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第四十九話 捜査会議は続き、ぼくは気がついた
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「おいカミーユ、オレのリュカを悲しませるようなことを口にするな」
しょんぼりしたぼくを見て、シルヴェストルお兄様はカミーユを睨んだ。
「これは申し訳ございません、謹んでお詫び申し上げます」
カミーユは芝居がかった動きで、頭を下げた。
「ならば、一旦『誰が』は置いておきましょう。次は『どうやって』について考えましょうか」
オディロン先生が、捜査会議の進行をしてくれる。
どうやって、ハウダニットだ……!
「誘拐犯らの毒殺に使われた毒薬は、合成魔術薬でした。このポーションのようなね」
オディロン先生は、自分が飲んでいた魔力回復ポーションを軽く掲げた。あれは「合成魔術薬」の一種のようだ。普通のお薬とは違うもののようだ。
「となれば、その辺の人間に簡単に入手できるものではないな」
お兄様が呟いた。
「その通りでございます。専門的がなければ、作り出すことは不可能です。城の薬術棟の合成魔術薬も厳重に管理されており、そこから紛失した薬はないとのことです」
ふーん、すっごい毒薬ってことなのかな。
とぼくは足をぶらぶらさせた。
「リュカ殿下は、殿下のお部屋から攫われました。あのごろつきどものような者たちが、城に入れるはずがありません。黒幕が、城内部に犯人らを手引きしたんでしょう」
アランが真剣な顔で意見する。
騎士として、城の警備に詳しいのだろう。
「つまり黒幕は、城の人間である可能性が高いということか」
「俺はそう思います」
お兄様の言葉に、アランは頷いた。
「合成魔術薬の知識を持つ、城の内部の人間か……それだけでは絞り切れんな。リュカ、何か覚えていることはないか? なんでもいいんだ、教えてくれ」
お兄様に真剣な眼差しを向けられ、ぼくは考えてみることにした。
お兄様は誘拐されたときのことを言っているんだろうけれど、ここは前世でプレイしたゲームの知識を思い出してみよう。
と言っても、ラスボスの幼少期なんて、あまりゲームの中で語られていないからなあ。
ラスボスが小さいときに誘拐されてたなんて話、ゲームの中では聞いたことないけれど。
というか、ゲームの中で誘拐事件が起こってたなら、今のぼくとお兄様とは違って仲が悪かったんだから、シルヴェストルは捕まっちゃってたんじゃないの?
そしたら、簡単にリュカが王様になれたんじゃない? わざわざシルヴェストルを斬り殺すまでもないんじゃないかな。
つまり、ゲームの中では誘拐事件が起こってなかった……?
ゲームの中で起こってないことが起きているのは、どうして?
とても重要なことに気がついてしまった。そんな予感がひしひしとした。
「ね、ねえオディロン先生! 未来が変わるときって、どんなときなの?」
ぼくは焦った声で聞いた。
「未来が変化するとき? それが重要なのですかな?」
「いいから、教えて!」
「リュカがこう言っているんだ、教えてやれ」
ぼくのお願いに、お兄様が加勢してくれた。
「よくわかりませんが、かしこまりました。占術によって見た未来が変化するとき、大抵は人の強い意志による決断が関わります」
「強い意志による決断……?」
「そうですね、例えば私がリュカ殿下に最高級のキータの実をプレゼントするかどうか迷っていたとします。最高級のキータの実は高価すぎて、私のお財布の中のお金だけでは足りません。この時点では私は殿下にキータの実をプレゼントしない可能性が高く、殿下の未来を占えば、キータの実を食べられない未来が出てくるでしょう」
「うんうん」
ぼくは説明を大人しく聞く。
「ですが私が決心をして、借金をしてまで最高級キータの実を買うことにしたとします。すると殿下の未来は変化し、キータの実を食べられる未来に変わります」
「ほうほう」
「決心をするのは未来が変わった当人かもしれませんし、あるいは今の例のように他の誰かの決断が影響するかもしれません。誰の決断が未来を変えたのか、占術士にはわかりません」
「未来を変えるのは、誰かの決断なの? それ以外のことはないの?」
「ええ、そうでございます。未来を変えられるのは、意志の力だけでございますから」
それなら、ぼくの未来が変わったのはおかしい。
今までぼくは、一度死んで極道の跡継ぎのお兄さんの魂が身体に入ってきたから、自分の未来が変わったのだと思っていた。
でも、「生まれ変わった」は決断と言えるだろうか?
「あ……ちがう……!」
はっと気がついた。
そもそも「一度死んだ」ことがおかしいのだと。
だって子供のときに病気で死んでいたら、ゲームの中のリュカは悪の皇帝になれないじゃないか。
ゲームの中のリュカは、病気で死んではいない!
「オディロン先生、ぼくの未来が変わったのは正確にはいつ⁉」
「いつ、ですか? たしか……昨年の秋。殿下がお病気で倒れられたころでございます」
ぞっとした。
ぼくが病気で倒れたころに未来が変わったのなら、ぼくが生まれ変わるより前のことじゃないか!
最初から、ゲームの中とは違う出来事が起こっていたんだ。ぼくはずっと、それに気がついていなかった。
「……考えてみれば、未来が変わるにはおかしなタイミングでございますね」
オディロン先生もおかしさに気がついたようで、深刻な顔つきになった。
まず、とある誰かが「決断」を下した。
そうしたら、ぼくが病気で死にかけた。というか死んだ。だから、極道の跡継ぎのお兄さんの魂が転生してくることができた。
つまり「決断」の内容って、ぼくが一度死んだのって、病気じゃなくて暗殺だったってこと……?
「ぼく、毒をもられてたのかもしれない」
ぼくの呟きに、みんながさっと顔色を変えた。
「病気で倒れたのではなく、暗殺されかけていたというのか⁉」
「うん、そういうことだとおもう。それがぼくの未来をかえた『決断』だよ」
ぼくはしっかりと頷いた。
「しかし、医術士の目をかいくぐって殿下に毒を盛れる者など限られておりますぞ」
「うん、だからみんなもうだれが犯人か、わかったよね」
誘拐事件とぼくの暗殺事件、どちらもゲームになかった出来事だ。
だからこの二つの事件の黒幕は、同じやつだ。
ぼくは確信していた――――
しょんぼりしたぼくを見て、シルヴェストルお兄様はカミーユを睨んだ。
「これは申し訳ございません、謹んでお詫び申し上げます」
カミーユは芝居がかった動きで、頭を下げた。
「ならば、一旦『誰が』は置いておきましょう。次は『どうやって』について考えましょうか」
オディロン先生が、捜査会議の進行をしてくれる。
どうやって、ハウダニットだ……!
「誘拐犯らの毒殺に使われた毒薬は、合成魔術薬でした。このポーションのようなね」
オディロン先生は、自分が飲んでいた魔力回復ポーションを軽く掲げた。あれは「合成魔術薬」の一種のようだ。普通のお薬とは違うもののようだ。
「となれば、その辺の人間に簡単に入手できるものではないな」
お兄様が呟いた。
「その通りでございます。専門的がなければ、作り出すことは不可能です。城の薬術棟の合成魔術薬も厳重に管理されており、そこから紛失した薬はないとのことです」
ふーん、すっごい毒薬ってことなのかな。
とぼくは足をぶらぶらさせた。
「リュカ殿下は、殿下のお部屋から攫われました。あのごろつきどものような者たちが、城に入れるはずがありません。黒幕が、城内部に犯人らを手引きしたんでしょう」
アランが真剣な顔で意見する。
騎士として、城の警備に詳しいのだろう。
「つまり黒幕は、城の人間である可能性が高いということか」
「俺はそう思います」
お兄様の言葉に、アランは頷いた。
「合成魔術薬の知識を持つ、城の内部の人間か……それだけでは絞り切れんな。リュカ、何か覚えていることはないか? なんでもいいんだ、教えてくれ」
お兄様に真剣な眼差しを向けられ、ぼくは考えてみることにした。
お兄様は誘拐されたときのことを言っているんだろうけれど、ここは前世でプレイしたゲームの知識を思い出してみよう。
と言っても、ラスボスの幼少期なんて、あまりゲームの中で語られていないからなあ。
ラスボスが小さいときに誘拐されてたなんて話、ゲームの中では聞いたことないけれど。
というか、ゲームの中で誘拐事件が起こってたなら、今のぼくとお兄様とは違って仲が悪かったんだから、シルヴェストルは捕まっちゃってたんじゃないの?
そしたら、簡単にリュカが王様になれたんじゃない? わざわざシルヴェストルを斬り殺すまでもないんじゃないかな。
つまり、ゲームの中では誘拐事件が起こってなかった……?
ゲームの中で起こってないことが起きているのは、どうして?
とても重要なことに気がついてしまった。そんな予感がひしひしとした。
「ね、ねえオディロン先生! 未来が変わるときって、どんなときなの?」
ぼくは焦った声で聞いた。
「未来が変化するとき? それが重要なのですかな?」
「いいから、教えて!」
「リュカがこう言っているんだ、教えてやれ」
ぼくのお願いに、お兄様が加勢してくれた。
「よくわかりませんが、かしこまりました。占術によって見た未来が変化するとき、大抵は人の強い意志による決断が関わります」
「強い意志による決断……?」
「そうですね、例えば私がリュカ殿下に最高級のキータの実をプレゼントするかどうか迷っていたとします。最高級のキータの実は高価すぎて、私のお財布の中のお金だけでは足りません。この時点では私は殿下にキータの実をプレゼントしない可能性が高く、殿下の未来を占えば、キータの実を食べられない未来が出てくるでしょう」
「うんうん」
ぼくは説明を大人しく聞く。
「ですが私が決心をして、借金をしてまで最高級キータの実を買うことにしたとします。すると殿下の未来は変化し、キータの実を食べられる未来に変わります」
「ほうほう」
「決心をするのは未来が変わった当人かもしれませんし、あるいは今の例のように他の誰かの決断が影響するかもしれません。誰の決断が未来を変えたのか、占術士にはわかりません」
「未来を変えるのは、誰かの決断なの? それ以外のことはないの?」
「ええ、そうでございます。未来を変えられるのは、意志の力だけでございますから」
それなら、ぼくの未来が変わったのはおかしい。
今までぼくは、一度死んで極道の跡継ぎのお兄さんの魂が身体に入ってきたから、自分の未来が変わったのだと思っていた。
でも、「生まれ変わった」は決断と言えるだろうか?
「あ……ちがう……!」
はっと気がついた。
そもそも「一度死んだ」ことがおかしいのだと。
だって子供のときに病気で死んでいたら、ゲームの中のリュカは悪の皇帝になれないじゃないか。
ゲームの中のリュカは、病気で死んではいない!
「オディロン先生、ぼくの未来が変わったのは正確にはいつ⁉」
「いつ、ですか? たしか……昨年の秋。殿下がお病気で倒れられたころでございます」
ぞっとした。
ぼくが病気で倒れたころに未来が変わったのなら、ぼくが生まれ変わるより前のことじゃないか!
最初から、ゲームの中とは違う出来事が起こっていたんだ。ぼくはずっと、それに気がついていなかった。
「……考えてみれば、未来が変わるにはおかしなタイミングでございますね」
オディロン先生もおかしさに気がついたようで、深刻な顔つきになった。
まず、とある誰かが「決断」を下した。
そうしたら、ぼくが病気で死にかけた。というか死んだ。だから、極道の跡継ぎのお兄さんの魂が転生してくることができた。
つまり「決断」の内容って、ぼくが一度死んだのって、病気じゃなくて暗殺だったってこと……?
「ぼく、毒をもられてたのかもしれない」
ぼくの呟きに、みんながさっと顔色を変えた。
「病気で倒れたのではなく、暗殺されかけていたというのか⁉」
「うん、そういうことだとおもう。それがぼくの未来をかえた『決断』だよ」
ぼくはしっかりと頷いた。
「しかし、医術士の目をかいくぐって殿下に毒を盛れる者など限られておりますぞ」
「うん、だからみんなもうだれが犯人か、わかったよね」
誘拐事件とぼくの暗殺事件、どちらもゲームになかった出来事だ。
だからこの二つの事件の黒幕は、同じやつだ。
ぼくは確信していた――――
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