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3話 決別

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 私は必死に何かから逃げるように走っていた。逃げても逃げても追いかけてくる黒い影。然し等々影に手首を掴まれた。振り返るとそれは髑髏で鎌を持っている死神だった。

「あ゛あ゛あぁぁぁぁ~~~!!!!」

 もう1週間毎日見ている、いつもの夢である。原因はもちろん死亡フラグ。他にもギロチン.ver、晒し首.ver、森で惨殺.verなどバラエティに富んでいるが、想像力には乏しい。しかも悲鳴に色気なし。お陰で睡眠不足だよ。

 夜になると独りぼっちが寂しくて前世が恋しい。暖かい愛の記憶が私を苦しめる。愛には家族も友達もいた。でも私には誰も居ない。とりまき?取り巻きなんて権力に擦り寄ってるだけだよ、きっと。権力が無ければ、誰も居なくなる。でも一人だけは前世の友達関係と違うけど、いつも困ったときは相談に乗ってくれた人がいる。カロリーナだ。カロリーナだけは学園入学前からの友達で、今までカロリーナの言う通りにすれば間違い無かった。彼女なら私のことを思ってくれるに違いなかった。



 私はお父様にお礼と報告をしに執務室に向かった。ドアをノックすると無機質なお父様の声で入るように促された。執事長がドアを開けてくれた。

「この度はご迷惑をお掛けして申し訳ございません。それと婚約解消にあたってお力添えを頂きありがとうございます。」

「そうか」

 私が何を言ってもその一言だけ。どんだけ私に無関心なのか、悲しくなる。いやそんな気持ちはとうに越えて諦めだ、今の気持ちは。お父様のとの距離は遠くはない、だって無なんだから。わたしたちの関係は血の繋がりだけ。

 お父様と普通の親子の様になりたかったけど無理。今だって私の顔を見ないんだから。

 私は自分の契約書の作成をお願いして、下がった。

 今日から新学期で3年生になる。すっぴんで誰かわからないと困るので、いつものビッチメイクを施し、紺色のロングワンピに白いセーラーカラーの胸元には赤いリボンが付いている学園指定の制服に袖を通した。

 教室に入ると取り巻きたちが声を掛けてきた。クラスは2年からの持ち上がりで取り巻き達と一緒。カロリーナとも。さらに攻略対象者であるクロード・ヘルブラムとも一緒だ。

「おはようございます、エリカ様」

 取巻き達がそう口々に挨拶してきた。

「皆さんごきげんよう」

 「聞いてください、エリカ様。またあの女がクリフ様やアルト様、ジーク様と一緒に廊下を楽しそうに歩いていました」

「まぁ!それは許されません!クリフ様はエリカ様の婚約者なのに。どうにかしてください……エリカ様」

 怖いよ、目が血走っているよ。

「まぁ、落ち着いて……同じ生徒会役員なのだから始業式の打ち合わせでもしてたんでしょう」

「エリカ、これは制裁を加えないと……」

 そう言ったのはカロリーナ・ホルン侯爵令嬢。黒髪に紫の瞳の気の強い美人だ。

「でも……」

「平民如きが怪我してもなんだと言うの?」

「もうキャロラインさんを虐めるのは止めよう」

「ハァ!?何言っているの?エリカらしくないじゃない。これは虐めじゃないの。身の程知らずに対しての教育よ。言ってもわからない者には罰を与えるだけじゃない!」

 「私らしいって何?…カロリーナは間違ってる」

 「何でも私の言いなりだった所よ。ろくすっぽ考えもしないでいたのに、何そのセリフ。笑える」

 「だれがなんと言おうとカロリーナは虐めないし、今までのことを謝ろうと思っている。みんなも謝るべきだわ」

「貴方が命令してやったことでしょう!?何故、私達わたくしたちが謝らなきゃいけないのかわからないわ。ねぇみんな」それを聞いて取り巻きたちの殆どが頷いた。

「だってカロリーナが制裁が必要だと………でも私、一人でも謝る。他人の意見など関係ない」

「散々虐めた癖に何言ってんだか。大人しく私の言いなりになればよかったのに……」

 カロリーナは馬鹿にしてクスクス嘲笑った。

 2年生から同じ担任が胸の辺りを揉みながら入ってきたので、皆は席に着いた。申し訳ない事に気が弱い担任の先生は、多分私達のせいで胃痛持ちである。権力者の娘の私達に気を使ってたから。

 カロリーナ……何故?どうしてと疑問符が頭の中を渦巻いている。気がつくとホームルームは終わっていた。一時間目は刺繍の授業で家庭科室へ移動するため、廊下に出た私に先生が声を掛けてきた。

 「ノヴァ様、少しお時間頂戴しても宜しいでしょうか?」

 「はい」

 「生徒会の件なのですが…………やはり入る事は叶いませんでした。申し訳ございません」

 先生は痛むようで胃の辺りを擦っている。

 生徒会は一応会長のみ選挙で決まるけど、選挙があっても学校で最高権力者の嫡子がなる事が通例で他の立候補者はいない。その他の役職は会長の指名で決まる。一応、指名を受けても断る事が出来るが、自分より上の権力者の嫡子である会長の申し出に断る人はいない。
 私は生徒会役員に立候補したのだが、多分会長であるクリフ殿下に断られたということだ。結果的には良かった。他のメンバーは副会長にアルト、会計にジーク、書記にヒロインたるキャロラインで構成されているからだ。

 「やはり私には気が重く、結果に安堵しております。ですので気になさらないでください」

 「左様ですか………」

 様子を伺う先生。

 「もうよろしいですわ。そんなに気を使わなくて大丈夫です」

 「失礼いたします」

 先生は一礼して足早に去っていった。

 取り巻き一同が居たので、声を掛けると無視された。この日から取巻き達は私を居ないものと同様に扱った。




 毎日、重く進まない足で学校に通った。校内では私に話しかける人など居ない。今までやりたい放題だったツケをはらっているんだと思う。カロリーナ率いる元取巻き達は、公爵令嬢たる私に手が出しにくく苛ついてるようだった。

 廊下の窓からこちらに向かって歩いてくるクリフ殿下を見つけては避けている。王宮ですれ違ってから一度も会っていない。

 自宅への帰りの馬車から、外を見ると桜の蕾がほんのりピンク色にそまっている。もうすぐ神桜祭がやってくる。

 神桜祭とは、国教であるケラシー教のフロース様という女神様に感謝を捧げる祭事だ。平民はお花見をして王都の平民区画にある神殿に祈りを捧げるようだけど、貴族となれば違う。王宮に隣接されている神殿で祈りを捧げてから夜会に赴く。そして乙女ゲームでのイベントでもあった。

 神桜祭前日に仕立ててもらったドレスが出来上がった。ピンクの下地に白いオーガンジーを重ねたスカートに桜の刺繍されている。前から見ると袖がパフスリーブですごっく可愛い!しかーし、ただでさえ大きい胸を強調してるし、後ろは背中の2/3が露わになっていて、自分で作らせておきながら大胆なデザインで恥ずかしいのが難点だ。

 明日は契約書にクリフ殿下のサインを頂いて、キャロラインに謝る。謝って受け入れられれば以前の罪を断罪する事は、難しいと思う。これで未来が良くなれば良いんだけど……

 私はカロリーナのことも、死亡フラグことでも、哀しい事で胸がはち切れそうなほど辛かったけど、明日の神桜祭しんおうさいのために早くベットに横たわった。

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