20 / 111
19話
しおりを挟む
初めての事で戸惑ったが、普通に考えればただ気になる女性にダンスを申し込んだだけである。今までクリフ殿下の婚約者候補だったので誘われなかったか、ビッチメイクが余程男性受けが悪かったのか、どっちかだろう。壁の花になってダンスにすら誘われない残念な子だと思われるのも、切ないので彼の手を取って笑顔で承諾した。
――――――もうかれこれ3時間以上踊って居る。だってさ、次から次にダンスに誘われなんて断ったらいいかわからないし、真っ赤な顔して一生懸命言ってくる人もいてさ、なんか悪くて。でももう脚が限界だよ疲れたよ。
はぁ~やっと曲が終わったので、相手の男性に礼をして離れた。
「エリカ嬢、お疲れではないですか?こちらどうぞ」
そう言って少し年上の……20歳ぐらいだろうか、男性は冷たい飲み物を渡してくれた。
この人、気が利くいい人だな。とても好感が持てる。私は自然と笑顔になった顔でお礼を言って、グラスを受け取った。
「良かったらテラスでお話でもしませんか?」
彼が差し出した手に、私の手を重ねテラスに向かった。
今夜は新月でテラスは少し暗い。頭上には星が煌めいていて、他にも何組かの男女が語りあっていた。彼は自己紹介から始まり、彼は音楽関係に強いらしく中でもチェロが得意で……という話を自慢げにされた。いや、確かにすごいと思うよ。でもさ凄いって評価は他人がするものであってさ、そんな自慢げに話されると凄いって思わなきゃいけないみたいで、なんだか素直に関心出来なくなっちゃうんだよね。
あぁそういえば、前世の雑誌に自慢話をする人は自分の事を知ってもらいたい人らしい。ちょっと聞き流していたら……勝手に髪を触られ始め、彼の顔が寄ってきた。
キスされる!!ちょっとまって!どうしよう、恋愛経験がなさ過ぎて円満に躱す手立てが思い浮かばない。逃げようにも後ろは手摺で正面には彼が。両端は彼の腕に阻まれ何処にも躱せない。八方塞がりの私は思わずしゃがみ込んだ。
「ごめんなさい、目眩が……」
そう言って走って人気の更に少ない中庭に逃げた。
戻ればまた延々ダンスを踊らされるし、この辺で少し休もう。大広間から離れた中庭は、明かりも無く暗いが薄っすらと浮かぶ白いガゼボを見つけて座ろうと腰を下ろすと、硬い木の感触ではない柔らかい物体がお尻に当たった。
「ん!?」
低い男性の声が聞こえ、慌てて立ち上がった。
「ごめんなさいっ!」
どうやらお尻の下敷きにしたのは人間だったらしい。起き上がった彼と対峙しているが、辛うじて人型のシルエットは見える程度で、顔が見えず誰だか判らない。
「なんでこんな所にいるの?」
彼の声は堅くて少し怒っているように聞こえた。
「男性に迫られて、あしらい方も分からず逃げて来てしまいました。下敷きにしてしまって申し訳ございません」
「ふーん」
さっきの人にも捕まりたくないし、もうダンスも遠慮したい。
「此処に居ても宜しいですか?」
「別に良いけど」
「ありがとう。貴方はどうしたの?あっもしかして具合が悪いとか?大丈夫ですか?」
休んでいる所を邪魔したんじゃ!?
「違うよ、言い寄ってくる女性から避難してるだけだよ」
さっきから気になってたけど、この人の声好きだな。それになんか懐かしいような気がする。
「モテるのも大変ですよねぇ。男性からダンスを誘われて断るのは宜しくないって言う暗黙のルール辞めてほしいです。お陰で3時間も踊る羽目になったんですよ」
中世ヨーロッパでは知らないけど、この国では基本男性からダンスを申し込むのは男性で申し込まれたら、恥をかかせちゃいけないとかで断っちゃいけない。
モテる女子が羨ましかったけど、今はもう羨ましくない。1日モテただけで辟易してる。
「あはっ!君ダンス3時間も踊ったの?疲れたからお話でもって言えば良いのに……」
彼は爆笑したけど、私としては笑い事じゃない。本当に辛かった。足つるかと思ったよ。今度はそう言って、休もう。
「笑い事じゃないですよ。鍛えてるからなんとかなったけど、じゃなかったら倒れてました」
「ぶっ!君鍛えてるの?貴族の令嬢なのに??」
彼は可笑しくてしょうがないといった感じでゲラゲラ笑っている。
「貴族の令嬢だからって、刺繍の腕を磨いたってなんの役に立つのかって話でしょ!?いざっていうとき、格闘技ができた方がよっぽど役に立つわ。最終的に自分の身は自分で守るしかないじゃない」
「あ~可笑しい。君、本当に変わってる。僕の周りの女の子は皆、僕を見ると恥じらいながら頬を染めて女らしさをアピールしてくる子ばかりだよ。……もちろんそれは可愛らしいとは思うんだけど」
「でも可愛いと思ったからって好きになるわけじゃないよね」
「うん、そうだな。……そろそろ戻らないと。君は……?」
「まだ此処で休んでいきます」
「じゃなくて名前」
「うーん、知らないほうがこうして話せるかも」
私は身分が高いから誰か分かったら、こうやって気安く話してくれないかもしれない。
「そうかもな」
彼は立ち上がって私の前を通り抜けた。思わず上衣の裾を掴んだ。だって惜しかったのだ、この時間が終わってしまうのが。前世みたいにこんなに気楽に話せたのは初めてだったから。
「ねぇ、また逢える?」
彼は少し考え込んだあと、「じゃぁまた此処で」と言って去っていった。私はさっきまでの時間を惜しむように彼の去って行った方を暫く眺めていた。
――――――もうかれこれ3時間以上踊って居る。だってさ、次から次にダンスに誘われなんて断ったらいいかわからないし、真っ赤な顔して一生懸命言ってくる人もいてさ、なんか悪くて。でももう脚が限界だよ疲れたよ。
はぁ~やっと曲が終わったので、相手の男性に礼をして離れた。
「エリカ嬢、お疲れではないですか?こちらどうぞ」
そう言って少し年上の……20歳ぐらいだろうか、男性は冷たい飲み物を渡してくれた。
この人、気が利くいい人だな。とても好感が持てる。私は自然と笑顔になった顔でお礼を言って、グラスを受け取った。
「良かったらテラスでお話でもしませんか?」
彼が差し出した手に、私の手を重ねテラスに向かった。
今夜は新月でテラスは少し暗い。頭上には星が煌めいていて、他にも何組かの男女が語りあっていた。彼は自己紹介から始まり、彼は音楽関係に強いらしく中でもチェロが得意で……という話を自慢げにされた。いや、確かにすごいと思うよ。でもさ凄いって評価は他人がするものであってさ、そんな自慢げに話されると凄いって思わなきゃいけないみたいで、なんだか素直に関心出来なくなっちゃうんだよね。
あぁそういえば、前世の雑誌に自慢話をする人は自分の事を知ってもらいたい人らしい。ちょっと聞き流していたら……勝手に髪を触られ始め、彼の顔が寄ってきた。
キスされる!!ちょっとまって!どうしよう、恋愛経験がなさ過ぎて円満に躱す手立てが思い浮かばない。逃げようにも後ろは手摺で正面には彼が。両端は彼の腕に阻まれ何処にも躱せない。八方塞がりの私は思わずしゃがみ込んだ。
「ごめんなさい、目眩が……」
そう言って走って人気の更に少ない中庭に逃げた。
戻ればまた延々ダンスを踊らされるし、この辺で少し休もう。大広間から離れた中庭は、明かりも無く暗いが薄っすらと浮かぶ白いガゼボを見つけて座ろうと腰を下ろすと、硬い木の感触ではない柔らかい物体がお尻に当たった。
「ん!?」
低い男性の声が聞こえ、慌てて立ち上がった。
「ごめんなさいっ!」
どうやらお尻の下敷きにしたのは人間だったらしい。起き上がった彼と対峙しているが、辛うじて人型のシルエットは見える程度で、顔が見えず誰だか判らない。
「なんでこんな所にいるの?」
彼の声は堅くて少し怒っているように聞こえた。
「男性に迫られて、あしらい方も分からず逃げて来てしまいました。下敷きにしてしまって申し訳ございません」
「ふーん」
さっきの人にも捕まりたくないし、もうダンスも遠慮したい。
「此処に居ても宜しいですか?」
「別に良いけど」
「ありがとう。貴方はどうしたの?あっもしかして具合が悪いとか?大丈夫ですか?」
休んでいる所を邪魔したんじゃ!?
「違うよ、言い寄ってくる女性から避難してるだけだよ」
さっきから気になってたけど、この人の声好きだな。それになんか懐かしいような気がする。
「モテるのも大変ですよねぇ。男性からダンスを誘われて断るのは宜しくないって言う暗黙のルール辞めてほしいです。お陰で3時間も踊る羽目になったんですよ」
中世ヨーロッパでは知らないけど、この国では基本男性からダンスを申し込むのは男性で申し込まれたら、恥をかかせちゃいけないとかで断っちゃいけない。
モテる女子が羨ましかったけど、今はもう羨ましくない。1日モテただけで辟易してる。
「あはっ!君ダンス3時間も踊ったの?疲れたからお話でもって言えば良いのに……」
彼は爆笑したけど、私としては笑い事じゃない。本当に辛かった。足つるかと思ったよ。今度はそう言って、休もう。
「笑い事じゃないですよ。鍛えてるからなんとかなったけど、じゃなかったら倒れてました」
「ぶっ!君鍛えてるの?貴族の令嬢なのに??」
彼は可笑しくてしょうがないといった感じでゲラゲラ笑っている。
「貴族の令嬢だからって、刺繍の腕を磨いたってなんの役に立つのかって話でしょ!?いざっていうとき、格闘技ができた方がよっぽど役に立つわ。最終的に自分の身は自分で守るしかないじゃない」
「あ~可笑しい。君、本当に変わってる。僕の周りの女の子は皆、僕を見ると恥じらいながら頬を染めて女らしさをアピールしてくる子ばかりだよ。……もちろんそれは可愛らしいとは思うんだけど」
「でも可愛いと思ったからって好きになるわけじゃないよね」
「うん、そうだな。……そろそろ戻らないと。君は……?」
「まだ此処で休んでいきます」
「じゃなくて名前」
「うーん、知らないほうがこうして話せるかも」
私は身分が高いから誰か分かったら、こうやって気安く話してくれないかもしれない。
「そうかもな」
彼は立ち上がって私の前を通り抜けた。思わず上衣の裾を掴んだ。だって惜しかったのだ、この時間が終わってしまうのが。前世みたいにこんなに気楽に話せたのは初めてだったから。
「ねぇ、また逢える?」
彼は少し考え込んだあと、「じゃぁまた此処で」と言って去っていった。私はさっきまでの時間を惜しむように彼の去って行った方を暫く眺めていた。
0
お気に入りに追加
1,524
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる