40 / 57
第四十話 ふわふわシフォンケーキタイム
しおりを挟む
「リュカ殿下、あと一月後にはシルヴェストル殿下のお誕生日パーティがありますね」
専属医術士のセドリックが話しかけてきたのは、朝の定期健診のときのことだった。
「そうなの?」
「ええ、この調子であればもちろんパーティには参加していただいて構いませんからね」
「わーい!」
シルヴェストルお兄様の誕生日パーティに出られる。
なんと素晴らしいのだろう。
そういえばぼくがほとんどパーティに出た記憶がないのは、病弱だったからなのかな。
「殿下はどんどん元気になっておりますね。一年後には、わんぱくに庭を駆け回っているかもしれませんね。いえ、一年と言わず数ヶ月後にでも」
「ほんとう? やったー!」
病弱じゃなくなるなんて、素晴らしい!
それにしても、なんで急に元気になれたんだろう。スイーツをたくさん食べて幸せだからかなあ。
それからぼくは新たなスイーツを持って、シルヴェストルお兄様の部屋に遊びに行った。
卵黄だけプリンの副産物である、シフォンケーキだ。
シフォンケーキはパウンドケーキよりもたっぷりと卵白を入れて、かつパウンドケーキとは違ってバターは使わないのだ。
そうすると、ふんわりふわふわシフォンケーキになる。
「おにいちゃまー!」
「リュカ!」
部屋に入るなり、ぼくはシルヴェストルお兄様に抱き着いた。お兄様はぎゅっと抱き締め返してくれた。
「わっ!」
ひとしきりハグを堪能したあと、お兄様の部屋の様子に気がついて驚いた。
たくさん人がいる!
護衛騎士らしき人が三人も壁際に控えていて、側仕えらしき人が四、五人で忙しく立ち働いてお茶会の準備を手早く整えていた。
あっという間にシフォンケーキは切り分けられ、カップからは紅茶の湯気が上がっていた。
「これぜんぶおにいちゃまにつかえているひと?」
母親になんとかしてもらうと言っていたが、一気にこんなに増えるなんてびっくりだ。
「これですべてではない。交代制だからな。オレに仕える者は全部でこの三倍はいる」
「ひょえ」
ぼくも部屋の掃除とか服を着替えさせてくれる使用人はたくさんいるけれど、「ぼく専用の使用人」とはっきり決まっている人はステラぐらいしかいないんだよね。
もっと大きくなったら、護衛とか側仕えを自分で決められるようになると聞いている。
ぼくは長椅子に座らせてもらい、お兄様とのお茶会が始まった。
フォークを手に取り、シフォンケーキを一口分ぱくりと食べた。
うーん、ふわふわ! 軽い!
素晴らしいスイーツに仕上がっていた。
まだショートケーキは食べられないけれど、いろいろとスイーツは食べられるようになった。なんと素晴らしいことだろう。
諦めずにがんばってみるものだね。
「シフォンケーキ、だったか。これも美味いな。リュカはどんどん新しい美味なるものを思いついていくな」
シフォンケーキを口にしたお兄様が褒めてくれた。えへへ、これからもスイーツ作りがんばっちゃおうかな。
「スポンジケーキを作れなくっちゃいけないからね。スポンジケーキは、パウンドケーキとシフォンケーキの間くらいのケーキなんだよ」
軽さや味の濃さが、ちょうど中間くらいなのだ。
「スポンジケーキとは、ショートケーキに必要なものだったか?」
「うん!」
相変わらず、クリームを作る見通しは立っていない。
たしか、遠心分離機で牛乳をぐるぐるぐる~ってしてクリームとそうじゃないものに分けるのだ。
遠心分離機なんて中世みたいなこの世界にあるわけないし、どうしよう。
「ところで、おにいちゃまって来月おたんじょうびなの?」
「ああ、そういえばもうそんな時期だったか。そうだ、来月はオレの誕生日がある」
「ぼくね、おにいちゃまのおたんじょうびパーティにでてもいいって、セドリックにいわれたよ!」
「ん? セドリック?」
「セドリックはね、ぼくのせんぞくいじゅつしだよ」
「ああ、そうか医術士の名か。医術士から許可が出たのだな。リュカがパーティに来てくれるなら、オレも嬉しい」
シルヴェストルお兄様は、柔らかく微笑んでくれた。
お兄様がぼくを歓迎してくれていると知り、胸の内が暖かくなる。
「あのねあのねそれでね、ぼくはこれからどんどん元気になっていて、わんぱくになるんだって!」
「体調がよくなると言ってもらえたのか? それは素晴らしい! お祝いをしなくっちゃな!」
「わっ」
お兄様がぼくの身体に手を回すと、ぼくを抱き上げてしまった!
ビックリしたけれど、お兄様のテンションの高さが伝わってきて、こっちまで嬉しくなってしまう。
「リュカ、食べたいものはあるか? パーティを開こう!」
「おにいちゃまのパーティもあるのに、パーティだらけになっちゃうよ~」
おかしくなって、クスクスと笑った。
「いいじゃないか、リュカは今まであまりパーティに参加できなかったのだろう? 今までの分、二倍も三倍もパーティを開けばいい」
「ええ~?」
なんて楽しい計画だろう。先のことを考えると、楽しくてたまらなくなってしまう。
「じゃあ、ぼくのおたんじょうびパーティにおにいちゃまもきてほしいな」
「もちろん、行くに決まっているさ」
シルヴェストルお兄様は、ぼくの身体をそっと膝の上に下ろした。お兄様の膝が温かくて柔らかい。
「それで、パーティでは何を食べたいんだ?」
最初の問いに戻ってきた。
「うーんと、スイーツ」
「今も食べているじゃないか」
「えーとじゃあ、特別なスイーツ!」
「特別なスイーツか。わかった」
わかったって返事してくれたけれど、お兄様がスイーツを作ってくれるのかな?
ふわふわ幸せなシフォンケーキタイムだった。
専属医術士のセドリックが話しかけてきたのは、朝の定期健診のときのことだった。
「そうなの?」
「ええ、この調子であればもちろんパーティには参加していただいて構いませんからね」
「わーい!」
シルヴェストルお兄様の誕生日パーティに出られる。
なんと素晴らしいのだろう。
そういえばぼくがほとんどパーティに出た記憶がないのは、病弱だったからなのかな。
「殿下はどんどん元気になっておりますね。一年後には、わんぱくに庭を駆け回っているかもしれませんね。いえ、一年と言わず数ヶ月後にでも」
「ほんとう? やったー!」
病弱じゃなくなるなんて、素晴らしい!
それにしても、なんで急に元気になれたんだろう。スイーツをたくさん食べて幸せだからかなあ。
それからぼくは新たなスイーツを持って、シルヴェストルお兄様の部屋に遊びに行った。
卵黄だけプリンの副産物である、シフォンケーキだ。
シフォンケーキはパウンドケーキよりもたっぷりと卵白を入れて、かつパウンドケーキとは違ってバターは使わないのだ。
そうすると、ふんわりふわふわシフォンケーキになる。
「おにいちゃまー!」
「リュカ!」
部屋に入るなり、ぼくはシルヴェストルお兄様に抱き着いた。お兄様はぎゅっと抱き締め返してくれた。
「わっ!」
ひとしきりハグを堪能したあと、お兄様の部屋の様子に気がついて驚いた。
たくさん人がいる!
護衛騎士らしき人が三人も壁際に控えていて、側仕えらしき人が四、五人で忙しく立ち働いてお茶会の準備を手早く整えていた。
あっという間にシフォンケーキは切り分けられ、カップからは紅茶の湯気が上がっていた。
「これぜんぶおにいちゃまにつかえているひと?」
母親になんとかしてもらうと言っていたが、一気にこんなに増えるなんてびっくりだ。
「これですべてではない。交代制だからな。オレに仕える者は全部でこの三倍はいる」
「ひょえ」
ぼくも部屋の掃除とか服を着替えさせてくれる使用人はたくさんいるけれど、「ぼく専用の使用人」とはっきり決まっている人はステラぐらいしかいないんだよね。
もっと大きくなったら、護衛とか側仕えを自分で決められるようになると聞いている。
ぼくは長椅子に座らせてもらい、お兄様とのお茶会が始まった。
フォークを手に取り、シフォンケーキを一口分ぱくりと食べた。
うーん、ふわふわ! 軽い!
素晴らしいスイーツに仕上がっていた。
まだショートケーキは食べられないけれど、いろいろとスイーツは食べられるようになった。なんと素晴らしいことだろう。
諦めずにがんばってみるものだね。
「シフォンケーキ、だったか。これも美味いな。リュカはどんどん新しい美味なるものを思いついていくな」
シフォンケーキを口にしたお兄様が褒めてくれた。えへへ、これからもスイーツ作りがんばっちゃおうかな。
「スポンジケーキを作れなくっちゃいけないからね。スポンジケーキは、パウンドケーキとシフォンケーキの間くらいのケーキなんだよ」
軽さや味の濃さが、ちょうど中間くらいなのだ。
「スポンジケーキとは、ショートケーキに必要なものだったか?」
「うん!」
相変わらず、クリームを作る見通しは立っていない。
たしか、遠心分離機で牛乳をぐるぐるぐる~ってしてクリームとそうじゃないものに分けるのだ。
遠心分離機なんて中世みたいなこの世界にあるわけないし、どうしよう。
「ところで、おにいちゃまって来月おたんじょうびなの?」
「ああ、そういえばもうそんな時期だったか。そうだ、来月はオレの誕生日がある」
「ぼくね、おにいちゃまのおたんじょうびパーティにでてもいいって、セドリックにいわれたよ!」
「ん? セドリック?」
「セドリックはね、ぼくのせんぞくいじゅつしだよ」
「ああ、そうか医術士の名か。医術士から許可が出たのだな。リュカがパーティに来てくれるなら、オレも嬉しい」
シルヴェストルお兄様は、柔らかく微笑んでくれた。
お兄様がぼくを歓迎してくれていると知り、胸の内が暖かくなる。
「あのねあのねそれでね、ぼくはこれからどんどん元気になっていて、わんぱくになるんだって!」
「体調がよくなると言ってもらえたのか? それは素晴らしい! お祝いをしなくっちゃな!」
「わっ」
お兄様がぼくの身体に手を回すと、ぼくを抱き上げてしまった!
ビックリしたけれど、お兄様のテンションの高さが伝わってきて、こっちまで嬉しくなってしまう。
「リュカ、食べたいものはあるか? パーティを開こう!」
「おにいちゃまのパーティもあるのに、パーティだらけになっちゃうよ~」
おかしくなって、クスクスと笑った。
「いいじゃないか、リュカは今まであまりパーティに参加できなかったのだろう? 今までの分、二倍も三倍もパーティを開けばいい」
「ええ~?」
なんて楽しい計画だろう。先のことを考えると、楽しくてたまらなくなってしまう。
「じゃあ、ぼくのおたんじょうびパーティにおにいちゃまもきてほしいな」
「もちろん、行くに決まっているさ」
シルヴェストルお兄様は、ぼくの身体をそっと膝の上に下ろした。お兄様の膝が温かくて柔らかい。
「それで、パーティでは何を食べたいんだ?」
最初の問いに戻ってきた。
「うーんと、スイーツ」
「今も食べているじゃないか」
「えーとじゃあ、特別なスイーツ!」
「特別なスイーツか。わかった」
わかったって返事してくれたけれど、お兄様がスイーツを作ってくれるのかな?
ふわふわ幸せなシフォンケーキタイムだった。
110
お気に入りに追加
2,018
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
君の手の温もりが…
海花
BL
親同士の再婚で兄弟になった俊輔と葵。
水への恐怖症を抱える俊輔を守ろうとする葵と、そんなに葵が好きだと気付いてしまった俊輔が、様々な出会いによってすれ違い傷付き、それでも惹かれ合う…。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる