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第二十七話 ヘソ天グウェナエル
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晩餐では見事なイノシシの丸焼きが出て、グウェナエルは葡萄酒をバカスカ飲みながら、大喜びでイノシシ肉を食べた。
テオフィルも大喜びで、小さく切り分けられた肉を食べていた。
イノシシを丸ごと載せられる皿が存在しないからか丸ごと提供されることはなく、綺麗に切り分けられた状態で出された。なので食欲が減衰するようなこともなく、アンリも美味しく肉を食べられた。
ローストされたもも肉は、意外にも柔らかくて美味だった。
「イノシシっておいしかったねえ」
「そうだね」
なんて話しながらテオフィルを寝かしつけ、アンリは寝室に戻った。
「ううーむ……」
すると、寝台の上にお腹を出して寝転んでいる黒い犬がいた。グウェナエルだ。
「酔っ払っているのか」
くすりと微笑み、寝台の縁に腰かけた。
いつものグウェナエルは気を遣って寝台の端で寝てくれているのに、今日は寝台のど真ん中にどーんと寝転んでいる。
相当葡萄酒を飲んでいたから、仕方がない。
はてさて、どうしたものか。
もふもふの黒い塊は、幸せそうな表情で微睡んでいる。
見下ろしていたアンリは、ふとグウェナエルが撫でられたそうな顔をしていたことを思い出した。
そんなわけはない。
そんな風に思うのは、きっと自分が彼のことを撫でたいと思っているからだろう。
そう、この黒いもふもふを一度撫でてみたいのだ。
グウェナエルの黒い毛は、テオフィルのよりも量がある。特に胸の辺りはもふもふで盛り上がっており、いかにも触り心地がよさそうだ。
――今ならば、撫でてもバレないだろう。
ごくりと唾を飲んだ。
意を決して、彼の頭へと手を伸ばした。
もふり。
柔らかい感触に、手の平が触れた。
なんて気持ちいい感触だろう。テオフィルの毛よりも少し感触が硬いが、その分すべすべとしている。なんてすばらしい毛並みだろう。風呂上がりに、香油でも塗り込んでいるのだろうか。
頭を撫でてあげると、寝ているグウェナエルの表情がどんどんにっこりとしていく。
アンリは調子に乗って、頭頂部を撫でるだけでは飽き足らず、耳の後ろをカリカリと掻いてあげたり、ほっぺをむにむにと揉み込んであげたりした。
するとグウェナエルは寝返りを打ち、こちらを向いた。
「アンリ……?」
ゆっくりと瞼が開き、美しい金色の瞳が覗く。
さすがに目が覚めてしまったようだ。
もっと感触を楽しみたかったのにと、残念に思った瞬間だった。
「もっと、撫でてくれ……」
「え!」
彼はアンリの片手をそっと掴み、頬に押しつけた。
――もっと撫でてくれ? まさか彼がそんな望みを抱いているだなんて。
撫でてしまっていいのだろうか。
戸惑いながらも、請われた通りにほっぺたを撫でてあげる。
「んう……」
彼は気持ちよさそうに、手に頬を擦りつけてきた。
「アンリ……好きだ……」
「え!?」
グウェナエルの言葉に驚き、思わず手を止めた。
「グウェナエル?」
「んー……」
身じろぎすると、彼は再び目を閉じてしまった。
もしかして、寝ぼけていたのだろうか。
「好きって、撫でられるのがってことだよな……?」
もう寝ているとわかっていても、つい尋ねてしまった。
彼の反応はない。完全に寝入っている。
好きだなんて。
よしんば自分のことだとしても、人間としてということだろう。そうだ、そうに決まっている。
アンリは心の中で自分に言い聞かせた。
それにしても、どこに寝ようか。
再び眠りの世界に誘われてしまった彼を見下ろし、アンリは悩んだ。
「もう今更か」
長椅子に寝ようかとも少し考えたが、ふっと笑うと、寝台の中に潜り込んだ。
「どいてくれよ」
中央に寝ているグウェナエルをぐいぐい押してスペースを作り、隣に寝ることにした。もふもふの毛皮が、身体に触れる。
思いっきり押したのに、目覚める気配はない。
「いい子いい子」
背中側から彼の耳の後ろをカリカリと掻いてやりながら、アンリも目を閉じた。
毛皮の感触を味わっているうちに、アンリもまた眠りの世界に誘われていた。
「おわっ」
翌朝は、グウェナエルの声が耳に届いて、目が覚めた。
「ん……? おはよう、グウェナエル……」
彼もまた起きたばかりのようで、寝台から上体を起こして、アンリを見下ろしていた。
「お、おはよう」
彼はなぜだかそわそわとしている。
そういえば、昨夜のように身体をくっつけて眠ったのは初めてだったなと、思い出した。
「グウェナエル、昨日言ったこと覚えているか?」
彼が口にした「好きだ」の言葉の真意が知りたくて、聞いてみた。
「オレが言ったこと? オレは何を言ったのだ?」
彼はきょとんと首を傾げた。
あれはやはり、寝言のようなものだったのだろう。意味の伴わない言葉だったのだ。
「なんでもないよ。グウェナエルが面白い寝言を言っていただけさ」
「面白い寝言!? オレはなんと言っていたんだ!?」
「ふふ、秘密だ」
慌てる彼が面白くって、くすくすと微笑んだ。
こうして彼と一緒に寝起きすることにも、いつしか居心地の悪さを感じなくなっていた。
ずっとこんな日々が続けばいいのに。そんな風に、願ってしまっている自分がいた。
テオフィルも大喜びで、小さく切り分けられた肉を食べていた。
イノシシを丸ごと載せられる皿が存在しないからか丸ごと提供されることはなく、綺麗に切り分けられた状態で出された。なので食欲が減衰するようなこともなく、アンリも美味しく肉を食べられた。
ローストされたもも肉は、意外にも柔らかくて美味だった。
「イノシシっておいしかったねえ」
「そうだね」
なんて話しながらテオフィルを寝かしつけ、アンリは寝室に戻った。
「ううーむ……」
すると、寝台の上にお腹を出して寝転んでいる黒い犬がいた。グウェナエルだ。
「酔っ払っているのか」
くすりと微笑み、寝台の縁に腰かけた。
いつものグウェナエルは気を遣って寝台の端で寝てくれているのに、今日は寝台のど真ん中にどーんと寝転んでいる。
相当葡萄酒を飲んでいたから、仕方がない。
はてさて、どうしたものか。
もふもふの黒い塊は、幸せそうな表情で微睡んでいる。
見下ろしていたアンリは、ふとグウェナエルが撫でられたそうな顔をしていたことを思い出した。
そんなわけはない。
そんな風に思うのは、きっと自分が彼のことを撫でたいと思っているからだろう。
そう、この黒いもふもふを一度撫でてみたいのだ。
グウェナエルの黒い毛は、テオフィルのよりも量がある。特に胸の辺りはもふもふで盛り上がっており、いかにも触り心地がよさそうだ。
――今ならば、撫でてもバレないだろう。
ごくりと唾を飲んだ。
意を決して、彼の頭へと手を伸ばした。
もふり。
柔らかい感触に、手の平が触れた。
なんて気持ちいい感触だろう。テオフィルの毛よりも少し感触が硬いが、その分すべすべとしている。なんてすばらしい毛並みだろう。風呂上がりに、香油でも塗り込んでいるのだろうか。
頭を撫でてあげると、寝ているグウェナエルの表情がどんどんにっこりとしていく。
アンリは調子に乗って、頭頂部を撫でるだけでは飽き足らず、耳の後ろをカリカリと掻いてあげたり、ほっぺをむにむにと揉み込んであげたりした。
するとグウェナエルは寝返りを打ち、こちらを向いた。
「アンリ……?」
ゆっくりと瞼が開き、美しい金色の瞳が覗く。
さすがに目が覚めてしまったようだ。
もっと感触を楽しみたかったのにと、残念に思った瞬間だった。
「もっと、撫でてくれ……」
「え!」
彼はアンリの片手をそっと掴み、頬に押しつけた。
――もっと撫でてくれ? まさか彼がそんな望みを抱いているだなんて。
撫でてしまっていいのだろうか。
戸惑いながらも、請われた通りにほっぺたを撫でてあげる。
「んう……」
彼は気持ちよさそうに、手に頬を擦りつけてきた。
「アンリ……好きだ……」
「え!?」
グウェナエルの言葉に驚き、思わず手を止めた。
「グウェナエル?」
「んー……」
身じろぎすると、彼は再び目を閉じてしまった。
もしかして、寝ぼけていたのだろうか。
「好きって、撫でられるのがってことだよな……?」
もう寝ているとわかっていても、つい尋ねてしまった。
彼の反応はない。完全に寝入っている。
好きだなんて。
よしんば自分のことだとしても、人間としてということだろう。そうだ、そうに決まっている。
アンリは心の中で自分に言い聞かせた。
それにしても、どこに寝ようか。
再び眠りの世界に誘われてしまった彼を見下ろし、アンリは悩んだ。
「もう今更か」
長椅子に寝ようかとも少し考えたが、ふっと笑うと、寝台の中に潜り込んだ。
「どいてくれよ」
中央に寝ているグウェナエルをぐいぐい押してスペースを作り、隣に寝ることにした。もふもふの毛皮が、身体に触れる。
思いっきり押したのに、目覚める気配はない。
「いい子いい子」
背中側から彼の耳の後ろをカリカリと掻いてやりながら、アンリも目を閉じた。
毛皮の感触を味わっているうちに、アンリもまた眠りの世界に誘われていた。
「おわっ」
翌朝は、グウェナエルの声が耳に届いて、目が覚めた。
「ん……? おはよう、グウェナエル……」
彼もまた起きたばかりのようで、寝台から上体を起こして、アンリを見下ろしていた。
「お、おはよう」
彼はなぜだかそわそわとしている。
そういえば、昨夜のように身体をくっつけて眠ったのは初めてだったなと、思い出した。
「グウェナエル、昨日言ったこと覚えているか?」
彼が口にした「好きだ」の言葉の真意が知りたくて、聞いてみた。
「オレが言ったこと? オレは何を言ったのだ?」
彼はきょとんと首を傾げた。
あれはやはり、寝言のようなものだったのだろう。意味の伴わない言葉だったのだ。
「なんでもないよ。グウェナエルが面白い寝言を言っていただけさ」
「面白い寝言!? オレはなんと言っていたんだ!?」
「ふふ、秘密だ」
慌てる彼が面白くって、くすくすと微笑んだ。
こうして彼と一緒に寝起きすることにも、いつしか居心地の悪さを感じなくなっていた。
ずっとこんな日々が続けばいいのに。そんな風に、願ってしまっている自分がいた。
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