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第二話 クライドがヤンデレだった件
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「うわああああああぁーっ!!!!!」
禁書庫から飛び出すと、俺はまっすぐに学生寮を目指した。
自室に飛び込むと、俺はベッドの毛布にくるまった。
これは夢だ。全部夢だ。
毎日メスイキしないと死ぬ呪いってなんだよ。
メスイキ? 死ぬ? 何もかもがわけがわからない。
俺は幻を見ていたんだ。寝て目が覚めれば、夢だったとわかる。
どれだけの間そうしていただろうか。
いつしか日は落ち、部屋の中は真っ暗になった。
真っ暗になった室内で、青く浮かび上がるものがあった。自分の腹が青く発光していた。
「な、なんだ……!?」
服をめくると、腹の表面に青く光る紋様が見えた。
紋様は砂時計を模していて、動いていた。砂時計上部の砂がこうしている間にも刻一刻と減っていくのが。
――まさか、この砂が全部なくなると俺は死ぬのか?
毎日メスイキしないと死ぬ呪い。
つまり、今日が終われば自分は死ぬのだ。
メスイキとやらにどれだけ時間がかかるかわからないのに、俺はどうして貴重な時間を無駄にしてしまったのか。
とにかく、誰かに頼まなければ。抱いてくれと。
俺は部屋を飛び出した。
とにかく、誰でもいい。最初に目についた男に頼むのだ。
その時、隣の部屋の扉がガチャリと開いて、誰かが出てきた。
僥倖だと思った。
「頼む、俺を抱いてくれ……ッ!」
無我夢中で隣室の住人に言い放った。
焦るあまり、その時の俺は忘れていたのだ。隣室に住むのが誰か。
「……」
蒼い瞳から放たれる、絶対零度の視線。
「あ……クライド」
そう、隣の部屋に住んでいるのは憎きクライドなので会った。よりにもよってコイツに抱いてくれと頼んでしまうなんて。クライドは今にも俺を嘲笑い、扉を閉じてしまうだろう。
「……」
クライドは俺から視線を離すと、静かに周囲を見回した。
周囲には誰もいない。誰か他の人相手に言ったとでも思ったのだろうか。俺としても、誰か別の人に言いたかった。
「……抱いてくれっていうのは、ボクと性行為をしたいという意味であっているかな?」
驚いたことに、彼は口を開いた。俺は彼の声を初めて聴いたような心地になった。
同時に、死にたくなった。俺はクライドと性行為をしたいと言ってしまったのだ。
死ぬ方がマシなくらい恥ずかしい。だが、本当に死にたくはない。この際クライドでもいい。俺はもう二度と、彼のライバルを名乗れないだろうな。……その方が気が楽なのかもしれない。
俺は事情を説明することにした。
「実を言うと……馬鹿馬鹿しい話だと思うんだが、『毎日メスイキしないと死ぬ呪い』をかけられちまったんだ。だから……」
自分で説明しながら、こんな話を信じてもらえるはずがないと思った。
だが。
「……たしかに、そのようだね」
クライドは俺の姿を一瞥しただけで、頷いた。
俺は目をぱちくりとさせた。
この俺を差し置いて一位なんだから優秀な男なのだとは思っていたが、まさか一目で呪いにかけられているのを判別するなんて。流石は光魔術の使い手だ。
「こんなところでする話じゃあないね。ひとまず、中に入ってくれ」
彼はいつもの嘲笑を浮かべたりもせず、扉を大きく開いてくれた。俺に背を向け、室内に戻っていく。
中に入れということは、入っていいのだろう。
まさかクライドが、俺にこんなに優しくしてくれるなんて。
俺は放心状態で、クライドについていった。
短い廊下の先には、クライドの寝室があった。
「……え?」
寝室に足を踏み入れ、俺はさらに驚愕することになった。
壁一面に、ところ狭しと羊皮紙が貼られていた。
羊皮紙の全てに、スケッチが描かれていた。描かれているのは黒髪ツリ目で黒い瞳をした男……俺だ。
ベッドの周りには水晶玉が置かれていて、その全てに今の俺の姿が映っている。
たくさんの俺、俺、俺だ。
――これは一体、どういうことだ?
「ジェイミー」
後ろからポンと肩に手を置かれ、俺はビクリと震えた。
「今日は吃驚したよ、キミがこんなにも大胆だなんて知らなかったな」
喜悦に満ちた低い囁き声に、俺は悟った。
クライドが俺を見つめていた視線。あれは嘲笑の視線ではなかったのだと。
あれは……あれは思慕の視線だったのだ。
異様な寝室の内装から感じ取れる執着心と合わせると、そうとしか考えられない。
「ボクが奥手すぎたのかな。試験で一位を取れば、キミが見つめてくれる。だからいつも勉強をがんばってたんだ。そうしていれば、いつかキミと話すチャンスができると思ってね」
「ひゃっ!?」
リップ音と共に、うなじに柔らかいものが触れた。うなじにキスを落とされたのだと悟り、身体が震えた。
「でもそんなボクの態度は、キミを待たせてしまっていたんだね。今日アプローチされるまで、キミが同じ想いを抱いてくれているとは、まるで知らなかったよ」
いつの間にか、俺もクライドのことが好きなことにされてしまっている。俺、呪いをかけられたって説明したよな!?
とはいえ、否定することはできない。
否定したら、メスイキさせてもらえなくなってしまうかもしれない。メスイキできなかったら、俺は死ぬのだ。
「い……一体、いつから?」
代わりに、いつから好意を抱いていたのかと聞いた。
覚えている限り、入学してから一番最初の試験からアイツは一位を取っていて、じっとりとした視線を向けてきていた。
「入学式のときだよ。転んだボクを助け起こして、ハンカチを貸してくれただろう? ボクに優しくしてくれたのは、キミが初めてだった。そのときボクは思ったんだ、キミに相応しい人になろうと」
「入学式……? ハンカチ……?」
クライド相手にそんなことをした覚えはないのだが、と首を捻った。
「やっぱり、覚えてないかな? あの頃のボクは、今のボクとだいぶ見た目が違ったから」
「あ……!」
彼の言葉を聞いて、記憶が蘇った。
冴えない風貌の奴が間抜けに転んでいたから、手を貸してやった覚えはある。ついでにハンカチをくれてやった。今の今まで忘れていたくらい、俺にとってはなんでもないことだった。
アイツがクライドだったのか。その程度のことで惚れるなんて。
メスイキしなければ死んでしまう。
けれど異常な執着心と意味不明な惚れた経緯を目の前に、彼に身を委ねることを躊躇してしまう。
「ジェイミー、好きだよ」
「うわっ!」
ローブは自室で脱いだので、今の俺はシャツとスラックスを着ているだけだ。
クライドがシャツと肌着の間に手を差し入れて素肌に触ってきたので、驚いて声を上げてしまった。
「ああ、こうしてキミに触れることをいつも夢想していたんだ……!」
興奮した熱い息が、うなじにかかる。
恐怖を覚える。
だが彼を拒絶して、他に俺を抱いてくれる人を見つけられるだろうか。明日までに。
メスイキしないと死ぬ呪いにかけられて~等々説明するところから、また始めなければならない。
死ぬほど恥ずかしいし、見つけられるかどうかわからない。
それならば、悔しいがクライドに身を委ねた方がいいだろう――
俺は固く目を閉じた。
禁書庫から飛び出すと、俺はまっすぐに学生寮を目指した。
自室に飛び込むと、俺はベッドの毛布にくるまった。
これは夢だ。全部夢だ。
毎日メスイキしないと死ぬ呪いってなんだよ。
メスイキ? 死ぬ? 何もかもがわけがわからない。
俺は幻を見ていたんだ。寝て目が覚めれば、夢だったとわかる。
どれだけの間そうしていただろうか。
いつしか日は落ち、部屋の中は真っ暗になった。
真っ暗になった室内で、青く浮かび上がるものがあった。自分の腹が青く発光していた。
「な、なんだ……!?」
服をめくると、腹の表面に青く光る紋様が見えた。
紋様は砂時計を模していて、動いていた。砂時計上部の砂がこうしている間にも刻一刻と減っていくのが。
――まさか、この砂が全部なくなると俺は死ぬのか?
毎日メスイキしないと死ぬ呪い。
つまり、今日が終われば自分は死ぬのだ。
メスイキとやらにどれだけ時間がかかるかわからないのに、俺はどうして貴重な時間を無駄にしてしまったのか。
とにかく、誰かに頼まなければ。抱いてくれと。
俺は部屋を飛び出した。
とにかく、誰でもいい。最初に目についた男に頼むのだ。
その時、隣の部屋の扉がガチャリと開いて、誰かが出てきた。
僥倖だと思った。
「頼む、俺を抱いてくれ……ッ!」
無我夢中で隣室の住人に言い放った。
焦るあまり、その時の俺は忘れていたのだ。隣室に住むのが誰か。
「……」
蒼い瞳から放たれる、絶対零度の視線。
「あ……クライド」
そう、隣の部屋に住んでいるのは憎きクライドなので会った。よりにもよってコイツに抱いてくれと頼んでしまうなんて。クライドは今にも俺を嘲笑い、扉を閉じてしまうだろう。
「……」
クライドは俺から視線を離すと、静かに周囲を見回した。
周囲には誰もいない。誰か他の人相手に言ったとでも思ったのだろうか。俺としても、誰か別の人に言いたかった。
「……抱いてくれっていうのは、ボクと性行為をしたいという意味であっているかな?」
驚いたことに、彼は口を開いた。俺は彼の声を初めて聴いたような心地になった。
同時に、死にたくなった。俺はクライドと性行為をしたいと言ってしまったのだ。
死ぬ方がマシなくらい恥ずかしい。だが、本当に死にたくはない。この際クライドでもいい。俺はもう二度と、彼のライバルを名乗れないだろうな。……その方が気が楽なのかもしれない。
俺は事情を説明することにした。
「実を言うと……馬鹿馬鹿しい話だと思うんだが、『毎日メスイキしないと死ぬ呪い』をかけられちまったんだ。だから……」
自分で説明しながら、こんな話を信じてもらえるはずがないと思った。
だが。
「……たしかに、そのようだね」
クライドは俺の姿を一瞥しただけで、頷いた。
俺は目をぱちくりとさせた。
この俺を差し置いて一位なんだから優秀な男なのだとは思っていたが、まさか一目で呪いにかけられているのを判別するなんて。流石は光魔術の使い手だ。
「こんなところでする話じゃあないね。ひとまず、中に入ってくれ」
彼はいつもの嘲笑を浮かべたりもせず、扉を大きく開いてくれた。俺に背を向け、室内に戻っていく。
中に入れということは、入っていいのだろう。
まさかクライドが、俺にこんなに優しくしてくれるなんて。
俺は放心状態で、クライドについていった。
短い廊下の先には、クライドの寝室があった。
「……え?」
寝室に足を踏み入れ、俺はさらに驚愕することになった。
壁一面に、ところ狭しと羊皮紙が貼られていた。
羊皮紙の全てに、スケッチが描かれていた。描かれているのは黒髪ツリ目で黒い瞳をした男……俺だ。
ベッドの周りには水晶玉が置かれていて、その全てに今の俺の姿が映っている。
たくさんの俺、俺、俺だ。
――これは一体、どういうことだ?
「ジェイミー」
後ろからポンと肩に手を置かれ、俺はビクリと震えた。
「今日は吃驚したよ、キミがこんなにも大胆だなんて知らなかったな」
喜悦に満ちた低い囁き声に、俺は悟った。
クライドが俺を見つめていた視線。あれは嘲笑の視線ではなかったのだと。
あれは……あれは思慕の視線だったのだ。
異様な寝室の内装から感じ取れる執着心と合わせると、そうとしか考えられない。
「ボクが奥手すぎたのかな。試験で一位を取れば、キミが見つめてくれる。だからいつも勉強をがんばってたんだ。そうしていれば、いつかキミと話すチャンスができると思ってね」
「ひゃっ!?」
リップ音と共に、うなじに柔らかいものが触れた。うなじにキスを落とされたのだと悟り、身体が震えた。
「でもそんなボクの態度は、キミを待たせてしまっていたんだね。今日アプローチされるまで、キミが同じ想いを抱いてくれているとは、まるで知らなかったよ」
いつの間にか、俺もクライドのことが好きなことにされてしまっている。俺、呪いをかけられたって説明したよな!?
とはいえ、否定することはできない。
否定したら、メスイキさせてもらえなくなってしまうかもしれない。メスイキできなかったら、俺は死ぬのだ。
「い……一体、いつから?」
代わりに、いつから好意を抱いていたのかと聞いた。
覚えている限り、入学してから一番最初の試験からアイツは一位を取っていて、じっとりとした視線を向けてきていた。
「入学式のときだよ。転んだボクを助け起こして、ハンカチを貸してくれただろう? ボクに優しくしてくれたのは、キミが初めてだった。そのときボクは思ったんだ、キミに相応しい人になろうと」
「入学式……? ハンカチ……?」
クライド相手にそんなことをした覚えはないのだが、と首を捻った。
「やっぱり、覚えてないかな? あの頃のボクは、今のボクとだいぶ見た目が違ったから」
「あ……!」
彼の言葉を聞いて、記憶が蘇った。
冴えない風貌の奴が間抜けに転んでいたから、手を貸してやった覚えはある。ついでにハンカチをくれてやった。今の今まで忘れていたくらい、俺にとってはなんでもないことだった。
アイツがクライドだったのか。その程度のことで惚れるなんて。
メスイキしなければ死んでしまう。
けれど異常な執着心と意味不明な惚れた経緯を目の前に、彼に身を委ねることを躊躇してしまう。
「ジェイミー、好きだよ」
「うわっ!」
ローブは自室で脱いだので、今の俺はシャツとスラックスを着ているだけだ。
クライドがシャツと肌着の間に手を差し入れて素肌に触ってきたので、驚いて声を上げてしまった。
「ああ、こうしてキミに触れることをいつも夢想していたんだ……!」
興奮した熱い息が、うなじにかかる。
恐怖を覚える。
だが彼を拒絶して、他に俺を抱いてくれる人を見つけられるだろうか。明日までに。
メスイキしないと死ぬ呪いにかけられて~等々説明するところから、また始めなければならない。
死ぬほど恥ずかしいし、見つけられるかどうかわからない。
それならば、悔しいがクライドに身を委ねた方がいいだろう――
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