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第五十六話 ぼくの誕生日パーティ(前編)
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シルヴェストルお兄様にエスコートされて、ぼくはパーティ会場に足を踏み入れた。
「わああ……!」
会場は、お兄様の誕生日のときよりもさらに華やかになっていた。
それもそうだ、ぼくの誕生日パーティはセレノスティーレ派閥とローズリーヌ派閥が和睦を結ぶための場でもあるのだ。決してケチがついてはならぬように、一際豪華になっていた。
会場はこの日のために全面鏡張りにされ、シャンデリアの明かりがそこかしこに反射して、どこを見てもキラキラと煌めいていた。壁面が鏡だらけなので、めちゃくちゃ会場が広く見える。
「オレたちは一番目立つ席だ、なんてったって主役だからな。行くぞ」
お兄様にエスコートされ、正しい席まで何事もなく辿り着けた。
「あ……」
近くの席に、国王……ぼくの父がいることに気がついた。
父はぼくを一瞥もせず、誰かと話をしている。
「婚約発表の場だ、流石に父親もいないとな」
こそっとお兄様が教えてくれる。
心変わりして、ぼくに興味を持ってくれたようではないようだ。
「リュカ、お誕生日おめでとう」
柔らかな声が、上から降ってきた。
「おかあしゃま!」
振り返ると、着飾ったお母様がそこにいた。
今日もお母様は美人だ。
抱き着きたいけれど、公式の場なので我慢した。
「今日で五歳になりましたね。リュカが健やかに成長してくれて、私は本当に嬉しく思います」
お母様は、万感の思いが籠った声で祝ってくれた。
そっか、ぼくもう五歳なんだ。
忙しくて実感する暇なかったけれど、今日はぼくの誕生日なんだな。
「リュカ殿下、お誕生日おめでとうございますわ!」
弾んだ女性の声に、げっとなる。
視線を移せば、予想通り真っ赤なドレスの女性が、こちらにずんずん近寄ってくるところだった。
ローズリーヌだ。
「ああ、こんな可愛い子がうちの子になってくれるだなんて、幸せですわ!」
ぼくが何か口を開く前に、なんとローズリーヌがぎゅうっと抱き締めてきた。
うう、苦しい。
お兄様にテストを課して「合格しないと弟に会えないぞ」なんて脅した癖に、調子のいいひとだなあ。
でも、憎めない。お兄様っぽいからかな。
「……ローズリーヌ王妃殿下。リュカは私の子でございますが」
お母様が、ごごごごと音のしそうな圧の強い笑顔を浮かべている!
「あら、もううちの子みたいなものじゃございませんか。だって……」
「ローズリーヌ王妃殿下?」
お母様がしっと唇に人差し指を当てる。
方々に根回しをしたから、今日婚約発表があるのは既に公然みたいなものだが、だからといって正式発表する前に大声で口にしていいことではない。
「あら、あらあら。そうでしたわね。おほほほほ……」
あやうく失言しそうになり、ローズリーヌはぼくから手を離して、照れ笑いを扇で隠した。
「まったく、顔はわたくし好みなのに生真面目なのですから」
ぼそりとローズリーヌが呟くのが、ぼくには聞こえてしまった。
あらまあ。お兄様、ぼくたち婚約しなくても派閥争いなくなってたかもしれないよ?
ま、お兄様と婚約できたんだからいっか。
と考えた後で、自分の思考に頬が熱くなる。
違う違う、お兄様と婚約できたのが嬉しいなんて思ってないんだから!
「そろそろパーティが始まりますわね」
お母様の声で、ぼくたちは大人しく席に着いた。
父が立ち上がり、パーティ会場の貴族らを睥睨する。
「我が子リュカの五つの誕生日に集まってもらったこと、感謝する。ここで一つ、喜ばしい発表がある。シルヴェストルの婚約相手が決まった。相手は、今日五つを迎えたばかりのリュカだ」
国王の発表に、小さなどよめきが立つ。
派閥の有力者には根回しをしておいたけれど、中立派の貴族には特にそんなことしなかったからね。初耳のひとたちもいるんだね。
「リュカ、立つぞ」
お兄様から囁かれて、ぼくはお兄様と手を繋いで静かに立ち上がった。
会場内の貴族らから、拍手を注がれる。なんだかいい気分だ、皆に祝福されるというのは。
不意に、お兄様がぼくの手を軽く引く。
どうしたのだろうとそちらを見ると、お兄様が身体を屈めてぼくの手に唇を近づけているところだった。
まるでお姫様に対する騎士のように、お兄様はぼくの手の甲に口づけを落としたのだった。
「なななななな、なにしてるの、おにいちゃま!」
ぼくは小声で怒った。
「まあ」みたいな声が、会場内のあちらこちらから聞こえてくる。ううー、恥ずかしいよう。
「すまないな、見せつける絶好の機会だったから」
お兄様は、くすりと微笑みを返した。
見せつけるって何⁉ どういう意味⁉
それってなんだか、婚約を取り消したくないみたいに聞こえるんですけど……!
顔を真っ赤にして、着席した。
頭の中がお兄様のことでいっぱいになって、父が貴族らに語っていることがまったく頭に入ってこなかった。
頭がいっぱいになっている間に、いつの間にか挨拶タイムが始まっていた。
たくさんの人が近寄ってきて、「ご婚約おめでとうございます」と祝いの言葉を送ってくる。
ぼくはにこやかにお礼の言葉を返していった。
お兄様も猫被って、如才なく返答していく。
「得難いひとと婚約できた幸運に感謝しています」とか。「彼より愛しいひとは他にいません」とか言っている。
いや、うん……演技……だよね?
「わああ……!」
会場は、お兄様の誕生日のときよりもさらに華やかになっていた。
それもそうだ、ぼくの誕生日パーティはセレノスティーレ派閥とローズリーヌ派閥が和睦を結ぶための場でもあるのだ。決してケチがついてはならぬように、一際豪華になっていた。
会場はこの日のために全面鏡張りにされ、シャンデリアの明かりがそこかしこに反射して、どこを見てもキラキラと煌めいていた。壁面が鏡だらけなので、めちゃくちゃ会場が広く見える。
「オレたちは一番目立つ席だ、なんてったって主役だからな。行くぞ」
お兄様にエスコートされ、正しい席まで何事もなく辿り着けた。
「あ……」
近くの席に、国王……ぼくの父がいることに気がついた。
父はぼくを一瞥もせず、誰かと話をしている。
「婚約発表の場だ、流石に父親もいないとな」
こそっとお兄様が教えてくれる。
心変わりして、ぼくに興味を持ってくれたようではないようだ。
「リュカ、お誕生日おめでとう」
柔らかな声が、上から降ってきた。
「おかあしゃま!」
振り返ると、着飾ったお母様がそこにいた。
今日もお母様は美人だ。
抱き着きたいけれど、公式の場なので我慢した。
「今日で五歳になりましたね。リュカが健やかに成長してくれて、私は本当に嬉しく思います」
お母様は、万感の思いが籠った声で祝ってくれた。
そっか、ぼくもう五歳なんだ。
忙しくて実感する暇なかったけれど、今日はぼくの誕生日なんだな。
「リュカ殿下、お誕生日おめでとうございますわ!」
弾んだ女性の声に、げっとなる。
視線を移せば、予想通り真っ赤なドレスの女性が、こちらにずんずん近寄ってくるところだった。
ローズリーヌだ。
「ああ、こんな可愛い子がうちの子になってくれるだなんて、幸せですわ!」
ぼくが何か口を開く前に、なんとローズリーヌがぎゅうっと抱き締めてきた。
うう、苦しい。
お兄様にテストを課して「合格しないと弟に会えないぞ」なんて脅した癖に、調子のいいひとだなあ。
でも、憎めない。お兄様っぽいからかな。
「……ローズリーヌ王妃殿下。リュカは私の子でございますが」
お母様が、ごごごごと音のしそうな圧の強い笑顔を浮かべている!
「あら、もううちの子みたいなものじゃございませんか。だって……」
「ローズリーヌ王妃殿下?」
お母様がしっと唇に人差し指を当てる。
方々に根回しをしたから、今日婚約発表があるのは既に公然みたいなものだが、だからといって正式発表する前に大声で口にしていいことではない。
「あら、あらあら。そうでしたわね。おほほほほ……」
あやうく失言しそうになり、ローズリーヌはぼくから手を離して、照れ笑いを扇で隠した。
「まったく、顔はわたくし好みなのに生真面目なのですから」
ぼそりとローズリーヌが呟くのが、ぼくには聞こえてしまった。
あらまあ。お兄様、ぼくたち婚約しなくても派閥争いなくなってたかもしれないよ?
ま、お兄様と婚約できたんだからいっか。
と考えた後で、自分の思考に頬が熱くなる。
違う違う、お兄様と婚約できたのが嬉しいなんて思ってないんだから!
「そろそろパーティが始まりますわね」
お母様の声で、ぼくたちは大人しく席に着いた。
父が立ち上がり、パーティ会場の貴族らを睥睨する。
「我が子リュカの五つの誕生日に集まってもらったこと、感謝する。ここで一つ、喜ばしい発表がある。シルヴェストルの婚約相手が決まった。相手は、今日五つを迎えたばかりのリュカだ」
国王の発表に、小さなどよめきが立つ。
派閥の有力者には根回しをしておいたけれど、中立派の貴族には特にそんなことしなかったからね。初耳のひとたちもいるんだね。
「リュカ、立つぞ」
お兄様から囁かれて、ぼくはお兄様と手を繋いで静かに立ち上がった。
会場内の貴族らから、拍手を注がれる。なんだかいい気分だ、皆に祝福されるというのは。
不意に、お兄様がぼくの手を軽く引く。
どうしたのだろうとそちらを見ると、お兄様が身体を屈めてぼくの手に唇を近づけているところだった。
まるでお姫様に対する騎士のように、お兄様はぼくの手の甲に口づけを落としたのだった。
「なななななな、なにしてるの、おにいちゃま!」
ぼくは小声で怒った。
「まあ」みたいな声が、会場内のあちらこちらから聞こえてくる。ううー、恥ずかしいよう。
「すまないな、見せつける絶好の機会だったから」
お兄様は、くすりと微笑みを返した。
見せつけるって何⁉ どういう意味⁉
それってなんだか、婚約を取り消したくないみたいに聞こえるんですけど……!
顔を真っ赤にして、着席した。
頭の中がお兄様のことでいっぱいになって、父が貴族らに語っていることがまったく頭に入ってこなかった。
頭がいっぱいになっている間に、いつの間にか挨拶タイムが始まっていた。
たくさんの人が近寄ってきて、「ご婚約おめでとうございます」と祝いの言葉を送ってくる。
ぼくはにこやかにお礼の言葉を返していった。
お兄様も猫被って、如才なく返答していく。
「得難いひとと婚約できた幸運に感謝しています」とか。「彼より愛しいひとは他にいません」とか言っている。
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