いいんだよ

歌華

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心の悲鳴

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佑依に自分の綺麗事を押し付けて、琉生は結論から言うと佑依を立ち直させることに成功した。
その日、佑依はみんなで夕食を一緒に食べたらしい。そして学校へも通っている。

「俺だけか、取り残されているのは」

そう呟いてその日からどこか社会と断絶している自分の姿が本当に佑依の手本になっているか不安で食事が喉を通らない日もしばしばあった。
自分をこの世界から隔離かくりしてみんなが向いている方向の逆の世界を向いて独りぼっちで。みんなと違ういばらの道を進んでいる。そんな気がしていた。
「でさー、職場の先輩がさぁ!」
夕飯も家族で談笑しているのがしんどい。
「あははっ!本当か?」
自分が笑われている気がする。
「杏子!行儀悪いわよ?」
自分が悪い気がする。
「俺、ちょっと食欲無いから。部屋戻るね」
ガタリと席から立ち上がり、両親や杏子がほうけている内に自分の部屋に戻った。

「どうしたんだろ?俺」
悪い考えばかりいて来る。
「!」
視線を感じドアの方を見るが誰も立っていない。なんなんだろう?一瞬誰かが立っていてこちらを見ている気がしたが。気のせいだったらしい。
ベッドに横になり目を瞑る。
「寝れない」
ゴロゴロとあっちを向いたり、こっちを向いたり。して時計を見る。
「やべぇ、もう二時かよ。寝なきゃ!」
焦る。焦れば焦るほど寝れなくなり眠りに落ちたのは四時近くなっていたのではないだろうか?そしてここの所毎日なのだが。
「わぁっ!来るな!」
無数の虫が体をうような感覚で目が覚める。実際虫などおらず、幻覚のような嫌な気分で目が覚める。着ている服はぐっしょりと汗で濡れていて不快感を増幅させていた。
「またか、ホントなんなんだ?」
日に日に寝れなくなる。寝れば寝たで全身を虫が這うような幻覚に襲われる。理由が分からない。自分はどうしてしまったのかも理解できない。こんなこと両親や姉には相談できない。耐えると言う苦しい日々が続いた。

***

「夏目くん。やつれたんじゃない?」
速水が琉生に問うた。目の下には隈が出来て、食欲もない。前より少しけているその姿に速水が不安そうに訪ねる。
「最近、寝れてなくて。なんか誰かに見られている気もするんだけど、実際は誰も居なくて」
限界だった琉生は速水にそうらした。でもうまいこと自分の口から伝えられない。なんて表現したら良いのか分からない。頭ではこう伝えたい!辛い!っていうのが分かっていたから伝えたい気持ちが沢山ある。しかし文章が辿々たどたどしく、諦めの気持ちが強くなってしまう。

たすけて

その言葉を伝えられずに目を伏せる。
「ゆっくりで良いから。夏目くんはどうしたい?」
「疲れました」
完全に生気を失っている琉生に、流石の速水も普通の状態じゃない。最近は特に酷い。誰も居ないのにじんわりと脂汗あぶらあせをかいていたり、寝れてないと言うので寝せてやるとやはり寝れない様子でギシギシとベッドの軋む音ばかり聞こえてきたりと。しかし特になにかがキッカケと言うのはなさそうで前から敏感な感じだったが、優しい子で人の感情の変化に敏感なんだなぁ。と簡単に思い速水の中で完結させ。留めていたがここまで来ると留めきれない。
「夏目くん、心療内科とか行ってみない?」
「え?シンリョウナイカ?」
「夏目くん、今さ凄く疲れているでしょう?」
「そう。ですね、寝れてないですし」
反応するその顔を見ると焦点は泳いでいてこちらを見ているがすぐ視線を外す。
「行ってみない?親御さんとかに相談できそう?」
昌太郎に言うのか?咲愛にこれ以上迷惑かけるのか?その事ばかり頭に浮かぶ。でも琉生も限界だったんだ。
「姉に頼んでみます」
「じゃあ、今近くの心療内科何件か印刷しとくから待ってなさい」
「今日は居ても良いんですか?」
「良いよ?少し寝る?」
「横になっても寝れないので起きてます」
その表情はどこか安心したのか緊張が少し緩んだかな?と言う表情をしている。本当なら自分が一番近くでてきたのだから、自分が連れていきたいが。そこまで生徒一人に構っていては他の生徒の時間に影響があるかもしれない。苦渋くじゅうの選択だったのだ。
「お姉さんに来てくれるように連絡できる?」
「出来ます。でも姉もう昼休み終わっていると思います。なので会社に電話しないと」
「私が出るから電話番号教えて?」
「分かりました」
スマートフォンを取り出して電話帳を開く。そして杏子の職場の電話番号を躊躇ためらいながら教えた。出来れば隠しておきたくてでも心は限界だった。自分が自分ではないようなSOSが誰にも届かないことが悲しかったのだ。でも速水は親身になって一つ一つの言葉を拾って聞いていてくれたので舌足らずの自分の言葉なりにSOSを伝えたのだ。

これで良いんだ。大丈夫。

自分にそう言って納得させるしかなかった。杏子の時間を裂いたのだから。なんだか自分を責められずには居れなかった。
「ここです・・・・・・」
「分かった。私電話してくるから、待っててね?」
「はい」

***

「はい。もしもし○○不動産です」
「もしもし、そちらに夏目杏子さんはいらっしゃいますか?」
「はい、いますよ?失礼ですがどなたですか?」
「すみません。私、杏子さんの弟さんの通っている保健医の速水と申します」
「速水さんですね。只今、夏目に代わります」
「はい」
職員室に行き。メモった電話番号に電話をかける。杏子はいた。「ふう」と息を整える。
「もしもし、お電話代わりました。夏目です」
「夏目琉生くんのお姉さんですね?実は・・・・・・」


「琉生!そんな・・・・・・今すぐ行きます!」
「え?」
「琉生は私のたった一人の弟なんです!本人が帰りでも良いって言っても今行きます!では!」

ガチャリと通話はそこで終了した。粗方あらかたの説明をしたら杏子の態度が代わり声が震え。電話で話してても普通の状態ではないのが分かった。そして速水は保健室に戻る。保健室にあるパソコンでも心療内科やメンタルクリニック、精神科の情報は手に入ると思ったし。琉生に着いていてあげたいとも思ったからだった。保健室に着いてドアを開ける。
「どうでした?姉すぐ来るって言ってませんでした?」
恐る恐る訊いてくる琉生に速水も苦笑いして。
「言ってました。すぐ来るそうです」
「やっぱり」
「仲が良いのね」
「姉は心配性と言うか。まぁ逆でも俺は学校そっちのけで姉のところに行ったと思います。たった一人の姉なんで」
この姉弟はなぜかお互いがお互いを思い合っている。愛とかではないのだろうけど。必要とし合っていると言うか。これもまた愛なのか?等と思っている速水がいて、なぜかクスッと笑ってしまった。
「なんで俺の顔見て笑うんですか?」
「仲良いなぁ~。羨ましいなぁって思って」
「普通ですよ」
普通です。と言えることが凄いことだとは自覚の無い琉生だった。

***

それから三十分くらい待っただろうか?その間気になる心療内科、メンタルクリニック、精神科の用紙を何枚か印刷して貰い。自分でも調べてみた。
「夏目くん。お姉さ!「琉生!」
「ちょ、君ねぇ!」
「すみません!でも琉生は?」
速水が連絡を貰い出迎えて保健室まで連れてくると杏子が速水を押し退け入ってくる。
「姉ちゃん、俺ちゃんと居るから。焦らないでよ」
「もう!心配でタクシー飛ばしてきたのよ!」
琉生が通っている高校から杏子の職場まで電車で大体四十分くらいで駅から歩きがある。どう頑張っても結構かかるのに、タクシーを使ったらしくしかも相当急いだのか?近道を通ってきたのか?そんなに待たずに杏子と再会した。
「分かった。ありがとうな?姉ちゃん」
「速水先生から大体の話聞いたわ。なんで言ってくれなかったの?私たちの姉弟は隠し事無く居ようねって約束だったよ?」
「し、心配かけたくなかったし。姉ちゃんが俺のせいで忙しくなったり、態度を変えるのは・・・・・・嫌だったから」
「琉生!そんな心配は大人がすれば良い!辛いときは辛いって言って良いの!」
「姉ちゃんだってまだ二十一じゃん」
「もうお酒も飲めるんだから!」
あーだこーだ言っている間に時が過ぎていく。速水は急いで止めなくては!と思った。まだ授業中だがここは保健室だし琉生達貸し切りではない。いつ生徒が入ってきてもおかしくない状態なのだから、速水が止めに入る
「まぁまぁ!言い合いはその辺にして、夏目くん」
「「はい?」」
「あ、そっか。」
どっちも夏目だった。と思い言葉が詰まった。
「杏子さん。琉生くんの状態は非常に素人目から看ても善くない状態です。近い内に必ず病院に連れていって下さい」
「分かりました!」
「琉生さん。杏子さんは琉生さんが一番良いと思うことに従うと思います。まずは琉生さんが体調を戻し整えること。学校は休んでも良い!なんなら休学して良い。一番良いと思うことをしてください!良いですね?」
「分かりました、」
二人をさとし。道を反れないようにちゃんと計画を立てて伝えた。琉生にはちゃんとした意思もある。善くなりたい。そして受けたSOS。そのバトンを杏子に託した。
「これから行く?」
「う~ん」
「今日は電話して明日行くと伝えてからにした方良いですよ」
「分かりました。そうします。琉生帰ろう?」
「姉ちゃん・・・・・・その、ありがとう。心配かけてごめん。父さんと母さんに、その・・・・・・」
「安心しなさい。明日、病院に行ってから二人で話せば良いよ、どうせ父さん今日いないし」
琉生の方が身長高いが杏子が手を伸ばして琉生の頭をクシャクシャと撫で回す。琉生は嫌そうな顔をしているが迷惑がっては居ない様子だった。本当にお互いの事大事にしている姉弟なのだなぁと速水はその二人を見て感心して学校から送り出した。

***

「琉生」
「なに?」
杏子と琉生が並んで学校を後にして、学校が見えなくなった辺りで杏子が琉生の名前を呼び立ち止まった。
「ごめん」
「え?」
「琉生がなんかおかしいなって思ってはいたの、でも私は琉生の心を仲が良いと言うことで締め付けて言葉を話すことが出来なかったよね。ごめんね」
「・・・・・・そうかな?姉ちゃんが今日学校に何よりも急いで来てくれて良かった。俺には姉ちゃんって言う味方がいるって、世の中捨てたもんじゃないかもって思ったんだ。ありがとう」
想い合うって本当に距離が近ければ近いほど足枷になったり、逆にありがたかったり、なかなか距離感って難しいよねと言う話をして帰りにコンビニで限定スイーツなんか買って帰ってしまった。
家まで歩いて帰りながら今までの事沢山話をした。辛いこと佑依の事。
佑依に言ってしまった責任。綺麗事について果たせていない。その考えと責任が重くのし掛かってそして教室に辞書を取りに行くと森山と言う生徒に嫌な目で見られてまるで晒し者のような感じが拭えない。そして最近同じクラスの違う友達に「森山のせいか?」と問われ。思わず「そうかも」と言ってしまい。森山が虐めまで行かないが仲間はずれにされていることの責任感のようなものが心に突き刺さる。自分の軽率な答えが森山の事まで苦しめているのかもしれないと思った。
そして最近感じる視線や虫が身体中を這う幻覚のような症状についても話をして帰った。
「ただいま~」
「ただいま」
シンと静まり返っている。咲愛は恐らく夕飯の買い物に出たのだろう。足が悪いのに本当に申し訳ないなと思っている。
「琉生!スイーツ二人分しかないから食べちゃおう」
「そうだね」
時計を見るとまだ午後三時になったばかりだった。二人はキッチンに行き皿とフォークをそれぞれ持ちダイニングに買ってきたケーキを皿に上に乗せフォークを差して上の苺やフルーツを崩しながら食べる。至福時間だった。
「琉生それ食べたら部屋に行っても大丈夫だよ。私片付けておくし、心療内科の予約も取りたいし」
「任せて大丈夫?」
「大丈夫だよ!早く電話した方良いからね!寄り道して遅くなってしまったし」
「うん。頼む」
そう言って食べ終わった食器をキッチンに持って行って部屋に戻った。


制服から部屋着に着替えて、ベッドに倒れ込む。
「疲れた」
今日は色々あって精神的疲労が結構重くのし掛かって目蓋まぶたが重い。

「る~い~!夕ご飯だよ~」
トントンと杏子の声とドアをノックする音で目が覚める。ハッと気付くと既に夜の七時になっていた。
「あ!ご、いでっ!今行く」
今まで寝ていたらしくノックの音で気付いてビックリして起きたらベッドのへりだったらしく落ちて腰を打ってしまった。
「ごめん、寝ちゃってた」
部屋を出てダイニングに向かい謝る。
「寝れた?」
杏子がニヤニヤと訊いてくる。
「寝れたよ」
「琉生」
「なに?母さん」
「ゴメンね。私、琉生ならなんでも出来る子だって思って重荷をしていたのね。少し杏子から聞いたわ」
「ごめん、母さん帰ってきたとき琉生の靴あって不振に思われてさ」
そっか。秘密にしとくなんて同じ屋根の下にいるんだから無理がある。その場に自分が居たら杏子にも咲愛にも気を遣わせてしまっていたから、琉生が居ないところで話をしてくれていて少し感謝だった。まぁ勝手に全てではないが喋られたことには不快感を感じたが。まぁいずれ来ることだから受け止めることにした。
「大丈夫だよ。母さん心配かけてごめん、あと、堪えられなくてごめん」
「そんなの気にしないで?そんな責任は琉生じゃなく大人のすること!琉生は今なにもしなくて良いから。休んでて?」
急に肩から力が抜けた。やっと話せた。まだ昌太郎には言えていないが、昌太郎も分かってくれる。そう思うと急に目の奥がぐにゃぐにゃとしてきて視界が潤んだ。
「・・・・・・ごめん、ごめん」
涙が溢れてきて、謝ることしか出来なかった。
「謝らなくて良い。大丈夫だから!」
「明日、病院の予約は取れたから○○メンタル医院行ってみよう。院長先生が見てくれるところだしそこが結構この辺りで評判よかったから!」
「分かった」
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