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第1章 復讐の始まり

第7話 迷宮と訓練

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□アルムスフィア聖王国 聖都ウォーデン郊外 クロノトリノ迷宮:
《勇者》光ヶ崎秀一


 俺達は訓練のために聖都ウォーデン郊外にある迷宮に来ていた。迷宮の入り口には『クロノトリノ迷宮』と書かれている。


「これから実践訓練にはいる! この先の上層は訓練場でも言ったが弱い魔物しか出て来ない。だが、何か想定外の事態が起こるかもしれないことを常に忘れるな!」


 アルデラからの号令に俺達は頷き、そしてクロノトリノ迷宮へと入って行った。俺は緊張しながら迷宮を歩いていると迷宮に入ってからさして間もなく俺達の前に魔物が現れる。俺達の半分程の背丈に醜い顔をしたその魔物は様々なRPGゲームにおいてその名を轟かせる雑魚モンスターの一角であるゴブリンだった。

「なんだただのゴブリンじゃないか。これなら楽に倒せそうだ」

『キシシシシシッ!』

 俺は余裕の笑みを浮かべながら、そう言って聖剣を構えゴブリンに向けて真っ直ぐに振り下ろす。俺の中ではこれでもう倒したと思っていたのだが、ゴブリンは俺の攻撃を素早く動いて躱すと飛び上がり俺の顔面に拳を叩きつけた。


 俺は殴られた衝撃で後ろへと倒れる。殴られた頬を押さえながら俺はあのゴブリンの危険性を再認識する。どうやら俺達の知っているゴブリンよりも強いようだ。今は翔吾が1人でゴブリンを相手しているが素早い動きをするゴブリンを捉えるのに苦戦しているようだ。


 俺は立ち上がるともう1度聖剣を構え直してゴブリンに向かっていこうとしているその時だった。俺の背後からとても綺麗な歌声が聞こえてきたかと思うと俺の体から力が溢れだし始めた。


 俺が振り向くと陽菜がどこから出てきたかはわからないがマイクを手に持ち、トップアイドル『ひなにゃん』の曲の中でも大ヒットした元の世界の人々であれば誰もが知る曲『サマーナイトに告白を』を踊りながら、どこからか流れてくるミュージックに合わせて歌っていた。


「こ、これは!?」
「これが陽菜の《歌姫》の能力だ。歌っている間対象に様々な恩恵をもたらすのだ」
「『ひなにゃん』の生歌! よっしゃ! 気合い入るぜ!」


 翔吾は俺達の中でも特に熱狂的な『ひなにゃん』のファンであるため俺達とは更に気合いの入り具合が更に違うのだろう。翔吾は闘気で龍のようなものを作り出し、闘気の龍がゴブリンを捕まえる。


「秀一今だ! 俺が捕まえている間にやっちまえ!」
「ああ! うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺の聖剣を一撃がゴブリンを真正面から捉え一刀両断する。ゴブリンの体は真っ二つに裂けてそのまま絶命した。


「俺達の勝利だぜ!」


 そう言って俺のもとへ翔吾が駆け寄ってくる。俺と翔吾はハイタッチを交わして喜びを分かち合う。もちろんのことだが陽菜とも後からハイタッチをして喜びを分かち合った。









 戦闘を終えた俺達は更に迷宮を歩き続けた。と言ってもアルデラが持ってきている迷宮の地図で現在地が把握できる場所だけなのだが。しばらく歩いていると再び魔物がその姿を見せる。次に出てきた魔物は簡単言うと人型の豚である。こいつもまたRPGゲームにおいて雑魚モンスターとして扱われることが多いモンスターだ。


 そう俗に言うオークである。俺は翔吾は陽菜のサポートを受けつつ2人でそのオークに突っ込んで行った。ゴブリンの時に自信がついたため俺が倒せると思ったその時だった。


『フグガガガガ!』


 実は曲がり角の向こうには更にオークが潜んでいたようでそのオークが俺に目がけて猛突進してくる。不意を突かれた俺はその突進を躱すことができず壁に思い切り吹き飛ばされる。


「「秀一!」」


 みんなが俺を心配そうにこちらを見ている。翔吾は闘気の龍でオークを地面に叩き付けて倒してからこちらへ駆け寄る。鎧のおかげで衝撃は軽減されているが、それでも骨の1本か2本くらいはおそらく折れてしまっただろうなと俺は痛みを堪えて立ち上がりながら推測する。更に曲がり角からは先程俺に猛突進してきたオークの他に更にオークが2体出てきてオークの合計は3体になってしまった。


「おいおいどうするんだよ! この数は今の俺と秀一だけじゃ結構きついぜ」
「確かに結構きついな」


 俺は負傷しているし、そもそも数的に2対3では分が悪い。昴と薫子ちゃんの能力はまだなのかと思ったその時だった。


「ここは先生の出番なのですよ! アルデラさん先程説明していただいた能力はもう使っていいです?」
「そうだな。ここが使い時だろう」


 薫子ちゃんの能力がどんなものなのか俺や翔吾が息を呑むなか薫子ちゃんの能力が発動される。


「豚のみなさん! 早くお家に帰ってほしいのですよー!」
「「はぁっ!? そ、それだけ?」」


 俺と翔吾はあまりの予想外な行動に驚きの表情を隠せていないまま、同時にその疑問を口にする。


「これだけなのですよ。でも安心してほしいのですよ! あれを見てほしいのですよ!」
「「あぁ。うん!?」」


 俺は振り向きながら返事をしていたら目の前の光景に思わず声が上ずってしまう。薫子ちゃんの言葉を聞いたオーク達が回れ右をして一斉に帰り始めたのだ。


「これが《指導者》の能力なのですよ。1日に1度だけ対象に好きな命令を聞かせたり、私の考えを対象の上書きしたりできるそうなのですよ!」
「す、すごいな。その能力は」


 俺はそう言って薫子ちゃん達のもとへと歩こうとするが俺の体に激痛が走る。


「秀一君、今僕が治しますね」


 俺のもとへ昴が駆け寄ってきてそう言うと昴の手から魔法陣が出現する。そしてふと気づくと俺の傷は何事もなかったかのようになくなっていた。いや完全に治療されたのだろう。


「昴、これは?」
「どうやらこれが《白魔導士》の能力でその場で黒魔術以外であれば新たな魔法を作り出したりできるようです。もちろん勉強すれば既存の魔法も使えますよ」
「すごいな。助かったよ。ありがとう。だが何で戦闘中に魔法を使わなかったんだ?」
「アルデラさんにもし失敗して暴発すれば我々の身が危険だと言われたので」


 昴は自信に満ちた顔で能力を語る。俺は昴に礼を言ってアルデラさんのもとへ駆け寄る。


「この後はどうしますか?」
「一応負傷者も出てしまっているし初日としては成果は予想以上と言ってもいい。今日の訓練はここまでとする! ウォーデン城に帰還する!」
「「はい!」」


 こうして俺達の初日の訓練は終了した。帰る途中で魔物には出くわしたがアルデラさん達聖騎士の方々が撃退してくれたため俺達は無事にウォーデン城へ帰還できた。









 翌日からの訓練は全員が全員の能力を知っていることや戦闘を経験しているためか初日よりスムーズに戦闘が進んだ。訓練終わりの空いた時間に昴はどうやら宮廷魔導士達から魔法を習っているらしく使える魔法のバリエーションが増えたらしい。

 そうして気づけばアルデラさんや聖騎士の方々よりも強くなっていた。そして今日も訓練に出発しようとしていた俺達にアルフレッド3世陛下からとある依頼が届く。
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