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第六話 婚約者の暑苦しさがウザい
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あの後、エリクの呼んでくれた馬車に乗ってオレは城に帰ることができた。
エリクのことを誰かに言いつけようかとも考えた。
だが結局誰にも言うことはできなかった。
オレがどうしてどうやって盗賊ギルドに足を運んだのか、どう説明すれば信じてもらえるんだ?
何よりあの時あの場からオレを助け出してくれたのは彼だ。
それを告げ口するのは、恩を仇で返す行為に思えた。
*
「やあやあ、アントワーヌ姫! 僕に会えなくて寂しくなかったかな?」
婚約者、ローランがやってきた。
オレを見つめる視線が暑苦し……爽やかな金髪碧眼の隣国の王子である。
まあ、イケメンではあると思う。
そんなオレたちは煌びやかに着飾り(もちろん男の恰好だ)、城の庭で開かれているパーティに出席している。
「こうして無事に婚前式を迎えることが出来て良かったよ!」
「あ、ああ……そうだな」
ローランが口にした婚前式とは、この世界の貴族の独特の風習らしい。
幼い時に婚約を交わした二人が共に成人を迎えると、「もうすぐ結婚できるね」ということで華やかにお祝いをするらしい。
そんなのどうせ結婚式で祝うんだからやらなくてもいいだろと思うが、爺やに言わせればこういったケジメが大切らしいのだ。理解できねえ……。
結婚式とは違って内輪のお祝いなので周辺諸国の王侯貴族は招かれてないし、ローランと二人並んで座ってなきゃいけないこともない。そこは気軽で良かった。
パーティできることを前向きに考えて、オレは美酒とご馳走に舌鼓を打っていた。
「じゃ、また夜に会おうね」
ローランがぽん、とオレの肩に手を置く。
途端にビクリと身体が竦んでしまった。
オレの脚を無遠慮に掴んだ大男の笑みが瞬間的にフラッシュバックする。
「……ッ!」
反射的に自分の身体を掻き抱く。
そんなオレの様子に気づくことなく、ローランは背を向けてパーティの人込みに消えていった。
多分、オレの両親に挨拶しに行ったのだろう。
「姫、どうかされたか?」
背中から声をかけられる。
振り向くと、そこにいたのはエリクだった。
「あ、エリク……」
盗賊ギルドでの出来事以来、顔を合わせるのは初めてだ。
どんな顔を彼に向けたらいいか分からず、目を逸らす。
「なんでもない」
「そうか」
先日の出来事なんてなかったかのように、エリクはいつものほくそ笑んだ表情を浮かべている。
「ところで姫、まだ言ってなかったな」
「うん?」
何のことかと首を傾げる。
「誕生日おめでとう」
にこりとエリクが微笑む。
「あ……」
婚前式は婚約した二人が成人したら行うもの。
つまり、オレの誕生日パーティも兼ねているのだ。
成人おめでとう、婚前式おめでとうと言ってくれた人は沢山いたが、誕生日おめでとうと言ってくれたのはエリクが初めてだった。
「あ、ありがとう」
何故だか胸が高鳴っているのが分かる。
頬が熱いのは、酒のせいだろうか?
「姫、何か困ったことがあればいつでも私に言うといい」
柔らかい微笑みを浮かべた彼はあまり悪役顔に見えなかった。
なんだか普通の……好青年だ。
ローランの暑苦しさよりずっといい、と思ってしまった。
「貴方の力になろう」
でも、もし彼が悪だくみを考えているのであれば……これは悪魔の甘言ではないのか?
エリクのことを誰かに言いつけようかとも考えた。
だが結局誰にも言うことはできなかった。
オレがどうしてどうやって盗賊ギルドに足を運んだのか、どう説明すれば信じてもらえるんだ?
何よりあの時あの場からオレを助け出してくれたのは彼だ。
それを告げ口するのは、恩を仇で返す行為に思えた。
*
「やあやあ、アントワーヌ姫! 僕に会えなくて寂しくなかったかな?」
婚約者、ローランがやってきた。
オレを見つめる視線が暑苦し……爽やかな金髪碧眼の隣国の王子である。
まあ、イケメンではあると思う。
そんなオレたちは煌びやかに着飾り(もちろん男の恰好だ)、城の庭で開かれているパーティに出席している。
「こうして無事に婚前式を迎えることが出来て良かったよ!」
「あ、ああ……そうだな」
ローランが口にした婚前式とは、この世界の貴族の独特の風習らしい。
幼い時に婚約を交わした二人が共に成人を迎えると、「もうすぐ結婚できるね」ということで華やかにお祝いをするらしい。
そんなのどうせ結婚式で祝うんだからやらなくてもいいだろと思うが、爺やに言わせればこういったケジメが大切らしいのだ。理解できねえ……。
結婚式とは違って内輪のお祝いなので周辺諸国の王侯貴族は招かれてないし、ローランと二人並んで座ってなきゃいけないこともない。そこは気軽で良かった。
パーティできることを前向きに考えて、オレは美酒とご馳走に舌鼓を打っていた。
「じゃ、また夜に会おうね」
ローランがぽん、とオレの肩に手を置く。
途端にビクリと身体が竦んでしまった。
オレの脚を無遠慮に掴んだ大男の笑みが瞬間的にフラッシュバックする。
「……ッ!」
反射的に自分の身体を掻き抱く。
そんなオレの様子に気づくことなく、ローランは背を向けてパーティの人込みに消えていった。
多分、オレの両親に挨拶しに行ったのだろう。
「姫、どうかされたか?」
背中から声をかけられる。
振り向くと、そこにいたのはエリクだった。
「あ、エリク……」
盗賊ギルドでの出来事以来、顔を合わせるのは初めてだ。
どんな顔を彼に向けたらいいか分からず、目を逸らす。
「なんでもない」
「そうか」
先日の出来事なんてなかったかのように、エリクはいつものほくそ笑んだ表情を浮かべている。
「ところで姫、まだ言ってなかったな」
「うん?」
何のことかと首を傾げる。
「誕生日おめでとう」
にこりとエリクが微笑む。
「あ……」
婚前式は婚約した二人が成人したら行うもの。
つまり、オレの誕生日パーティも兼ねているのだ。
成人おめでとう、婚前式おめでとうと言ってくれた人は沢山いたが、誕生日おめでとうと言ってくれたのはエリクが初めてだった。
「あ、ありがとう」
何故だか胸が高鳴っているのが分かる。
頬が熱いのは、酒のせいだろうか?
「姫、何か困ったことがあればいつでも私に言うといい」
柔らかい微笑みを浮かべた彼はあまり悪役顔に見えなかった。
なんだか普通の……好青年だ。
ローランの暑苦しさよりずっといい、と思ってしまった。
「貴方の力になろう」
でも、もし彼が悪だくみを考えているのであれば……これは悪魔の甘言ではないのか?
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