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第二十八話 おぬしも悪よのう

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 カミーユを含めた商人たちが片づけをして去った後、シルヴェストルお兄様はオディロン先生もステラもアランも部屋から追い出してしまった。
 ぼくたちは完全にふたりきりになった。

「リュカ、面白いものを見せてやろう」

 シルヴェストルお兄様は、テーブルの上に置かれた木箱に触れた。先ほどカミーユにプレゼントされたものだ。
 彼はそっと木箱の蓋を取った。
 中には、梱包材に包まれて黄色の果実が鎮座している。

「これが面白いものなの?」
「まあ見ていろ」

 次に彼は果実を中から取り出すと横に置き、梱包材も取り除いてしまった。木箱の底が顔を覗かせる。
 底の端っこに、指をかける。すると底がずれ、二重底であることが露わになった。
 二重底に仕込まれていたものは……

「わああ!」

 光り輝く金貨だった。
 金貨が二重底に敷き詰められていたのだ。
 
「受け取ったときに、重さで気付いたのだ」

 シルヴェストルお兄様は、ニヤリと笑った。

「こ、こ、こ、これってワイロ⁉」

 賄賂というのは、二人っきりで夜の密会をしながら「越後屋、おぬしも悪よのう」なんて笑って受け取るものではないのだろうか。
 まさか、あんなに堂々と手渡してくるなんて!
 
 あの爽やかなおぼっちゃん風の商人が、賄賂を贈ってくるのも驚きだ。
 カミーユ、おぬしも悪よのう。心の中で呟いてみる。

「これが権力を握るということだ。リュカ、お前も慣れておけ」

 笑いながら、シルヴェストルお兄様は金貨を二つの革袋に詰めていく。そして革袋の片方をぼくにくれた。
 おお、ずっしり重い。

「臨時収入だ、好きな物を買うのに使え」
「わーい、やったー!」

 ぼくは革袋の中の金貨をチャラチャラ言わせ、音を楽しんだ。
 お兄様、最高! 賄賂にもスマートに対応できる、熟練のワルワル王子様だ。

「それにしても、なんでワイロをくれたのかな?」

 きょとんと首を傾げてみる。

「オレたちは将来王になる存在だからな。王じゃなかったとしても、公爵だ。仲良くなっておきたいのだろう。『格別のお引き立てを』というわけだ」

 シルヴェストルお兄様が説明してくれる。
 この国では王様になれなかった王族は、公爵になるというルールだと聞いた。
 
「なかよし料だ……!」
「なかよし料とは上手いことを言うな。そうだとも、オレたちと仲を深めるための代金さ」

 あるいは、と思う。
 ナム酒の新たな利用法があることをぽろっと漏らしてしまったときの、彼の鋭い目つき。彼はナム酒の利用法を知りたいのではないだろうか。

 知りたいならば、教えてしまえばいい。
 ただし、ぼくのために存分に働いてもらおう。

 ぼくはお兄様そっくりのワルワルなニヤリ顔になった。

「ねえおにいちゃま、ぼく、いいことおもいついちゃった」
「ほう、それは興味深い。聞かせてみろ」

 ぼくの言葉に、赤い瞳が細められる。
 二人で悪人面になって、計画・・を話し合ったのだった。
 計画をひとしきり話し合うと、シルヴェストルお兄様が言った。

「いい考えだ。ただ、ヨクタベレール商会が信用できるかどうか少し調査しておきたいところだな」
「ちょーさ?」
「手を組む相手のことは、調べておくものだ。常識だぞ」

 シルヴェストルお兄様は、ワルワル王子様の極意を伝授してくれた。

「あ……ひらめいた! ちょーさをするなら、オディロンせんせーに占ってもらえばいいんだよ! せんせーもスイーツすきだから、きっとやってくれるよ!」

 素晴らしい案だと思って、口に出した。
 
「宮廷占術士に占ってもらう、だと……?」

 シルヴェストルお兄様の眉が吊り上がったかと思うと――

「ハハハハハ、流石はオレのリュカだ、天才だな! その発想はなかった。いいだろう、やってみよう!」

 ――高笑いを始めた。
 やった、ほめてもらえた! 嬉しい!

 こうして、ぼくらはオディロン先生も計画に引き込むことになったのだった。
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