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第一話 呪いにかけられてしまった
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「頼む、俺を抱いてくれ……ッ!」
王国立魔術学院の生徒であり、闇魔術の天才的な使い手ジェイミーこと俺は、戸口で金髪碧眼のイケメンに向けて開口一番に言い放った。
金髪碧眼の彼――クライドは、爆弾発言を受けても眉一つ動かさず、絶対零度の視線で俺を見下ろした。
そもそもこんな頼み事をする羽目になったのも全て、クライドのせいだというのに。
俺は事の次第を回想した。
*
「またクライドが一位、だと……!? ぐぎぎぎぎ……!」
学院のホールに張り出された成績順位表を前に、俺は歯軋りしていた。
今回の期末試験の成績順位表の一番上に名前があったのは、クライドだった。俺は二位。
俺は天才で一位になって当然なのに、いっつも一位をかっさらっていくのはクライドだ。俺がどんなに努力しても、アイツを追い越すことはできないのだ。
――ただでさえ、アイツは俺の憧れの光魔術を使いこなすのに。
俺はホールにいるであろうアイツの姿を探した。
いた。
金髪碧眼、俺より頭一つ分は余分にある上背。魔術学院の生徒の癖に、まるで騎士のような体格。爽やかな笑顔。
何もかもが俺とは違っている。得意属性すらも!
父や祖父のように、俺も光魔術を使いこなすのだと思っていた。だが属性診断をした結果、俺には光魔術の才能は少しもないことが判明した。代わりに与えられたのは、闇魔術の才だった。
闇魔術? いいさ、才を与えられたからには使いこなしてやるともさ。
自分の黒髪黒目の見た目も嫌いではない。背は少々小さいが、上背なんて魔術師には必要ない。愛想が悪いから、なんだと言うのか。
そう思っているのに、アイツは、クライドは俺の劣等感の全てを刺激していくのだ。
ふと、クライドがこちらを振り向いた気がした。
「ふっ」
笑った声なんて聞こえるはずないのに、はっきりと聞こえた気がした。
これだ。アイツはいっつもこういう顔で俺のことを嘲笑うんだ。
一見爽やかに見える、目を細めた笑み。けれどよくよく見ると、普段の微笑みより眦が一ミリほど上がっているのだ。その目元から、アイツの感じている「愉快さ」のようなものがアリアリと窺えた。
クライドは、内心で俺をおかしく思って嘲笑っていやがるんだ!
今日こそは、もう我慢ならなくなった。
絶対にアイツをぎゃふんと言わせてやらねばならない。
そのためには手段なんて選ぶべきではない。今までは間違っていたのだ。直接ぶちのめしてやらなければ。
俺が向かったのは、学院の図書館だ。
図書館の奥には、禁書庫がある。禁書を読んで、究極の闇魔術を身に着けるのだ。
もちろん、禁書を勝手に読むのは禁じられている。だが俺は闇魔術で身体を透明化し、司書に見咎められずにするりと禁書庫に侵入した。
透明化の魔術は高度なものだが、俺なら難なく使えるのだ。
禁書庫に侵入した俺は、いい感じの本を探した。
その末に、一冊の本に目が留まった。
「悪魔召喚……? これだ!」
悪魔召喚の儀と銘打たれた本に、俺は目が釘付けになった。
吟遊詩人が歌う歌でも、悪魔に秘術を教えてもらう魔術師はよく歌われる。
悪魔ならば、究極の闇魔術を知っているはずだ。
俺は本を広げると、内容に目を通した。
「ふんふん……」
読んだ結果、俺の魔力量ならばこの場で悪魔を召喚できそうなことがわかった。流石俺だ。
いつも持ち歩いているチョークで、床に魔法陣を描いた。俺ほどの魔術師ともなれば、道具もなしにフリーハンドで完璧な円を描けるのだ。
それから禁書に記されている呪文を唱えた。
「我が使役し我が命じ我が支配する、我が前に頭を垂れよ、黒き悪魔……!」
本当はもっと長い呪文だが、詠唱破棄短縮呪文にしてやったぞ、俺は本当に有能だろう?
急激に大量の魔力を消費したことにより、もくもくと紫色の魔術煙が発生する。
煙が収まると、そこには青い肌の女がいた。
「不敬者め」
次の瞬間には女は――いや、悪魔は俺の目の前にいて、俺の額に長い爪を突きつけていた。
この悪魔はこの爪だけで俺の身体を引き裂ける。本能的に感じた。
あ、俺死んだ?
「こんな不遜な呼び出しは初めてよ。さて、この不敬者はどんな風に殺してくれようか」
俺の召喚の何かが、悪魔の機嫌をいたく損ねたようだ。
このままでは殺されてしまうことを認識し、俺の身体はガクガクと震え出した。
「おや?」
俺の黒い目を覗き込んでいた悪魔が、ふと片眉を上げる。
「おやおやおやおや、これはこれは」
悪魔が両手で俺の顔を掴み、瞳の中を覗き込んでくる。
「ふふっ、これは面白くなりそうじゃ。よし、特別に命は見逃してやろう。代わりに、呪いは受けてもらうがな」
「の、呪いだと……!?」
悪魔に呪われるだなんて。
一体、どんな酷い呪いをかけられるのか。
吟遊詩人の歌に出てくる悪魔の呪いといったら、それは酷いものばかりだ。死ぬ方がマシだというものばかりだと相場が決まっている。
俺は絶望した。
「おぬしにかける呪いは――――毎日メスイキしないと死ぬ呪いじゃ」
王国立魔術学院の生徒であり、闇魔術の天才的な使い手ジェイミーこと俺は、戸口で金髪碧眼のイケメンに向けて開口一番に言い放った。
金髪碧眼の彼――クライドは、爆弾発言を受けても眉一つ動かさず、絶対零度の視線で俺を見下ろした。
そもそもこんな頼み事をする羽目になったのも全て、クライドのせいだというのに。
俺は事の次第を回想した。
*
「またクライドが一位、だと……!? ぐぎぎぎぎ……!」
学院のホールに張り出された成績順位表を前に、俺は歯軋りしていた。
今回の期末試験の成績順位表の一番上に名前があったのは、クライドだった。俺は二位。
俺は天才で一位になって当然なのに、いっつも一位をかっさらっていくのはクライドだ。俺がどんなに努力しても、アイツを追い越すことはできないのだ。
――ただでさえ、アイツは俺の憧れの光魔術を使いこなすのに。
俺はホールにいるであろうアイツの姿を探した。
いた。
金髪碧眼、俺より頭一つ分は余分にある上背。魔術学院の生徒の癖に、まるで騎士のような体格。爽やかな笑顔。
何もかもが俺とは違っている。得意属性すらも!
父や祖父のように、俺も光魔術を使いこなすのだと思っていた。だが属性診断をした結果、俺には光魔術の才能は少しもないことが判明した。代わりに与えられたのは、闇魔術の才だった。
闇魔術? いいさ、才を与えられたからには使いこなしてやるともさ。
自分の黒髪黒目の見た目も嫌いではない。背は少々小さいが、上背なんて魔術師には必要ない。愛想が悪いから、なんだと言うのか。
そう思っているのに、アイツは、クライドは俺の劣等感の全てを刺激していくのだ。
ふと、クライドがこちらを振り向いた気がした。
「ふっ」
笑った声なんて聞こえるはずないのに、はっきりと聞こえた気がした。
これだ。アイツはいっつもこういう顔で俺のことを嘲笑うんだ。
一見爽やかに見える、目を細めた笑み。けれどよくよく見ると、普段の微笑みより眦が一ミリほど上がっているのだ。その目元から、アイツの感じている「愉快さ」のようなものがアリアリと窺えた。
クライドは、内心で俺をおかしく思って嘲笑っていやがるんだ!
今日こそは、もう我慢ならなくなった。
絶対にアイツをぎゃふんと言わせてやらねばならない。
そのためには手段なんて選ぶべきではない。今までは間違っていたのだ。直接ぶちのめしてやらなければ。
俺が向かったのは、学院の図書館だ。
図書館の奥には、禁書庫がある。禁書を読んで、究極の闇魔術を身に着けるのだ。
もちろん、禁書を勝手に読むのは禁じられている。だが俺は闇魔術で身体を透明化し、司書に見咎められずにするりと禁書庫に侵入した。
透明化の魔術は高度なものだが、俺なら難なく使えるのだ。
禁書庫に侵入した俺は、いい感じの本を探した。
その末に、一冊の本に目が留まった。
「悪魔召喚……? これだ!」
悪魔召喚の儀と銘打たれた本に、俺は目が釘付けになった。
吟遊詩人が歌う歌でも、悪魔に秘術を教えてもらう魔術師はよく歌われる。
悪魔ならば、究極の闇魔術を知っているはずだ。
俺は本を広げると、内容に目を通した。
「ふんふん……」
読んだ結果、俺の魔力量ならばこの場で悪魔を召喚できそうなことがわかった。流石俺だ。
いつも持ち歩いているチョークで、床に魔法陣を描いた。俺ほどの魔術師ともなれば、道具もなしにフリーハンドで完璧な円を描けるのだ。
それから禁書に記されている呪文を唱えた。
「我が使役し我が命じ我が支配する、我が前に頭を垂れよ、黒き悪魔……!」
本当はもっと長い呪文だが、詠唱破棄短縮呪文にしてやったぞ、俺は本当に有能だろう?
急激に大量の魔力を消費したことにより、もくもくと紫色の魔術煙が発生する。
煙が収まると、そこには青い肌の女がいた。
「不敬者め」
次の瞬間には女は――いや、悪魔は俺の目の前にいて、俺の額に長い爪を突きつけていた。
この悪魔はこの爪だけで俺の身体を引き裂ける。本能的に感じた。
あ、俺死んだ?
「こんな不遜な呼び出しは初めてよ。さて、この不敬者はどんな風に殺してくれようか」
俺の召喚の何かが、悪魔の機嫌をいたく損ねたようだ。
このままでは殺されてしまうことを認識し、俺の身体はガクガクと震え出した。
「おや?」
俺の黒い目を覗き込んでいた悪魔が、ふと片眉を上げる。
「おやおやおやおや、これはこれは」
悪魔が両手で俺の顔を掴み、瞳の中を覗き込んでくる。
「ふふっ、これは面白くなりそうじゃ。よし、特別に命は見逃してやろう。代わりに、呪いは受けてもらうがな」
「の、呪いだと……!?」
悪魔に呪われるだなんて。
一体、どんな酷い呪いをかけられるのか。
吟遊詩人の歌に出てくる悪魔の呪いといったら、それは酷いものばかりだ。死ぬ方がマシだというものばかりだと相場が決まっている。
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