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第二十三話 ピクニックに出発
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次の休日。
空は晴れやかに澄み渡り、絶好の行楽日和となった。
「アンリ様、テオフィル様、今日はよろしくお願いいたします」
純白の鹿獣人エヴラールが、騎士団を代表して挨拶した。
「閣下を含め、お二人と狩りに赴くことができて光栄です」
てっきりグウェナエルとテオフィルと三人で狩りに行くのだと思っていたが、違った。
辺境伯領の騎士団の面々とともに、狩りに行くらしい。
料理人が拵えてくれた弁当や敷物などの荷物は全て、騎士団の面々が運んでくれることになり、アンリは感謝した。
「おうまさん、おっきいねえ!」
ピクニック用の軽装に着替えたテオフィルが、無邪気に馬に近づいていく。
アンリは慌てて、テオフィルを抱き上げた。
「テオフィルの背丈じゃ頭を蹴られるかもしれないんだから、勝手に近づいちゃダメだ」
「あう、ごめんなさい」
「お馬さんに触りたいときは、こうして私が抱っこしてあげるからね」
アンリは、テオフィルを黒毛の馬に近づけさせてあげた。艶々とした黒毛が見事な馬は、テオフィルを近づけられても、大人しくしている。
テオフィルは恐る恐る手を伸ばし、黒いたてがみを撫でた。
「わああ……!」
初めて触れるたてがみの感触に、テオフィルはぶんぶんと尻尾を振った。尻尾が顎に当たって、くすぐったい。
「このおうまさん、グウェンにそっくりだねえ」
グウェナエルの黒い毛皮になぞらえてか、そんな風に評した。
「そうだね、そっくりだね」
「オレはそんなに凛々しいか?」
テオフィルに同意していると、横合いから声が降ってくる。見れば、尻尾を振っているグウェナエルがいた。
今日の彼は矢筒を背負い、ブーツを履いている。
ただ黒いからそっくりという意味だと思うのだが、彼は馬みたいに凛々しい顔つきをしていると解釈したようだ。たしかにこの黒い馬は首差しがスッとしていて、格好いいが……。
――グウェナエルは格好いいというより、可愛いんだよな。
内心で抱いた感想は、口にすべきではないだろう。
「テオフィルは、グウェナエルが一緒に乗せていってやってくれないか。私は乗馬は一応できるが、さほど長距離を乗り回した経験があるわけではないのだ」
より乗馬技術に優れている方に、テオフィルを預けるのは、当然のことだ。
「わかった」
抱いているテオフィルを、彼に差し出した。彼は片腕で、軽々とテオフィルを抱いた。
アンリはテオフィルが撫でていた黒毛の馬に、グウェナエルとテオフィルは栗毛の馬に乗った。
「では、行こうか」
グウェナエルの一声を合図に、一行は森へと向けて、馬を歩かせ始めた。
森まであぜ道が続き、周囲には緑の野原が広がっている。アンリの目には、野花の周りを蝶々だけでなく、精霊も飛び回っているのが見えた。のどかな光景だ。
小さなテオフィルを気遣っているのか、グウェナエルは馬をぽくぽくとのんびり歩かせている。きっといつもならば、速歩ぐらいの速度は出しているのではないだろうか。
ゆっくりとした足取りの中、テオフィルは目に見えるもの全てにはしゃぎ、あちこち指をさしては、グウェナエルにいろいろと尋ねているようだった。
テオフィルの質問に穏やかに答え続けるグウェナエルの顔を、アンリはじっと見つめていた。
一見無表情のようでありながら、わずかに上がった口角が、温厚な微笑みを浮かべているように見える。
グウェナエルはアンリとテオフィルのことを「もうすっかり本当の親子のよう」と評したが、アンリからすれば、グウェナエルとテオフィルの二人こそ、すっかり本当の親子のように見えた。
こんな理想的な父親がいるだろうか、とすら思ってしまう。
この瞬間を切り取り、永遠に記録しておければいいのに。なんて熱い思いに、瞬間的に囚われてしまった。
――グウェナエルの家にもらわれることになって、本当によかったな。テオフィル。
アンリは心の中で呼びかけた。
「アンリ」
不意に、グウェナエルがこちらを向いた。まるで心の中の呟きを聞かれてしまったようで、顔が熱くなるのを感じた。
「腰は大丈夫か。長時間の乗馬に慣れぬのなら、痛みを覚えるのではないかな」
「こんなにゆっくりと歩いているんだ、揺れなどほとんどない」
心配してくれることを嬉しく思いながら、首を横に振った。
空は晴れやかに澄み渡り、絶好の行楽日和となった。
「アンリ様、テオフィル様、今日はよろしくお願いいたします」
純白の鹿獣人エヴラールが、騎士団を代表して挨拶した。
「閣下を含め、お二人と狩りに赴くことができて光栄です」
てっきりグウェナエルとテオフィルと三人で狩りに行くのだと思っていたが、違った。
辺境伯領の騎士団の面々とともに、狩りに行くらしい。
料理人が拵えてくれた弁当や敷物などの荷物は全て、騎士団の面々が運んでくれることになり、アンリは感謝した。
「おうまさん、おっきいねえ!」
ピクニック用の軽装に着替えたテオフィルが、無邪気に馬に近づいていく。
アンリは慌てて、テオフィルを抱き上げた。
「テオフィルの背丈じゃ頭を蹴られるかもしれないんだから、勝手に近づいちゃダメだ」
「あう、ごめんなさい」
「お馬さんに触りたいときは、こうして私が抱っこしてあげるからね」
アンリは、テオフィルを黒毛の馬に近づけさせてあげた。艶々とした黒毛が見事な馬は、テオフィルを近づけられても、大人しくしている。
テオフィルは恐る恐る手を伸ばし、黒いたてがみを撫でた。
「わああ……!」
初めて触れるたてがみの感触に、テオフィルはぶんぶんと尻尾を振った。尻尾が顎に当たって、くすぐったい。
「このおうまさん、グウェンにそっくりだねえ」
グウェナエルの黒い毛皮になぞらえてか、そんな風に評した。
「そうだね、そっくりだね」
「オレはそんなに凛々しいか?」
テオフィルに同意していると、横合いから声が降ってくる。見れば、尻尾を振っているグウェナエルがいた。
今日の彼は矢筒を背負い、ブーツを履いている。
ただ黒いからそっくりという意味だと思うのだが、彼は馬みたいに凛々しい顔つきをしていると解釈したようだ。たしかにこの黒い馬は首差しがスッとしていて、格好いいが……。
――グウェナエルは格好いいというより、可愛いんだよな。
内心で抱いた感想は、口にすべきではないだろう。
「テオフィルは、グウェナエルが一緒に乗せていってやってくれないか。私は乗馬は一応できるが、さほど長距離を乗り回した経験があるわけではないのだ」
より乗馬技術に優れている方に、テオフィルを預けるのは、当然のことだ。
「わかった」
抱いているテオフィルを、彼に差し出した。彼は片腕で、軽々とテオフィルを抱いた。
アンリはテオフィルが撫でていた黒毛の馬に、グウェナエルとテオフィルは栗毛の馬に乗った。
「では、行こうか」
グウェナエルの一声を合図に、一行は森へと向けて、馬を歩かせ始めた。
森まであぜ道が続き、周囲には緑の野原が広がっている。アンリの目には、野花の周りを蝶々だけでなく、精霊も飛び回っているのが見えた。のどかな光景だ。
小さなテオフィルを気遣っているのか、グウェナエルは馬をぽくぽくとのんびり歩かせている。きっといつもならば、速歩ぐらいの速度は出しているのではないだろうか。
ゆっくりとした足取りの中、テオフィルは目に見えるもの全てにはしゃぎ、あちこち指をさしては、グウェナエルにいろいろと尋ねているようだった。
テオフィルの質問に穏やかに答え続けるグウェナエルの顔を、アンリはじっと見つめていた。
一見無表情のようでありながら、わずかに上がった口角が、温厚な微笑みを浮かべているように見える。
グウェナエルはアンリとテオフィルのことを「もうすっかり本当の親子のよう」と評したが、アンリからすれば、グウェナエルとテオフィルの二人こそ、すっかり本当の親子のように見えた。
こんな理想的な父親がいるだろうか、とすら思ってしまう。
この瞬間を切り取り、永遠に記録しておければいいのに。なんて熱い思いに、瞬間的に囚われてしまった。
――グウェナエルの家にもらわれることになって、本当によかったな。テオフィル。
アンリは心の中で呼びかけた。
「アンリ」
不意に、グウェナエルがこちらを向いた。まるで心の中の呟きを聞かれてしまったようで、顔が熱くなるのを感じた。
「腰は大丈夫か。長時間の乗馬に慣れぬのなら、痛みを覚えるのではないかな」
「こんなにゆっくりと歩いているんだ、揺れなどほとんどない」
心配してくれることを嬉しく思いながら、首を横に振った。
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