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第九話 ゴリ押しでセックスになだれ込め*

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「その、具合はどうかな?」

 翌日、客室までパトリックさんが様子を見に来てくれた。
 昨日は身体がだるくて結局また泊まらせてもらったのだ。
 ギルドのメンバーでもないのに、二泊もしてしまった。

「麻痺はもうすっかり解けたみたいです。もう大丈夫です」

 俺は彼に笑いかけた。

「そうか、それなら良かった……今日は、入団試験の結果を伝えに来たんだ」

 彼の言葉に、俺は顔色を曇らせた。
 結果は当然のごとく不合格だろう。
 そんな俺の顔を見て、彼はくすりと微笑んだ。

「そんな顔をしてなくても大丈夫だ、結果は合格だ」
「え!?」

 何故自分が合格になるのか分からず、俺は驚きに目を丸くした。

「君はちゃんと猫眠り草を採取できていた。途中のアレに襲われたのは、完全なるアクシデントだ。本来ならばあんな不運なことは、めったにあることではない」
「そ、そうだったんですか……」

 少なくとも冒険者失格ではなかった。
 その事実に胸を撫で下ろした。

「だから、シルバークロウは君のことを歓迎しよう。……もちろん、まだ君に冒険者を続ける気があればだが」

 あんなことがあった後だ、怖気づいていても仕方がない。
 彼はそんな風に思っているのだろう。
 まさか。
 あんな酷い目にあってやっと十連分の経験値を稼いだのに、ここで辞めたらくたびれ損じゃないか。

「もちろん、なります! ギルドに入れて嬉しいです!」
「そうか、それならば良かった!」

 俺が落ち込んでいることを心配していたのだろう、返答を聞くと彼はにわかに顔を輝かせた。

「ならば早速手続きを進めよう。君にも記入してもらう必要のある書類があるから、すぐに持ってくるとしよう」

 彼は素早く踵を返そうとした。

「あっ、待って……!」

 帰ろうとする彼を、袖を掴んで引き留めた。

「うん、どうしたのかな? 何か必要なものでも?」

 彼は振り返って柔らかな笑みを向けてくれる。

「……っ」

 問われた俺は黙りこくった。
 困った、セックスしたいですと言い出すことがこんなに恥ずかしいとは。
 何か必要なものでもと問われても、貴方のちんこが必要ですの一言が出てこない。

(メスイキしたい……じゃなくて、経験値が欲しいのに)

 命の危険なく経験値が稼げるのならば、その方がいいはずだ。
 決して気持ち好さに負けたわけではない。

「レイヤくん、大丈夫か? もしかして気分でも……」
「…………、……んです」
「うん?」

 彼は優しく小首を傾げた。
 
「……き、昨日のことが忘れられないんです。もっかい、シたいです」

 勇気を持って、言った。
 恥ずかしさで首まで真っ赤になった。
 彼の袖を引っ張った姿勢のまま、俯いてしまう。

「それは……」

 彼が息を呑んだのが聞こえた。

「それは、その。君は今、混乱しているんだ」

 長い沈黙の末、彼は口を開いた。

「恐らくは君が思っている以上に、昨日の治療行為がショックな出来事だったのだろう。だから君の心が昨日のことを正常なことだったのだと思おうとしているんだ。君が今感じている、その衝動は本物ではない」

 優しく言い聞かせるような言葉に、ちらりと顔を上げてみる。
 困惑した表情の彼。だが、そこに嫌悪の色はない。
 蒼い隻眼に迷いが見えたような気がした。

(押せばいける……)

 こいつチョロいな、と本能的に感じ取った。

「そんなことないです!」

 俺は彼の胸元に縋り付くように、体重を預けた。

「一目見たときからパトリックさんのことが好きだったんです、この気持ちをまがい物だなんて言わないでください!」

 必死に訴えた。
 それに考えようによってはこれは嘘ではない。
 彼の姿を初めて目にした瞬間、まるで時が止まったかのようにドキリと胸が高鳴ったのをよく覚えている。
 冒険者ギルドに入るならば彼のところがいいと思ったし、交わっている瞬間に彼も感じているように見えた時とても嬉しかった。
 ――――これでは、まるで本気で彼に惚れているみたいだ。

「そ、それは……だが、えっと……」
「お願いです……! 好きなんです、パトリックさんのことが!」

 こうなったら魅力上昇スキルの真価を見せてみろ、とばかりに潤んだ瞳で彼を上目遣いに見つめた。
 経験値を稼ぐのであれば、少なくとも街に着くなり襲ってきたごろつきや植物型モンスターよりもパトリックさんが相手の方が良かった。

「私は、君が思っているような人間じゃないんだ。私は一目見た時から君のことを可愛らしい人だと思っていたし、その後ギルドに誘った際にまったくの下心がなかったと言えば嘘になる。君と……治療行為を行った時、悦びを覚えてしまう自分がいた。私は汚い人間なんだ、好意を向けられる資格はない」

 パトリックさんが苦しそうな表情で認めた。
 要は俺を抱きたいってことだ。胸が大きく高鳴った。

「それってつまり、俺たち両想いってことですよね……?」

 性欲があるなら俺を抱けばいいだろ、据え膳喰わぬは男の恥だぞ。
 そう思いながら、俺はさらに身体を寄せて密着した。

「いや、両想いということではなく……」
「両想いということですよね……?」

 もうゴリ押しだ、とばかりに上目遣いに見つめた。

「だから、その……」

 ええい、埒が明かない。
 俺はぐっと踵を上げると、彼の唇を塞いだ。

「……っ!?」

 驚いている彼の口の中に、舌を挿し込む。
 彼の粘膜の味が味蕾に広がった。

 彼は固まって動かない。
 それでも舌先で彼の口内を探るように下手なキスをしていると、ゆっくりと彼が舌を動かし始めた。
 躊躇うようなぎこちなさで、舌が絡められる。

「……っ」

 舌裏がゆっくりと愛撫される。
 じんわりと痺れるような甘さが広がる。

「ん……っ」

 舌を絡め合っていると、次第に彼の舌使いが大胆になっていく。
 少しずつ強くなっていく快感に、甘い吐息が漏れた。

「……っ!」

 密着した下腹に硬いモノが当たる感触。
 その感触に悦びながら、自身の股間も押し付けた。

「……ンっ」

 俺は口を離して、彼を見つめた。
 見れば彼の顔は赤く上気していた。
 彼の蒼い隻眼が情欲に燃えている。俺を犯したいと言っている。

「分かった――――君がそのつもりなら、覚悟してくれ」

 口角を上げてニヤリと笑った顔に、ゾクゾクとしてしまった。
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