28 / 57
第二十八話 おぬしも悪よのう
しおりを挟む
カミーユを含めた商人たちが片づけをして去った後、シルヴェストルお兄様はオディロン先生もステラもアランも部屋から追い出してしまった。
ぼくたちは完全にふたりきりになった。
「リュカ、面白いものを見せてやろう」
シルヴェストルお兄様は、テーブルの上に置かれた木箱に触れた。先ほどカミーユにプレゼントされたものだ。
彼はそっと木箱の蓋を取った。
中には、梱包材に包まれて黄色の果実が鎮座している。
「これが面白いものなの?」
「まあ見ていろ」
次に彼は果実を中から取り出すと横に置き、梱包材も取り除いてしまった。木箱の底が顔を覗かせる。
底の端っこに、指をかける。すると底がずれ、二重底であることが露わになった。
二重底に仕込まれていたものは……
「わああ!」
光り輝く金貨だった。
金貨が二重底に敷き詰められていたのだ。
「受け取ったときに、重さで気付いたのだ」
シルヴェストルお兄様は、ニヤリと笑った。
「こ、こ、こ、これってワイロ⁉」
賄賂というのは、二人っきりで夜の密会をしながら「越後屋、おぬしも悪よのう」なんて笑って受け取るものではないのだろうか。
まさか、あんなに堂々と手渡してくるなんて!
あの爽やかなおぼっちゃん風の商人が、賄賂を贈ってくるのも驚きだ。
カミーユ、おぬしも悪よのう。心の中で呟いてみる。
「これが権力を握るということだ。リュカ、お前も慣れておけ」
笑いながら、シルヴェストルお兄様は金貨を二つの革袋に詰めていく。そして革袋の片方をぼくにくれた。
おお、ずっしり重い。
「臨時収入だ、好きな物を買うのに使え」
「わーい、やったー!」
ぼくは革袋の中の金貨をチャラチャラ言わせ、音を楽しんだ。
お兄様、最高! 賄賂にもスマートに対応できる、熟練のワルワル王子様だ。
「それにしても、なんでワイロをくれたのかな?」
きょとんと首を傾げてみる。
「オレたちは将来王になる存在だからな。王じゃなかったとしても、公爵だ。仲良くなっておきたいのだろう。『格別のお引き立てを』というわけだ」
シルヴェストルお兄様が説明してくれる。
この国では王様になれなかった王族は、公爵になるというルールだと聞いた。
「なかよし料だ……!」
「なかよし料とは上手いことを言うな。そうだとも、オレたちと仲を深めるための代金さ」
あるいは、と思う。
ナム酒の新たな利用法があることをぽろっと漏らしてしまったときの、彼の鋭い目つき。彼はナム酒の利用法を知りたいのではないだろうか。
知りたいならば、教えてしまえばいい。
ただし、ぼくのために存分に働いてもらおう。
ぼくはお兄様そっくりのワルワルなニヤリ顔になった。
「ねえおにいちゃま、ぼく、いいことおもいついちゃった」
「ほう、それは興味深い。聞かせてみろ」
ぼくの言葉に、赤い瞳が細められる。
二人で悪人面になって、計画を話し合ったのだった。
計画をひとしきり話し合うと、シルヴェストルお兄様が言った。
「いい考えだ。ただ、ヨクタベレール商会が信用できるかどうか少し調査しておきたいところだな」
「ちょーさ?」
「手を組む相手のことは、調べておくものだ。常識だぞ」
シルヴェストルお兄様は、ワルワル王子様の極意を伝授してくれた。
「あ……ひらめいた! ちょーさをするなら、オディロンせんせーに占ってもらえばいいんだよ! せんせーもスイーツすきだから、きっとやってくれるよ!」
素晴らしい案だと思って、口に出した。
「宮廷占術士に占ってもらう、だと……?」
シルヴェストルお兄様の眉が吊り上がったかと思うと――
「ハハハハハ、流石はオレのリュカだ、天才だな! その発想はなかった。いいだろう、やってみよう!」
――高笑いを始めた。
やった、ほめてもらえた! 嬉しい!
こうして、ぼくらはオディロン先生も計画に引き込むことになったのだった。
ぼくたちは完全にふたりきりになった。
「リュカ、面白いものを見せてやろう」
シルヴェストルお兄様は、テーブルの上に置かれた木箱に触れた。先ほどカミーユにプレゼントされたものだ。
彼はそっと木箱の蓋を取った。
中には、梱包材に包まれて黄色の果実が鎮座している。
「これが面白いものなの?」
「まあ見ていろ」
次に彼は果実を中から取り出すと横に置き、梱包材も取り除いてしまった。木箱の底が顔を覗かせる。
底の端っこに、指をかける。すると底がずれ、二重底であることが露わになった。
二重底に仕込まれていたものは……
「わああ!」
光り輝く金貨だった。
金貨が二重底に敷き詰められていたのだ。
「受け取ったときに、重さで気付いたのだ」
シルヴェストルお兄様は、ニヤリと笑った。
「こ、こ、こ、これってワイロ⁉」
賄賂というのは、二人っきりで夜の密会をしながら「越後屋、おぬしも悪よのう」なんて笑って受け取るものではないのだろうか。
まさか、あんなに堂々と手渡してくるなんて!
あの爽やかなおぼっちゃん風の商人が、賄賂を贈ってくるのも驚きだ。
カミーユ、おぬしも悪よのう。心の中で呟いてみる。
「これが権力を握るということだ。リュカ、お前も慣れておけ」
笑いながら、シルヴェストルお兄様は金貨を二つの革袋に詰めていく。そして革袋の片方をぼくにくれた。
おお、ずっしり重い。
「臨時収入だ、好きな物を買うのに使え」
「わーい、やったー!」
ぼくは革袋の中の金貨をチャラチャラ言わせ、音を楽しんだ。
お兄様、最高! 賄賂にもスマートに対応できる、熟練のワルワル王子様だ。
「それにしても、なんでワイロをくれたのかな?」
きょとんと首を傾げてみる。
「オレたちは将来王になる存在だからな。王じゃなかったとしても、公爵だ。仲良くなっておきたいのだろう。『格別のお引き立てを』というわけだ」
シルヴェストルお兄様が説明してくれる。
この国では王様になれなかった王族は、公爵になるというルールだと聞いた。
「なかよし料だ……!」
「なかよし料とは上手いことを言うな。そうだとも、オレたちと仲を深めるための代金さ」
あるいは、と思う。
ナム酒の新たな利用法があることをぽろっと漏らしてしまったときの、彼の鋭い目つき。彼はナム酒の利用法を知りたいのではないだろうか。
知りたいならば、教えてしまえばいい。
ただし、ぼくのために存分に働いてもらおう。
ぼくはお兄様そっくりのワルワルなニヤリ顔になった。
「ねえおにいちゃま、ぼく、いいことおもいついちゃった」
「ほう、それは興味深い。聞かせてみろ」
ぼくの言葉に、赤い瞳が細められる。
二人で悪人面になって、計画を話し合ったのだった。
計画をひとしきり話し合うと、シルヴェストルお兄様が言った。
「いい考えだ。ただ、ヨクタベレール商会が信用できるかどうか少し調査しておきたいところだな」
「ちょーさ?」
「手を組む相手のことは、調べておくものだ。常識だぞ」
シルヴェストルお兄様は、ワルワル王子様の極意を伝授してくれた。
「あ……ひらめいた! ちょーさをするなら、オディロンせんせーに占ってもらえばいいんだよ! せんせーもスイーツすきだから、きっとやってくれるよ!」
素晴らしい案だと思って、口に出した。
「宮廷占術士に占ってもらう、だと……?」
シルヴェストルお兄様の眉が吊り上がったかと思うと――
「ハハハハハ、流石はオレのリュカだ、天才だな! その発想はなかった。いいだろう、やってみよう!」
――高笑いを始めた。
やった、ほめてもらえた! 嬉しい!
こうして、ぼくらはオディロン先生も計画に引き込むことになったのだった。
122
お気に入りに追加
2,018
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる