音楽業界のボーイズラブ

おとめ

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「シンー…俺もうダメ。酔って帰れない」
「何でそんな飲んでんだよ」
「泊めてー、帰るのだるい」
「僕が送ろうか?今日誘ったのは僕だし」
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
「おい、いい加減にしろ。すみません俺が連れて帰りますんで」
「また誘ってください」
泥酔していても社交辞令は忘れないすすむである。
「ならまた」
青井が思案気に見送るのをすすむがシンの体に抱きついて甘えだす。
「何…」
「俺あのオッサンとヤった」
すすむのいきなりのカミングアウトにシンがギョッとする。

とりあえず泥酔している人間を一人にするのも危険なので、シンが自身の家へ連れていくことにし、タクシーを拾って座席にすすむを先に押し込むとすぐにすすむは寝息を立て出した。

「着いたぞ」

シンの家へ到着するとすすむの頭は冴え渡り覚醒する。というのもシンの部屋は足の踏み場がなくペットボトルやゴミがそこら中に散乱している。
「寝室…」
一縷の望みをかけてベッドのある部屋へと向かうが、雑誌や漫画、使っていないであろう運動器具、の上に服やペットボトル、そこら中に置かれた灰皿とベッドの上にも必要ない物が置かれていてとてもゆっくり眠れるような場所ではない。

すすむは黙々と散らばる雑誌や本類を束ねて、灰皿の中身を一つずつゴミ箱に捨てていき空になったものは容赦なくゴミに。

「そこまでしなくても…」
「うるせーわゴミ野郎」
イライラしながら睡魔と闘うすすむが八つ当たりながらとりあえずベッドと周囲のスペースを確保していく。
「あと風呂沸かして。こんなきたねー部屋で風呂にも入んないで寝れねーから」
「…」
シンがあまりの暴言に顔を背けて笑っている。

「風呂沸いた」
「タバコくれ」
普段吸わないタバコを一仕事終えて一息つきながら眠気と闘いながらもこの後の段取りを考える。

とりあえずやる事はやったし風呂入れば寝れる。

目を閉じながらたばこの煙を吐き出し灰皿にタバコの火を押しつけ風呂場へ移動する。浴室は綺麗にしているところがO型のこだわりの強さが顕れている。
服を脱ぎバスルームの浴槽にダイブすると、外気と湯の温度差から体温が急激に上がり一気に眠くなる。
だめだ、やばいこのまま寝る…。
そうすすむが思った時、浴室へと全裸のシンが入ってきて、ハッと目覚める。色黒で筋肉質な体が骨格をはっきり見せて自分との差を感じる。…てか、
「なんなん…」
口を開けすすむが驚いていると、
「お前酔っ払っててあぶねーから」
冷静なシンの言葉に口を一文字に結ぶ。
「やさしー」
手早くシャワーを浴びてシャンプーし出すシンに、浴槽のふちに顔を預けその様子を働かない頭のまま眺めて目を閉じる。
このままちょっと寝てもいっか…。
そう思ったすすむだったが、体を洗い終えたシンが同じ浴槽に入ってくる。
「頭、洗ってやる」
「えー、まじやさしー」
船を漕ぎながらもうすっかりシンに安心感を覚え身を委ねてしまう。
「これ」
シャンプーが終わり、ボディタオルを渡される。さすがに他人の体を洗う物を使うのは気が引けて断りを申し出ると、すすむは何を思ったのか二つ返事で受け取る。ボデでィソープを塗布し、泡立てるとシンの体を洗い出す。
「ちょ…」
自分にも泡をつけて、上半身をシンと重ね合わせる。
下半身は湯に浸かったままなのであまり羞恥心が無く洗体をすることができる
。シンの膝の上にすすむが乗り上げ、泡のついた体を擦り合わせる。
「…何してんの」
対面してぴったりと体が合わさっているせいでシンの表情は見えないが、微動だにしていないところから緊張感が伝わってくる。
「シャンプーしてくれたお礼。俺も体洗えて一石にちょー」
「…もう俺は洗ったから」
すすむの体を押し返しシンが立ち上がるとさっさと浴室から出ていく。
1人になったすすむは静まり返る室内に孤独の静寂を感じた。
「さみしー」

風呂から上がると半ば強引にシンの許可を取り二人で同じベッドに入る。さすがに酔っ払って万全ではない体調のため大人しく眠る。
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