神殺しの英雄譚

でおりぼ

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第8話 迷宮

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「あの……昨晩はすいませんでした」

「ああ」

年甲斐もなく大泣きしてしまってすごく恥ずかしかった。



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「プロラトム大陸に行く」

師匠が不意に言い出した。

「急にどうしたんですか?」

俺は驚きながらも聞き返した。

プロラトム大陸とは、遥か昔、五界覇神の一人が創り出したと言われる神秘の大陸だ。そこにはいくつもの迷宮が存在し、多くが未踏破とされている。

「このまま修行を続けても、ヘラクレスには届かん。魔道具や魔剣の力を借りるしかない」

「師匠……迷宮なんて攻略したことがあるんですか?」

半信半疑で尋ねると、師匠は腰に下げた剣にそっと手を当てた。

「ああ、何度かある。この剣も、迷宮で手に入れたものだ」

その剣――名は「闇淵源」。闇に沈むような黒光りを放つその刃には、言葉にしがたい威圧感があった。世界に三本しかないと言われる、神級の剣だと聞いている。

「神級のものが手に入るなんて……すごいですね」

「ああ、神級とまではいかなくても、役立つ上物が手に入るだろうと見込んでいる」

「あと数時間でここを発つ。準備をしておけ」

「はい!」

というわけで、俺たちはプロラトム大陸を目指すことになった。



----------------



出発してから数時間が経ち、緩やかな丘を越えながらふと思ったことを口に出す。

「師匠、プロラトム大陸には港も街もないんですよ?どうやって行くんですか?」

プロラトム大陸は辺境にあり、海の真ん中にぽつんと浮かんでいるという。誰もがたどり着ける場所ではないのだ。方法が思いつかず、不安が頭をよぎる。

「行けば分かる」

師匠は無表情のまま、それだけを言った。

その言葉だけでは不安は晴れないが、師匠の言葉に逆らうわけにもいかない。俺はただ、彼の後ろについて歩き続けた。



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ひたすら歩き続けて、半年が経過した。

そしてついに、俺たちは大陸の端にたどり着いた。眼前には果てしない大海原が広がっている。空は澄み渡り、太陽が輝き、潮風が心地よく頬を撫でていく。

「師匠、ここからどうするんですか?」

「これを使う」

そう言って、師匠は懐から小さな箱を取り出した。

俺は驚きに目を見張る。

「それ、壊した場所に転移する箱ですか?俺が渡されたものとよく似ています」

「ああ、そうだ」

師匠はその箱を巧みに分解し始めた。中から現れたのは、複雑に絡み合う魔法陣。彼は手慣れた様子でその魔法陣を地面に並べ、低く何かを呟き始めた。

すると、魔法陣が徐々に輝きを増し始めた。俺は師匠の力の片鱗を目の当たりにし、思わず息をのむ。

「俺の体のどこかに触れておけ!」

「はい!」

言われるがままに師匠の肩に手を置く。その瞬間、魔法陣の光が一層強くなり、俺たちは白い光に包まれた。

「ぐうおおおおお!」

体に信じられないほどの圧力がかかり、目が眩む。まるで空を飛びながら、風に押し流されているかのような感覚だった。

次に目を開けたとき、見知らぬ風景が広がっていた。青空の下、見渡す限りの草原が広がっている。しかし、その草原には無数の建造物が立ち並んでいた。それぞれが異なる形状をしており、どれも迷宮のように見える。

「……あれ?ここは?」

「ここがプロラトム大陸だ」

「……え?どういう事ですか?」

まさかこんなにあっさりと着いてしまうなんて。頭が混乱している。

「転移しただけだ」

「どういう事ですか!今のは一体……!」

「知り合いに教わった転移方法だ。詳しいことは知らん」

師匠はそれだけを言い、どこか他人事のように肩をすくめた。

「ええ……」

思わず呆然としてしまう。こんなことができる知り合いって、一体どんな人なんだ……

ともあれ、一ヶ月もかからず、俺たちは無事にプロラトム大陸にたどり着いた。

「ここからはどうするんですか?」

やることと言えば一つしかないだろうが一応聞いてみた。

師匠は険しい目つきで迷宮を見据え、言葉少なに答えた。

「迷宮巡りだ」

そう言って師匠は歩き出し、俺はそれに続いた。
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