上 下
25 / 57

第二十五話 お外をお散歩るんるらん

しおりを挟む
「リュカ殿下、最近では体調を崩すことがなくなられましたね」

 朝の検診で、専属医術士のセドリックが笑いかけてくれた。

「この分ならば、外へのお出かけを許可してもよさそうでございますね」
「おそと?」
「ええ、お城の外をお散歩しても大丈夫ですよ」
「やったー!」

 専属医術士が出した許可に、ぼくは歓声を上げた。
 今までは城の中しか散歩できなかったのだ。
 いくらぼくがスイーツにしか興味のない人間だからといっても、数ヶ月間ずっと屋内にいたのでは外の空気くらい恋しくなる。
 ついに外に出られるのだ。嬉しくてたまらない。

 検診が終わってセドリックが去ると、ぼくはすぐにシルヴェストルお兄様に連絡してくれるよう、ステラに頼んだ。
 シルヴェストルお兄様と一緒に、初めての外への散歩に繰り出すのだ。

「ふふ、殿下はすっかりお兄ちゃん子になりましたね」
「べつにそんなんじゃないもん」

 ステラが微笑んだが、ぼくは否定する。
 シルヴェストルお兄様はぼくの兄貴分だ。悪だくみをするときは、いつも一緒じゃなければいけないのだ。

「あらあら、そうでございますか? では、行って参りますね」

 ステラはくすくすと笑ったまま、シルヴェストルお兄様のところへ連絡に行った。
 まったくもう、ぼくは次なるスイーツ作りに余念がないだけなんだからね。勘違いしないでよねっ。
 
 それから少しして、ぼくはシルヴェストルお兄様と手を繋いで城の中庭を歩いていた。
 爽やかな春の風が頬を撫で、花壇に咲く花々が目に鮮やかだ。
 なんて爽やかなんだろう!
 
「あ、ちょうちょだー」

 花の周りを飛んでいる蝶々をぼくは指差した。
 この世界に蝶々は存在しているようで、ぼくは一安心した。
 ついこの間ハチミツは存在しないのかとステラに聞いてみたら、そもそも蜂が存在しないと判明したばかりだから。

「蝶か、捕まえてやろうか?」
「ううん、ちょうちょはたべられないからいい」

 シルヴェストルお兄様の申し出に、首を横に振った。
 蝶々の存在を発見して指差したくなっただけで、捕まえたいわけではない。

「ふふ、リュカは食いしん坊だな」
「たべものならなんでもいいわけじゃないもん!」

 手を繋いでくれている彼を見上げ、ぷくっと頬を膨らませてみせた。

「そうだな、リュカが好きなのはスイーツだったな。次はどんなスイーツを作ろうと企んでるんだ?」

 彼はニヤリと笑ってくれた。
 ぼくは少し考える。

「んーとね、あたらしいスイーツをつくるよりもね、ショートケーキのじゅんびをすすめたいんだ」
「ショートケーキか、以前言っていたな。準備とは何をするんだ?」
「クリームのつくりかたはぜんぜんわかんないけど、イチゴのかわりのフルーツなら、フルーツをたくさん探せばみつかるかなっておもったの」
「ほう、ショートケーキとはフルーツを使うのか。そのために様々なフルーツを見極めたいというのだな。よし、ならば果物商を呼ぼう。ありとあらゆる果物を持ってこさせればいい」
「くだものしょー?」

 ぼくはきょとんと首を傾げた。
 あんまり上を見上げていたら首が痛いなと思っていると、心を読んだかのようにシルヴェストルお兄様が跪いて視線を合わせてくれた。
 なんて優しいお兄様なんだろう!

「自分の部屋に商人を呼んで、商品を持って来させるんだ。王族の買い物とは、そういう風にして行うものだ。リュカもそうすればいい」
「おお、セレブ……!」

 前世でも商人を家に呼ぶなんてしたことない。ぼくは目をキラキラさせた。

「せれぶ? まあとにかく、王室費というのがあって、その金がある限りオレたちは好きな物を買えるんだ。三日後にでも果物商を来させよう」
「うん!」

 こうして、セレブなお買いものをすることになったのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。 後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。 目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。 気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。 街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。 僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。 そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。 それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。 けれど、その幸せは長くは続かなかった。 前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。 そこから、僕の人生は大きく変化していく。 オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。 ✤✤✤ ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。 11/23(土)19:30に完結しました。 番外編も追加しました。 第12回BL大賞 参加作品です。 よろしくお願いします。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

処理中です...