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最終話 ぼくの誕生日パーティ(後編)
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「ひいふう」
挨拶してくるひとの波が過ぎ去って、ぼくはぐったりした。握手会のアイドルになった気分だったよお。
「殿下、そろそろ……」
アランの声が聞こえた。
「ああ、そうだな」
シルヴェストルお兄様が、それに答える。殿下って言うから、ぼくに話しかけたのかと思った。
シルヴェストルお兄様が、ぼくに向き直る。
「リュカ、実は誕生日プレゼントがあるんだ」
「え、誕生日プレゼント⁉」
ぼくはキラキラと目を輝かせた。
お兄様も忙しかっただろうに、ぼくのために誕生日プレゼントを用意してくれていただなんて。
「ああ、持ってこい」
お兄様は使用人に合図した。
使用人はどこかへと行き、まもなくワゴンカートを押しながら戻ってきた。
ワゴンカートの上に載っているものを見て、ぼくは目を見開いた。
「え、え、え……⁉ なんでショートケーキが……⁉」
それはショートケーキだった。
見間違いかなと思って目をごしごししたけれど、ショートケーキだった。
生クリームの白いフリルと紅い宝石のように真っ赤なイチゴに彩られた、純白のスイーツの女王様。
しかもロウソクが五本立っていた。バースデーケーキだ。
実はスイーツが存在する世界だったのだろうか。
そんな馬鹿なことを考えてしまうほど、目の前の光景が信じられなかった。
「誕生日に特別なスイーツを食べさせると、約束しただろう」
お兄様が笑った。
「そのために、ショートケーキをつくってくれたの? でも、どうやって?」
「リュカがショートケーキのレシピを書いてくれただろう。それをアランが知らせてくれたのだ」
「え、ぼくの引き出しから勝手にレシピを抜き出してお兄様に渡したってこと⁉ アラン、それは窃盗だよ!」
ぼくはアランに視線を向けた。
アランはしどろもどろになる。
「あ、そ、そ、それは、大変申し訳なく……!」
こんなアランの表情を見れるようになるなんて、最初は思ってなかったな。
彼は第一印象よりもずっと……
「ふふ、ワルワルだね、アラン」
ワルワルなひとだった。
つまり、ぼくのお気に入りというわけだ!
「は、え……?」
ぼくのニヤリという笑いに、どうやら自分の行いが咎められることはないと知って、アランは戸惑いの表情を浮かべた。
「レシピを入手したオレは、早速カミーユに製作を依頼したんだ」
「はい、ワタシが責任をもって神のレシピを再現させていただきました!」
急にカミーユの声がどこからともなく聞こえてきて、ぼくはビクリとした。
どこにいるんだ、と思っているとワゴンカートを押してきた使用人が帽子をずらした。
「あ、カミーユだ!」
なんとカミーユが使用人に扮していたのだ。
そこまでしてパーティに出たかったのか!
「すぐさま多額の謝礼と引き換えに、バター職人からクリームの製造法を聞き出しました。スポンジケーキも我が商会で雇っているスイーツ職人にすぐに作り方をマスターさせました。やや難儀したのは、ショートケーキに載せるフルーツの選定でございます。いろいろと考えてはみたのですが……オディロン様の占術によれば、ショートケーキに載っているフルーツは赤いはずだということで」
「え、オディロンせんせー?」
なぜそこでオディロン先生の名前が出てくるんだ。
そう思っていたら。
「殿下の理想のショートケーキを作るために、占術を使用したのでございます」
いつの間にか傍にいたオディロン先生が、にこにこと笑っていた。
「せんせー!」
ぼくはぱっと顔を輝かせた。
「ふふふ、殿下の幸せのためならばなんでもいたしますから」
だからって、ショートケーキのために占術を使う⁉
まったくもう、息子を甘やかすお父さん……いや、孫を甘やかすお爺ちゃんみたいなんだから!
お爺ちゃん扱いしたらショックを受けるだろうから、言わないけれど。
「赤いフルーツということで、ショートケーキにはシーニュの実を使うことに決めました」
カミーユが説明を続ける。
よくよく見てみると、彼の言う通りショートケーキに載っているのは、イチゴではなくシーニュの実だった。
「でも、シーニュの実はすっぱすぎてショートケーキとは合わないよ?」
「そこでワタシ、シーニュの実に一工夫を加えました」
グルメ漫画の料理人みたいなことを言い出すじゃないか、カミーユ。
「ナム酒漬けにしたのでございます。フルーツをさらに甘くさせることができる方法だと教えて下さったのは、殿下でございましたね?」
「あっ!」
カミーユの指摘にはっとした。
たしかにナム酒漬けにすれば、酸っぱいフルーツも甘酸っぱくなって美味しくなる。
そんな簡単なことに気づかなかったなんて!
「それからバースデーケーキにはロウソクを載せるものだって、リュカが教えてくれただろう?」
最後に、シルヴェストルお兄様が笑う。
「パーティ会場の明かりを落とすことは流石にできないが、ロウソクに火をつけるから、吹き消してくれ。オレたちがハッピーバースデーの歌を歌おう」
まさか、この世界でショートケーキのバースデーケーキを食べられるなんて。
現実を認識してきて、じわじわと目の奥が熱くなっていく。
「お、おにいちゃま、ぼくっ、ほんとにうれしい……! あり、ありがとう……!」
しゃくり上げながら、お兄様にお礼を言う。
「リュカの望みはなんでも叶えてあげると、婚約の時に約束しただろう。これからもリュカの願いはすべて叶えてあげるからな」
なんてイケメンな宣言なのだろう。
感激のあまり、ぼろぼろと涙が零れ出してきてしまった。
「愛らしい涙だ」
お兄様が懐から取り出したハンカチで、優しく涙を拭き取ってくれた。
ぼくの涙が落ち着いてきたころ、カミーユがケーキのロウソクにライターのような器具で火をつけた。
「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー」
シルヴェストルお兄様を始めとして、アランやオディロン先生やカミーユが声を合わせて歌ってくれる。練習したんだろうか。
「ハッピーバースデーディア、リューカー」
歌がゆっくりになったところで、ぼくはふーっと力を籠めてロウソクの火に息を吹いた。
五つの火は、すぐに消えていった。
今日、五歳になったのだ。誇らしい気分だ。
父がぼくに興味を持ってくれないことなんか、もうどうでもよくなった。
だってこうして、ぼくの誕生日を祝ってくれるみんながいて……目の前にはショートケーキがあるのだから!
「ハッピーバースデートゥーユー!」
拍手が降り注ぐ。
ぼくはふっふんと胸を張った。
「ねーねー、はやくはやく! はやくケーキたべたい!」
余韻もそこそこに、ぼくはねだった。
念願のショートケーキだ。早く食べたくてたまらない!
「ふふ、わかったわかった。カミーユ」
「はい、ただいま」
すぐにカミーユがロウソクを取り除き、ショートケーキを切り分け始める。
カミーユって、商会の若旦那だよね? こんな下働きさせちゃっていいのかなって思うけれど、心の底から幸せそうなニヤニヤ顔でケーキを切ってくれている。まあいっか。
やがてぼくの前に、ショートケーキの大きめの一切れが置かれた。
ケーキの上に載せられたシーニュの実は、ナム酒漬けされた効果でツヤツヤに光り輝いている。ルビーのようだ。
「いっただきまーす!」
フォークを手に取り、はしっこを取って口に運んだ。
ホイップされたクリームが優しく口の中で溶け、スポンジの柔らかい弾力が歯で感じられる。
前世から待ち望んでいた、ショートケーキの味だった。
ついにここまで辿り着いた。
転生してから一年弱。やっと、ショートケーキを食べられた。
感情が高ぶって、また一筋の涙が零れ落ちた。
大事に大事に二口目、三口目を味わい、それからフォークを赤い宝玉へと向けた。
さて、ナム酒漬けされたシーニュの実の味はいかほどか。
フォークはさくりと、深くシーニュの実に刺さった。
ナム酒漬けされている分柔らかいのだ。
とくんとくんと鼓動する胸のときめきを感じながら、シーニュの実をぱくんと食べた。
途端にナム酒の風味が口の中に広がり、続いて甘酸っぱさを感じる。ちょうど、イチゴのような。
すごい、酸っぱくて仕方のなかったシーニュの実がちゃんと食べれるようになってる! 食べれるようになってるどころか、ものすごく美味しい!
「おいしい、おいしいよお……!」
ぼくは涙をぽろぽろ流しながら、ショートケーキを味わった。
「おかわりはまだあるぞ。ホール丸ごと食べていいんだからな」
「ぜんぶたべていいの⁉」
「もちろんだ、リュカの誕生日なんだからな」
一切れだけで我慢しなくていいなんて!
なんて素晴らしいんだろう!
ぼくは早速、二切れ目も食べ始めた。
美味しい、美味しい! 夢にまで見たスイーツだよぉ!
三切れ目を食べ始めたころ、シルヴェストルお兄様と目が合った。さっきからじっとぼくが食べてるところを見つめて、仕方がないなあ。
「おにいちゃま、はいあーん」
フォークにケーキを取って、お兄様に向かって差し出した。
「……いいのか?」
「いいのいいの、おにいちゃまもショートケーキがどれだけすばらしいスイーツなのか、知ってくれなくちゃ!」
ぼくはケーキをお兄様の口の中に押し込んだ。
もぐもぐとケーキを味わったお兄様の目が、子供のようにキラキラしていく。
というか、カッコよすぎて忘れそうになるけれど、お兄様はまだまだ子供なんだから、ぼくが甘やかしてあげないとね!
「これは……誠に美味だ!」
「ふっふん、そうでしょ~? おにいちゃまのたんじょうびには、ぼくがバースデーケーキをつくってあげるね!」
「それは楽しみだ」
お兄様の嬉しそうな笑みに、誇らしい気持ちが湧いてくる。
そうだ、これからは自分がスイーツを食べるだけでなく、お兄様に食べさせてあげるためにスイーツを作っていかないとね。
だって美味しいものは、好きなひとと食べるともっと美味しくなるんだから。
作れていないスイーツは、まだまだたくさんある。
チョコレートにフルーツサンドにパイにミルフィーユにシュークリームにモンブランに、マドレーヌにマカロンにワッフルにパンケーキ! それ以外にもたっくさんだ。
シルヴェストルお兄様や、アランやオディロン先生やカミーユがいれば、きっとなんでも作れるんだから!
好きなだけ好きなスイーツを食べられる日まで、ぼくはスイーツ作りをやめないぞっと!
________________
最後まで読んでいただいた皆様、心より感謝を申し上げます。
なんとか10月中に書き上げることができました。
ハッピーハロウィーン!
しゅがしゅが可愛いリュカの物語を書くのは、とても楽しかったです。
できれば書籍化や続編の執筆を目指したいので、感想やエールなどをいただけるととても助かります!
挨拶してくるひとの波が過ぎ去って、ぼくはぐったりした。握手会のアイドルになった気分だったよお。
「殿下、そろそろ……」
アランの声が聞こえた。
「ああ、そうだな」
シルヴェストルお兄様が、それに答える。殿下って言うから、ぼくに話しかけたのかと思った。
シルヴェストルお兄様が、ぼくに向き直る。
「リュカ、実は誕生日プレゼントがあるんだ」
「え、誕生日プレゼント⁉」
ぼくはキラキラと目を輝かせた。
お兄様も忙しかっただろうに、ぼくのために誕生日プレゼントを用意してくれていただなんて。
「ああ、持ってこい」
お兄様は使用人に合図した。
使用人はどこかへと行き、まもなくワゴンカートを押しながら戻ってきた。
ワゴンカートの上に載っているものを見て、ぼくは目を見開いた。
「え、え、え……⁉ なんでショートケーキが……⁉」
それはショートケーキだった。
見間違いかなと思って目をごしごししたけれど、ショートケーキだった。
生クリームの白いフリルと紅い宝石のように真っ赤なイチゴに彩られた、純白のスイーツの女王様。
しかもロウソクが五本立っていた。バースデーケーキだ。
実はスイーツが存在する世界だったのだろうか。
そんな馬鹿なことを考えてしまうほど、目の前の光景が信じられなかった。
「誕生日に特別なスイーツを食べさせると、約束しただろう」
お兄様が笑った。
「そのために、ショートケーキをつくってくれたの? でも、どうやって?」
「リュカがショートケーキのレシピを書いてくれただろう。それをアランが知らせてくれたのだ」
「え、ぼくの引き出しから勝手にレシピを抜き出してお兄様に渡したってこと⁉ アラン、それは窃盗だよ!」
ぼくはアランに視線を向けた。
アランはしどろもどろになる。
「あ、そ、そ、それは、大変申し訳なく……!」
こんなアランの表情を見れるようになるなんて、最初は思ってなかったな。
彼は第一印象よりもずっと……
「ふふ、ワルワルだね、アラン」
ワルワルなひとだった。
つまり、ぼくのお気に入りというわけだ!
「は、え……?」
ぼくのニヤリという笑いに、どうやら自分の行いが咎められることはないと知って、アランは戸惑いの表情を浮かべた。
「レシピを入手したオレは、早速カミーユに製作を依頼したんだ」
「はい、ワタシが責任をもって神のレシピを再現させていただきました!」
急にカミーユの声がどこからともなく聞こえてきて、ぼくはビクリとした。
どこにいるんだ、と思っているとワゴンカートを押してきた使用人が帽子をずらした。
「あ、カミーユだ!」
なんとカミーユが使用人に扮していたのだ。
そこまでしてパーティに出たかったのか!
「すぐさま多額の謝礼と引き換えに、バター職人からクリームの製造法を聞き出しました。スポンジケーキも我が商会で雇っているスイーツ職人にすぐに作り方をマスターさせました。やや難儀したのは、ショートケーキに載せるフルーツの選定でございます。いろいろと考えてはみたのですが……オディロン様の占術によれば、ショートケーキに載っているフルーツは赤いはずだということで」
「え、オディロンせんせー?」
なぜそこでオディロン先生の名前が出てくるんだ。
そう思っていたら。
「殿下の理想のショートケーキを作るために、占術を使用したのでございます」
いつの間にか傍にいたオディロン先生が、にこにこと笑っていた。
「せんせー!」
ぼくはぱっと顔を輝かせた。
「ふふふ、殿下の幸せのためならばなんでもいたしますから」
だからって、ショートケーキのために占術を使う⁉
まったくもう、息子を甘やかすお父さん……いや、孫を甘やかすお爺ちゃんみたいなんだから!
お爺ちゃん扱いしたらショックを受けるだろうから、言わないけれど。
「赤いフルーツということで、ショートケーキにはシーニュの実を使うことに決めました」
カミーユが説明を続ける。
よくよく見てみると、彼の言う通りショートケーキに載っているのは、イチゴではなくシーニュの実だった。
「でも、シーニュの実はすっぱすぎてショートケーキとは合わないよ?」
「そこでワタシ、シーニュの実に一工夫を加えました」
グルメ漫画の料理人みたいなことを言い出すじゃないか、カミーユ。
「ナム酒漬けにしたのでございます。フルーツをさらに甘くさせることができる方法だと教えて下さったのは、殿下でございましたね?」
「あっ!」
カミーユの指摘にはっとした。
たしかにナム酒漬けにすれば、酸っぱいフルーツも甘酸っぱくなって美味しくなる。
そんな簡単なことに気づかなかったなんて!
「それからバースデーケーキにはロウソクを載せるものだって、リュカが教えてくれただろう?」
最後に、シルヴェストルお兄様が笑う。
「パーティ会場の明かりを落とすことは流石にできないが、ロウソクに火をつけるから、吹き消してくれ。オレたちがハッピーバースデーの歌を歌おう」
まさか、この世界でショートケーキのバースデーケーキを食べられるなんて。
現実を認識してきて、じわじわと目の奥が熱くなっていく。
「お、おにいちゃま、ぼくっ、ほんとにうれしい……! あり、ありがとう……!」
しゃくり上げながら、お兄様にお礼を言う。
「リュカの望みはなんでも叶えてあげると、婚約の時に約束しただろう。これからもリュカの願いはすべて叶えてあげるからな」
なんてイケメンな宣言なのだろう。
感激のあまり、ぼろぼろと涙が零れ出してきてしまった。
「愛らしい涙だ」
お兄様が懐から取り出したハンカチで、優しく涙を拭き取ってくれた。
ぼくの涙が落ち着いてきたころ、カミーユがケーキのロウソクにライターのような器具で火をつけた。
「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー」
シルヴェストルお兄様を始めとして、アランやオディロン先生やカミーユが声を合わせて歌ってくれる。練習したんだろうか。
「ハッピーバースデーディア、リューカー」
歌がゆっくりになったところで、ぼくはふーっと力を籠めてロウソクの火に息を吹いた。
五つの火は、すぐに消えていった。
今日、五歳になったのだ。誇らしい気分だ。
父がぼくに興味を持ってくれないことなんか、もうどうでもよくなった。
だってこうして、ぼくの誕生日を祝ってくれるみんながいて……目の前にはショートケーキがあるのだから!
「ハッピーバースデートゥーユー!」
拍手が降り注ぐ。
ぼくはふっふんと胸を張った。
「ねーねー、はやくはやく! はやくケーキたべたい!」
余韻もそこそこに、ぼくはねだった。
念願のショートケーキだ。早く食べたくてたまらない!
「ふふ、わかったわかった。カミーユ」
「はい、ただいま」
すぐにカミーユがロウソクを取り除き、ショートケーキを切り分け始める。
カミーユって、商会の若旦那だよね? こんな下働きさせちゃっていいのかなって思うけれど、心の底から幸せそうなニヤニヤ顔でケーキを切ってくれている。まあいっか。
やがてぼくの前に、ショートケーキの大きめの一切れが置かれた。
ケーキの上に載せられたシーニュの実は、ナム酒漬けされた効果でツヤツヤに光り輝いている。ルビーのようだ。
「いっただきまーす!」
フォークを手に取り、はしっこを取って口に運んだ。
ホイップされたクリームが優しく口の中で溶け、スポンジの柔らかい弾力が歯で感じられる。
前世から待ち望んでいた、ショートケーキの味だった。
ついにここまで辿り着いた。
転生してから一年弱。やっと、ショートケーキを食べられた。
感情が高ぶって、また一筋の涙が零れ落ちた。
大事に大事に二口目、三口目を味わい、それからフォークを赤い宝玉へと向けた。
さて、ナム酒漬けされたシーニュの実の味はいかほどか。
フォークはさくりと、深くシーニュの実に刺さった。
ナム酒漬けされている分柔らかいのだ。
とくんとくんと鼓動する胸のときめきを感じながら、シーニュの実をぱくんと食べた。
途端にナム酒の風味が口の中に広がり、続いて甘酸っぱさを感じる。ちょうど、イチゴのような。
すごい、酸っぱくて仕方のなかったシーニュの実がちゃんと食べれるようになってる! 食べれるようになってるどころか、ものすごく美味しい!
「おいしい、おいしいよお……!」
ぼくは涙をぽろぽろ流しながら、ショートケーキを味わった。
「おかわりはまだあるぞ。ホール丸ごと食べていいんだからな」
「ぜんぶたべていいの⁉」
「もちろんだ、リュカの誕生日なんだからな」
一切れだけで我慢しなくていいなんて!
なんて素晴らしいんだろう!
ぼくは早速、二切れ目も食べ始めた。
美味しい、美味しい! 夢にまで見たスイーツだよぉ!
三切れ目を食べ始めたころ、シルヴェストルお兄様と目が合った。さっきからじっとぼくが食べてるところを見つめて、仕方がないなあ。
「おにいちゃま、はいあーん」
フォークにケーキを取って、お兄様に向かって差し出した。
「……いいのか?」
「いいのいいの、おにいちゃまもショートケーキがどれだけすばらしいスイーツなのか、知ってくれなくちゃ!」
ぼくはケーキをお兄様の口の中に押し込んだ。
もぐもぐとケーキを味わったお兄様の目が、子供のようにキラキラしていく。
というか、カッコよすぎて忘れそうになるけれど、お兄様はまだまだ子供なんだから、ぼくが甘やかしてあげないとね!
「これは……誠に美味だ!」
「ふっふん、そうでしょ~? おにいちゃまのたんじょうびには、ぼくがバースデーケーキをつくってあげるね!」
「それは楽しみだ」
お兄様の嬉しそうな笑みに、誇らしい気持ちが湧いてくる。
そうだ、これからは自分がスイーツを食べるだけでなく、お兄様に食べさせてあげるためにスイーツを作っていかないとね。
だって美味しいものは、好きなひとと食べるともっと美味しくなるんだから。
作れていないスイーツは、まだまだたくさんある。
チョコレートにフルーツサンドにパイにミルフィーユにシュークリームにモンブランに、マドレーヌにマカロンにワッフルにパンケーキ! それ以外にもたっくさんだ。
シルヴェストルお兄様や、アランやオディロン先生やカミーユがいれば、きっとなんでも作れるんだから!
好きなだけ好きなスイーツを食べられる日まで、ぼくはスイーツ作りをやめないぞっと!
________________
最後まで読んでいただいた皆様、心より感謝を申し上げます。
なんとか10月中に書き上げることができました。
ハッピーハロウィーン!
しゅがしゅが可愛いリュカの物語を書くのは、とても楽しかったです。
できれば書籍化や続編の執筆を目指したいので、感想やエールなどをいただけるととても助かります!
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海さん、感想ありがとうございます!
最後まで読んでいただき感謝です。
読むと終わっちゃう!と続編希望お楽しみをお待ちしています😊可愛いは、正義なので、続きに一票しました
沙羅さん、いつも感想ありがとうございます!
可愛いは正義、ですね!
リュカが可愛くて可愛くてあっという間に読み切ってしまいました。続編もとても楽しみにしています。素敵なお話をありがとうございました!
natsumeさん、感想ありがとうございます!
一気に読んでいただけたなんて嬉しいです!
こちらこそ感謝です!