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86話 晩餐会
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教会から王宮に移動して大広間で晩餐会だ。長いテーブルには一番上座に皇太子になったクリフ様が座していて隣は隣国の王女様だ。そして右側に陛下、皇后様、宰相である私の父、アルトで左側には第二皇子のエリク様、そして私だ。座席順としては少し可笑しいが、若い子でという配慮なのかもしれない。アルトは性格に難があるから、クリフ様がエリク様の隣に座らせなかったのかな。私のエリク様とは逆の隣はアグネス様の兄でケンプソン公爵家次期当主が座っているのだから。因みにアグネス様は婚約者と一緒に座っているので、私とは離れている。然し、そんな配慮も虚しく何を話していいかわからない。まぁ、皇后様の隣とかされないだけ良かったけどね。でも正面を向いてもクリフ様が視界に入り、心がざわつく。
グラスにシャンパンが注がれ、クリフ様の皇太子就任を祝い乾杯した。席に座るとすぐに前菜が運ばれてきた。
アグネス様の兄であるイヴァン様とはアグネス様の話をした。アグネス様が婚約者と上手く行ったのは私のお陰だと話していたそうだ。
「エリク様ご機嫌麗しゅう存じます」
「おかげさまで、今日という日を迎えられて弟して大変誇らしい心持ちです」
私の4歳年下のエリク様はの笑い顔は少しだけクリフ様に似ていて、その分だけ胸が締め付けられた。
「クリフ様には生徒会でご一緒させて頂き大変お世話になっております」
「お兄様に!? お兄様は学校ではどんな感じなのでしょうか?」
「それは……」
言えやしない。仕事が早くてすぐ終わるから、しょっちゅう昼寝して、トランプしてるなんて。まるで皇子らしくない普通の男子だよ。さっきの皇太子の儀の時とは別人の誰かだよ……なんて言えない。
「仕事が早くて有能で生徒会の皆んなの為にお菓子を手配してくれる優しい御方です」
クスクスと鈴がなるような可愛らしい笑い声が聞こえ、そちらに目を向けると……クリフ様と隣国の王女様――名はナターシャ様だ――とても親しげで楽しそうに見える。あっナターシャ様がクリフ様の肩に手を乗せた。
(やめて! 触らないで!)
自分の恋人でもなんでもないのになんと厚かましいことだろうか? 私は多分嫉妬したんだろう。羨ましいくて羨ましくて悲しくなった。その後は何でもない顔をして精一杯楽しげに話した。
王宮から出るとふわりふわりと空から綿雪が降っていて、街を真っ白に塗り替えている。いつもは変わった街並みに心が弾むのだけれども、今はとても沈んだ気分だ。雪を踏みしめる。パンプスでは足が冷たい。浮遊感がして振り返るとハサンが仏頂面で私を横抱きにした。驚いて目を丸くしてハサンを見つめると……
「見るなよ……」
首まで赤くなっている顔を見てニヤニヤしてしまう。男ばかりの8人兄弟で帝国とは文化も違う彼は女性には不慣れで恥ずかしいのかもしれない。
「チッ……お前、後でおぼえてろよ」
「ごめんあそばせ。私3秒で忘れるわ」
いつもの様子とは違い、ちょっと面白かったからからかってみるとハサンは「もうしらねっ!」と言って優しく下ろして先を歩いた。くすくすと笑うと足を早めて先に馬車に乗ってしまった。謝っても馬車に乗ってる最中ずっと喋ってくれなかった。私は少しだけ気持ちが晴れた。
家に帰るとお父様が仁王立ちで立っていた。物凄く怒っている。ハサンとの事を朝まで説教された。付き合うなら筋を通せ=婚約しろだのハサンはまず最初に挨拶に来ないだのとずっと言われた。眠いふらふらになりながら自室に向かって歩いていると腕を掴まれた。驚いてそちらを向くと腕を掴んでたのはアルトだった。
「ありがとう」
「ららの為だ」
「でも、私は助かってるからありがとう」
「言っとくけど、オマエのことは嫌いだから」
……こいついつも一言多いと思う。
グラスにシャンパンが注がれ、クリフ様の皇太子就任を祝い乾杯した。席に座るとすぐに前菜が運ばれてきた。
アグネス様の兄であるイヴァン様とはアグネス様の話をした。アグネス様が婚約者と上手く行ったのは私のお陰だと話していたそうだ。
「エリク様ご機嫌麗しゅう存じます」
「おかげさまで、今日という日を迎えられて弟して大変誇らしい心持ちです」
私の4歳年下のエリク様はの笑い顔は少しだけクリフ様に似ていて、その分だけ胸が締め付けられた。
「クリフ様には生徒会でご一緒させて頂き大変お世話になっております」
「お兄様に!? お兄様は学校ではどんな感じなのでしょうか?」
「それは……」
言えやしない。仕事が早くてすぐ終わるから、しょっちゅう昼寝して、トランプしてるなんて。まるで皇子らしくない普通の男子だよ。さっきの皇太子の儀の時とは別人の誰かだよ……なんて言えない。
「仕事が早くて有能で生徒会の皆んなの為にお菓子を手配してくれる優しい御方です」
クスクスと鈴がなるような可愛らしい笑い声が聞こえ、そちらに目を向けると……クリフ様と隣国の王女様――名はナターシャ様だ――とても親しげで楽しそうに見える。あっナターシャ様がクリフ様の肩に手を乗せた。
(やめて! 触らないで!)
自分の恋人でもなんでもないのになんと厚かましいことだろうか? 私は多分嫉妬したんだろう。羨ましいくて羨ましくて悲しくなった。その後は何でもない顔をして精一杯楽しげに話した。
王宮から出るとふわりふわりと空から綿雪が降っていて、街を真っ白に塗り替えている。いつもは変わった街並みに心が弾むのだけれども、今はとても沈んだ気分だ。雪を踏みしめる。パンプスでは足が冷たい。浮遊感がして振り返るとハサンが仏頂面で私を横抱きにした。驚いて目を丸くしてハサンを見つめると……
「見るなよ……」
首まで赤くなっている顔を見てニヤニヤしてしまう。男ばかりの8人兄弟で帝国とは文化も違う彼は女性には不慣れで恥ずかしいのかもしれない。
「チッ……お前、後でおぼえてろよ」
「ごめんあそばせ。私3秒で忘れるわ」
いつもの様子とは違い、ちょっと面白かったからからかってみるとハサンは「もうしらねっ!」と言って優しく下ろして先を歩いた。くすくすと笑うと足を早めて先に馬車に乗ってしまった。謝っても馬車に乗ってる最中ずっと喋ってくれなかった。私は少しだけ気持ちが晴れた。
家に帰るとお父様が仁王立ちで立っていた。物凄く怒っている。ハサンとの事を朝まで説教された。付き合うなら筋を通せ=婚約しろだのハサンはまず最初に挨拶に来ないだのとずっと言われた。眠いふらふらになりながら自室に向かって歩いていると腕を掴まれた。驚いてそちらを向くと腕を掴んでたのはアルトだった。
「ありがとう」
「ららの為だ」
「でも、私は助かってるからありがとう」
「言っとくけど、オマエのことは嫌いだから」
……こいついつも一言多いと思う。
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