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第一章

第1話 おにーちゃんなまおーしゃまはぱぱになる?

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「お! このイヤリングかわいい~!」

   様々な店が立ち並ぶ路地にて、綺麗なイヤリングを見つけた。銀のメッキに紫の月を用いた石の付いたイヤリング。可愛さとかっこよさを両立している。
   そのイヤリングに釘付けになり、試しに着け、鏡の前に立った。やっぱり自画自賛してしまうほど似合ってる。
   その時、一瞬イヤリングがキラリと光った気がするが、そんな事は気にせずイヤリングに見とれていると、店主のお婆さんが、俺を見上げながら口を開いた。  

「そのイヤリング気に入ったのかい?」
「はい、とっても!これほんとにかわいいですね 」
「そうかい、ならもらってくれないかい?」
「いいんですか?これ売り物じゃ…… 」
「良いんじゃよ 」
「ありがとうございます!」

    運が良かったのか、まさかタダで貰ってしまった。タダより怖いものはないと言われているが、一目惚れしたかわいいイヤリングを手に入れた嬉しさが勝ち、笑みを零しながら、店が立ち並ぶ路地を出た。

  ”キャン!キャン!キャン!”

   背後から子犬の鳴き声が聞こえ、後ろを振り向いた。けれど背後に子犬はいない。それどころか、路地には誰もいない。 

  ” キャン!キャン!キャン!”

   また聞こえた。さっきよりも近いような大きいような。なのに、周りには誰もいない事に、少し怖くなり、いち早く路地から離れようと早歩きした。

    はむっ!

   次は俺の着ていたマントを噛まれた。痛くはないが、お気に入りのマントに傷が付いてしまった事にがっかりしていると、俺を呼ぶような声が聞こえた。

    まおーしゃま!まおーしゃま!

「な、なに?何で知ってるの?」

    まおーしゃま!まおーしゃま!こっち!

   混乱した。何でこの声は、俺が秘密にしている魔王って事を知っているのか分からない。
   魔王という事を誰かに話した覚えもないし、魔王のような分かりやすい見た目をしている訳でもない。
   自分で言うのも、何だけど、羊の角が生えているだけのイケメンな好青年。もの凄いゴツくてイカつい鎧を身につけている訳でもないし。
   初見じゃ自分で言わない限り、魔王かどうか分からない見た目の俺をどうやって見抜いたのか想像出来ずに辺りを見渡すと、小さなわんこが俺のマントを咥えている。

「ねぇ……」

  ”くぅ~ん”

「か、かわいい……どちたのぉ?おなかすいたのぉ?」

   お気に入りのマントを噛まれヨダレが付着してしまった事もあり、少し眉を寄せ険しい表情をした。
   けれど可愛すぎる。雪のように白くてもふもふな体にうるうるした緑色の瞳、愛らしすぎる。
   でも、少し体に葉っぱやゴミが付いているのを見ると、きっと飼い主がおらず、少し痩せているのもあり、ずっと何も食べていないと思い創造魔法でソーセージを作ってあげた。
   もちろん、急過ぎる事もあり警戒している。

「おなか空いてるでしょ 安心して食べてごらん 」

   こんな風に優しい言葉を掛けても安心してくれる訳ない。
   それでも、こんなにもかわいいわんこが弱っているのは、見捨てる事なんてできない。
   だから食べてほしい。

「こわがらなくていいんだよ 大丈夫、 大丈夫だから 俺の事信じてみてくれないかな?」

 ”くぅ~ん”   ぺろ   はむっ!

 ”わんっ!”

   食べてくれた。俺の気持ちが伝わったみたいで凄く嬉しい。

「どう?おいしい?」

  ”わんっ!わんっ!”

「ほんとに~!じゃあ!たくさん食べて食べて~ 」

  ”わんっ!”

   元気そうにソーセージを頬張るわんこを見ているだけで、落ち着く。幸せになれる気がする。
   ずっと一緒にいたい。
   そんな妄想をしながら、微笑ましくわんこを見た。相変わらず可愛すぎて、気づいたらボッーとしてしまっていた。

「おにーしゃん おにーしゃん  」
「ん?」
 
   俺を呼んでいるような声がした。
   声の先を見ると、クリーム色の髪に綺麗な緑色の目をもった子供が立っていた。年齢は7歳ぐらいの。

「おにーしゃん!ありがと!」
「おにーしゃん?ってそれ、俺があげた…!」
 
   男の子は、俺があげたソーセージを咥え、つぶらな瞳で見つめている。その瞳はどこか、さっきまで一緒にいたわんこと似ている。わんこ何じゃないかって思うぐらい。

「そうだよ!たすけてくえてありがと!」
「ね、ねぇ…もしかして、さっきのわんこ?」

   ヤバい。変な事を言ってしまった。幾ら、子供相手でも驚かれるだろうな。完全に変人ムーブだ。

「そうだよ!おいしかった!」
    
   本当にわんこだった。
   人の姿になれるわんこ何て、会ったのは初めてだよ。
   でも、可愛いから許す。家族になりたい。元々わんこなら良いよね。

「ねぇ、1人?お母さんとかいる?」
「おか~さん?なぁに?」
「え、お母さん知らないの?お前を産んでくれた 」
「うんでくれた…よくわからない 」
「じゃあちっちゃな頃から、好きでいてくれている人っている?」
「すきってなに?」
「え、えっーと… 」

   言葉が詰まった。
   よく考えたら、さっきから不思議な事ばかり。
   ただ、イヤリングを買っただけなのに、可愛いわんこの鳴き声が聞こえて、わんこと出会ってお腹空いてたからソーセージあげて、気づいたら、わんこが人間の姿になって、しかも、この子は何も知らない。
   でも、やっぱり可愛い。出会ってまだ20分程度しか経っていないというのに、1秒1分、つねに可愛い。
   親という存在知らない子なら、きっといない。
   なら、俺が助けてあげても、さっきまで腹ぺこだったし。此処で暮らすより絶対幸せにできる。
   そう、確信を持ち、わんこに問いかけた。

「ねぇ もしよければさ、 」
「ん?なぁに? 」
「一緒に暮らしてみない?急すぎるかもしれないけどさ 」
「くらす?おにーしゃんと 」

   きょとんと首を傾げている。でも大丈夫。

「そう!こんな所にいたって、寒いし1人寂しいだけだよ それといっぱい遊んであげられる!」
「いや 」
「えっ?」
  
   分かってはいた。けれど、まじまじとはっきり言われるとショックだ。

「おにーしゃん!」
「え、なに?」
「ぼくね、あそびとかわかんないし、さびしいとかしらなないけど、おにーちゃんとくらしたい!」
「え、今何て… 」
「だぁかぁら!ぼくはおにーしゃんといっしょがいい!」
「ほんと?」
「うん!」

   嬉しい。さっき、『 いや 』とか言っていたけど、わんこが、『いっしょにくらしたい!』って言うなら別。
   わんこは絶対幸せにする。  
   あれ?でも、たしか名前聞いてなかった、まずは自己紹介からか。

「自己紹介してなかったね 」
「俺はシキ  言っても分かんないだろうけど、一応魔王をやってるよ  」
「まおー?よくわかんないや 」
「そうだよね、 」
「そういえばさ、ねぇ名前なんて言うの?」
「なまえ?……ほしい  」
「付けて欲しいの?」
「うん!」

   名前がない、それも当然かもしれない。
   この子があのわんこなら、見た感じノラっぽいし、何より、このわんこは名前を求めているなら、素敵な名前を考えてみた。
   見た目からして可愛い名前がいい、緑色の目がキラキラしてて気に入ってるからミドリ、いやリコでもいいな、どれも可愛い、悩んでしまう。

「ねぇまおーしゃん?まぁだ?」

   わんこがしっぽをブンブン振っているような、ニコニコした顔で見つめていた。どこか急かすような笑顔。
    
「決めた!お前の名前はヨツバ!幸せになってほしいって思ってつけたんだけど、気に入ってくれた?」
「うん!よつば!よろしく」
「フフっ、よろしく 」

   ヨツバ、喜んでくれてよかった。
   わんこ、いや、ヨツバは嬉しくて、名前をつぶやきながら、クルッと回ったり、ぴょんぴょん跳ねたりしている。可愛いなぁ、ヨツバは絶対俺が守る、幸せにするって心に決めた。

「ヨツバ、新しいおうち行ってみない?」
「行ってみる!!」
「じゃあ、行ってみよっか!」
「うん!」

「ノーブルキー!おうちへ 」

   一見、何もない場所にカギを差し込むと、紫の光が現れ、俺とヨツバを包み込んだ。
   このカギは、扉に差し込むのは、当然の他、空気などの様々な物や無機物にも差し込む事が出来る。
   これを使って、家に当たる魔王城に帰った。

「ただいまぁ 」
「こ、こんにちは 」

   ヨツバは緊張し、俺のマントの中に隠れている。大きくて、割と温かい事もあり、マントに入られるのは慣れている。よく街中歩いていると、小動物が入ってくるし。

「おかえりなさい!まおーさま!」

   桃色髪にセミロング、ピンクの睫毛とサロベット映えるのは、ここの使用人のモニウ。ちなみにモーくんって呼んでる。

「ただいま、モーくん! 」
「も~ 辞めてくださいよぉ!何か牛みたいじゃないですかぁ!」
「だって、そっちのが呼びやすいからしょうがなくない?」
「も~ 」
「ねぇ?このおねーしゃだぁれ?」

   ヨツバがキョトンとしながら、俺を見ながら、モニウを指さしていた。

「あ、このおねーさんはね、モニウっていうんだよ 」
「オレ男ですけど?知ってますよね?」
「合わせてあげたんだよ 」
「はぁ、そうですか… てか、この子、どこの誰ですか?!」

   モニウは眉間にしわを寄せ、ヨツバの顔をジロリと見た。

「ヨツバ、 」

   俺はヨツバを優しく抱き上げ、微笑んだ。

「今日から俺、ヨツバのぱぱになるから 」
「ぱぱって、大丈夫なんですか?ヨツバくんは?まおーさま先週も可愛い猫拾って来たぁって、ニコニコしてたら急に化け物になって襲って来たじゃないですかぁ 」
「はぁ……オレは心配ですよぉ… 」

   モニウが過去の事を持ち出して来た。その時は優しくナデナデして、その後、きっちり魔法で捕らえさせてもらった。
   今は牢屋で健やかに眠っている良い子。だから大丈夫。

「大丈夫だよ 意気投合しちゃったしたし、犬猫《わんにゃん》たちが捨てられてたら可愛がりたくなっちゃうんだよね。」
「ほんっと!すごい感性ですよね、きっとそんな魔王歴史上あなただけですよ 」
「いいじゃん 唯一無二って感じで 」
「てか、ヨツバくんとは、どうやって出会ったんですか?」
「それはね………… 」

   モニウは、ヨツバをまだ警戒しているため、俺とヨツバが出会った経緯を全て説明した。

「ますます怪しいですが?、まず!まおーしゃまって呼ぶ声って言うのは何なんですか?!調べた方が良いと思います!!」
「オレは心配ですよ!」
「まぁまぁ落ち着いて 大丈夫!大丈夫だから!」
「胡散臭すぎますぅ まぁそこまでいうなら、」

   さすが、この場では渋々認めてくれたみたい。そこにヨツバが近寄り、モニウに追い討ちを掛けた。

「よろしく!もにうしゃん!」
「か、かわいいぃ~!」

    バタン!

    ぶっ倒れた。モニウは弱いなぁ。愛想笑いしちゃった。でも、倒れちゃうのも当然か、こんな俺だって、ヨツバの可愛さには眩しくて、クラクラする。

「もにうしゃ、まおーしゃん、だいじょぉぶ?」
「心配するのエラいねぇ よしよ~し 」
「えへへ  」

   心配するヨツバも可愛い。エラくて、髪の毛がボサボサになるぐらい撫でて、抱き上げた。無邪気な笑顔が可愛い。
   ヨツバ、いつか『まおーしゃん 』なんて、呼ばせない。お兄ちゃんみたいに愛でて、ぱぱみたいに笑顔を守ってあげるから。
 
「スピ~ 」
「寝てるの?」
「フフッ 寝てるところも可愛いなぁ  」

   気づけば、ヨツバは俺に抱かれ、眠っていた。

「俺も寝ちゃおうかな 」
「モーくんも寝ているみたいだし 」

   俺はヨツバを抱きかかえたまま、ベッドルームに行った。

「今日は色々あったなぁ、ねっむ 」
「ヨツバおやすみぃ 」

    バタン

    余りにも疲れていたからか、ベッドに倒れ込んだ。

    
     



    

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