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三章 龍の花嫁

68 逃走中です

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「そっちにいったぞ!」
「いや、嘘つけ、そっちにいったって!」
「相手はマーガレットだぞ! 常識で物を考えるな!」

 どうも、ノアの国女王マーガレットです。

 女王としての仕事が始まって、最初はかなり忙しかったですがなんとか落ち着いてきました。

 そして、私は今全力で逃げています。誰からって? 村の全員からです。

「あ、居たぞ! なんかお菓子食べてる!」

 まずい、バレンタインに見つかってしまいました。転移……出来ません?!

「マーガレットさん、転移はさせない!」

 くっ、ナオキの魔法ですか。ですがまだ甘いですよ。転移がダメなら空間をねじまげて私の位置座標を書き換えます。

「え、ええ?! どうやって!」
「ふふふ、秘密です。まだまだですねナオキ!」

 よし、このまま逃げましょう。さすがに何度も空間を捻じ曲げて移動すると魔力の消費が洒落にならないので、飛んで移動します。

 フワッと身体を浮かせて、一気に上空へ……って思いましたが、大量の悪魔たちが空を埋めつくしています。

「姉御、大人しくお縄についてくだせぇ!」
「そうだぜ姉御、潔さが大事だ」
「嫌ですよ。私は逃げます!」

 捕まるわけにはいかないのです。魔法で突破口をこじ開けます。

「てめぇら! 対マーガレット防御魔法の準備だ!」
「「おう!」」

 ほぼすべての悪魔たちが協力してひとつの魔法を構築していきます。おお、これほどの大規模魔法は見た事がありません。

 って感心してる場合じゃないです。あれほどの魔法だとさすがに抑えられてもおかしくありません。

「いくぞ! 極大合体魔法《獄門》!」
「うっ、間に合いませんでしたか」

 禍々しい牢獄に入れられてしまいました。この魔法は相当な堅固なイメージで作られてますね……。見事です。これならフォーレイも捕まえられますよ。

「さすがの姉御も、これは出れねぇだろ!」
「おい馬鹿、そういうことを言うとだな!」

 ええ、出て見せようではないですか。どれだけ堅牢なイメージであろうと、それを超えるイメージを考えればいいだけです。

 イメージは……そうですね、卵の殻を破って出るイメージで行きましょう。

「お、おい……姉御がとんでもない魔力を練ってないか?」
「やべぇ、あれはやべぇぞ。お前らありったけの魔力をーー」

 間に合わせません。でっかい魔法のドラゴンを作り出して魔法をぶち破ります。どーん!

「「「うわぁぁぁ?!」」」

 よしよし、抜け出せました。今の魔法の衝撃で転移の無効化も解除されています。今がチャンスです。

「まずい、主が逃げるぞ!」
「転移!」

 飛びかかってきたフェンをギリギリのところで交して我が家まで転移します。

 ふぅ、家には魔法の防御がかかってますからね。そう簡単には入ってこれないでしょう。

「疲れました……こういう時こそフェンをもふもふしたいですが、捕まってしまいますからね」

 とりあえず、お昼寝でもしましょう……ん? なんか今カチャって音が聞こえた気が。

 あれ? 腕が動かせません?! 

「お母さん、捕まえたよ!」
「アダム?! いつのまに!」

 まったく気配がしませんでしたよ。

「えへへ、この前金髪の人が使ってた魔法を真似してみたんだ」
「やりますね……まんまとやられてしまいました」

 腕の拘束はアダムに繋がっていますし、無理に逃げると怪我をさせてしまいます。むぅ、ここは大人しく捕まりましょう。

 ただ、私を捕まえるなんて、凄いですねアダム。

「ほら、アダム。ぎゅーしましょう」
「いいの?! ぎゅー!」

 かわいいですね。よしよし。最近忙しくてあまりアダムと遊ぶ時間がありませんでしたから、寂しい思いをさせてしまいました。

 アダムをよしよししていると、家の玄関からドタバタと足音が聞こえます。みんな来ましたか。

「見つけたぞマーガレットって……アダムが捕まえたのか。やるな」
「えへへ、ありがとアーさん」

 アーさんに頭を撫でられてアダムが笑っています。微笑ましい光景ですね。

 そのまま微笑ましく終わって欲しいのですが、なぜか笑顔を浮かべたみんなに私は囲まれています。

「マーガレット様、わかってますね?」
「……わからないですね」
「仕事、残ってますよね?」
「……」

 朝起きたら、大量の仕事が机に乗っかってる光景は悪夢です。

 いや、わかってるんですよ? 大量といっても、私以外にできる仕事は文官勢が処理してくれていますし、できる限り減らしてくれてるはずです。

 それでも……私はだらだらしたいんです!

「ダメです。だらだらするのは仕事が終わってからですよ」
「嫌ですぅぅぅ」

 ズルズルとシルフィに引きずられてしまいます。はぁ、嫌です。仕事したくありません!

「せめて城以外でやりません? 自分の名前がついた城の一番いい部屋に篭もるってなんか独裁者みたいじゃないですか」
「女王なんですから、おかしいことではありませんよ」

 たしかに、私は女王でした。城に住むのも当たり前なのかもしれませんが、やっぱり改名しません?

 はっ。閃きました。もう一個城を作ればいいのでは?

「……なんか変なこと考えてますねマーガレット様」
「なぜわかるんですか」
 
 シルフィ、鋭すぎますよ。はぁ、大人しく仕事しますか。やるからにはさっさと終わらせてみんなとのんびり遊びましょうか。
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