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第十四話

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「ダミアン、聞いてくれよ~!」
 
 元冒険者、現冒険者ギルド職員のダミアンは、居酒屋で同僚のフェリックスの愚痴を聞いてやっていた。
 フェリックスは貴族家の出身だが、貴族らしいところがなくてチャラチャラとしているがよくダミアンと馬が合った。
 そういうわけで、ダミアンとフェリックスは以前はよく二人で飲みに出かけていた。二人で花街に繰り出すこともあった。
 最近めっきりそういうことがなくなったのは、冒険者ギルド職員ならば誰もが知る通り、フェリックスが新入り職員のマコトにゾッコンだからだ。

「なんだ、フラれたのか」
「フラれたわけないだろ!」

 飲み始めたばかりなのに、もう酔いが回っているのかと思うくらいムキになってフェリックスは否定した。

「たださあ、思い切って聞いてみたんだよ。オレのこと好き? って」
「おお、それは思い切ったことをしたな」

 麦酒を呷りながら、彼の話に耳を傾ける。

「そしたら『尊敬してます』ってハキハキと言われちまった」
「ははは」

 あまりに清々しい脈ナシっぷりに笑ってしまった。

「それはまったくもって意識されてないな」
「だろー!」

 フェリックスもごくごくと麦酒を呷り、ドンを勢いよく机にジョッキを叩きつけた。
 すっかりヤケになっている。

「マコトときたら天然で、全然意識してくれねえんだよ~! そこが可愛いんだけどさー!」

 いつもならば、飲んでいるときでもどこか所作に気品があってやはり貴族なのだなと思わせられるが、今日はその気品の欠片すら投げ捨てたようだ。
 酒を呷って管を巻くさまは、ごく普通の恋に悩む青年そのものだ。

「なら強制的に意識させればいいんじゃないか?」

 珍しい彼の姿をこのまま眺めているのもいいが、ダミアンは建設的な提案をすることにした。

「それって」
「手を出しちまえばいい」

 一緒に花街を巡ったこともある仲だから、彼が奥手どころか積極的な方だと知っている。むしろなぜまだ手を出していないのかと、首を捻っていたくらいだ。

「違う、違うんだよ……マコトは、そういうんじゃないんだ」
「そういうじゃないって?」
 
 どういう意味かと問う。

「なんというか……オレはマコトとの関係を大事にしたいんだよ。マコトの意思を無視してなし崩し的にとか、そういう関係の進め方はしたくないんだ」
「へー」

 どうやら彼は思いの外本気だったらしい。
 ニヤニヤとした口元を隠すために、ダミアンはジョッキを一口呷る。
 
「なんでまた、そこまでベタ惚れしちまったんだ?」

 問うと、彼は遠くを見るような視線になった。

「マコトはな……唯一オレに期待してくれる人なんだ」
「はあ」

 ダミアンは適当に返事をした。
 
「オレは小さい頃から、誰にも期待されてこなかった。それどころか、オレが優秀だと困る人がいるようだった。だからオレは小さい頃から、ほどほどに手を抜いてきた。そんなだから、いい加減な生き方しか知らなかった。そんなオレに、マコトは期待してくれたんだ」

「ふーん、お貴族様は大変なんだな」

 商家の末っ子として生まれて、冒険者に憧れて家を飛び出したダミアンにとってはわからないでもない感覚だった。
 家を飛び出して冒険者になり、結果として片足を失い冒険者を続けられなくなったのでギルドに勤めることにした。ギルド員になるために必要な読み書きができたのは、実家で受けた教育のおかげだ。
 フェリックスにはフェリックスの事情があるのだろうな、とダミアンは受け取った。

「それどころか、マコトはこの世界に来てオレに出会えてよかったとまで言ってくれたんだ。そんなマコトを雑に扱うなんて、オレにはできないよ」
「そうか」
「こんなに誰かを大事にしたいっていう気持ちは初めてなんだ。でもこのままじゃマコトはオレの気持ちに気づいてくれない。オレはどうしたらいいんだ……!」

 悲痛な表情で、彼はジョッキの中身に目を落としている。
 とっくにジョッキの中身は空だろう。
 ダミアンは、代わりにおかわりを注文しておいた。

「どうしたらって……そりゃあ、告ればいいんじゃねえか?」

 ダミアンは肩を竦めて答えた。

「告……る?」

 青天の霹靂であるかのように、彼は大きく目を見開いた。
 本気の恋童貞な友人の様子が面白くて仕方がなかった。
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