【完結】『婚約破棄』婚約者のバカ王子に魔法の才能を盗まれた私は、物理(拳)で復讐する。

魔法をとめましょう。

「さぁ、王子。殴らせてください」

「嫌だよ？！　くっ……おい悪魔！　どうにかしろ！」

　やっぱり悪魔でしたか。魔法の才能を持つ者の前に現れる精神生命体。原初より存在する『知恵ある悪意』というやつです。

　魔法の才能を持つ者は大抵図太い性格をしているのでひっかかりませんが、王子は後天的に魔法の才能を獲得しましたからあっさり唆されたのでしょう。バカですね。

『仕方がない……普通は姿を見せないのだが。おい、あの魔法を起動させろ』

「え、いいのか？　あれ、ここぞと言う時に使うって」

『いいから使え！』

「は、はい！」

　あのバカ王子、なんで悪魔にペコペコしてるんですか。まったくイライラしますね。

　あ、けど王子の起動した魔法。やばいですね。あれは純粋な力の塊、魔力を餌にこの世ならざる生き物を呼び出す召喚魔法。

　止めますよ。

　王子に近づき、拳を振り抜きます。

「うわぁ？！」

「……防御魔法。見たことの無い術式ですね」

　硬いわけではありませんが、衝撃のほとんどを受け流してますね。受け流し先は……この城ですか。これじゃあ殴れば殴るほど城が壊れますね。

『くふふ、どうにも出来まい』

「いえ、そんなことはないですよ」

『なんだと？』

　髪を結っていた髪留めを外します。長く伸ばした髪の毛が少々邪魔ですが、まぁ気にしません。

　この髪留め、実はちょっとした武器になるんです。軽く回して形を変えれば、ナイフになります。バタフライナイフのようなものです。

「えい！」

　そしてスパッと防御魔法を切ります。あ、やっぱり衝撃に特化してるので斬撃には弱いですね。

『馬鹿な？！　……だが、遅い！』

　むぅ、ぎりぎり間に合いませんでした。魔法が発動してしまいます。

　さて、何が呼び出されるのでしょーーってドラゴンですか？！　しかもあの時のドラゴンじゃないですか！

『ふはは、これが私の体だァァァ！』

　あ、悪魔がドラゴンの体を乗っ取りました。ドラゴンは体が縮んで人型になりますが、その力は小さくなるどころか強くなってますね。

　やばいです。ちょっと勝てないかもしれません。

『……ここは、人の作った城か。ふむ、そして我の意識のそこにあるこれは……あぁ、悪魔か』

　……あれ？　ちょっと様子が変ですね。もしかして悪魔、ドラゴンに負けました？　乗っ取ろうとして逆に吸収されましたね。

　ふふふ、ざまぁないですね。

　ドラゴンなら話が通じるかもしれません。

『なるほど、体を手に入れようと我を使ったか。愚かな……だが、願いは叶えてやろう。手始めにこの国を滅ぼしてやろうではないか』　

　前言撤回、全然通じなさそうです。