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第五十二話 まさかの戦略

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 セドリックが自白した内容を伝え、ぼくらは城の人間にセドリックの身柄を引き渡した。あとは適当に、ちょちょいと裁いてくれるだろう。
 
 これで誘拐事件含め、もろもろの事件は解決した! 一件落着!

 犯人を捕まえるのに協力してくれたオディロン先生、カミーユ、アランにお礼を言って解散した。
 いや、アランだけは護衛だから側にいるけどね。

 ぼくは久しぶりに、シルヴェストルお兄様と一緒にゆっくり過ごすことにしたのだった。

「えへへ、スイーツたべられるの、すごいひさしぶりなきぶん!」

 ステラたち使用人がお茶会の準備をしてくれて、目の前にお紅茶とパウンドケーキやバターサンド、クッキーが並べられた。
 スイーツタイムだ!

 ぼくは満面の笑みで、スイーツを食べ始めた。

 今日のスイーツはもちろん、ヨクタベレール商会提供だ。
 最近ではキータの実だけでなく、さまざまなフルーツを入れたパウンドケーキの開発に着手しているようだ。
 今日のパウンドケーキには何種類かのドライフルーツが入っていて、びっくりしてしまった。

 これは何のドライフルーツかな、なんて食べるたびにいろんな味がして美味しい!
 前はうんざりしていたドライフルーツも、パウンドケーキに入っていれば、立派なスイーツだ。
 パウンドケーキをもぐもぐと食べ、ぼくは心から幸せな気持ちになれた。
 とろーんとした顔で、スイーツの数々を味わった。
 ハッピースイーツデー!

「あれ、おにいちゃま……?」

 いつもだったらシルヴェストルお兄様も一緒になってにこにこしているのに、お兄様の顔色が優れないことに気がついた。
 事件は解決したというのに、どうしたのだろう。

「なにかまだ、しんぱい?」

 スイーツのお皿をことりとテーブルに置き、お兄様の顔を覗き込んだ。

「……リュカはオレたちががんばるから大丈夫だ、と言ってくれたな。それは本当のことだ。オレたちががんばれば、なんだってどうにでもできる。でもそれは、がんばらなければどうにもならないという意味でもある」

 お兄様の赤い瞳が、不安げに揺れていた。

「一体全体、どうすれば派閥争いの激化を止められるのだろうな?」

 ぼくははっとした。
 ぼくたちがなんとかしなければ、このままでは会えなくなってしまうのだ。

「え、ええと、それは、うーんと……」

 子供二人に、一体何ができるだろう。
 セドリック相手には元気いっぱいに啖呵を切ったけれど、現実問題を考えると困ってしまう。

「ああ、リュカはいいんだ。オレが考えるから」

 お兄様は心配を払拭するかのように、無理やり笑った風の笑顔になった。
 ぼくを気遣っての言葉だろうけれど、むっとした。
 
「なんだとー! ぼくだってナイスアイデアをだせるもん!」

 ほっぺたを膨らませて、怒りを表明した。

「ぼくのことも、たよってよ! それくらい、せおえるもん!」
 
 シルヴェストルお兄様一人に、大事なことを背負わせるなんてできるはずがない。お兄様に、ぼくに頼ってほしかった。

「リュカ……! そうだな、オレが悪かった。お前はオレの大天才な弟なんだからな、存分に頼りにさせてもらうとしよう」
「へへ、おにいちゃまだーいすき!」

 ぼくは椅子から下りると、お兄様に駆け寄っていってぎゅっと抱き着いた。
 
「よしよし、リュカは可愛いな」

 ふわふわの髪を、優しく撫でてくれる。
 心地よさに目を細めた。

 ぼくはシルヴェストルお兄様の隣に座って、作戦を考えた。
 あーでもない、こーでもないと案を出し合ってみたが、どれもぴんと来ない。

 そもそもオディロン先生の見た未来では、ぼくとお兄様は二人で王様をしていたらしいじゃないか。
 それはつまり未来では、派閥争いになっていないということだ。
 いずれ辿り着く未来なのに、辿り着く方法がわからないなんて! むきー!

「ねえねえおにいちゃま、どうやったらふたりでおうさまできるの?」

 ぼくは口を尖らせて聞いた。

「うん? ふたりで王になどなれないぞ?」

 お兄様はきょとんと、オディロン先生が見た未来を全否定した。

「ひょげー⁉︎」

 ぼくは驚きのあまり、ムンクの叫びのように両手でほっぺを潰した。

「だ、だって、ふたりでおうさまにって……」

 ぼくの顔が愉快だったのか、お兄様はくすりと笑った。

「絵本か何かで見たのか? それなら、それは王が二人いるのではなく、王と王妃だったのさ。王とその正室ならば、謁見の間で二人並んで座っているからな」

「おうさまと、おうひさま……?」

 そっかー。王様と王妃様だったのかー。
 あれ、だとしたらオディロン先生が見た未来の意味って……?
 
 その時不意に、ぼくは前世のゲームの情報を思い出した。
 あのゲーム、普通に同性婚できる世界だったな?

 戦っていく中で主人公と仲間の仲が深まっていって、最終的に一番仲良くなった仲間と結婚できるんだけれど、普通に同性キャラもその相手に選べるんだよね。
 同性キャラと結婚しても子供ができるようになるアイテムとか、あったりしてさ。

 この世界でも同性婚できるとしたら……

「ぼくとおにいちゃまが結婚する……ってコト⁉」

 思わず口に出てしまっていた。

 意識した途端、顔が熱くなっていく。
 だってだってお兄様はとってもカッコよくって、そのお兄様と結婚するとなったら……カッコいいお兄様がぼくだけのものになっちゃうの⁉ 
 そんなのそんなの、嬉しいけど困っちゃう!

「リュカと結婚だなんて何を言っ……それだ!」

 ぼくの言葉を聞いたお兄様が、突然くわっと目を剥いた。

「流石は我が大天才! 流石はオレのリュカだ!」

 お兄様はいきなりテンションマックスになって、ぼくの身体を高い高いする。
 意識し始めたばっかりなのに、いきなり間近にお兄様の顔が迫り、顔が真っ赤になってしまう。

「え? え?」
「オレとリュカの婚約を発表すればいい! そうすれば、派閥間の争いはなくなる!」
「ええ~⁉」

 まさかまさかの戦略がお兄様の口から、飛び出した。

 高い高いから長椅子の上に下ろしてもらえたので、ぼくはお兄様に聞いた。

「で、でも、きょうだいで結婚なんてできるの?」
「王国法では、同母兄弟では結婚できないが異母兄弟ならば結婚できると定められている」
「いぼきょうだいなら……」

 ぼくとお兄様が結婚することは、何の問題もないというわけだ。

「大丈夫だリュカ、派閥間の溝が埋まるまでの婚約だ。リュカに好いた人ができれば、婚約を解除すればいい」
「う、うん。そうだよね」

 でもオディロン先生の見た未来では、謁見の間で二人並んでたんだよね。それって結婚したってことだよね。
 なんて情報は、ぼくの口からは言えなかったのだ。
 だってだって、意識しちゃったらお兄様の顔をまともに見れなくなっちゃいそうなんだもん!

「リュカの誕生日パーティで、婚約を周知しよう。そうすれば、大々的に知れ渡るであろう」

 あわわ、着々と計画が組み立てられていくよ!

「しかしそのためには、乗り越えねばならない関門があるな」
「かんもんって?」
「もちろん――親御さんへのご挨拶だ」
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