、これは面白い。貴様……今、生き返ったな?」
魔王は目を見開いてシリルを見つめている。
さっきまで退屈そうですらあった彼女が、はっきりとシリルへの興味を持ったのが分かる。
そうだ、シリルは殺されても死なないんだ。
どんなに魔王が強大であろうとシリルが負けることは絶対にない。
「お前だって生き返っただろう」
首を刎ねられても新しい首が生えてきた魔王にシリルが言い返す。
「まさか。我は生き返りなど出来ぬさ。貴様のその能力、羨ましいくらいだ」
魔王は支離滅裂なことを言うと、シリルに向かって走り出した。
「さて何回生き返るのか、試させてもらおうか――――」
*
竜種の炎吹は人を一秒に千回燃やし尽くすんだ。
彼から聞いた言葉だ。
だとすれば、今目の前で行われているのはその再演だ。
魔王は幾度もシリルを殺した。
シリルはもう何度目か知れない蘇生を果たすと、ほとんど殺されながら魔王に斬りかかる。
魔王の片腕が切り落とされて宙を飛ぶ。魔王はもう片方の腕でシリルの頭を掴み、壁に打ち付けて潰す。
シリルはこんな苦しみを味わって竜種の棲む森から戻ってきたのだろうか。
ただ、私の笑顔をもう一度見たいからというだけの理由で。
だとしたら、そんなのは――――。
え、私は何をしてるのかって?
もちろん二人の戦いを静観してるのよ。
私が攻撃に参加できる訳ないでしょ、万が一魔王の矛先がこっちに向いたらどうするの。
魔王の半身なんて呼ばれてるからって攻撃されないとは限らないのよ!
「――――ふむ。分かってきたぞ」
再び蘇生したシリルの攻撃を避けながら、魔王は何か頷く。
「オレも、分かったぞ。お前の攻撃が何故そんなに重いのか」
魔王の攻撃が、重い?
確かにシリルの膨大な体力を一瞬にして削り切っているのだから、何か秘密があるのかもしれない。
「お前から一撃を喰らう度、何千回も何万回も殴られたかのような衝撃を感じる。オレには幻想の類は通じない筈なのに。一体何をしている?」
「ほう、見上げたものだ。凡百の者どもは我の一撃をただの膂力によるものとしか思わないものだが」
え、マジで? ただ攻撃力が馬鹿高いだけの一撃じゃないの?
「見破ったのだから明かしてやろう。我の一撃は三千界殺式片、那由多の平行世界に接続した我は全平行世界から同時に貴様を攻撃しているのだ。攻撃自体はただの拳で何の幻想も絡まぬから、貴様の幻想耐性Lv.9999でも防ぐことはできん」
どうやら魔王はシリルのステータスを透視しているらしい。そんなのずるい!
だから無駄に魔術とか使わなかったわけねー、なるほど。
「我も貴様の能力を見破ったぞ。どうやら貴様は"殺し過ぎる"と生き返るようだな。ならばちょうど良く殺すしかあるまい」
魔王がそう言うと、虚空に穴が空いた。
その穴の中に魔王は腕を突っ込む。
その虚空の中は異空間だ。私にはそれが感じ取れた。
魔王は穴の中から何かを取り出した。
ナイフだろうか。刃が針のように細い。
いつだったか、どこぞの王子が決死の思いで構えたレイピアよりも更に頼りない代物に見える。
「それが何であろうが、オレには魔剣は効かん。残念だったなッ!」
「そうだな。確かに魔剣ならば効かぬであろう」
魔王がナイフを取り出した隙を狙って、シリルが斬りかかる。
サクリ――――。
驚くほどあっさりとシリルの胸にナイフが突き刺さった。
「え…………っ」
シリルは糸が切れたように床に倒れ込んだ。
嘘でしょ……?
「これは幻想による類のものではない。これはな、今は滅びた古代技術の結晶なのだ」
倒れたシリルに魔王が静かに語りかける。
「昔々、あるところに科学技術を高度に発達させた民族がいた。その民族は科学によって争いを無くし、飢えを無くし、病を無くした。だがどんなに社会が高度に発達しても、不幸の種が尽きることはなかった。それでその民族は何をしてもこの世から不幸が無くなることはないのだと絶望してしまった。だからその民族は次に"なるべく幸福に死ぬこと"を選んだ。その為にこれが造られた」
角度が変わると、そのナイフが淡い青い光を放っているのが分かった。
「これはな、極小の安楽死装置だ。少しの余分な苦痛を与えることもなく、ピッタリと死に至らせる。科学の技術によってな」
「そん、な……」
シリルは確かにHPがぴったりゼロになると死んでしまうと言っていた気がする。
つまり、シリルはあんなチャチなナイフで死んでしまったということ? 嘘でしょ……?
「さて、我が半身よ」
魔王が私を見つめる。
「いえ……"私"の運命の人。さあ、"私"と蕩け合って一つになりましょう?」
魔王の一人称が変わり、視線が熱を帯びる。
先程までの超然とした雰囲気は消え、綺麗な三日月型の唇が艶っぽく煌めいている。
淫蕩という言葉を形にしたのならば、きっと彼女のような笑みを浮かべていることだろう。
此方の方が魔王の素なのか。
魔王はゆっくりと私に迫ってくる。
このまま私は魔王に飲み込まれてしまうの?
どうしよう、私のせいでシリルは死んでしまった――――なんて後悔している場合ではない!
考えろ、考えなければ……私が私のまま生き残る為に!
シリルをどうにかして助ける?
すぐに回復魔法をかければもしかすれば、まだ間に合うかもしれない。
でもこの魔王がそんな隙を与えてくれるかどうか。
それに苦労してシリルに回復魔術をかけても生き返らなかったら?
なら魔王に媚びを売ってこの場を切り抜ける?
自我と命さえ無事なら、逃げ出すチャンスが生まれるかもしれない。
でも、運が悪ければ……
クソ、どうすればいい? どうすれば確実に生き残れる?
私は一体どんな嘘を吐けばいい?
――――いや。
違う。私が考えるべきはどんな嘘を吐くかではない。
『どうやって』、だ。
手段ならばここにある。問題はどうやって届かせるかだ。
「ねえ、愛しい人」
魔王はすぐ目の前だ。決断しなければ。
「――――退け」
「え?」
魔王がぽかんとした顔を浮かべて固まる。
「そこを退け、私には一刻の猶予も無いのッ!」
私は声を上げると、風の魔術を発生させた。
魔王に全力で風を叩きつける。
魔王を吹き飛ばせれば良かったが、僅かによろめいたに過ぎなかった。
だがそれだけでも充分な隙だ。
私は魔王の脇をすり抜けると、シリルの元へと駆け寄る。
「待てッ!」
魔王が私の足を止めようと魔弾を放つ。
私は自分とシリルの周りに結界を張って、それを防御した。
ドカッ、と衝撃が走る。
「く……ッ!」
全力で魔力を搔き集めて張った結界が、一撃で消し飛びそうになる。
これが魔王の魔力か。
だがここで止まる訳にはいかない。
シリルの元に辿り着くと、素早く跪く。
目を閉じたシリルの顔は、まるで静かに眠っているかのように見えた。
だが、脈が無い。彼は確かに死んでいるのだ。
回復魔術をかけた所で効果はないだろう。
だが、手立てはある。
シリルのHPを逆にもっと減らすのだ。
シリルはHPがゼロでなければ生き返ると言っていた。
なら、この状態からでもオーバーキルすれば生き返る筈だ……多分。
でも私の魔術はシリルには効かない。
私の拳で殴ったところで、彼の防御力を貫くことはできないだろう。
ならばどうするか――――これだ。
私は自分の耳からピアスを外すと、鋭い先端をシリルへと向ける。
以前このピアスに貫かれたシリルはHPが1だけ減っていた。
いくら力を振り絞って突き刺したとしても、瀕死の奴がシリルの防御力を貫けるだろうか?
きっとこのピアスには「HPを必ず1減らす」みたいな特殊能力があるのだ。
魔族の持っていた物なのだから、このピアスも古代技術によって作られた何かなのかもしれない。
この予想が当たっているなら、このピアスでシリルを刺せばシリルのHPは-1になって生き返る。きっとそう。
仮説に仮説を積み上げた酷く脆い一手だ。
でも何とかなると私は信じている。
だって――――何だかんだ嘘を吐くつもりで真実を言い当てたりってことが何回もあったんだから、適当な予想だって多分当たってるっしょ、うん。
私はピアスをグサリと彼に突き刺した。
魔王がシリルの胸倉を掴んで締め上げている。
「ぐ……ッ!」
シリルが魔王の手を引き剥がそうと藻掻いている。
まさかシリルのステータスでも魔王には敵わないというの?
そんな、まさか……!
シリルが負けたら私、人間フェチのスケベ爺に肉体乗っ取られちゃうんだけど!?
ちょっと聞いてないわよ、責任を取ってきっちり魔王を殺しなさいよ!
「ハッ!」
胸倉を掴んで持ち上げたシリルを魔王はそのまま壁に向かって投げる。
猛烈な勢いでシリルの身体が飛び、壁にぶつかる。
壁に亀裂が走り、この空間全体を揺らすほどの衝撃が走った。
土煙の向こうで、シリルの手足があり得ない方向に曲がっているのが見えた。
シリルに攻撃が通用してしまっただけでも驚きなのに、かなりの大ダメージを受けているように見えた。まさかシリルのあの膨大なHPを一瞬で削ったというの?
というかシリル、死んでない……よね?
「容易いな」
グチャグチャになったシリルを見て魔王がほくそ笑む。
「さて」
魔王が私に視線を向けた、その時だった。
「余所見を、するな……ッ!」
シリルが立ち上がり魔王を睨み付けていた。
彼は曲がった自分の手足を、強引に自分で元に戻していく。
彼の骨の鳴る音が此処まで聞こえてくるようだった。
「ほう、これは面白い。貴様……今、生き返ったな?」
魔王は目を見開いてシリルを見つめている。
さっきまで退屈そうですらあった彼女が、はっきりとシリルへの興味を持ったのが分かる。
そうだ、シリルは殺されても死なないんだ。
どんなに魔王が強大であろうとシリルが負けることは絶対にない。
「お前だって生き返っただろう」
首を刎ねられても新しい首が生えてきた魔王にシリルが言い返す。
「まさか。我は生き返りなど出来ぬさ。貴様のその能力、羨ましいくらいだ」
魔王は支離滅裂なことを言うと、シリルに向かって走り出した。
「さて何回生き返るのか、試させてもらおうか――――」
*
竜種の炎吹は人を一秒に千回燃やし尽くすんだ。
彼から聞いた言葉だ。
だとすれば、今目の前で行われているのはその再演だ。
魔王は幾度もシリルを殺した。
シリルはもう何度目か知れない蘇生を果たすと、ほとんど殺されながら魔王に斬りかかる。
魔王の片腕が切り落とされて宙を飛ぶ。魔王はもう片方の腕でシリルの頭を掴み、壁に打ち付けて潰す。
シリルはこんな苦しみを味わって竜種の棲む森から戻ってきたのだろうか。
ただ、私の笑顔をもう一度見たいからというだけの理由で。
だとしたら、そんなのは――――。
え、私は何をしてるのかって?
もちろん二人の戦いを静観してるのよ。
私が攻撃に参加できる訳ないでしょ、万が一魔王の矛先がこっちに向いたらどうするの。
魔王の半身なんて呼ばれてるからって攻撃されないとは限らないのよ!
「――――ふむ。分かってきたぞ」
再び蘇生したシリルの攻撃を避けながら、魔王は何か頷く。
「オレも、分かったぞ。お前の攻撃が何故そんなに重いのか」
魔王の攻撃が、重い?
確かにシリルの膨大な体力を一瞬にして削り切っているのだから、何か秘密があるのかもしれない。
「お前から一撃を喰らう度、何千回も何万回も殴られたかのような衝撃を感じる。オレには幻想の類は通じない筈なのに。一体何をしている?」
「ほう、見上げたものだ。凡百の者どもは我の一撃をただの膂力によるものとしか思わないものだが」
え、マジで? ただ攻撃力が馬鹿高いだけの一撃じゃないの?
「見破ったのだから明かしてやろう。我の一撃は三千界殺式片、那由多の平行世界に接続した我は全平行世界から同時に貴様を攻撃しているのだ。攻撃自体はただの拳で何の幻想も絡まぬから、貴様の幻想耐性Lv.9999でも防ぐことはできん」
どうやら魔王はシリルのステータスを透視しているらしい。そんなのずるい!
だから無駄に魔術とか使わなかったわけねー、なるほど。
「我も貴様の能力を見破ったぞ。どうやら貴様は"殺し過ぎる"と生き返るようだな。ならばちょうど良く殺すしかあるまい」
魔王がそう言うと、虚空に穴が空いた。
その穴の中に魔王は腕を突っ込む。
その虚空の中は異空間だ。私にはそれが感じ取れた。
魔王は穴の中から何かを取り出した。
ナイフだろうか。刃が針のように細い。
いつだったか、どこぞの王子が決死の思いで構えたレイピアよりも更に頼りない代物に見える。
「それが何であろうが、オレには魔剣は効かん。残念だったなッ!」
「そうだな。確かに魔剣ならば効かぬであろう」
魔王がナイフを取り出した隙を狙って、シリルが斬りかかる。
サクリ――――。
驚くほどあっさりとシリルの胸にナイフが突き刺さった。
「え…………っ」
シリルは糸が切れたように床に倒れ込んだ。
嘘でしょ……?
「これは幻想による類のものではない。これはな、今は滅びた古代技術の結晶なのだ」
倒れたシリルに魔王が静かに語りかける。
「昔々、あるところに科学技術を高度に発達させた民族がいた。その民族は科学によって争いを無くし、飢えを無くし、病を無くした。だがどんなに社会が高度に発達しても、不幸の種が尽きることはなかった。それでその民族は何をしてもこの世から不幸が無くなることはないのだと絶望してしまった。だからその民族は次に"なるべく幸福に死ぬこと"を選んだ。その為にこれが造られた」
角度が変わると、そのナイフが淡い青い光を放っているのが分かった。
「これはな、極小の安楽死装置だ。少しの余分な苦痛を与えることもなく、ピッタリと死に至らせる。科学の技術によってな」
「そん、な……」
シリルは確かにHPがぴったりゼロになると死んでしまうと言っていた気がする。
つまり、シリルはあんなチャチなナイフで死んでしまったということ? 嘘でしょ……?
「さて、我が半身よ」
魔王が私を見つめる。
「いえ……"私"の運命の人。さあ、"私"と蕩け合って一つになりましょう?」
魔王の一人称が変わり、視線が熱を帯びる。
先程までの超然とした雰囲気は消え、綺麗な三日月型の唇が艶っぽく煌めいている。
淫蕩という言葉を形にしたのならば、きっと彼女のような笑みを浮かべていることだろう。
此方の方が魔王の素なのか。
魔王はゆっくりと私に迫ってくる。
このまま私は魔王に飲み込まれてしまうの?
どうしよう、私のせいでシリルは死んでしまった――――なんて後悔している場合ではない!
考えろ、考えなければ……私が私のまま生き残る為に!
シリルをどうにかして助ける?
すぐに回復魔法をかければもしかすれば、まだ間に合うかもしれない。
でもこの魔王がそんな隙を与えてくれるかどうか。
それに苦労してシリルに回復魔術をかけても生き返らなかったら?
なら魔王に媚びを売ってこの場を切り抜ける?
自我と命さえ無事なら、逃げ出すチャンスが生まれるかもしれない。
でも、運が悪ければ……
クソ、どうすればいい? どうすれば確実に生き残れる?
私は一体どんな嘘を吐けばいい?
――――いや。
違う。私が考えるべきはどんな嘘を吐くかではない。
『どうやって』、だ。
手段ならばここにある。問題はどうやって届かせるかだ。
「ねえ、愛しい人」
魔王はすぐ目の前だ。決断しなければ。
「――――退け」
「え?」
魔王がぽかんとした顔を浮かべて固まる。
「そこを退け、私には一刻の猶予も無いのッ!」
私は声を上げると、風の魔術を発生させた。
魔王に全力で風を叩きつける。
魔王を吹き飛ばせれば良かったが、僅かによろめいたに過ぎなかった。
だがそれだけでも充分な隙だ。
私は魔王の脇をすり抜けると、シリルの元へと駆け寄る。
「待てッ!」
魔王が私の足を止めようと魔弾を放つ。
私は自分とシリルの周りに結界を張って、それを防御した。
ドカッ、と衝撃が走る。
「く……ッ!」
全力で魔力を搔き集めて張った結界が、一撃で消し飛びそうになる。
これが魔王の魔力か。
だがここで止まる訳にはいかない。
シリルの元に辿り着くと、素早く跪く。
目を閉じたシリルの顔は、まるで静かに眠っているかのように見えた。
だが、脈が無い。彼は確かに死んでいるのだ。
回復魔術をかけた所で効果はないだろう。
だが、手立てはある。
シリルのHPを逆にもっと減らすのだ。
シリルはHPがゼロでなければ生き返ると言っていた。
なら、この状態からでもオーバーキルすれば生き返る筈だ……多分。
でも私の魔術はシリルには効かない。
私の拳で殴ったところで、彼の防御力を貫くことはできないだろう。
ならばどうするか――――これだ。
私は自分の耳からピアスを外すと、鋭い先端をシリルへと向ける。
以前このピアスに貫かれたシリルはHPが1だけ減っていた。
いくら力を振り絞って突き刺したとしても、瀕死の奴がシリルの防御力を貫けるだろうか?
きっとこのピアスには「HPを必ず1減らす」みたいな特殊能力があるのだ。
魔族の持っていた物なのだから、このピアスも古代技術によって作られた何かなのかもしれない。
この予想が当たっているなら、このピアスでシリルを刺せばシリルのHPは-1になって生き返る。きっとそう。
仮説に仮説を積み上げた酷く脆い一手だ。
でも何とかなると私は信じている。
だって――――何だかんだ嘘を吐くつもりで真実を言い当てたりってことが何回もあったんだから、適当な予想だって多分当たってるっしょ、うん。
私はピアスをグサリと彼に突き刺した。
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