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第五十話 犯人逮捕!
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「これが最後の定期健診でございます。次回は一週間後になります」
セドリックによる毎朝の定期健診が、ついに必要なくなることとなったのだ。
「わーい!」
ぼくはバンザイして喜んだ。
「ふふふ、健康になれてようございましたね」
「うん、びょーきなおった!」
椅子から下りると、わちゃわちゃと喜びの舞を披露した。
「殿下が健康になられて、私も専属医術士として嬉しい限りでございます」
「あ、そーいえばセドリックって、最初からぼくのせんぞくだったっけ?」
いかにも気になっただけ、という感じで聞いた。
「いいえ、私は最初は副専属医術士でしたよ。殿下が熱で伏せっている間に、交代して私が主専属になったのでございます」
「ふーん、それってなんで?」
「これは殿下にお伝えしてはいけないことなのですが……内緒にしてくださいますね?」
「うん、ないしょにする!」
こくこく、ぼくは頷いた。
「前任の専属医術士は、殿下が伏せっておられる間に酷い誤診をしたのでございます。まだ生きているにも関わらず、『死んだ』と診断を下したのでございます。幸いすぐに誤診だったと判明したからよいものの……。それで私に交代したのです」
ぼくが一度死んで、極道の跡継ぎのお兄さんの魂が入ってきたときのことだ。
前の専属医術士さんは間違っていないのに、悪いことしちゃったな。
「殿下は酷く苦しまれておりましたから、そのときのやり取りは覚えておられないでしょう。いつの間にか私が専属になっていて、『あれ?』って思っておりましたかな?」
「うん、あれってなってた!」
ぼくはハキハキと答えた。
本当は前の専属医術士の顔なんて、覚えてないんだけれど。
「それでは、また一週間後にお会いしましょう」
セドリックは退室しようとした。
ちょうどその瞬間、部屋の扉を開けてセドリックの前に立ち塞がる者がいた。
「おっと、その前にオレたちに少し話を聞かせてはくれないか?」
シルヴェストルお兄様にオディロン先生、そしてカミーユだ。
「セドリック様。部屋の中央にお戻りいただけますね?」
カシャリと音を立てて、アランがセドリックの手に手錠のようなものをかけた。
どこにでもいそうな小太りのおっさんのセドリックの顔に、一筋の冷や汗が伝った。
手錠のような金属で両腕を封じられたセドリックが、部屋の中央の長椅子に座らされる。
ぼくはシルヴェストルお兄様の手を握り、お兄様の隣に立っている。
「これは一体、なんの真似でしょう……?」
セドリックは戸惑っているように見える。
「セドリック、お前には誘拐教唆と殺人未遂の疑いがかかっている」
シルヴェストルお兄様が、前置きもなく言い放った。
「わ、私が誘拐……? 殺人未遂……? これは一体、なんの冗談ですかな?」
セドリックは怯えた様子で、顎の肉をぷるんと震わせた。
「捕えられた誘拐犯に使われた毒は、合成魔術薬だった。医術士であるお前ならば、本業の薬術士ほどではないにせよ知識はあるだろう。合成は可能だったに違いない。それに、お前は毎朝リュカの部屋に出入りしている。誘拐犯どもを手引きすることはできただろう」
「そんな、それだけでお疑いになるなんて……!」
セドリックは青褪めた顔で、必死に首を横に振った。ほっぺたのお肉も顎のお肉も、ぶるんぶるんぶるんとしている。
なんだか、無罪の人みたいだ。本当にセドリックがやったのかなと思えてきてしまう。
「それだけではない。去年の秋、お前はリュカに毒を盛っただろう」
「……」
それまでぶるぶると震えていたセドリックが、突然ぴたりと動きを止めた。
「リュカに毒を盛るのは、誰にでもできることではない。それこそ専属医術士か……当時副専属医術士だったお前か。リュカに盛った毒も、合成魔術薬だったのだろう。合成魔術薬ならば、医術士の目を欺いて病のように見せかける遅効性の毒薬もあると聞いた」
お兄様が、セドリックを容赦なく追い詰めていく。
今思えば、何度か熱を出したくらいですぐに回復したのは、そもそも病気ではなかったからなのだ。
「……証拠はあるのですかな? 前任の専属医術士の犯行の可能性もあるのでは?」
俯いたセドリックの顔色は見えず、急に不気味に映った。
「『あれは病気だった』ではなく、証拠の有無を尋ねている時点で自白しているようなものだが……証拠などいらないことは、よくよく承知しているだろう?」
傍らでセドリックを睨んでいたオディロン先生が、お兄様の言葉を引き取り口を開いた。
「我ら占術士には、対象の過去を見る過去視の占術があります。複数名の宮廷占術士が何日もかかって行使する大魔術になるので、どのような犯罪にも行使する類の魔術ではございません。ですがもちろん、王族の暗殺未遂ともなれば行使されることとなります」
「……くっ」
セドリックはガクリと肩を落とした。
やがてゆっくりと顔を上げたセドリックは、告白した。
「そうです、私がやりました」
セドリックがすべての黒幕だったのだ……!
セドリックによる毎朝の定期健診が、ついに必要なくなることとなったのだ。
「わーい!」
ぼくはバンザイして喜んだ。
「ふふふ、健康になれてようございましたね」
「うん、びょーきなおった!」
椅子から下りると、わちゃわちゃと喜びの舞を披露した。
「殿下が健康になられて、私も専属医術士として嬉しい限りでございます」
「あ、そーいえばセドリックって、最初からぼくのせんぞくだったっけ?」
いかにも気になっただけ、という感じで聞いた。
「いいえ、私は最初は副専属医術士でしたよ。殿下が熱で伏せっている間に、交代して私が主専属になったのでございます」
「ふーん、それってなんで?」
「これは殿下にお伝えしてはいけないことなのですが……内緒にしてくださいますね?」
「うん、ないしょにする!」
こくこく、ぼくは頷いた。
「前任の専属医術士は、殿下が伏せっておられる間に酷い誤診をしたのでございます。まだ生きているにも関わらず、『死んだ』と診断を下したのでございます。幸いすぐに誤診だったと判明したからよいものの……。それで私に交代したのです」
ぼくが一度死んで、極道の跡継ぎのお兄さんの魂が入ってきたときのことだ。
前の専属医術士さんは間違っていないのに、悪いことしちゃったな。
「殿下は酷く苦しまれておりましたから、そのときのやり取りは覚えておられないでしょう。いつの間にか私が専属になっていて、『あれ?』って思っておりましたかな?」
「うん、あれってなってた!」
ぼくはハキハキと答えた。
本当は前の専属医術士の顔なんて、覚えてないんだけれど。
「それでは、また一週間後にお会いしましょう」
セドリックは退室しようとした。
ちょうどその瞬間、部屋の扉を開けてセドリックの前に立ち塞がる者がいた。
「おっと、その前にオレたちに少し話を聞かせてはくれないか?」
シルヴェストルお兄様にオディロン先生、そしてカミーユだ。
「セドリック様。部屋の中央にお戻りいただけますね?」
カシャリと音を立てて、アランがセドリックの手に手錠のようなものをかけた。
どこにでもいそうな小太りのおっさんのセドリックの顔に、一筋の冷や汗が伝った。
手錠のような金属で両腕を封じられたセドリックが、部屋の中央の長椅子に座らされる。
ぼくはシルヴェストルお兄様の手を握り、お兄様の隣に立っている。
「これは一体、なんの真似でしょう……?」
セドリックは戸惑っているように見える。
「セドリック、お前には誘拐教唆と殺人未遂の疑いがかかっている」
シルヴェストルお兄様が、前置きもなく言い放った。
「わ、私が誘拐……? 殺人未遂……? これは一体、なんの冗談ですかな?」
セドリックは怯えた様子で、顎の肉をぷるんと震わせた。
「捕えられた誘拐犯に使われた毒は、合成魔術薬だった。医術士であるお前ならば、本業の薬術士ほどではないにせよ知識はあるだろう。合成は可能だったに違いない。それに、お前は毎朝リュカの部屋に出入りしている。誘拐犯どもを手引きすることはできただろう」
「そんな、それだけでお疑いになるなんて……!」
セドリックは青褪めた顔で、必死に首を横に振った。ほっぺたのお肉も顎のお肉も、ぶるんぶるんぶるんとしている。
なんだか、無罪の人みたいだ。本当にセドリックがやったのかなと思えてきてしまう。
「それだけではない。去年の秋、お前はリュカに毒を盛っただろう」
「……」
それまでぶるぶると震えていたセドリックが、突然ぴたりと動きを止めた。
「リュカに毒を盛るのは、誰にでもできることではない。それこそ専属医術士か……当時副専属医術士だったお前か。リュカに盛った毒も、合成魔術薬だったのだろう。合成魔術薬ならば、医術士の目を欺いて病のように見せかける遅効性の毒薬もあると聞いた」
お兄様が、セドリックを容赦なく追い詰めていく。
今思えば、何度か熱を出したくらいですぐに回復したのは、そもそも病気ではなかったからなのだ。
「……証拠はあるのですかな? 前任の専属医術士の犯行の可能性もあるのでは?」
俯いたセドリックの顔色は見えず、急に不気味に映った。
「『あれは病気だった』ではなく、証拠の有無を尋ねている時点で自白しているようなものだが……証拠などいらないことは、よくよく承知しているだろう?」
傍らでセドリックを睨んでいたオディロン先生が、お兄様の言葉を引き取り口を開いた。
「我ら占術士には、対象の過去を見る過去視の占術があります。複数名の宮廷占術士が何日もかかって行使する大魔術になるので、どのような犯罪にも行使する類の魔術ではございません。ですがもちろん、王族の暗殺未遂ともなれば行使されることとなります」
「……くっ」
セドリックはガクリと肩を落とした。
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